Story:2『帰る場所』
皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!
バトル回を書くより日常回を書く方がなんだか楽しい...?
また少し文字量が少ないんですけど、このぐらいの方が読んでくださっている皆さんは読みやすいですか?
やっぱり1万文字前後になると書く方も読む方もまぁまぁ大変ですし...私自身書いてて気が楽なのでしばらく5000文字くらいで書くかもしれません。
「はぁ〜......」
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
ピロン
ため息をついて煩わしく思ってみてもその音は止まらなかった。べつにそれで止まると本気で思っていたわけでもない。
頭が痛くなってきた。
悩ましいという意味でもあるが、壊れたステレオ機器のように鳴り続ける通知のせいで単純に頭が痛くなってくる。すでに3桁を超える通知は全て時雨へのフレンド申請だ。
『僕はサポーター専門のプレイヤーです!シグレさんの専属になるので今からひと狩り行きましょう!【始まりの街】城門で待ってますね!集合は今から15分後で/プレイヤー:蕾よりフレンド申請が来ています。[承認]or[拒否]』
「こっちの意見も聞かないで勝手に決めないでよ...[拒否]っと」
『私は今回のアップデート後にクランを立ち上げようと思っています。つきましてはそのアタッカー組幹部としてシグレさんに入って頂きたく思っており、お声をかけさせて頂きました。トップクランを目指してるのでin率は高めでお願いします/プレイヤー:ハイリヒよりフレンド申請が来ています。[承認]or[拒否]』
「さっきよりは丁寧な口調だけどこれも結局選択権無しの入ることが前提な話だよね...[拒否]」
『ども、シグレって拳闘士だよな?おれも同じ拳闘士なんだよね!とりあえずお茶しない?なんでも奢ってあげるからさ、ね?/プレイヤー:SHUNよりフレンド申請が来ています。[承認]or[拒否]』
「論外、[拒否]」
『─────!───、──?───』
「[拒否]」
『──、──────────────!』
「[拒否]」
︙
︙
︙
「あぁぁぁぁぁ、めんどくさいぃぃぃ...」
「いやぁ、随分と人気だね」
「だなぁ」
やっと3分の1近くの申請を消化した時雨をジルとルナが苦笑しながら見つめる。時雨は2人に誘われて【始まりの街】でNPCが営業する"ピークォド"というカフェにあるテラスでのんびりとし、イベントであったことなどを軽く話している最中だった。鳴り止まない通知音の中で。
すでに騒音被害と言えるレベルの音の中、時雨は律儀に今のところ全ての申請に目を通しているが内容はどれもクランの勧誘や一緒に活動しないかといったもの。そして、そのどれもが「仲間になってやる」とでも言う様な自分勝手な言葉ばかりで辟易としてしまっていた。ちなみに8~9割は男性プレイヤーだ。
単純に戦力を高く見てくれるのは嬉しいが、時雨は楽しく遊びながら戦いたいのであって誰かの言いなりになるつもりは全く無いし、きっと中には本当に良い人がいるのかもしれないが文面を見ただけでアウトなのに実際に共に戦って上手く連携できるような気もしない。
また1通、最初の1行目を見ただけでこれまでと同じ系統なのは分かるが目を通す。ため息を吐き、どんどん重たくなる指で[拒否]をタップする。さすがにこの作業も慣れてきた。
ピロン
ピロン
「まただ......」
「てかさ、普通に通知オフかフレ申請を一時的に拒否にすれば良くない?」
「え、そんな機能あるの?あるなら早く教えてくれてもいいのに...」
「人気者気分を味わってほしくて」
「こっちはいい迷惑だよ、まったく」
ルナが紅茶もどきを飲みつつ「設定から変更すれば?」と指摘する。時雨はまさかそんな手があるとは思わなかったのでガクッと肩を落とし、それを見たジルはケラケラと笑いながらサンドイッチを頬張った。
「にしてもイベントが終わった途端に暇に感じるのはなんなんだろうか」
「わかる。一種の燃え尽きみたいな?もちろん飽きたとかってわけじゃないんだけどねぇ」
「言われてみれば私も特に予定ないや。snowはクランとホームハウスの設立資金を集めるって言って出かけちゃったし」
木製椅子の前足を浮かせて後ろに体重をあずけ、ギィギィ鳴らしながらジルがそんなことを呟いた。話を聞くとジルもルナも燃え尽き症候群とまではいかないが、イベントもとくに見せ場なしで終わってしまい今何をしたらいいか分からず暇に感じているらしい。
もっとも、そんな風に暇している2人と一緒にいる時点で時雨もそれなりに暇していた。なにか急ぎでしたいことがあるわけでもないし、雪が昔からのクラメンと資金稼ぎに出てしまい遊ぶ人もいない。
「あれ、シグレはsnowと一緒のクランに入るんじゃないのか?」
「誘ってはもらったんだけどね。なんか入り込める雰囲気じゃないっていうか、本気度合いが高いところに私が適当な気持ちで入ったら申し訳ないでしょ?それに同じクランに入ってないと絶対に遊べないってことはないし」
「シグレちゃんはガチ勢の空気よりエンジョイ勢の空気の方が気楽でいいってことだね」
「そういうこと」
「なんなら自分で立てたら良いんじゃない?」
「それはそれで厄介事が多そうかな...現状からして」
「あぁ、私も入れてー!俺も入れてー!ってなるかもって話な」
「うん。そう言ってもらえるのは嬉しいし自意識過剰かもしれないけど、今の感じからして色々目に見えてるから。どこかに入るってなっても...ほら、拳闘士って不遇職って言われてるし?役に立てる知識とかもないし」
大会でまぁまぁ目立ってしまったためその戦力を求めるばかりでエンジョイ勢からは声がかかってきていない。ガチ勢に混ざるのも自分でクランを立ち上げるのも色々と面倒事が多そうであまり時雨は気が進まなかった。
迷惑をかけるかもしれない...役立たずだなと捨てられるかもしれない...と、少しネガティブになっているのも否定はできない。
「.........なら、あいつらに聞いてみるか」
「だね」
「ん?」
「「なんでもない」」
「あ、そう...」
2人は顔を寄せてボソボソと喋り出す。聞き取れなかった時雨が小首を傾げるとなんでもないと話を流されてしまった。
なんだか仲間外れにされたみたいで少し唇を尖らせて拗ねてみるが、それはそれで恥ずかしくてすぐにやめることにした。でも、やっぱりちょっと寂しいな...と時雨は感じてしまう。
「んじゃ、暇つぶしに少し外出てみないか?」
「私はいいよー」
「えっと...私も行っていいなら」
「もちろん」
「よし、決定だね」
「よかった...」
もじもじと太ももを擦り合わせて伏し目がちにそう聞くと、2人はニカッと歯を見せ笑って受け入れてくれた。先程のことからもし断られたらどうしようと感じていたのが間違いだったと気が付く。
そこまで長い付き合いではないが、時雨にとって最低でもこの2人は「悪い人達じゃない」と認識されていた。イベント中の行いを振り返ってみると、鳴り続ける通知音のせいで疲れているから今はそう感じるだけかもしれない。
「ならどこ行こっか?」
「草原と森は今更行ってもなぁ...やっぱ【翼竜の峰】じゃないか?ほとんど脳死周回に等しいが」
「まだ他にないからその辺はアプデ後に期待だよねぇ...」
目的地を決めるために今あるフィールドを思い浮かべるジルとルナは、記憶の中から【翼竜の峰】の風景を掘り起こす。
鋭く尖った石柱が所々の視界を遮り、唯一開けている空には翼竜が火を拭きながら飛んでいるフィールド。序盤の頃はかなり難易度が高く躓いてしまうことも多いが、中距離以降の攻撃手段や激しい猛攻を耐え抜く耐久性を手に入れればそれなりに簡単になってくる。
一定のステータスとスキルを手に入れてしまえば見つけてから倒すまでにそう時間はそうかからないし、そのレベルに達している時点でそこまで経験値もドロップアイテムも美味しくななくなってしまうのだ。
2人からすればイベントの時の戦闘能力から察するに時雨もそのラインを超えている。つまり、今のところ行く価値がほとんど無いと言っていい。
「え、他にないの?」
「そうだよ、今のところその3箇所だけ。所々にダンジョンだったりがあるけど、この辺だと小規模しかないから」
1つ目の【始まりの草原】、2つ目の【始まりの森】、3つ目の【翼竜の峰】。ダンジョンでそれなりなのは森の中にある中級ダンジョンで「初心者殺し」と呼ばれる"鬼の王"ぐらい。
3人ならはっきり言ってこの辺は楽勝すぎる。
そう、その3箇所ならば...だ。時雨はもう1箇所フィールドがあることを知っている。記憶にある限り今までで1番謎な場所を。
「【蠱惑の湖畔】は?」
「「え?」」
「いや、だから【蠱惑の湖畔】」
「「なにそれ」」
「フィールド」
「「はい?」」
時雨がその場所の名前を出すと2人は口を大きく開けて味気ない返答をすることしかできなかった。それなりに情報を持っている自分達が見たことも聞いたこともないフィールドに、頭を思いっきり殴られたような衝撃を覚える。
「ちょ...ちょっと待ってくれシグレ。それはどこにある?」
「ごめん、適当に走ってたらいつの間にか着いた場所で、マップで確認しても真っ白でどこか分かんなかったんだよね。だからマップにも登録されてない」
こめかみを手で抑えて話を整理し始めるジル。が、時雨自身大した情報を持っていないのだから答えることは難しいし、記録にも【蠱惑の湖畔】の情報は残ってなかった。
「じゃあどうやって帰ってきたの?ファストテレポート?それとも死に戻り?」
「ううん、転移スキル。ちなみにファストテレポートもチャットもなんでかそこでは出来なかった」
「うわぁ...制限があるフィールドとは厄介だな」
「掲示板にも話が出てないような場所なら楽しめそうだと思ったけど...」
「なんかの条件だったり確率で入れる特殊フィールドなのかもな。マップに登録されてないなら転移できないわけだし」
訪れたことがあるという記録が残っていないのなら"追憶"を使っても転移対象外となってしまう。【蠱惑の湖畔】は辿り着けるかどうかも分からず、外に出てしまえばもう一度必ず入れるというわけでもない外界と隔離された不思議な空間。
まったく情報が出回っていないあたり時雨以外の到達者は0か極小数ということになるし、それだけ珍しい格率なら旨みがあるのだとも考えられ、もしそうなら秘匿も納得だ。まったく探索出来ていないから全てが予想の範囲だが。
行きたい。でも行けない。
「変に期待させちゃってごめんね...」
「いやいや、べつに謝る必要はないだろ」
「そうだよ」
ほぼ確実に行けないのに名前を出したのが申し訳ないと時雨が頭を下げ、「そんな場所があるって分かっただけで儲けもんだ」「他の人が知らないっていう優越感があるよね」と2人は笑った。
「.........あれ?」
入口がどこにあるか分からない。
ファストテレポートでも出られない。
でも、結果的に出ることが出来た。
どこから?どうやって?
あそこから、転移スキルである〈追憶〉を使って。
そして、あそこはプライベートエリアとして今も確かに登録されている。
入口からではなく、出口からなら......?
「どうかした?」
「......あっち側からなら行けるかも」
「「あっち側?」」
さっきとは逆の立場になって小首を傾げる2人。
「ジル、ルナ。ちょっと手を出して」
「わかった」
「おっけー」
時雨はそんな2人の手を取って目を瞑り、どこか儚くも美しい庭園を鮮明に思い出す。
「───うん。ちゃんと憶えてる。ちゃんとあの家に帰れる」
「何の話だ?」
「分かんない...」
「行くよ、"追憶"!」
「うおっ」
「きゃっ」
さぁ、家に帰ろう。もうあの場所には「ただいま」「おかえり」と言い合える家族がいないのが少し寂しく感じてしまうけれど。
書いたあとほったらかしにしていた【蠱惑の湖畔】とあの家にやっと帰る時が来ました!次回のタイトルは『ただいま』になると思います。
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皆さんはお店の名前の由来だったり意味とかって調べたりしますか?私はそういうのが結構気になる性格なのでよく検索してみたりするんですけど、とあるコーヒーチェーン店☆の名前を昨日調べたのでお話の中に出たカフェの名前に少し反映してみました!
"ピークォド"




