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"Your Own Story"  作者: 音夢
第1章『激突』
6/43

Story:6『変態御用達ホラーゲーム』

皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!


今まで明確に表記してこなかったのに今更ながら気づきましたのでここで説明をさせていただくと、基本設定としてゲーム内での1日は現実世界での3時間ということにしています。

「そんな馬鹿な!王である我が負けるなどありえな────」

「さよなら!!」


『中級ダンジョン:鬼の王/ゴブリンキング討伐完了』


「ふぅ、12体目終了っと」

「おつかれシグレちゃん」

「おつかれsnow」


時雨と雪が"鬼の王"を周回してLv上げを始めてから12体目の犠牲が出た。そのプログラムで構築された体を眩い光に変え、2人のプレイヤーの経験値となることで洞窟内の喧騒は消えた。


時雨は鬼獄:一式と夜叉を装備して漆黒を纏い、雪は時雨がログアウトしてい時間やプレイヤーの少ない時間帯を狙って【翼竜の峰】で少しずつドロップアイテムを貯めて作成した、"飛竜:一式"と呼称される"飛竜のローブ"と"飛竜のアミュレット"、"飛竜のブーツ"、"暴嵐の牙杖"を装備していた。現状のYour Own Storyで作成できる装備の中でも飛竜:一式は高い性能を誇っている。


各武装には装備時スキルで魔法士に重要なINT上昇補正が付いており、また、一式装備することによってMP10%上昇と〈魔法耐性(小)〉が常時発動するのだ。その恩恵は魔法を多く使用しない剣士や弓士でも大きく、魔法士にとっては必須とも言える内容だった。


『戦闘終了、蓄積された経験値の換算をします。シグレのLvが31に上がりました』

『戦闘終了、蓄積された経験値の換算をします。snowのLvが26に上がりました』


「あ、Lvが上がった」

「私も上がったよシグレちゃん!」

「だいぶLv追いついてきたね。そうだ、ボスを倒した後は安全だから忘れないうちにpt振ってもいい?」

「うん、いいよ〜。私も振っちゃおっと」


【シグレ:拳闘士 Lv31】‬

|ステータス|0pt

HP:40

MP:10

STR:200(+50)

DEF:0(-100%)

AGI:200(+50)

DEX:0

INT:0

|スキル|

〈毒耐性(小)〉〈麻痺耐性(小)〉《仙才鬼才》〈孤軍奮闘〉〈鬼人演舞〉〈鬼人の吸魂〉〈重体術Ⅲ〉〈虚影〉

|称号|

【羅刹】

|装備|

鬼獄:一式・夜叉


【snow:魔法士 Lv26】‬

|ステータス|0pt

HP:60

MP:100(+10)

STR:40

DEF:30

AGI:40

DEX:30

INT:100(+40)

|スキル|

〈火魔法IV〉〈回復魔法Ⅲ〉〈麻痺耐性(小)〉〈毒耐性(小)〉〈雷魔法Ⅰ〉〈結界魔法Ⅰ〉〈魔法耐性(小)〉

|称号|

無し

|装備|

飛竜のローブ・飛竜のアミュレット・飛竜のブーツ・暴嵐の牙杖


時雨と雪はシステム音声がLvアップを告げたのを聞くと、サッとステータスウィンドウを開いてptの割り振りを決め始めた。もちろん時雨はSTRとAGI特化、雪は魔法士に重要になってくるMPとINTを優先的に上げて他をバランス良く、だ。さらに、2人のLvが上がるにつれていくつかのスキルを獲得したり、スキルLvが上がったりしていた。


「うっわ…シグレちゃんのSTRとAGI4桁いってんじゃん。そんなステータスのプレイヤー他には絶対まだいないよ」


時雨がptを割り振ったところで頬と頬とをスリスリするようにして雪が背後からステータス画面を覗いた。そこに表記されていたのはSTRとAGIの1050という数値。雪が言った「他には絶対まだいないよ」という言葉の通り、運営が把握している情報の中にもシグレという名前しか存在しなかった。


その圧倒的なまでの攻撃力と敏捷を持ってすれば、ゴブリンなど一撃で光と変えて霧散させ、剣も弓も…魔法ですら時雨を捉えることはできない。


「でも0が3つあるし、スキルの効果も含めるとすっごい脆いんだよね。回復できるけど1発で即死しちゃうようなダメージを受けたらどうしようもないから」

「AGI4桁のシグレちゃんに攻撃がまともに当たるのか甚だ疑問だよ…」


が、時雨が言うように脆さもまた圧倒的なものだった。DEF0、攻撃をされて受けるダメージに減少効果は無く、もし80以上のダメージを受ける攻撃が当たってしまえばその時点で即死となる。HPが1でも残れば巻き返せるが、0になってしまえばどうしようもないのだから。


さらに言うと、ステータスを上げている《仙才鬼才》と〈孤軍奮闘〉、〈鬼人演舞〉は10分経つと効果が1度消え、残るのは10分間被ダメージが2倍のデバフのみ。そのせいで一瞬の死にやすさという面でも時雨の右に出る者は居なかった。


「よし、ptの割り振りも終わったし出ようか」

「snowはまだログインしてられるの?」

「ん〜、あと1~2回やったら一旦ログアウトしようかな。お風呂入りたいし」

「わかった」


ステータスウィンドウを閉じた2人はもう入りなれた転移魔法陣の中へ進む。転移すると、洞窟の外は少しばかり橙色に染まり始めて仮想世界の1日の終わりが刻々と近づいていることを告げていた。


「じゃあ……もう1周だけ行こうか。そしたら私もご飯食べてきたりするね」

「おっけ〜。そうだ、そろそろ雷魔法のスキルLvも──」

「み…みみ、見つけたぁぁぁぁぁぁ!!!」


時間的にも次の討伐で区切りが良いだろうということで、時雨と雪は次の1周を終わらせたらログアウトすることにした。洞窟へと再度進入を試みようとする中、雪が少し前に獲得した〈雷魔法Ⅰ〉について語ろうとした瞬間、2人のすぐ後ろから何やら大きな叫び声が聞こえてきた。


「「え?」」


唐突に聞こえてきたその声に、時雨と雪の2人は何事かと振り返る。そこに立っていたのは短弓を背負い、腰に巻かれたベルトに短刀を装備した緑髪の男性プレイヤーだった。その表情は驚きと嬉しさをごちゃ混ぜにしたような不思議なもので、目をキラキラと輝かせて時雨と雪の方を見ている。


「えっと…私たちに何か用ですか?」

「シグレちゃん話しちゃダメだよ!これは悪質なPKか出会い厨、すぐに"ファストテレポート"で【始まりの街】に逃げよう!」


時雨が謎のプレイヤーへと声をかけるとそれを遮るようにして雪が1歩前へ出て時雨の体を隠した。こういったゲームでは相手を困らせてやろうとするP()layer k()illerや、異性にちょっかいをかけようとするいわゆる出会い厨が一定数現れてしまう。


「ち、違う!君達に変な事をするつもりはない!」


それを危惧した雪だったが、相手は慌てた様子で武器を地面に下ろし、両手を上げて危害を加えるつもりがないことを主張した。


「あなたは誰ですか?私たちに何か?場合によってはこっちから攻撃しますから変な動きはしない方がいいですよ」


そんな彼を見ても信用しきれていない雪は杖を構えて威嚇する。危険な可能性があるのだから当然だとは思うが、どこか尋問のようなその聞き方に普段の少し抜けた印象を思い出すと、時雨は少し驚いたようにしてそのやり取りを後ろから見ていた。


「そう身構えないでくれ。俺は"ジル"、職業は武器を見てわかるだろうが弓士だ。用…っていうか、以前に俺のフレンドが初日にここをクリアした拳闘士を見たって言ってたんだが、俺はそれを信じてなかった。だが、今君たちが出てきて、しかも何やらすごい装備の拳闘士が居るのに気づいて驚いてしまったんだ」


自己紹介を始めたジルと名乗る弓士の彼は、どうやら正式サービス開始初日に"鬼の王"を攻略した時雨のことをフレンドから聞いていたらしく、本人と思われる時雨を見た事で驚いたとのことだった。


「はぁぁ…原因はシグレちゃんか…」

「なんかごめん…」


そして、原因が時雨にあったと知った雪は深く溜息をつき、それを聞いた時雨は運営が遊び心で加えたオプションにあるモーション欄から"ごめんなさい"を選択して深々と地に伏した。


「えっと、ジルさん。さっきは態度悪くてすみませんでした。それと、本当に私達に危害を加えるつもりは無いんですね?」

「もちろんだ。急に声を出して君達を驚かせた俺にも原因はある、こっちこそ悪かった。」


雪が謝罪し、最後に危害を加えるつもりが本当に無いのか確認をする。ジルは大きく頷いて雪と同じように謝罪の言葉を並べ、ヒリついていた空気は穏やかなものに戻った。


「それでなんだが、もし良かったら君達のことも教えてくれないか?」

「私は職業:拳闘士のシグレです」

「……私は職業:魔法士のsnowです」


場が落ち着きを取り戻した頃合でジルが話し始める。雪がやっぱり出会い厨なのかとすこし悩んだが、時雨がサラッと自己紹介を始めてしまったので自分だけ言わないのもあれだろうと自己紹介をした。それに、ジルの視線や雰囲気には悪意が感じられないため一言「まぁ…いいか」と警戒を解いた。


「シグレにsnowか。その…さっきの話に戻るんだが、シグレは拳闘士なんだよな?本当に"鬼の王"を初日でクリアしたのか?しかもソロだったと聞いている」


時雨と雪のプレイヤーネームを確認したジルは本題に入る。それは、拳闘士が初日にソロで"鬼の王"を攻略したという話の真実について。質問された時雨はあの日の事を少し思い出しながらそれが真実であると肯定する。


「あぁ…はい。私は最初の日にそこのダンジョンに1人で入りました。かなり苦戦しましたけど最後には勝てましたよ」

「そうか…」


ジルは2人が目の前の転移魔法陣から出てきた瞬間からこの話が真実であるとどこかで感じていたが、やはり実際に聞いてみないと何とも言えなかったのだ。普通ならありえないはずのその肯定、それを意外と簡単に受け入れられたのは2人の様相も大きく関わっていた。


シグレとsnowの装備はかなり上位のものと見ただけでも分かり、時雨の装備に至ってはジルにとってまったく知らない装備だった。そんな2人が嘘をついているような素振りも無いとなれば納得する以外にできる事はジルに無かった。


「本当に拳闘士が初日にソロでクリアしてたのか…ありえない…が、真実なんだよな」

「わかります、わかりますジルさん。普通ならありえないですよね。でも、シグレちゃんならやるんです…リアルでもゲームでもバランスブレイカーなんで」

「もうそれでもいいよ…」


ジルは真実を受け入れはしたが、それでも「ありえない…」と腕を組んで唸った。それを聞いた雪が隣に立ってうんうんと頷き、時雨はどこか複雑な顔をした。


「おっ、君達はリアルでも友達だったのか」

「はい、私とsnowは同じ学校の友達です」

「シグレちゃんはリアルでもこれぐらいめっちゃ可愛いんですよ〜♪いいでしょ〜♪」


ジルは雪の言葉に敏感に反応する。「リアルでも──」という言葉が意味するのは現実世界でも知人・友人であるということ。時雨が雪とは同じ学校のクラスメイトだと簡単に説明すると背後から雪が背中に抱きつき、脇の下から腕を通してその豊かなものをワシワシとまさぐりながら頬ずりをした。


「ぶふっ──おっ、おい!?」


当然それを目の前で見たジルは吹き出し、何が起きたのかすぐに理解出来ずにいる時雨はポカンとしたまま棒立ちしていた。つい先程までジルのことをあれだけ警戒していたというのに雪はすっかりジルに気を許しているようだ。それは時雨に対する共通認識が大きく影響しているのだろう。


「ひぁ!?も、もうっ、やめてよsnow!」

「ぐぇっ」


ハッと我に返って状況を理解した時雨は火を吹きそうなほど顔を真っ赤にして自分の胸を揉みしだいている雪を突き飛ばした。後方約10m地点に後頭部で着地を決めた雪は蛙のような声を上げて倒れたが「マシュマロだったよ…」と言って恍惚としているので余裕そうだ。


「えぇと……あ、そうだ。2人はこれからダンジョンに入るつもりだったんじゃなかったか?」

「「あ、そうだった」」


男としては眼福だが出会ったばかりの少女に劣情を抱くわけにもいかないジルは、どこか気まずそうにしたあと無理やり話をそらした。それによって、ジルが話しかける直前まで時雨と雪はダンジョンに入ろうとしていたことを思い出す。


「その、良かったら俺も連れて行ってくれないか?ゴブリンキングを倒している所をこの目で見てみたいんだ。邪魔はしないから」


ジルは時雨と雪にダメ元で頼んでみることにした。2人を疑うわけではないが、どうせなら自分の目で見てみたくなったのだ。


「それぐらいなら私は……シグレちゃんはどう?」

「うん、私も大丈夫だよ」

「いいのか…?あ、ありがとう!」


が、ダメ元で頼んだつもりだったジルは呆気なく了承されたために少し驚いたが、ありがたく同行させて貰うことにした。


「じゃあ入りましょうか」

「なぁ、さっきから少し気になってたんだが変に敬語で話そうとする必要はないぞ。どうせゲームなんだ」

「そう?なら普通に話させてもらうね〜」

「じゃあ私も」

「おう!」


時雨とジルに声をかけた雪が先頭に立ち、洞窟へと向かって3人で歩き出す。ジルが「敬語じゃなくてタメ口でいいぞ」と伝えると、2人は口調を崩していつも通りの態度と言葉遣いで接し始めた。


「あのさぁ、俺は戦闘どうしたらいい?邪魔はしないと言ったが手伝っていいなら手伝うぞ」

「そう?じゃあ…私と一緒にボス部屋までのゴブリンを相手してくれる?」


ダンジョンに入り雪が何匹かゴブリンに火魔法を使って倒していると、弓と短剣を手に持ってジルが声をかけてくる。厳しい状況というわけではまったくないが、少しでも負担が減るならと雪はジルに頼んだ。


「シグレは道中戦わないのか?」

「私はボス戦担当なんだ」

「なるほどな。ソロ攻略するだけの実力があるからボス戦担当ってことか」


そんなジルは雪の後ろを何の心配も無さそうに歩くだけの時雨にさらに声をかける。ただのゴブリンと言えど狭い洞窟の中で何匹も出てくればそれなりに面倒だったりするものだが、雪に手を貸す素振りもないので少し疑問に思っていたのだ。


「ボス戦始まったら私は"ヒール"かけるだけだから楽だよ。むしろ私が援護攻撃したら邪魔しちゃうくらいだし。だから、私はせめて道中を担当するってこと」

「そ、そうなのか。なら俺もヘタに攻撃しない方が良さそうか。じゃあ、まずはこいつらだな!」


ボス戦においての援護攻撃が時雨にとって邪魔にしかならないと聞き、いったいどれほどまでの単騎性能なんだろうかと想像したジルは生唾を飲む。その単騎性能を見るためにも、まずは迫り来るゴブリンを倒すためにジルは短剣を構えて前に出た。


「"ファイアーランス"!」

「"毒牙"!」

「グゲッ!?」「アガッ…ギッ…」


雪が〈火魔法Ⅱ〉で使えるようになるファイアーランスを発動すると、ゴブリンは胴に焼け焦げた風穴を開けて光になり、ジルの毒牙という攻撃を受けたゴブリンは傷口から紫色に変色し、すぐに動かなくなったと思えば同じように光になって消えていく。


「おぉ…これがボス部屋の扉か。なかなかすげぇな」

「さっそく中に入ろうか。シグレちゃん準備よろしく!」

「わかった!〈鬼人演舞〉、《仙才鬼才》!!」


暫く歩けばゴブリンキングの顔を模した彫刻が施されているその大扉を見えてきた。それを見てジルが感嘆の声を上げる。時雨は雪に促されて定番になったスキルを連続で発動した。


「俺はサポートできるようなスキルが無いから後ろで見てればいいか?」

「うん、ボスと眷属のゴブリンは私1人で大丈夫!」


ジルは近距離の短剣と中遠距離の弓で戦う弓士でサポート性能は高くないため後方から観戦することに決まった。


「グハハハハハッ!我に仇なす小虫が3匹も紛れ込んでしまったようだな!疾くすり潰してやろう!!」


3人が石座に近づくと時雨と雪にとっては見慣れた演出が始まる。壁際に数多く設置された台座に火が灯り、石の大扉は轟音を響かせて閉じられ、鬼の王が悪意に満ちた笑みを浮かべる。獲物を見据えたその瞳はギラリと光り、釣り上がった口からは鋭い牙が伸びている。


「うおっ…さすがに迫力が普通のゴブリンとは違うな」

「いや…まぁ、うん。もっとすごいの見られるよ…」

「?」


一瞬気圧されたジルは後退り、今までのゴブリンと見比べて冷や汗を流した。そうしてゴブリンキングの凄みを目の当たりにしたジルに雪がこれからが本番だと言わんばかりに語った。それが何を意味し、これから何が始まるのか分からないジルは不思議そうに首を傾げる。


そして、雪の時と同じように始まったそれ。ジルがついさっきまで見ていた可愛らしい女の子、その彼女の豹変は恐ろしいほどだった。


「あははははははははは!今度はどれだけ壊れるまでの間楽しめるかなぁ!?すぐに壊れないでよね!!」


時雨が例によって高笑いをし、ゴブリンキングの強靭な肉体に自らの力をぶつけることを楽しみに夢想する。すでに相手の肉体破壊が目的となった戦闘というのもどうかと思うものだが、時雨の技術とゲームでのステータスを用いれば不可能ではない。


「……………」

「どう?」

「なんか…ちょっと…女の子ってすごいな…」

「いや、ここまでの人はシグレちゃんくらいだよ…」


そんな風に雰囲気を180度変えた時雨にジルは口を大きく開けて呆けたままでいる。雪がどうだと問うと外れそうなほど開かれていた顎を動かし豹変ぶりに恐怖すら覚えたことを伝えた。


「グハハハッ!いつまでその威勢が続くかな?貴様なぞ我の眷属で事足りる!"眷属召喚"!!」

「「「「「ゲギャギャギャ!」」」」」


時雨と同じように高笑いしたゴブリンキングは早速眷属召喚を発動してゴブリンを20体召喚する。敵が女であると認識したゴブリン達も主と同じように嗤い、時雨に向かって突貫を始めた。


「行くよ!!」


───そして、時雨は戦闘行為を始める。戦っているのは人ではない。


異形へと身を転じたその姿は"鬼"だ。


「はぁ!?なんだあれ!?」

「まぁ、あれはシグレちゃんのスキルのせいで変身…してるって感じかな」


ジルは瞠目する。雰囲気の豹変なんていう形のないものではなく、明確的な目で見て取れる変化。白く透き通った肌と一挙手一投足でふわりとなびく黒髪、血を連想させる武器と防具。時雨を形容するに足るそれらを押し退け、視線を独り占めにするに申し分ないそれは炎に照らされて爛々と輝く漆黒のツノ。


「あはは!邪魔…邪魔、邪魔、邪魔だよ!!!」

「ギッ!?」「ガッ…」「ゴゲギャッ!?」「グギ──ギャッ…」


回し蹴りで首を折る、頭を漆黒の爪で抉りとる、首を捻りちぎる、体を蹴り上げたゴブリンの頭をかかと落としで弾け飛ばす。流れるような一連の動作は《仙才鬼才》に含まれる優先対象の選定に時雨が知覚能力の向上で引き伸ばした思考世界で即興で動きをつけて繰り出した技だ。〈孤軍奮闘〉が発動し、ステータスが40%上昇する。


「くっ…下僕共よ、全員であの雌に襲いかかれ!」

「「「「「ゲギャギャギャ!」」」」」


「重体術、"轟撃:5連"!!」


時雨がLvアップによって得たスキル〈重体術Ⅰ〉がスキルLvアップし、〈重体術Ⅲ〉となったことで使えるようになった"轟撃"。瞬間的にSTR値に補正をかけ、空気をも轟かせるその攻撃は確率で敵に気絶状態を与える効果を持った近接格闘攻撃だ。


「「「「「ッ!?────」」」」」


が、強化された時雨のステータスを前に気絶などという生温い未来は待っておらず、意識が落ちるという事なく永遠に闇へと葬られた。ステータスが合計で90%上昇する。


「「「「「グギッ…グギギャギャギャ!」」」」」

先頭にいた5匹の同胞が一瞬で命を刈り取られ、儚く光になって散った光景を目の当たりにしたゴブリン達は、1度足を止め困惑と恐怖に表情を歪めたが次の瞬間にはまた同じように時雨に向かって一目散に走り込む。


「10体目…あはは!〈虚影〉!!」


そして、最後に必要な1匹を倒すことによって完成系に至った〈孤軍奮闘〉の上昇補正。時雨は少し前に獲得した一定のAGIの数値が獲得条件になっているスキル〈虚影〉を発動する。


すると、時雨と全く同じ見た目の分身体が2体現れる。分身体のスペックは本体のステータスの10%という仕様になってはいるが、ゴブリン相手であれば問題はなく、3人に増えた鬼によって残っていたゴブリンは一瞬で消え去った。


「馬鹿な!?我が眷属がこうも容易く屠られるなどありえん!もう一度、眷属しょ───ぐぅぅ!!」

「また召喚させるわけないでしょ?最初に召喚させてあげるのはステータスに補正をかける〈孤軍奮闘〉のため。それが終わればただ邪魔なだけなんだよね」


異様なまでの蹂躙に動揺したゴブリンキングは空中に拳を掲げて新たな眷属を召喚しようとするが、もちろん時雨が許すはずもなく、繰り出された一撃で即死となりうる攻撃をゴブリンキングはどうにか躱すことで命を繋ぎとめた。が、少し掠った左腕は跡形もなく光となって消えた。


「すごすぎる…あの数がほんの数秒で…しかもゴブリンキングの腕にシグレの攻撃が掠っただけで弾け飛んでたぞ…」

「許可取ってないから詳しい事は言わないけど、見てわかる通りシグレちゃんはSTR&AGI特化。もうすでに化け物の領域だよ」


話に聞いただけでは「ありえない」と一笑に付すに留めるようなその光景にジルは夢を見ているのかと頬を抓る。当然痛みで目が覚めるということはなく、夢を見ているわけではないことがわかった。


時雨とゴブリンの戦闘はすでに時雨が圧倒し始め、十数秒後には〈虚影〉に翻弄されたゴブリンキングの頭部が本体の攻撃により爆発するようにして光の粒を飛び散らせたことで終了した。


『中級ダンジョン:鬼の王/ゴブリンキング討伐完了』


「13体目終了っと」

「おつかれシグレちゃん。今回は1回もダメージ受けなかったね」


ゴブリンキングを倒した時雨は雪達のいる場所へと駆け寄る。その時雨を雪が迎え、ノーダメージで戦闘を終えたことについて話し始めた。


「うん!もうこのダンジョンなら私がダメージを受けることは無いかな」


どうやら時雨は"鬼の王"での敵の動きを完全に把握したらしく、今後ダメージを受けることは無いと胸を張って自負した。


「お、おつかれシグレ。本当に1人で倒せるんだな」

「あ、うん!ただほんのちょっとテンション上がって我を忘れちゃうんだよね」

「「ほんのちょっと……ね」」

「ん?」


衝撃の光景に圧倒されて呆けていたジルも遅れて時雨に近寄って話しかける。その労いの言葉に返ってきた「ほんのちょっと」というワード。それを雪とジルが笑ってスルー出来るはずもなく、2人は図らずして同じ感情を抱いていた。


((今のがほんのちょっとなら鬼じゃなくてもはや悪魔の方が似合ってるよ!!!))


そんな声に出されることのない叫び声は2人の心の中で響き、(のち)の笑い話として語られることになるがまだ先の事だ。


3人は転移魔法陣で洞窟の外に出るとフレンド登録をして解散し、時雨と雪はログアウトして各々の用事を済ませて床に就いた。


■■


【Your Own Story/最初の難関ダンジョン"鬼の王"を初日でソロクリアした美少女拳闘士現るwww】


148:どこぞの廃人弓使い

[速報]

俺氏、魔王と共にダンジョンに潜りフレンドになった


149:どこぞの廃人魔法使い

ど、どういうことだ…


150:どこぞの廃人剣使い

ちょ、ちょっと待て。何があった


151:どこぞの廃人斧使い

ステルス魔王の情報が入ったと思ったら想像の斜め上だった


152:どこぞの廃人弓使い

よし、説明しよう。


俺はLv上げのために数日間【翼竜の峰】に籠っていたんだ。で、かなりLvが上がったからそろそろ"鬼の王"を覗くぐらいしようと思って入口の近くまで行くと、目の前の転移魔法陣が輝いた次の瞬間、真っ黒な装備に身を包んだ拳闘士の女の子と飛竜:一式を装備した魔法士の女の子が出てきたんだ。


↓続く


153:どこぞの廃人弓使い

俺は驚きのあまり大声を上げたせいで2人にかなり警戒された。が、どうにか危害を加えるつもりが無いことを説明して理解してもらえた。そして、かなり厳つい装備をしている拳闘士の方の女の子に聞いてみたんだ。「"鬼の王"を初日でソロクリアしたのか?」と。その問に対する女の子の答えは「はい」だった。だがな、疑ってるわけではないがやはり自分の目で見ないと信じ切れなかったわけだ。それで俺は2人がもう一度"鬼の王"のダンジョンに入ると言うから同行させてもらったんだよ。


↓続く


154:どこぞの廃人弓使い

結果………

全てが本当のことだった。普通にしてる時のふわふわとした大人しくて可愛らしい雰囲気が消えたと思ったら急に「あははははははははは!」って高笑いを始めたんだよ。そして一瞬のうちに眷属召喚で現れたゴブリンを殲滅したと思ったら、十数秒でゴブリンキングを倒してた……んで、終わった後はフレンド交換して解散したというわけだ。いやぁ、普通にしてればいい子達だったよ、うん、ほんとに…


155:どこぞの廃人鞭使い

まじ……だったのか……


156:どこぞの廃人剣使い

な?だから言ったろ?

あの日の高笑いが耳から離れなくて

俺は【翼竜の峰】にある洞窟に入るのがこy…


157:どこぞの廃人斧使い

さすが魔王様だわ。てかなんか最後の方意味深だな


158:どこぞの廃人大盾使い

ゴブリンキングが十数秒……俺なら1秒もたないな…


159:どこぞの廃人弓使い

感がいいな斧使い

そう、話はまだ終わっていない


160:どこぞの廃人魔法使い

引っ張りますねぇ


161:どこぞの廃人鞭使い

な、なにがあったんだ…?


162:どこぞの廃人弓使い

そう、女の子の……





頭にツノ生えてました。


163:どこぞの廃人魔法使い

んん??


164:どこぞの廃人大盾使い

キャラメイクの話?


165:どこぞの廃人剣使い

いや、ちょっと待て…

キャラメイクの一覧に"ツノ"なんて項目…あったか…?


166:どこぞの廃人斧使い

………記憶にないな


167:どこぞの廃人弓使い

そう。キャラメイクでツノを付けることはできない

拳闘士の子のお友達だという魔法士の子から少しだけ聞いたんだが、何やら獲得しているスキルが原因で、スキルが発動している間はツノが生えるらしいんだ


168:どこぞの廃人鞭使い

なにそれなんかかっこいい

でもそんなスキル聞いたこともねぇな


169:どこぞの廃人斧使い

頭にツノ生やした黒髪美少女が高笑いしながらゴブリンを殲滅して、ゴブリンキングは十数秒で即殺しました。か……


まじもんの魔王様だな


170:どこぞの廃人弓使い

見た目的には"鬼"って感じだったゾ

まぁ…高笑いして鏖殺してる姿を見たら俺も最後の方は悪魔に見えてきてたよ…


まぁ、俺も魔王様で決定ってことで異存はない


171:どこぞの廃人大盾使い

本当に魔王系美少女拳闘士だったのか……

パワーワードすぎんよ……


172:どこぞの廃人弓使い

あ、ちなみにゴブリンキングに拳闘士の子の攻撃が掠っただけでゴブリンキングの左腕が吹き飛んでたし、速度は異常に早くて俺の目で追うのは不可能に近かった


173:どこぞの廃人剣使い

それSTRとAGIいくつあんだよ…


174:どこぞの廃人魔法使い

当たったら即死、避けても瀕死、逃げても追いつかれる。ていうか避けるのも逃げるのも速度的に普通は見えないからほぼ無理。


それなんて鬼畜ホラゲー?


175:どこぞの廃人鞭使い

【タイトル:魔王様からは逃げられない!】

18歳以上対象/ジャンル:美少女恋愛ホラーゲーム

2XXX年.〇月✕日発売予定!


絶対買ってくれよな!


176:どこぞの廃人弓使い

なんか色んな理由で発売できなさそうだけど美少女に追いかけられるならそれはそれで…


177:どこぞの廃人剣使い

やっぱあの子可愛いよな?


178:どこぞの廃人大盾使い

おれも早く見てみたい、そして殴ってほしい


179:どこぞの廃人斧使い

えっ…(引き


180:どこぞの廃人弓使い

えっ…(引き


181:どこぞの廃人魔法使い

えっ…(引き


182:どこぞの廃人剣使い

えっ…(引き


183:どこぞの廃人鞭使い

えっ…(わかる


184:どこぞの廃人大盾使い

お、お前ら!?違うんだ!!

俺は純粋に盾職として気になっただけで!!

鞭使いとだけは一緒にして見ないでくれ頼む!!


185:どこぞの廃人鞭使い

は?


186:どこぞの廃人斧使い

草生えるわ



いや…ツノ生えるのほうがいいか…

Lvによるスキル獲得はこんな感じだと思ってください。一定のLvに達するとこのようなシステム音声のガイドがあるとしています。

『〇〇のLvが〇に上がりました。獲得可能スキルが存在します、選択を行ってください』

〈火魔法Ⅰ〉or〈水魔法Ⅰ〉

『〇〇のLvが〇に上がりました。獲得可能スキルが存在します、選択を行ってください』

〈隠密術Ⅰ〉or〈重体術Ⅰ〉

────────────────────────

大変ありがたい事に6話を投稿した現在でVR日間ランキング10位、ブックマーク200↑、pv13000↑を頂きました。読んでくださっている読者の皆様には大変感謝申し上げます。私自身このようなありがたい状況で作品を投稿させて頂けてとても幸せです。これを励みとして作品作りを頑張らせていただきますので、これからも『"Your Own Story"不遇職がいつまでも弱いとは限らない』の方、よろしくお願い致します!

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