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第二十三話 ウリャフトⅥ

「それはどういう意味よ?」


 ガルカの発言を聞いて、アメイシャは不機嫌そうに眉をひそめた。


「いい雰囲気だったからね。邪魔するのは悪いかな、と思ったんだよ」


「そんな心配は無用だわ」


「そうかい。分かったよ。じゃあ改めて言うよ。君たちの同盟にオレも混ぜてもらっていいかな?」


 ガルカはナダの前に手を差し出した。

 冒険者の手だ。

 だが、ナダは握らずに彼をしっかりと見つめながら逆に質問した。


「どうして俺達なんだ? 他にも優秀な冒険者はたくさんいるだろう?」


「ああ、そうだね。ナダ、君よりも優秀な冒険者はここには沢山いる。でも、彼らはきっと、オレを仲間に入れてくれないよ。周りを見てみなよ」


 ガルカの指示に従うように、ナダとアメイシャは列車を見渡していた。

 列車にいるのは誰もが屈強な冒険者ばかりだった。

 朝に食堂で見た顔が多い。まだ学生なので顔に幼さが残っているが、鋭い眼光は今までの試験に勝ち残った優秀な冒険者だということが伺える。


「冒険者だろう?」


 それもきっと優秀な冒険者達だ。

 学園内でもナダが知らないだけで、おそらく彼らは有名なのだろうと思う。ナダは同業者について、それ程多くの事を知らない。誰の成績が良くて、どんな戦い方が得意なのか、これまでリーダーと言うパーティーを運営する立場にいなかったナダは、他者について情報を集める必要などなかった。

 その分を自分を鍛えるための時間として使っていたのだ。


「ああ、そうさ。でもね――ここだけの話、彼らは、もちろんオレ達も含めて、試験においては出遅れている」


 他の冒険者たちの心を逆なでしないように小声でガルカは言う。


「どういうこと?」


 アメイシャも小さな声で言った。

 列車の中に違和感は覚えなかった。イリスの貰ったチケットで、セウに行く為に列車に乗っている冒険者達だ。初めて列車に乗るのか、興味深そうに窓の外を見ている者が多い。


「いいかい? この三等車にはフェデリコはもちろんだけど、ニックさんやシズネさんのような上級生は乗っていない。彼らはイリスさん達と同じく一等車に乗っている。分かるよね。優れた冒険者は当然ながらお金も持っている」


「だから私たちを選んだの?」


「うん。特にアメイシャさんは彼らと並ぶ冒険者になると思う。君の評価は聞いている。あの火のギフトは彼らにも負けていない」


 ガルカはナダには視線を向けていなかった。

 自分にギフトもアビリティも無いことを、おそらく知っているのだろう。ナダの名前は学園で殆ど知れ渡っていないが、少しでも調べれば簡単に出てくる。

 アビリティもギフトも持っていない三年生など学園にはほとんどいない。

 ナダはそんな珍しい一人なのだ。

 それを知っていながらも、ナダはアメイシャしか見ていないガルカへと意地悪に言った。


「俺はどうなんだよ? お前のお眼鏡にかなっているか?」


「……さあね。でも、ナダだって冒険者だろう? オレ達が今いるのは迷宮じゃない。地上での君の実力は信じている」


 ガルカはナダの事を“落ちこぼれ”とは言わなかった。

 冒険者だと言った。ナダはガルカが自分を利用する気なのは分かっていた。それでも、イリスが今後どんな試験を出すのかが分からない。自分の実力はよく知っている。一人で乗り切れるとは思わない。アメイシャは迷宮の中では心強いだろうが、ギフトの実力はいまいちわからない。近接戦闘が自分だけだと不安だった。

 

何故なら先ほど握った彼女の手は、武器を持つにはあまりに小さくて白魚のように美しかったからだ。おそらくは必死になって武器を振ったことなどないと思えるほど。ごつごつとした岩の様なナダの手とは正反対だ。

 それでも、彼女は冒険者として生きている。

 女であっても、血豆が潰れて固まった手を持つ冒険者は少なくない。アメイシャがそうではないのは、きっと彼女のギフトが強力だからだとナダは思った。

 ナダは、アメイシャのギフトを使う姿を少ししか知らないが、威力が落ちる地上でも彼女のギフトは十分なほどだった。

 才能が、ある。

 羨ましいほどに。

 だが、それによって足が掬われることもある。

 彼女はギフト使いで、自分とは戦うフィールドが違うのだから。


「分かった。なら、組もう――」


 だからナダはガルカの提案を受け入れた。


「うん。誰がイリスさんのパーティーに受かるか分からないけど、その時は祝福してくれよ。それに足の引っ張り合いは止めてほしいな」


 ガルカは鋭い犬歯をあらわにしながらナダの手を握る。

 その力は強かった。体の大きなナダに負けないほど。その力強さに、ナダはガルカの事を冒険者として実力がある、と思った。それも自分と同じ戦士の実力だ。

 それからガルカはアメイシャと手を握った。


「それじゃあ、この三人で頑張りましょう。きっとイリスさんのパーティーに入れるのは私だけど、二人とも精いっぱい頑張ってよ」


 アメイシャが二人に、意地悪そうに言った。

 それから三人は笑いあって、右手の拳を出して三人で合わせた。冒険者としての儀式の一つだ。共に戦うという意思。互いを陥れるようなことはせずに最善を尽くすという約束だ。

 もちろん契約書を交わしたわけでも、言葉で言ったわけでもない。

 だが、常に命を賭けて迷宮に潜る冒険者はこういう儀式を大切にする。自分の身を守る為に、相手の命も尊重するのだ。いざという時に仲間は助けてくれる。互いにそう信じることで、辛い迷宮でも生き残ってきたのだ。

 ナダは儀式が終わり、少しだけ他者の熱が残る拳を見つめている。


「どうしたのナダ?」


 その様子を見ていたアメイシャが何気なく声かけた。


「なんでもねえよ――」


 ナダは少しだけ過去に浸っていたのだ。

 かつてのパーティーであるスカサリ。追い出された身であるため今では何の後悔も残っていないが、ここ数か月ほどはこんな儀式を彼らと行っていなかった。スカサリの結成当時は数多く行っていた。もちろんリーダーであるサリナとも、毎日のように行っていた。それがいつのまにか少なくなり、儀式どころかパーティーに所属して迷宮に潜っているとしても声をかけることすら減ったのだ。

 他のメンバーとはサリナは儀式を行っていた。もちろん他のメンバーもそれぞれが思い思いに儀式を行っていたが、いつの日かを境にナダはその輪に入れなくなった。そのきっかけをナダは覚えていないが、あの時から自分はスカサリの一員ではなかったのだろうか、と思うのだ。

 少し空しい思いに浸る。


「じゃあ、ナダ、そろそろ列車も発車する。汽笛の後だ。列車の中で試験はないと思うけど、向こうのセウではよろしく頼むよ――」


 ガルカがそう言ったと同時に、窓の外から大きく汽笛が鳴った。

 体を芯から揺らす音だった。

 それから車内が大きく揺れて、冒険者たちが歓声を上げた。初めて乗る列車に興奮しているのだ。こちらに身を乗り出していたガルカも椅子にちゃんと座り、前を向いている。

 アメイシャは窓の外を見ていて、動き出すのを今か今かと待ち望んでいた。

 だが――列車は動かなかった。

 がたんごとんという音はなって、それは段々と小さくなるのにアメイシャが見ている外の景色は変わらずに駅のホームのままだった。


「……どうなっているの、これ?」


 アメイシャが窓の外を見つめながら言った。


「列車が動いていねえぞ」


 ナダは呆れるように言った。


「でも列車は発車したわよ。前の方の列車は動いている。前に行った。駅を出ようとしている」


「つまり?」


「……私たちは置いて行かれたらしいわよ」


 アメイシャは呆然とした顔で、体を背もたれに預ける


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