あなたの分まで
人間不信とはよく言ったものだ。僕は友達だった人に裏切られ手のひらをかえしたかのように向こう側についた。そう、いじめる側に。そのことがきっかけとなり、信用しなくなった。
昔から人は信じるものだと教えられたのだが、もう我慢ならない。
そんな僕の名前は、裕次郎。高校を卒業したまではよかったのだが、その後就職せず、ただ浪人となってしまった。
精神科病院に月に1度のペースで通っている。僕が診断されたのは『社会不安障害』
「裕次郎君、たまには外に出たらどうだね。」
『余計なお世話だ。』
心の中ではそう思ったが、口から出た言葉は違った。
「はい、そうします。」
先生に余計なことは言えない。折角心配してそう言ってくれているのに罵声を飛ばすのはよくない。
もう1人の自分が時々出てくる。
だから、その秘密を守る為外には出ないと決めている。
今は薬物療法で何とかなってる。もう嫌だと思っていていながら、とりあえず外に出てみた。
思っていたより新鮮で挨拶をしてくる。
「こんにちは。」
黙っていることが出来ず「こんにちは。」と返す。
まるで自分じゃないみたいに。
橋を渡っていると1人の少女が目に入った。
裕次郎は嫌な予感がした。
ガードレールに跨り…
「!!」
走った。
「危ない。」
裕次郎は少女
の手首を掴んだ。
「離して。私は死ぬんだからぁ〜」
抵抗する少女。
とりあえず10分ほど説得し、話を聞く。
「私、うつ病なんだ。」
「僕は社会不安障害。」
少女は驚いた顔をしている。
「死にたいのはこちらも同じさ。」
「………。」
「名前は?」
「百合。」
「いい名前じゃないか。僕は裕次郎。」
時間が流れる。
橋を渡り終えるとお互い自殺しないように誓って別れた。また出会えるように。
次の日、裕次郎は病院の日だった。
電車とバスを使って病院に行くと、見覚えのある子が歩いている。
「百合ちゃん。」
裕次郎はその名を呼んだ。
「百合ちゃんもこの病院に?」
「…うん。」
百合はこの病院内にあるデイケアに足を運んでいたのだ。
うつ病患者は引きこもりがちだと聞いたが、百合だけは違っていた。何か特別なことでもあったのか、と。
「僕もね、この病院に通院中なんだ。」
親しくなった。百合はどこからどうみても普通の少女に戻った気がした。
今日1日デイケアで過ごし、帰るときに悲劇が起きた。
百合が歩いて帰宅すると赤信号で走ってきた車と衝突事故を起こし、即死した。
それを全く知らない裕次郎は次の日、また同じ病院にいた。1時間待っているのに百合が来る気配がない。不審に思いながらも看護士さんに聞く。
「百合ちゃん、昨日事故で亡くなったのよ。」
「えっ!!」
信じられない。昨日まであんなに元気だった子が交通事故。
自分では何も出来ない。
1ヵ月後、裕次郎はお墓参りに訪れた。
「百合ちゃん。僕は今仕事をしているよ。きちんと挨拶もする、てきぱき動く。でも大事なのは百合ちゃんの分まで生きるよ。」
そう言い残し、目を瞑って手を合わせた。
墓には『スノードロップ』花言葉は『希望』
「希望を持って生きるよ。だから天国から見ていてね。」
読んでいただき、誠にありがとうございます。短編小説2作目ですが、うまく書けているでしょうか。私も昔、社会不安障害でした。そしてうつ病の人を何人も見てきました。どのような感じを受けたのか評価・感想を頂けたら嬉しいです。