〜〜プロローグ〜〜
この世界には、ひとつの噂話がある。
いつから、その話があるのかわからない……
誰が、その話を伝えたのかわからない……
ただ、救われた人が何人もいると聞いている。
でも、何でも聞いてくれるわけじゃないらしい。
ある人は、捧げ物をしないといけないと言っていた。
ある人は、血を捧げないといけないと言っていた。
ある人は、食べ物、特に肉を捧げないといけないと言っていた。
ある人は、その命を捧げないといけないと言っていた……
そして、その願いは、必ず、達成してくれると言う。
噂だ……
ただの噂……
でも、願わずにいられない。
だって、私の願いは……
「おい、テプタ、そろそろ寝ないといけないぞ」
「お父さん、願い事するから、もう、少し、起きてて良い? 」
「あの噂を信じてるのか? 」
「だって、お父さんの足が治れば、また、働きに行けるでしょう? 」
「そうだけど、でも、無理すれば、この通り……イタタタ」
「もう、何してんのよ。寝るのは、父さんの方よ」
「お父さんは、大丈夫だよ。しばらくすれば良くなるから」
「うん。でも、お願いするの」
「そうか、遅くならないようにな」
「は〜〜い」
お父さんの足の具合は、もう、良くならない事は知っている。
だって、私を庇って魔物に、足を食べられちゃったんだから……
お父さんの背中は、片足を引きずるズボンがダラリと揺れていた。
だから、私は、願わずにいられない。
お父さんの足を治して、と……
街では、噂が広まっている。
願いの書いた手紙を月から見える、目立つところに置いておくと、
霧の深い真夜中に、願いを叶える使者が訪れると……