Side Story:1『集え野郎ども』
皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!
追記:「今の状態(フィールド内)で時雨がログアウトした場合ってどうなるんですか?」と、ログイン・ログアウトの仕様についてご質問を頂いたのでお答えすると、ログアウトした後に再度ログインすると同じ場所に転移するものとしています。【蠱惑の湖畔】でログアウトすれば【蠱惑の湖畔】にログインするということです。なので普通のプレイヤーは火急の用事がない限り街の中や宿でログアウトしています。
説明不足ですみませんでしたm(_ _)m
今回は本編とリンクしてるSSです!
「あいつら…今日の集合忘れてねぇだろうなぁ…」
【始まりの街】の中心にある初期転移地点。賑わう露店と美しい街並みに囲まれ、噴水が陽光を反射してキラキラと光る幻想的な広場。そこで両手持ちの長剣を背負ったプレイヤーは待ち合わせをしているらしい。
彼はとある掲示板で知り合ったプレイヤー達とフレンド登録をし、来たる日のイベントに向けてパーティーとしての練度を高めるために待ち合わせをしていた。
いくつか待ち合わせに際しての合言葉や場所、日時の指定はしてあったのだが、集合時間が近づいてきても誰1人として姿を見せないため忘れているのではないかと不安になってきている。
「"魔王様からは逃げられない!"」
「うおっ!?って、その合言葉と武器は……」
「おう、俺は弓使いのジルだ。よろしくな!」
「おぉ、弓使いか!俺は剣使いのニックだ、よろしくなジル。それにしてもよく俺が剣使いだって分かったな」
「約束の場所と時間に剣士が仁王立ちしてりゃあ分かるわ!」
ニックの背後から大きな声で合言葉を唱えるのは"どこぞの廃人弓使い"ことジルだ。2人は手短に自己紹介を済ませると握手を交わす。どうやらジルからすればニックは分かりやすすぎる程に目立っていたらしい。
「なぁ、ニック。他の奴らはまだ来てないのか?」
「あぁ。今のところは俺とジルだけだ。そろそろ集まってきてもいいと思うんだがなぁ」
集合時間まではまだ約5分ほど時間はあるが、それでも集まっているのはニックとジルだけなのだ。遅れているわけではないが、時間に余裕を持った行動を心がけているニックからすれば少し集まりが悪いと言えた。
「他の奴らが来てから一気に登録するのも大変だから先に俺とジルはフレンド登録済ませないか?」
「わかった。フレ申請送ったから承認しといてくれ」
「あぁ」
『プレイヤー:ジルをフレンド登録しました』
ジルはマップに映っている目の前のプレイヤーアイコンをタッチし、そのままフレンド申請を送る。ニックはシステム音声がフレンド申請が来たことを伝えると、そのまま[承認]ボタンをタッチして登録を済ませた。
「よし、これでOKだな。って………ニックLv52もあるのかよ!?」
「〈剣術IV〉で覚える"飛斬"を使えるようになってからは数日間はほとんど寝ずに【翼竜の峰】に籠ってたからなぁ」
ジルはフレンド欄からニックを選択して簡易情報を見る。そこにはプレイヤーネームやLv、装備名称、ニックのミニキャラが表示されていた。
プレイヤーLv52ともなるとYour Own Storyの世界では最前線で戦うような猛者に分類されるためジルは目を見開いてニックのLvに驚愕した。
が、様々なゲームでトッププレイヤーとして活動してきたニックにとっては当たり前のことで睡眠時間を削ることも厭わない。その結果得た剣士での中遠距離攻撃を可能にするスキルで飛竜を狩っていたのだ。
「そう言うジルも41なんだしなかなか高いほうじゃないか?」
「俺もニックと同じ感じで弓でひたすら遠距離から安全に、かつ効率よく飛竜を狩ったからな。連続で徹夜まではしてないが……」
ジルもかなりやり込んでいるほうではあるがニック含むトッププレイヤーと呼ばれる者達と比べればまだ普通な方である。ゲームへののめり込み具合で言えば引けを取らない廃人ではあるが。
「おっ、ニック、来たみたいだぜ」
「「"魔王様(に殴られたい!")からは逃げられない!"」」
「俺は斧使いことデリンだ!」
「俺は剣使いのニックだ。で、こっちが……」
「弓使いのジルだ!よろしくなデリン!」
ジルが指をさす方向にニックも顔を向けてみれば戦斧を肩にかついだ大柄な男と、右手に短刀、左腕に大盾を装備した男の2人のプレイヤーが歩いてきていた。
彼らもニックとジルに気づく。武器や集合時間のことからジルと同じように掲示板のプレイヤーであると気づいたらしく、斧使いのデリンが自己紹介を始めた。
「俺は大盾使いの───」
「あっ……すみません、俺達殴られたいとか言う変態と関わる気はなくて…」
「いやひどい!あの合言葉決めたのお前らだぞ!?」
もう1人の大盾が特徴的なプレイヤーが自己紹介を始めようとすると、ニックが合言葉で「殴られたい!」と言っていたことを言及してあからさまに引いている。
殴られたいということを本音で言っていて本当にアブノーマルな性癖なのだとしたら確かに変態であるが、この合言葉は掲示板で悪ノリした彼らが大盾使いに半ば強制的に決めたものだった。
「悪い悪い。俺はジル」
「俺はニックだ」
「今も言ったがデリンだ」
「俺は大盾使いのメルドだ。もちろんドMじゃないからな?」
「「「あっ…う、うん」」」
「あれ?信じてもらえてない?おかしいな……」
どうやらメルドと名乗る大盾使いの立ち位置は3人の中で極めて低いものに決まってしまったらしく、「うん、うん。分かってる。お前の性癖は分かってるよ…」と言わんばかりの慈愛に溢れた目を向けられたメルドは蹲って泣いてしまった。
「まぁ、これで取り敢えず剣使いの俺、弓使いのジル、斧使いのデリン、変た──大盾使いのメルドが集まったな。後は魔法使いと鞭使いか」
「なぁ、俺は帰っていいよな?いいんだよな?ちょっと枕濡らしてきてもいいんだよな?」
これで掲示板メンバー6人中4人が集合場所に集まり、残りは魔法使いと鞭使いの2人となった。オプションのログアウトボタンにメルドが指を向かわせるのをなんとか諌めた3人は安堵の息を漏らす。
元はと言えば3人が原因であるというのにやれやれと肩を竦めたのを見てメルドはもう一度オプションを開いていた。
「集合時間になったが魔法使いと鞭使いが来ねぇぞ」
「ちょうど時間になったばかりなんだしもう少し待っていよう。それと、今のうちにデリンとメルドのフレンド登録をしないか?」
「わかった。ニック、ジル、メルドっと…よし、送ったぞ」
「じゃあ俺もニックとジルに送るからな?承認してくれよ?」
彼らのメニュー画面にあるデジタル時計は集合時間になったことを映している。どうやら魔法使いと鞭使いは少し遅れてしまうらしいので4人はフレンド登録を進めていく。
メルドが懇願するようにしてフレンド申請をニックとジルに送れば2人はやりすぎたと反省して苦笑し、2人が迷いなく承認ボタンを押すことでメルドの心の平穏は無事に保たれた。
「うっわぁ……むさ苦しいわぁ。"魔王様からは逃げられない!"……あんたらで合ってるよな?」
「おっ、来たな。合ってるぞ」
「よかった…これで関係ない人達だったら俺の行動はただの変人だからな。俺は魔法使いのクライスだ」
男4人が集まって談笑している所に杖を握った青年風のプレイヤーが近寄ってくる。どうやら彼は魔法使いのクライスらしく1~2分ほどだけ遅れて会合に加わる。
「剣使いのニックだ。よろしく頼む」
「弓使いのジルだぜ。よろしくなクライス!」
「斧使いのデリン!まぁ仲良くしてくれや」
「大盾使いのメルドです変態じゃないです信じてくださいお願いします」
「……何の話だ?」
「「「…………」」」
ニック、ジル、デリンが笑顔で手を差し伸べてくる中メルドのみ土下座をしていたためクライスは頬を引き攣らせ、残りの3人はエジプトの壁画よろしく顔を横に背けて知らないふりを決め込んでいた。
「じゃあ後は鞭使いだけだな」
「あいつが1番不安要素だ…何がとは言わないが」
「実は垢BANくらってて来れませんでしたに1票」
「人型モンスターを見つけて縛ってるに1票」
「むしろ自分を縛って身悶えてるに1票」
掲示板内での鞭使いの発言が災いし彼らの中で相当な変人か変態として扱われている様子。それぞれが笑いながらありそうな可能性を話し合っているがそれが本当に起こっていたら実際はまったく笑えないものばかりである。
「あっ!いたいた!お待たせ〜〜〜」
「ん?お、あの女の子可愛いうさ耳だな」
「ちっ……あんな可愛い子と待ち合わせとか相手は垢BANされればいいのに……」
「いや、女の子と待ち合わせという可能性もある。男だったら俺は魔法を撃つけど」
「お前らこじらせてんな…まぁ、俺も斧投げるけど…」
広場から伸びるメインストリートを頭のてっぺんからうさ耳を生やした可愛らしい女の子が手を振って走ってくる。満面の笑みを浮かべているため彼らは彼氏か何かとの待ち合わせだと予想した。
各々が口から悪意に満ちた言葉を並べ、待ち合わせ相手が男だった場合に備えて武器を構える。もしそのままPKでもしようものなら女の子から嫌われる事は間違いないのだがそれはもはやどうでもいいらしい。
「ごめん!少し遅れた!」
「「「「「……………」」」」」
彼らの目の前で後ろで腕を組んで笑いかける女の子。全員が「ちっ…俺らのちょうど後ろに待ち合わせ相手がいんのか…」と心の中で悪態をつく。
「え…な、なんで無視するの?」
「「「「「……………」」」」」
すると女の子は悲しそうな表情で語りかけ始める。彼らの内心はすでに爆発寸前で「なに無視してんだ?さっさと答えてあげろよや!あぁ!?」という感じである。
「え、もしかして掲示板の集まりじゃない?」
「「「「「っ!?」」」」」
が、無視していたのは自分達であったらしい。それぞれが冷や汗を流して目の前にいる女の子に目を向ける。身長は160cmあるかないか、肩まで伸びた茶髪、胸は慎ましやかだが服装のせいで胸元が見え隠れし、ぴょこぴょこと動くうさ耳は愛らしさを際立たせている。
「お、おま………まさか…鞭使い…なのか?」
「イエス!"魔王様からは逃げられない!"鞭使いのルナ!よろしくね!」
「「「「「Oh my God……」」」」」
おっさんみたいな性癖、ネットでの男っぽい口調、全ては性別を判断する材料になりえなかったらしい。
鞭「おほぉ♡襲う側のはずのゴブリンが縛られてあられもない姿を晒してるよ!」
ゴブリン「ギギャァー///」
剣/弓/斧/盾/魔「最低だ……」
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大変ありがたい事に8部分目を投稿した現在でブックマーク500↑、pv36000↑を頂きました!投稿が遅れて日間TOP10からは落ちてしまいましたが、私生活に支障が出ない程度で更新を進めるつもりですのでどうか気長に作品を見てやってください。