Story:13『災厄試練/10.愛藍相逢哀』
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「ふざけんなっ!」
憤慨するジル。
なぜか?それは今死に戻った事が原因だ。
「ふふ、想像するに汚ぇ花火だ。って終わり方だったんだろうな」
「だいじょうぶ?私、頭ついてる?」
なぜかゾクゾクとして自分を抱きしめるメルドと青ざめた顔をぺたぺたと触ってちゃんとついているか確認する時雨の2人も一緒に死に戻る。
彼らは夜空を飛び交う棺桶を足場として空を昇り、昇った先で何かに頭を弾け飛ばされたのだ。
しかし、それだけならジルがそこまで怒りをあらわにするのも少し不自然で、また別の理由がある。
「それにやべぇだろ...今の。自分が自分じゃなくなったみたいだった」
そう、途中からの記憶が曖昧というか、ぐるぐると頭の中をかき混ぜられて勝手に体を動かされた感覚。自分のやった事が自分の意思でなく、自分の想いとは関係なく笑みが零れていた。
濯ぎきれない不快感。
ジルが怒っていたのはそれが大きく関係している。当たり前だろう、大袈裟な表現にはなるが自分自身を喪失しかけたようなものなのだから。
「この感じ...前にも経験したことがある」
「...いつだ?」
時雨の呟きにジルが問う。
「極特殊ダンジョンに挑戦してる時。たぶん、その時の経験から考えるなら...洗脳かなにかに近いんだと思う。自分が自分じゃない誰かになったみたいで、記憶がごちゃ混ぜになった感じかな。私の時はもっとマイルドだったけど」
そう、スズカの行った簡単な記憶の操作だ。それをされた事により、時雨はスズカの娘として自分自身を認識していた。
その感覚にどこか近いと時雨は2人に説明する。
「んじゃあ、どうやって昇ればいいんだよ...上に行かなきゃあいつの願いとやらが叶わない。なのに、昇れば洗脳された挙句ぶち殺される」
「バットエンドルートまっしぐらだな」
つまり、分かりやすく詰んでいた。昇らないという選択肢は元より有り得ず、昇るという選択肢は選び難い。
何度でも死に戻って攻略法を見つけるのも1つの手だろう。むしろこの迷宮の最初ではそうやって突破口を見つけてきたのだから。
でも、今回はそうすることが出来ないと本能的に直感している。あれには逆らえない。自分が自分じゃなくなるという恐怖から逃げることは出来ないんだと、脳が覚えてしまった。
「でも...でも、きっと方法があるんだよ。あの犬の人も言ってたじゃん───
『彼の過去を知り、彼の今を理解し、彼の未来を救ってほしい。
この塔の入口は、全ての始まりで全ての終わり。
行きたい場所も、願い事も、全てが叶う別天地。
君達だから、あの空を昇ることが出来る』
って。私達だったら昇れるんだよ、ただ昇り方が間違ってただけで」
少しずつ犬頭の言っていたことを思い出しながら、必要となるであろう情報を引き出す。最も重要となるのは過去、今、未来。それらに関する情報を整理することだ。
「分かった、分かったよ...よし、まずは昇るのを中断して最下層のここを調べてみるか」
「普通に考えたらまずはそこからやるべきなんだろうけどな...調子に乗って忘れてた」
「やらなきゃいけないのはわかってる。けどなぁ」「あー、嫌だ」「また、ぴちゅんてなるのかな。ふふ」
彼らは口々にこの試練に愚痴をついたり興奮したり、ぶつぶつと言いながらも最下層であるこの場所を探していく。
壁の隅々、柱の裏、不思議な壁画、蠍の形をした石像、見上げるほどに大きい砂時計。その全てを隈無く調べて手がかりを求める。
「なんかあったかー?」
「なんもー」
「あったよー」
「「いや、あるんかい」」
ジルとメルドが間延びした声で新しい発見があったかどうかを確認し合う中、時雨も飄々と声を出して発見があったことを伝える。
それを聞いた2人は息ぴったりにつっこんでいた。探し始めて僅か数分である。いや、もう今までの出来事が馬鹿らしくなるくらいには簡単に見つかった。
本当に不快感たっぷりになって死ぬ必要があったのか?と、ジト目でそのアイテムを見つめてしまうほどに。
それはどこかで見たことのある扇形のアイテム。
「これって迷宮に入ってすぐ見つけた扇形のアイテムと同じやつだよな。おお、くっついた。これ、もう1つぐらいくっつけたらちょうど丸い形になりそうだ」
「だね」
最初の頃に見つかっていたもう1つのアイテムを取り出し、見比べ、ふとしたひらめきでジルがくっつけてみる。すると、そのまま光ってお互いがくっつき合う。見た目としては3分の1がかけたお煎餅のように見えなくもない。
「それとこれも一緒に置いてあったよ」
「ジグソーパズル...?」
時雨が2人の目の前に出したのは四角い箱に入った膨大な数の欠片。
「これ...何千ピースあるんだっ!?」
「ぱっと見3000ピースはありそうだよね。前にやったことあるのと同じくらいっぽいから」
「俺実はこういうのめっちゃ得意」
「はぁ〜...やってみるしかないか。完成の見本はないのか?」
「全体の色味的にそこの壁画のやつじゃない?」
「なるほど」
完成形を見ながらやった方が良いだろうと、3人は壁画の前に座り込んでジグソーパズルを広げる。壁画の絵を見た感じ迷宮の1階にあったものとは違うらしい。
「お!さっそく1ピース繋がった...おぇあ!?」
メルドの見つけたピースとピースがカチリ...と繋がる。瞬間、それは宙に浮いて彼らの目の前で静かに佇んだ。
そして─────
「悲劇は今、再び幕を上げる」
あぁ...何度目か。3人はそう思った。
微睡み、落ちて、朦朧とする意識..................。
【???】
■■side:???■■
さぁ、1つめのピースは繋がった。
これは始まりだ。終わりに向かって進む始まりだ。
「僕は貴方に愛されたかった」
終演を見届けようじゃないか。
「だが...先に悟り、捨てたのは貴方だ」
最期の先には、きっと最初があるはずだから。
「僕は貴方となら何処へだって行けたのに」
その道すがら、どんな困難があろうと貴方となら。
「ならば、僕の復讐心は貴方のためだけに」
ならば、僕達の終わりは...貴方の終わりは...きっと始まりに過ぎないのだから。
「"我想い慕う儚き復讐心"」
とても美しい黄菖蒲が天空の星々と同じ輝きで夜空に咲き誇る。舞台はたった今成った。役者も揃った。
砂漠に囲まれた、夜空を内包し、屍人の想念を孕む異質な塔の中で。
「あぁ、大好きだから殺そう。殺したいほど大好きなんだ。貴方が居ない世界なんて意味が無く、僕が居ない世界で貴方が輝くことは無い。貴方は僕だけのものだ。僕だって貴方だけのものだ。貴方の笑顔1つが僕を救い、僕の微笑みが貴方を救えたならば。僕と共に歩む未来に少しでも幸福を感じてくれるなら、貴方の目指す夢の先に僕も連れて行って欲しい。ただそれだけ、それだけのために。僕は貴方を愛そう。愛シテ愛シテ愛シテ愛シテ愛シテ愛シテ愛シテ、アイシツクソウ......この世の全ては貴方と僕のために。なのに、貴方はあなたはアナタハッ!あの人に簡単に殺された。それが許せない。どうして、どうして?僕が貴方を殺すって決めていたのに。でも、もう1度だけ機会が巡ってきたんだ。絶対に、今度は失敗しない」
見て、感じて、想い、悩んで、その末に僕を選んでくれるなら。抱きしめてくれるなら。愛を、囁いてくれるだけでいい。
もし
そうでないなら
僕は、愛しい動かぬ貴方と永遠の時を過ごそう。
この藍色の夜空の下で、輝く黄金の光を浴びて。
それはきっと、とても幸福なことだから。
【無間の塔/真実の舞台】
■■side:シグレ&メルド&ジル■■
⑤......
④......
③......
②......
①......
何も無い、ただただ広い真っ暗な空間。その奥には薄らと白い垂れ幕のようなものが見える。そこには順番に数字が映され、次第に0へと近づいていった。
⓪......[上映開始]
ブーーーーッと、どこかサイレンの様にも聞こえる音が鳴り響き、それと同時にキュルキュルと音を立てて幕がゆっくりと上がる。
舞台は今、全ての隔たりを失い白日の下に晒された。
そこは緑鮮やかで生命の力に溢れる大自然。移り変わる景色には人々の笑顔が咲き、豊かな恵みに囲まれ、安寧の世が広がる。
「綺麗...」
時雨が思わずそう呟いてしまうほど美しく、誰もが、全てが等しく幸せに満ち満ちた世界。
争いはなく、禍根もなく。生が喜びであり、死は悲しい別離。それでも、皆が彼らを笑顔で見送っている。
そんな人々の傍に、ひっそりとあまり目立たない容姿の男が1人。静かに、最愛とのさよならをしている人間を見守っていた。
夫婦だろうか。男と女が大粒の涙を流しながら、石造りの質素な墓の前で抱き合っている。
2人がひとしきり泣き、少しの落ち着きを見せたところでそれは喋り出した。
「愛する者との別れは悲しいもの。しかし、彼との別れ全てが悲しみに包まれる事こそ、酷く辛い終わり方です。笑顔で見送りましょう。そうすれば、きっと彼の来世は幸福に溢れているはずですから───"魂に慰めを"」
「「"魂に慰めを"......」」
その鎮魂の句が述べられると、墓石の周りから木の根のようなものが伸びてそれを覆い隠す。何本も何本も重なり、束ねられ、どんどんとその大きさを増した。
美しく、力強く。1本の大樹がそこに立つ。
枝の先には2つ黄色い実がなり、ポロッと落ちて夫婦の手のひらに収まった。
「恐らく、彼からの最期の贈り物でしょう」
「うっ...うぅ、マスウード...私達は絶対にお前のことを忘れないぞ...」
「えぇ...貴方と過ごした時間、とても、幸せだったわ...ありがとうね、私達の子供として産まれてきてくれて。いつか、私達もそっちに行くから...」
これはとても苦しくも輝かしい別れと旅立ちの物語。彼は願う。全ての人々の救済を。辛い生には祝福の死を。輝かしい死には報われる来世を。
求める者には躊躇なく手を差し伸べ、求めることすら叶わない者には際限なき慈悲を。
人々はそんな彼を崇めた。
彼こそが、生命を司る神であると───
[上映終了]
「「「......」」」
気がつくと、時雨達3人は塔の最下層に戻っていた。まるで今の舞台が夢であったかのような虚ろな時間。だが、はっきりとその目に焼き付いた世界。
あぁそうか、と全員の考えが至る。
「これが、彼の過去を知る...ってことか」
カチリ...とジルが静かに新たなピースを繋げた。
再び上がる幕。
彼は本来の農耕の神として人々の生活基盤となる食料を支え、その合間に救済を行っている。全ての行いが泣いて感謝されるほどの善行。
落ちる幕。
繋がる。
上がる幕。
彼は偶然すれ違った麗しの女性に目が自然と吸い寄せられ、気がつけば声をかけていた。玉のような肌、夜空のように深い色の瞳、鈴のような声。
その全てが彼を虜にする。
「あ、あの、私は、オシリス。君、は...?」
元々口下手だったが今はいつも以上に言葉が詰まり、それがまた恥ずかしくて彼の顔を赤く染めさせた。
しかし、彼女はそんな彼を可笑しいと笑うことなく慈愛の微笑みで答える。
「私は───。よろしくね、オシリスさん」
「あ、あぁ!」
落ちる幕。繋がり、幕が上がる。
何度も何度も幕が上がっては落ち、2人の距離が縮まっていく様子が映された。
そうして数えるのも忘れてしまうほど彼と彼女が心を通わせ、ついにその時が来てしまう。
「私は、君が、好き...なんだと思う。いや、好きだ!この先、私と共に......」
「嬉しい。けど、だめよ。私は彼のものだもの。彼の独占欲はきっと貴方を殺す」
「もしそうだとしても!泡沫の夢だったとしても...私は、君のことが本当に...」
「............これは、私の罪」
「え...?」
「神々に決められた彼との縁を紡いでおきながら、真実の愛を見つけてしまった私の罪。これは、憚られる恋よ。それでも貴方は...私を愛してくれる?」
「...あぁ。愛するとも。例え、どんなに茨の園が私達を囲おうとも」
「オシリス...私は貴方を愛しているわ」
「───、私も...君を愛している」
揺れる瞳、優しく触れた唇、おもく重なる肢体。
深く...深く深く愛が染み渡り、2人の心を燃やし尽くして満たされていく。
誰にも認められなくても。許されざる関係だとしても。例え、その最期が非業の死だったとしても。
静かに、幕は落ちた。
何度も幕が落ちては上がり、愛を囁いて確かめ合う2人だけの世界が映される。
そして、そんな幸せな時は永遠に続くはずもなかった。何故ならば、2人だって最初から理解していたのだから。これは、真実の愛だと。
燃やし尽くしてもまだ治まらない愛が2人の周囲を業火で彩る。
「オシリス、そろそろ夢の時間は終わりよ。もう、隠し通すことが難しくなってきてしまったわ」
「そう、らしいな...」
「だから、さようならをしましょう。でないと、私だけでなく貴方も、そして...この子も生きてはいけないでしょうから」
「あぁ...」
「貴方とのこれからを歩めないことは本当に悲しい。でも、もっと悲しいのはこの子を最初に抱くのがオシリスじゃなくて、彼だということね...」
「......」
「じゃあね。オシリスさん」
「......あぁ、さようなら、───さん」
これは真実の愛の物語。藍色の夜空の下で相思相愛の2人が逢瀬を重ね、最後は哀しき愛に包まれる.....そんな、物語。
「堕ちろ」
2人の愛の物語は終わっても、彼女の絶望の物語はまだカーテンコールを迎えない。




