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我、異世界にて暗躍ス  作者: 聖 ミツル
第1章 少年期
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第6話 魔力操作




 今日の朝食はいつもと違っていた。それは、食事の内容ではなく、母さんが、魔法を教えてくれると突然言い出したからだ。


「ラビス、魔法の使い方を教えますから、食事が終わったら、裏庭に集合です」

「はい」


 やっと、魔法を習える。

 だが、前に風魔法を使った時のように、威力が大きすぎて、屋敷を破壊してしまったらどうしよう。


 少し、不安な気持ちを抱えながら、俺は、裏庭に急いだ。

 メリーナ姉さんも一緒にしたかったようだが、受験対策の為、座学を中心に勉強する事になり、今日は、別行動だ。


 屋敷の裏庭といっても100坪前後はあり、小さな畑や、物置、それに、井戸があり、生活する必要な物が揃っている。


 生活臭漂うこういうものは、屋敷の顔である正面には設置できないよなぁ……


 と、思っていると、母さんがやってきた。


「ラビス、こっちにおいで」

「はい」


 母さんは、俺を井戸の近くの洗い場の側に呼んだ。

 母さんは、クロウ勇国の出身なので、何時も俺と話す時は、貴族っぽい言葉と庶民的な言葉を混じらせて話す。クロウ勇国は、民主国家で貴族制もないため貴族としての話し方が苦手なようだ。


 母さんも男爵家とはいえ、慣れない貴族の嫁として苦労してるのか?

 そんなこと考えているとすぐ側の洗い場に着いた。


「ここで、練習するの? 」

「水場の方が安心だからね。今から母さんが魔法を使います。良く見ててね」

「はい」


【火よ、周囲を照らす覆燈火(ふくとうか)となれ】


 そう、母さんが唱えると突き立てた人差し指の先からロウソクのような火が灯った。


「おぉーー」


 思わず感嘆の声が出てしまった。


「指先に魔力を込めると、灯った火が大きくなります。そして、今度は、魔力を抑えると小さくなります。こうして一定の大きさを維持する事で魔力の操作を勉強できます」


「すごい、すごい」


 こうして自分以外の人が魔法を使っているのを始めて見た。


「ラビスは、風魔法をギフトで授かってるから、さっきの詠唱とは、違うけどね。でも、ラビスならきっと火魔法も使えると思うわ」


 うむ。それ、どういう意味だ?


「そうなんですか? 」


「ラビスは、神様の加護を持っていますからね。それに、魔力を持っている人なら練習すればできるはずよ。母さんの子でもあるしね」


 と、母さんは微笑んだ。


 遺伝による使い易さみたいなものがあるのだろうか……

 でも、そうするとギフトでもらった魔法以外でも使えるって事にならないか?


「母様、僕は、風魔法を授かってますが、他の魔法も使えるって事ですか? 」


 全魔法適正(10)のギフトを持っているのは秘密だ……


「そうよ。ギフトでもらった魔法は、その本人の最も相性の良い魔法なの。訓練次第では最上級魔法まで使えるようになるわ。でも、ギフト以外で使える魔法はそこまで上達できないのよ。せいぜい中級魔法までね。それに、ギフトではなくスキルとして使えるようになるのよ」


「スキルとしてですか」


「まぁ、ギフト以外の魔法は、使おうと思ってもなかなか使えないのが現状なのだけどね」


「そうなんだ。因みに母様は、火魔法を以外でも使えるのですか? 」

「ええ、使えるわよ。水魔法と風魔法が中級まで、雷魔法と回復魔法が初級まで。あとは、生活魔法かな」


 それって、結構凄いんじゃないか?

 あとで母さんのステータスを覗いてみよう……


「土魔法は使えないのですか? 」


「そうなのよ。相性が悪かったみたい。特に土魔法は錬金術と密接に関係してるのよ。私は、錬金術のように緻密なものは苦手だったから」


 向き不向きは、性格に由来するのか?

 それに、錬金術もあるのか。面白そうだ……


「じゃあ、ラビスもやってみなさい。詠唱は【火よ。周囲を照らす覆燈火(ふぅとうか)となれ】です。はじめは、できる限り、魔力量を抑えるんですよ」


「はい」


 俺は、人差し指を突き立て、魔力を込めるのを最小限にして、


【火よ。周囲を照らす覆燈火(ふくとうか)となれ】


 と唱えた。すると、50センチほどの火が指先から出た。


「わぁ! 」

「もう、少し魔力を抑えなさい」

「はい」


 魔力量をさらに抑える。だんだん火は小さくなり、5センチ程度になった。


「もう少し魔力を抑えて一定の大きさにしてみて」

「うん」


 魔力を抑えるのが結構難しい。火が小さくなったり大きくなったりしながら5センチ程度になった。


「良いわよ。その調子。もう少し魔力を抑えて、火の大きさは、一定に保つのよ」

「うん」


 返事が疎かになる程、指先に集中する。火は3センチぐらいなる。


「そのまま、母さんがいいと言うまでその状態を続けてみて」

「うん」


 約3分程経つと


「はい。良いわよ。ラビス、良く出来ました」

「はい」


 火力を一定に保つのは結構、難しい。それに、魔力を抑えるのがこんなに大変だったなんて。変な汗をかいてしまった……


「今の感覚を忘れないように練習しなさい」

「わかりました」

「先ずは、魔力操作から勉強しないと、魔法が暴走したら大変ですからね」


 また、母さんが微笑んだ。

 何だか見透かされているようだ。そして、


「この練習をしばらく続けなさい。そうすれば、魔力操作を覚えられます。ラビスの魔力量だと、15分くらいかしら。一定の大きさを維持する事が出来たら次の段階のいきますからね。それと、1日に何度もしてはダメですよ。せいぜい2回までです。じゃないと、魔力が枯渇して具合悪くなりますからね。あと、練習する時は、水のある所でするのよ。いいわね」


「はい」


「それと、火魔法を使えておめでとう。ラビス」

「う、うん。ありがとう。母様」


 母さんはそう話すと優しく俺の頭を撫でてくれた。



◇◇



 それから、1人になれる時間を見つけては、魔力操作の練習をした。

 ギフトの『鑑定』や『衛星』もみんなにわからないように使っている。


 そして、夜中は、毎日抜け出すのはやめている。姉さんが起きて俺がいないと騒いだ事があったからだ。その時は「喉が渇いたから水を飲みに行った」と、無理矢理誤魔化したが、もう、あの様なリスクは、回避しないと……


 頻度は、落ちるが、それでも、メリーナ姉さんが、熟睡して大丈夫だと思われる夜に、コソコソと抜け出しては、魔法の練習をしている。


 教わった魔力操作で、上手くコントロールし、今では、火、水、風、雷、土の初級魔法程度なら使えるようになった。


 初級魔法の概念は、あくまで、自己認識だが……



 そんな日常のある日、外はもう、すっかり冬の様相を(てい)していた頃、ランドル男爵家に来客があった。


 門の前には立派な馬車が止まっている。

 そんな様子を俺とメリーナ姉さんが窓から覗いていると、身なりの良い紳士と姉さんと同じくらいの年齢の女の子と俺と同じくらいの年齢の女の子が馬車から降りてきた。


「ヘンリー辺境伯だわ。げっ! リアナ達も一緒だ」


 姉さん。「げっ! 」は、ないと思うぞ。


「姉さん、知ってるの? 」


「男爵領と隣接する領主よ。ヘンリー辺境伯は、皇王様の遠縁にあたるお方なの。貴族の見本みたいな方で、とても紳士的で武術に秀でられた方としても有名よ。でも、あの子リアナは、ちょっと苦手なのよねーー」


「そうなんだ」


 姉さんに苦手とかあるんだ……

 それにしても、あのガタイの良いオッさんが貴族の見本なのか?

 まぁ、父さんと母さんが迎えに行ってるので、重要人物なのは、理解できる。


「メリーナ様、ラビス様もご挨拶に行かないといけませんよ」

「そうなの? 」

「そう言えば、ラビス様は機会がございませんでしたね。何時も伏せっておられましたから。今日は貴族の子息としての初舞台ですね」


 侍女のエリスが、俺に話す。


 そんな緊張させる事を言ったら、普通の子供なら失敗するぞ……


「仕方ないわね。ラビス、行こう」

「はい」


 俺は、メリーナ姉さんに引っ張られて来客の元に行くのだった。



 来客は、応接室に通されて父さんや母さんと話をしているようだ。

 ここに来るまでに、姉さんが水差しを溢して着ていた服を濡らしてしまったので、着替える時間がかかり遅くなってしまった。そういうメリーナな姉さんは、余所行きの綺麗な服に着替えている。


 着替える口実を作るためにわざと水を溢したのでは?と、俺は、思っていたが、言わない事にした。


 応接室のドアの前まで行くと、中で話している会話が漏れてきた。


「あれは、何か起こる前兆なのでは、と領民が騒いでいた。まぁ、何かあっても私の率いる兵達で対処できると言ったのだ」


「確かに辺境伯の抱える軍は、強いですからなぁ」


「スミスも剣術の腕は、皇国の中でも群を抜いておったろうが」


「いやいや、ヘンリー団長にはかないませんでしたよ。そうでした。ヘンリー辺境伯様でしたね」


「いや、構わん。お主との仲だ。それにしても近衛騎士団にいた頃が懐かしいな」


「ヘンリー様が私を推挙して下さらなければ、私などの腕では近衛騎士団には入れませんでした。感謝しております」


「何を言う。それは、お主の実力だ。騎士団の中で私と渡り合えるのはお主しかおらんかったからのう。どうだ。少し、稽古でもせぬか? 」


「そうですね。お相手させて下さい」


「わははは、そう言うと思ったぞ。ここに来た甲斐があると言うものだ」


 父さんの昔の上司みたいだな……

 それにしても父さんは近衛騎士団にいたのか。何か、想像がつかないな……


 すると、エリナが、話がと切れた頃を見計らってドアをノックした。相手の返事を待ってドアを開けて、俺達に中に入るように促す。


 窓から見たときは、ガタイが良いとしかわからなかったが、近くで見ると、ヘンリー辺境伯は、筋肉の塊のような大きな人だった。


 それに、並んでいる姉妹もブロンド美少女だ。


「ヘンリー様、娘のメリーナは、ご存知ですよね。隣にいるのが二男のラビスです。ご紹介するのは初めてです」


「ようこそおいで下さいました。メリーナです」

「はじめまして。ヘンリー様。二男のラビスです」


「メリーナ嬢、こんにちは。相変わらず美しいのう。それに、ラビス君、はじめまして。私がヘンリー=シュナイダーだ。宜しくな」


「はい。お目にかかれて光栄です」


「ほーーしっかりした子だ。将来が楽しみだな。そうだ。うちの娘達を紹介しよう。メリーナ嬢は、何度も会っておるから知っておるだろう。長女のリアナと次女のリアスだ。仲良くしてやってくれ」


「はい」


 一通りの挨拶が終わると、父さんやヘンリー辺境伯は、話の続きをしだした。


「それで、その空を突き抜ける現象は何だったのですか? 」


「いや、わからんのだよ。領民が言うには、物凄い風が吹き荒れ空の雲を吹き飛ばしたと言っておったなぁ。『天の息吹の御柱』だと言っていた者もいるそうだ」


「ぶっ! 」


 俺は、思わず咽せた。

 あの時の風魔法を放った時の事か……

 ヤバい、ヤバい。


「ラビス、どうした? 」

「いいえ。緊張してしまって。すみませんでした」


『天の息吹の御柱』って何だよ……


 俺は、目を細めながら周りを見渡すと、母さんが俺を見てニヤニヤしていた。


 もしかして、母さんにはバレてる?






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