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我、異世界にて暗躍ス  作者: 聖 ミツル
第1章 少年期
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第1話 収穫祭






 この星の中央大陸の東部に位置するミスティナ皇国は、温暖な気候に恵まれ、農耕を中心に栄えた国である。


 その辺境にあるラインズ男爵領の街ロクトでは、年に一度の盛大な祭りが開催されていた。


 秋に行われるこのお祭りは、収穫祭と呼ばれ無事に収穫できた農作物を神に捧げ、感謝とともに来年の豊作を祈念するものであり、7日間かけて行われている。


 今年は、天候も良く農作物も豊作で去年より1割り増しの出来高だった。その為か、ここに暮らす人々や近隣の村から集まってきた人々は、笑顔が溢れ安心してこのお祭りを楽しんでいるようだ。


 その中でも収穫祭の3日目に行われる雑技団の演舞は、とても人気で、中央広場に仮設された大きなテント前には、多くの人達が集まっていた。


「ラビス、何してるの? 早くおいで」

「待ってよ〜〜メリーナ姉さん〜〜」


 2人の子供は、騎士1名と侍女らしきお供を連れて坂道を走っていた。どうやら、中央広場の雑技団の演武を見に行くようだ。


 丘の上の屋敷から続く坂道は、300メートル程あり、この街の水源でもある小川にかかる橋を通り過ぎると、この街では立派な建物が建ち並ぶ屋敷街を抜けて中央広場に続いていた。


 お姉さんである10歳前後の女の子は、護衛騎士を連れ、もう、屋敷街の中程まで来ている。一方、5歳前後の男の子は、石で出来た橋の欄干に寄りかかり息を切らしていた。


「ラビス様、大丈夫ですか? 」


「はぁ〜〜はぁ、だ、大丈夫……だ。エリスも先に行ってていいよ。僕は、後から追いかけるから」


「ラビス様を置いて先には行けませんよ。 私は、ラビス様が幼い頃から、お側にいるのですから」


「だって、エリスも演武を楽しみにしてたじゃないか。早くしないともう演武が始まってるかもしれないよ」


「それとこれとは別です。ラビス様は、お身体が弱いのですから無理せずゆっくり行きましょう。それとも馬車をご用意しますか? 」


「大丈夫だよ。それに中央広場まで馬車で行くなんて出来ないよ。目と鼻の先なのに」


「恥ずかしい事はありませんよ。貴族の方々は、少しの移動でも馬車をご利用するのが常識ですから」


「それは、皇都での話でしょう? ここでは別だよ。それに、馬車で行ったら、せっかくお祭りで楽しんでいる領民達に水を差しちゃうよ。注目されちゃうのも僕は嫌だし……」


「わかりました。ゆっくり歩いて行きましょう。でも、お身体の具合が悪くなったらすぐにこのエリスにおっしゃってくださいね」


「うん。わかった」


 貴族の少年ラビスは、ゆっくりと立ち上がり歩き出そうとしていた。その頃には、ラビスの姉メリーナと護衛騎士フリードは、既に中央広場に着いていた。


「凄い人ね。ラビスは、まだかしら? 」


「そうですね。エリスが付いていますから大丈夫でしょう。もうじきこちらに来ると思います。それより、テントの裏手に参りましょう。ここでは、人が多すぎます。通用門から入れるよう手配が整ってますから」


「そうね。中で待ってましょうか? 」

「はい。こちらです」


 関係者以外立ち入り禁止のテント裏手の通用門からメリーナとフリードは、テントの中に入っていった。毎年の事なので、2人とも慣れた様子だ。


 テントの中は、体育館程度の広さがあり、二階席も設けられている。雑技団の職員から二階席に案内されるとそこには、この街のラムズ商会の会長ラムズとその付き人、それと、冒険者ギルドのサブマスターと職員達が先に座っていた。


「これは、メリーナ様、ご機嫌麗しく」


 先に挨拶をしたのは、テムズ商会のテムズだった。皇都に本社を起き、この街にも支店を置く中規模の商会の会長だ。


「ラムズさん。こんにちは。それと、ギルドの方々、お久しぶりです」


「これは、メリーナ嬢。お久しぶりです」


「こんにちは。ロザンナさん。今日は、ギルドマスターはどうされたのですか? 」


「マスターですか。今日は、皇都のギルドから使者が参りまして、その対応に追われてます。それに、マスターは、演武を見るより、お酒の方が好きですから、きっと誘っても来なかったでしょう」


「お酒が好きなんですね」


「私がいくら注意しても、全然聞いてくれないのですよ。困ったものです」


 この街にもある冒険者ギルドは、冒険者達の職の斡旋とサポートをする各国家公認の独立機関だ。どの国にも属さず、各国に諸点がある。国同士の争い、つまり戦争になった場合、ギルドは、一切の干渉をしない事になっているが、所属する冒険者達が戦争に参加するかどうかは自由意志に任されている。


「今日はギルドはお休みなのですか? 」


「いいえ。ギルドに休みはありませんので。今日は、交代で演武を見に来ています」


「そうでしたか」


 このお祭りの時期は、事前にお祭りの警備の仕事を受注している者を除いて、冒険者達も休む者が多く、急な依頼がない限り、ギルドも落ち着いている様子だ。


『わぁーー! 』


「始まったわ」


 会場がざわめき出したのは、ピエロの様な格好をした者が舞台に上がったからだ。


「皆様方、ようこそお越し下さいました。これから始まるのは、夢の世界。どうぞお楽しみに下さい」


 そうピエロが挨拶すると舞台袖から大きな木で作られた球体が転がってきて、ピエロは、その球体に『ピョン』と飛び乗り、上に乗りながら上手に転がして舞台を一周しお辞儀をしながら反対側の袖に去って行った。


『わぁーー!』


 会場内は、大きな拍手と歓声で溢れる。


 すると、今度は、貼り付けにされた獣人の男の子が袖から運ばれてきた。一瞬、会場は、静まり帰ったが、反対側の袖から出てきたピエロが大きな声で次の出し物の説明をし出した。


「さて、今度は、ナイフ投げです。ミカンちゃん、お願いしま〜〜す」


 よく見るとピエロの側には目隠しをした5歳ぐらいの狼獣人の女の子が待機していた。両手には、ナイフが握られている。


 ピエロは、獣人の女の子をグルグルと回転させ、自分の立ち位置をわからなくさせた。


 そんな様子を見てメリーナは、


「うそ〜〜あの状態でナイフ投げるの? こっちに飛んでこない? 」

「大丈夫でしょう。獣人達は、鼻が効きますから」

「でも、ナイフ投げるのよ。あの男の子の狼獣人の子に当たったら大怪我するわ」

「そうですね。目隠しをして投げるとなると、余程の腕でなければ怪我をさせてしまうでしょう」

「大丈夫なの? 」

「う〜〜む」


 メリーナの護衛騎士フリードは、どう答えて良いものか悩んでるいる様子だったが、獣人の女の子は、意図も簡単に持っていたナイフをその獣人の男の子に向かって投げた。


 そのナイフは獣人の男の子が広げた両腕の脇の間にトントンとリズム良く刺さった。


 そして今度は、さっきより少し大きめのナイフをピエロから渡された獣人の女の子は、磔にされている狼獣人の男の子に向かって大きな呼吸をしながら、慎重な面持ちで渡されたナイフを投げた。


 しかし、そのナイフの軌道はどう見ても顔面に直撃の軌道だった。

会場にいるみんなは、大きく息を飲む。


『わっ! 危ない! 』


 誰もが、失投だと思った。


 目を瞑る者。大きく叫ぶ者。


 会場は、血の惨劇が目の前で起こる事を疑わなかった。


 しかし、そのナイフは、狼獣人の男の子の口に咥えられていた。鈍く光るナイフと、獣人の男の子の牙が赤く染まって無かった事に安堵したのか、静まり返った会場は、その光景を見てさっきより大きな歓声が湧き上がった。


「凄い、凄い! 」

「おーー流石ですね」


 メリーナの賞賛にフリードや二階席に座っている者達も頷いていた。


「ミカンちゃんとツバキ君でした。大きな拍手をお願いします」


 手を振って立ち去る獣人の男の子と女の子向かって、拍手は鳴り止まなかった。


 次は、綺麗な女性達が舞台に上がり、流れてきた音楽に合わせて踊りを踊る。艶やかな衣装と妖艶な雰囲気を醸し出す踊りに、会場の男達の目は、釘づけだ。


「綺麗ね」

「そうですね。でも、お嬢様には、まだ、早いかと……」

「えっ、何が? 」

「ゴフォン! いいえ、何でも……。それにしても、ラビス様は遅いですね」

「そういえば、遅いわね。もう、始まっちゃってるのに。あの子何してるのかしら? 」


 その時、会場に見知った門兵が二階席に上がってきた。何時なら、領館を守っている門兵が、職務中に場を離れるもはおかしい。それに、何だか青い顔をしている。


 その様子を見ていた、護衛騎士のフリードは、


「どうかしたのか? 」


 駆け寄ってきた門兵に、先に声をかけた。


「実は……」


 小さな声で、門兵は、フリードに耳打ちした。


「えっ! 」


 フリードの声にメリーナは、


「どうしたの? 」


「お嬢様、ラビスお坊ちゃんが橋から落ちて頭に怪我をしたそうです」

「えっ、ラビスが! 」

「どうされますか? 」

「屋敷に帰るわ」


 2人は、二階席に座っていた面々に軽く挨拶して、門兵と共にその場を立ち去った。


 それは、五神王歴1205年10月11日の事だった。








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