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"Your Own Story"  作者: 音夢
第2章『可愛い子には可愛い服を着せよ』
42/43

Story:17『災厄試練/14.解放と遭逢』

皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!

【災厄試練/蠱惑の湖畔:迷宮第2層(下層)】

■■南side:ルナ&ニック&クライス&デリン■■


シグレ達が異星の時神やアヌビスと遭遇し、戦いが始まろうとしている頃…彼ら4人は長い長い通路をひたすらに走っていた。


『ちょこまかちょこまか……鬱陶しいんだぜぇぇぇ!』


通路内に響き渡る怒号。それを発しているのは恐ろしい表情が描かれており、その顔を悪意と怒りに歪ませた壺。


彼女は迷宮内にある自身の管理階層へ踏み込んで来た敵のルナ、ニック、クライス、デリンを排除するために下僕の蠍を操って4人と戦闘を行っていた。


最初こそ驚異的な攻撃と復活速度を誇る蠍に翻弄されていたルナ達4人だったが、世界中の史実や神話をとある大学に在学していた際に調べて研究していたクライスが攻略法と思われる道筋を発見。


関連した情報から導き出したギリシャ神話における守護者としてのサソリの在り方と、今目の前にいる蠍の姿形が違うということ…そして『形を歪められた守護者を屠り、魂と臓物をあるべき場所へ還せ』の、形を歪められた守護者という一文からただ力任せに倒すのではなく正規の攻略法があるという推測に至った。


そして、現在それを実行中である。


この迷宮に入ってすぐ見つけた壁画、そこに描かれていた蠍は足も尻尾も欠損せずに表現されていたが史実通りである場合足も尻尾ももぎ取られた形で表されているはずなのだ。


この攻略法が必ずしも合っているとは限らなかったが、蠍とウェシルかの攻撃を躱しつつ通路を進み目に付いた壁画の蠍から足と尻尾の部分を片っ端から攻撃して抉りとってみると、残り1/?と目の前に映し出される。


「これだ!」と、確信を得た4人がかれこれ迷宮内を走り続けること30分、背後から迫り来る攻撃を躱し、防ぎ、追っ手の速度を落とすために妨害をしたりとかなりの時間と体力、アイテムを消費したが確実に攻略は進んでいた。


「5つ目!」 -4/?- ▷ -5/6-

「っ!5/6だって!数字の分からなかった部分が表示されたよ!」

「まじか!ラスト1つだ!」

「おっしゃ、このまま走り続けるぞ!」

『クソがっ!てめぇら、アタシを無視して訳わかんねぇ事ばっかしやがって!ゴミ虫もさっさとあいつらを殺しやがれだぜっ!!』


少しずつ自分の心の臓をきつく握られていくかのような不快感にウェシルは焦りを隠せない。


今目の前にいる人間が何をしているのかよく分からないが、恐らく自分が相当不利な状況に追い込まれつつあることだけは分かった。好色の戦闘狂──セトには「この蠍をやるから、入ってきたやつを殺せばいいぜぇ」としか言われていない。


故に、何が起きていてどうすればいいのかが分からない。出来ることは下僕であり玩具である蠍を使い、自身の目の前で逃げながら何故か壁を攻撃している侵入者を殺すために追いかけることのみ。


「キチチチチチチチチ!」


大蠍の巨大な尾が弧を描いて彼らを狙う。荒れ狂う尾はそれ自体が1匹の生きた龍のようで、対象を絡め取る鎖のようで、壁や床を削りながら4人へと迫る。


「"ヘビーガード"!ルナ、HPポーションこっちにくれ!」

「こっちにはMPポーションだ!」

「ほい!そろそろポーションのストックがやばいから、ここからはなるべく回避優先でお願い!」


激音を鳴らして蠍の尾を防いだ戦斧を担ぎ直し、減少したHPを回復させるためにポーションを呷るメルド。そんな彼のサポートをしつつ、一撃は弱いものの確かな結果を積み重ねていたクライスもぐいっとポーションを飲み干しMPを回復させた。


色々な手を切りつつ着々と先に進むが、蓄えていたアイテムの底が見え始める。加えて今のメンバーで最も物理的な防御力が高いデリンは蠍の眼前に立ち続けたのもあり、目に見えて体力気力共に消耗していた。


「デリンは俺と代わって一旦下がれ!余裕が出来たらデカいの頼む!」

「"滝壺"、"山薙ぎ"!分かった…30秒くれ!」


振り下ろされた斧は蠍の右の前足を1本叩き折り、横に向けられた刃が左の前足を関節から切り落とす。


「"神剣之鞭(アルテラ)"!これで再生に10秒以上はどうにかなるはずだよ!」

『"Restart(再史動)"』

「ナイス!エンチャント"アタック"、"スピード"!ニック、温存しつつ俺がお前のサポートに専念するから避けきれよな!」

「助かる!」


バランスを崩してその重量の塊をどすんと地面に横たわらせる蠍。切り落とされた足の切断面がぐじゅぐじゅと音を立てて再生する。


ずりずりと地面を這い、離れた足が元の場所に収まろうと戻っていく。流れ出た異色の体液までもが逆再生する動画の様に、巻き戻っていく。


ルナの見込みでは10秒は時間稼ぎが出来るだろうと思われたが、その予想は残念ながら外れてしまった。5秒もすればその巨体を唸らせる。


「───キチチチチ!」

「早いな…かかってこい!」


迫る右の鋏を剣先で逸らし、大きく開かれた左の鋏はバックステップで勢いよく躱す。


そこに迫る尻尾を跳躍で躱すと同時に一気に前へ詰めた。再びニックを狙う鋏を〈斬鉄〉で切り伏せ、流れに身を任せた連撃により足を切り機動力を奪う。


そう、ニックの狙いはただひたすらに大蠍の機動力を奪い"Restart"を発動させて時間を稼ぎ続けることにある。


死んでも生き返るモンスターはとても驚異的だが、倒せなくとも勝てない訳ではない。目を潰せば治さなくては見えない。手足を奪えば攻撃も移動もできず治さなくてはいけない。


その都度発動せざるを得ない"Restart"による時間経過。それが現状で大蠍を倒すことを諦め、皆で先に進み結果的に勝つことを選んだニックの戦い方。


『ウゼェェェェェ!!』


不死の駒を手に入れ目の前の玩具で遊ぶことだけしか考えていなかったウェシルにとって、それはまさに鬱陶しい以外のなにものでもない。


「見て!あそこで行き止まりになってて壁画もある!」

「あそこで最後だ!」

『止まりやがれ!!』


最後の壁画が視界に入りより一層走る足に力が入る4人。


終わりの時間が近づき湧き上がる怒りが暴走するウェシル。


「止まれって言われて止まるほど、俺達は良い子ちゃんじゃないんでな…そっちが止まりやがれ!"撃滅斧(ヘイメーカー)"!」

「ギヂャッ」


超威力の戦斧が大蠍の頭を捉え、殻を割り、肉を引き裂き内臓を叩き潰す。


「なにあの棺桶……あ、そんなことより、6つ目!壊したよ!」 -5/6- ▷ -6/6-


その隙にルナが最後の壁画から蠍の足や尾を削り取った。


『真実の探索が終了しました』


直後に鳴り響くアナウンス。


『守護者から無限再生の権能、"Restart(再史動)"が消去されます……消去されました』

『これにより、守護者の再生・復活は行われなくなりました』

『また、守護者の制御権がウェシルから剥奪され自立思考に基づく行動に変化します。制御権を元の保有者であるセトへ移行……失敗。セトは制御権を既に放棄しています』


『なぁ!?』


そして失われる無限再生の権能。割れた外殻や流れ出た体液が元に戻ることなく、大蠍はビクビクと痙攣し、最後の力を振り絞ってゆっくりとその鋏と尾を彼らへ向かわせ、止まった。


進まない物語は無い。


終わらない物語も無い。


「終わりだ!"斬鉄"!」

「"星落とし"!」

「"ソニックウィップ"!」

「"雷狼"!」

「ギヂャ───」


無限の世界に生きていた大蠍が有限の世界へ堕とされた。


次第に生命の光が薄れていくその眼は、終わらない生から解放されたことにどこか感謝している様にも見える。


アレもまたセトやウェシルにその命を弄ばれ、逆らえない命令で縛りつけられた被害者だったのかもしれない。


哀れな魂も体も臓物もポリゴンとなって辺りに霧散する。それは酷く悲しい、アレにとっての唯一の救いだった。やっと、輪廻の輪へ還れたのだ。






『クソが…クソがクソがクソが!!』


玩具を侵入者に殺された挙句その玩具が最後に見せた眼がウェシルは気に入らない。


死んだも同然のその体で最後の最後にウェシルに向けられた殺意。ポリゴンとなって消える直前に、隷属された関係でさえなければいつでも殺せたのだと首筋にあの鋏と尾を突きつけられた気分だった。


『……………』


振り切れた怒りが彼女に1つの選択肢を与える。


『あぁめんどくせぇ…めんどくせぇが、本気でやってやるんだぜ』


1つの物語(戦い)が終わり、また次の物語が始まる。


ガパ……と音を立て、壺がの蓋が開き中身が溢れ出した。ドロドロと血と臓物が零れ落ちる。


「あぁ…これなんだぜ。これでアタシは現世への直接の干渉を許されるんだぜ!」


次第にそれは形を帯び、熱を得て脈動を始めた。


「セトに受肉の許可を貰ってねぇが、関係ないんだぜ!アタシはアタシのやりたいようにやるだけなんだぜッ!」


降臨する堕ちた神の残滓。


「てめぇらの命も、気に食わないこの世の全ても、アタシが全部壊してやるんだぜ。"Death Duty(手招く死)"!」


可視化された死が無数の手となり、指先が触れたもの全てを()す。壁も床も塵すら残さず姿を消していく。


「キャハハハハハハハハ!!」


無垢な悪意が、純真な破壊衝動がそこにはあった。






『──ち─、こ─ち─、こっち…よ』






「あそこだ!走れ!」

「ちょっ…大丈夫なの!?」

「行くしかないだろ!」

「迷ってる暇はないぞ!」


『どうか…あの人を…あの子を、救って───』


薄らと光る影に誘われ4人は部屋の隅にひっそりと置かれていた棺桶の中に入る。入口となる部分は狭いため順番に入るしか無さそうだ。


ルナが入り、ニックが後に続き、デリンがその巨体を何とか捩じ込む。最後に入ったクライスに魔の手が追いつこうとしていたが何とか間に合った。


間に合ったのだが………


暗闇の先は足場もなく、壁もなく、上か下かも分からない終わりの見えない落とし穴で───


「「「「うおおわぁぁぁあ!?」」」」


ドシャッ


「んにゃぁ"!?」


どこかに放り出され一番下になってしまったルナが潰されて呻いている。4人が飛び出てきたのは入った時の物と同じ見た目の棺桶の近くだった。


壁に立て掛けられた棺桶の中には肌が青白くなっていても美しい目を瞑り眠る女と、禍々しい顔の描かれた壺。視線を上げて見てみれば真っ黒な穴が棺桶の上にぽかんと開いている。


どうやらあの棺桶に入り、そこの穴から落ちてきたらしい。穴はすぐに小さくなるとそのまま閉じた。


ふと、気配を感じて振り返ってみる。


「みんな!」

「お前ら…来るのが、遅いぞ。さすがに()きそうだ」

「あぁ〜…あちこち体が痛てぇ。けど、もう大丈夫そうだな」


途中で別れた仲間がそこには居た。


仲間達は床に倒れおり辺り一面は災害でもあったのかと言うほど荒れている。


「何度…何度、我を害すれば気が済むのだッ!腐れ下等生物共がァァァァ!!!」


そして、激昂する人ではない何かが居た。

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