Story:4『災厄試練/1.絶叫の魔女』
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ゾンビアタック。いくらか幅のある表現になるが今回は"敵との戦闘で死したプレイヤー達が復活後に即再挑戦する"ことを指す。死んではやり直し、攻略の糸口を少しずつかき集めて進んでいく...というわりとよく見られる戦法だ。
時雨達一行もその戦法を使い迷宮の第1層を人数を生かした力技で攻略しようとしていた。その総挑戦回数は現在8回。結果、重要そうなことが1つだけだが分かってくる。
それは迷宮の攻略で恐らく敵を倒す以外にやらなければいけない事があるということ。それが分かったのは3度ほど全ての敵を無視して順番に囮になりつつ、迷宮内の探索に全力で走ったところいくつか不思議なものが発見出来たからだ。
謎の壁画と丸いなにかを何分割かしたような扇形のアイテム、そして迷宮第1層の中央には鍵穴とは違うような凹みのある台座、北側と南側に2層へと続くと思われる階段───しかも北が上に、南が下に続いている。
そういった理由もあって9回目の挑戦となる今、人数を分けて2組で探索をすることになった。1組の人数は最初と同じ少数になるが、それぞれ専門の役職が集まったおかげで安定した立ち回りが出来るようになり、戦闘が2箇所に分散したことでほぼ問題なく戦えていた─────
【災厄試練/蠱惑の湖畔:迷宮第1層】
■■北side:シグレ&メルド&ジル■■
「"金剛不壊"、"カバーリング"!」
その身を鋼のようにして全てのの攻撃を自らに集中させるメルド。そこにゾロゾロと群がっていくモンスターを倒すためにジルと時雨が攻撃をし始めた。
「"二射"!打ち漏らしを頼む!"投剣/森羅"!」
「了解、"轟脚"!」
「"クイックショット"!」
2本の矢を同時につがえたジルの弓がギリギリと音を鳴らし反った───瞬間、2体のカオススケルトンナイトの剥き出しになった心臓を勢いよく破壊する。
その場に崩れ落ちた骨を踏み砕いて通路を進んでくるリビングアーマーは、相手の動きを封じる木属性魔法の〈新羅〉が付与された短剣により動きを止められた。
その隙を逃さず死鎧の懐に時雨が滑り込むと、為す術もなく次々と〈轟脚〉によって吹き飛ぶ鎧がさらに後続のモンスターを押し潰していく。下敷きになってもわずかに息がある八つ足の猫と屍鬼の眉間をジルが的確に撃ち抜き援護し、完全に仕留めた。
全体の8割型が光の粒子に変わった時、遠く離れたと場所からゴウッといくつもの土塊が迫ってくる。どうやら後方にいるインセクトメイジからの攻撃らしい。
「っ...メルド、お願い!」
「おうよ、"フォートレス"!」
突如としてインセクトメイジと3人の間に厚さ約50cm、横幅はやや狭めの通路を完全に塞ぐくらいの小さな城壁が現れた。
〈フォートレス〉はその場に数分のあいだ簡易的な壁を作ることができるスキルで、敵の攻撃を防ぐことはもちろん、道や空間の広さが狭かったり小さかったりすれば一時的に塞ぎ侵入を拒むこともでき、逃走にも役立つ割と汎用性が高いスキルである。
が、その壁の素材となる物質はその場にあるものに限られ、砂地なら砂、岩場なら岩石、鬱蒼とした森林なら泥土や植物......など、その時々によって耐久性や苦手とする攻撃が変わるため使いにくくもあり、何個も同時には発動できない。
今回の場合は迷宮の壁や床に使われている石材で相当強固なものらしくインセクトメイジの攻撃では衝撃こそ伝わるものの今すぐには壊れそうにない。
かなりの時間持ち堪えそうで時間いっぱいに妨害してくれるはず。幸い後ろから襲ってくるモンスターもいなそうだ。
「いやぁ、人数が同じでも本職の肉壁がいるだけでかなり違うな」
「今のところなんとかなってるね」
「数が多くても単体のレベルがそこまででもないからなんとかなってるだけだ。てか肉壁って言うなよ...」
一時的な安息地を手に入れた3人は休憩のためにその場へ座り込む。ここまでの戦いを振り返ってジルはメルドという盾役の重要性に改めた気がついたようだ。
時雨もそれに同意を示す。シグレ、ジル、ルナの3人で挑んだ初戦ではジルが回避型のタンクとして短剣を使い回避に専念した擬似タンクをしていたが、さすがに受けタンクでもないのに物量を相手にすることは出来なかったのだ。
代わりにシグレがタンク役を務めてジルが援護射撃をするのも案には出たが、スキルのデメリットで1発が大きなダメージになりかねない。
〈追憶〉や《百鬼夜行》を使えば1人で何とかなるかもしれないが、チームプレイでタンクが味方を蔑ろにしては意味が無い。たとえそれらを使って戦えてもに無限ではないのだからいずれ終わりが来てしまう。タンクとして時雨が受けることも回避することも策としてほぼ機能しなかった。
だからこそ、本職のメルドの凄さとありがたみが分かるというもの。いつも後ろからやじを飛ばしているジルでさえ言葉はあれだが確かに褒めている。
そうやって盾役として高評価を得られたメルドは少し恥ずかしそうに笑った。いつも一緒にいるプレイヤー達は何かと「痛覚が快感神経と繋がってるドM」だの「俺達の最終防衛ライン(性癖)」だの言ってくるせいでメルドの心は半分死んでいる。
ちょっと背中がゾクゾクしたりすることもあるせいで言い訳が出来ないのも辛い。
「で、メルドのフォートレスでそこの一本道を塞げたし、時間経過で消えるか壊されない限りは後ろからの敵が来ないから結構余裕を持って探索出来そうだね」
「だな。にしても、写真撮ったけどこの壁画はいったいなんなんだろうな...」
「この上と下にある2つは多分時計...だよな。あとこれは...虫?」
メルドがウィンドウを開いて撮影した壁画の写真を目の前に拡大して展開する。絵というよりは記号に近いそれ。円の中に12個の模様と2本の線が描かれ、6~8の足かなにかがある節足動物のようなもの。
鋏のような部分があるから可能性としては蟹なども外せない。
「この杯みたいなのは何かの入れ物かな?」
虫らしき記号絵の尻尾か足には小さく水滴のようなマークがあり、それを受け止める壺のような、杯のようなものも描かれている。
虫から出る水......体液?
それらを受け止める入れ物。
「てかど真ん中にある逆三角形と三角形くっつけたみたいなのはなんだ?」
周りにある細々としたものと違いわかりやすい形なのに何なのか全く分からない記号。三角形だけでなく厳密には矢印もある。見た目はすごく簡単にいうとこんな感じだ。
→▽↓
↑△←
なにかが巡っている、循環を示す記号かもしれない。また不思議なのはそれを囲う人型に見える実線。体の中でなにかが循環していると言えば血液が考えられるが時計やら虫やらはあまり関係があるようには思えないし、三角形も意味不明。
他にも訳の分からない記号などは数えてもきりがない。
「時計の上と下から流れてるのはなんだろ」
「んー......分からんな」
「ああああ...謎解き系は苦手なんだよ...」
「どうする?とりあえず先に進んでみる?」
「そうしようぜ。難しい事考えるより体動かす方が楽でいい」
「脳筋乙。じゃ、階段で2階に向かう前にマップの行ってない所を塗り潰そうぜ」
「「おっけー」」
結局3人に分かったのはこの壁画が意味するのか分からないという事実だけ。
なら、その意味がわかる手がかりがあるかもしれない迷宮内を探索しよう、とジルが提案して移動することになった。
目の前にあるT字路を右に曲がれば上へと続く階段がある。けれどまだ1階の探索も終わっていない。どうせなら全部探索しきった方が確実に良いだろうと3人は右ではなく左へと進んでみた。
途中、十数匹程のモンスターとの戦闘は起こったがスタート地点の中心部に比べて圧倒的に数は少ない。外側に向けて進むにつれて少なくなるのは中央のあそこがモンスターのスポーン地点か、重要な何かがあって妨害するために配置されているのかもしれない。
そういった事を少しずつ考察しながら歩くこと40分ほどでマップの角の方が描画され始めた。迷宮の外側の形は四角形で、今向かっているのがその角の1つらしい。
「お、角のあそこちょっと広そうだな」
「中ボスかなにかだったりして」
「...みたいだぞ」
人ならざる、生物ですらない敵が静かに立っていた。
鋼のような...ではなく、本当に金属でできている身体。彼ら3人が足を踏み入れたことでその身に駆動音を力強く鳴らせて目を覚ます。
【レガシー・ドール/ウィッチ Lv75】
「◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆、◆◆!」
人の話す言葉とは違うノイズが走った機械音でそれは絶叫を上げた。怒りのようなものすら感じるその叫びが止まると人形が完全に起動する。
『遺物機巧人形、型番/魔女。
全可動域起動、自動迎撃形態へ移行』
「やり方はまず今までみたいに戦ってみよう。もし無理そうなら一旦引いて考え直しで!」
気がついたら第2章のStory:4を投稿した現在でブクマが900を若干ですが超えていました⸜( ॑꒳ ॑ )⸝
本当に...本当にありがとうございます!
次の目標はブクマ1000人ですね...まだまだ拙い小説ですが、少しでも良い作品になるよう頑張りますので応援して頂けると嬉しいです。
小さな目標を立ててそれを1個ずつ消化していきます!




