Story:1『私はこのイベントがやりたいの!』
皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!
2章のプロローグのようなものです。
「ははは......これだ、私が見たいのは...これだ!」
右手にはガソリン、左手にはプラスチックフォークで口はもぐもぐとサラスパを食べている。使われ過ぎた頭はガンガンとなり続けて冷却シートも生温くなってしまった。
それでも彼女は止まらない。
「あぁ、だめだ...糖分が足りない!」
ビリッ...と音を立てて開けられた袋から天使のパイを口に放り込む。そして、僅かに水分を吸われた口の中にガソリンを再び注ぎ込むと、シュワシュワと弾ける炭酸が渇きを潤して気持ちもリフレッシュされた。
まだやれる。まだ欲望に忠実になれる。まだ夢を叶えるために戦える。こんな疲れに負けている暇はないのだから、脳も手も止めるわけにはいかない。
「あは...もっと、もっと面白くできるはず!体調不良がなんぼのもんじゃい、かかってこいや!私はまだ舞えるっつうの!!」
燃える闘志がさらにこの企画を面白いものにしようと熱くなっていく。練りに練ったプロットをさらに洗練させ、簡潔でいて全容を開発メンバーと齟齬なく共有できる形を目指し続ける。
まだ次回企画発表まで期間に余裕はあるが、やりたい事をただ自由にやっていいほどイベント担当の責任は軽くない。自分がやりたい事を押し通すには「面白い」と思わせるそれなりの根拠が必要なのだから。それに合わせて出来れば追い風を吹かせるために社員用のデモ映像も仮組みしてしまいたい。
ここまで来たら彼女はもうノリとテンションで乗り切るしかなかった。ダダダダッ!と激しい音を鳴らしてキーボードを高速でタイピングする姿は鬼気迫るものすら感じてしまうほどに。それほどまでに今やりたい企画は横田にとって魅力的だったのだ。
そんな彼女を10mほど離れたデスクから顔を覗かせて2人の開発員が見守っている。
「......あの人ヤバくないですか?」
「キャラが壊れてきたな」
2人が見つめる先、普段は優しい雰囲気をまといすれ違う度に社内の独身男が振り返るような美しさは完全に失われていた。今ここにいるのは大学時代の知り合いである自分達3人だからまだ良いものの、他の開発員がいたら男にとっての理想の姿が幻想だったのだとショックを受けかねない。
すると、ガラガラとデスクの引き出しを開けた彼女はさらにエンジンを動かすためにドーピングを始めた。握られているのは魔剤ではなく黒と黄色の糖分最終兵器。
「あ、マッ缶にも手を出しましたね」
「ストーーップ!!横田、水にしろ!それ以上は健康的にまずい気がする!糖分の摂りすぎだ!」
「静かに!今が1番大事な───はふん...」
「メディーーック!!横田、起きろ!今寝たらそのまま死ぬ気がする!───おい...おい、横田!」
「後は...私の分も頼み、ます...」
「横田ァァァァ!!」
「ただの仮眠だようっせぇな!」
「ごめんなさい」
「紛らわしい言い方したくせに大学の先輩で現直属の上司にキレるとかヤバすぎでは?」
只今夜中の......どころか空が白みだす朝の4時を回っていた。深夜テンションを通り越すだけでは終わらずに2周目に入ってしまっている。昔の関係性が少しくらい出てしまっても誰も責める人はいない。1つのイベントが終わってしばらくゆっくり作業が出来るようになったというのに鞭打ちしているのは3人だけなのだ。
いや、正確に言うと少し違うがもう1人いる。クラシックロングのメイド服に身を包み、優しく微笑むアバター。横にあるもう1つのモニターには様々な衣装の原画が現在進行形で3Dデータに変えられる作業が進められている。
彼女は企画書、衣装原画、3Dモデリングの3つをその時の気分でやる事を変えながら作業していた。曰く、「大変だけど飽きない」らしい。
『はぁ...着せ替え人形にされたと思ったら放置される私の身にもなってください』
「あぁ、ごめん。もうちょっとで企画書の方は終わるから。モデリングもあと2着、悪いけどもう少しだけ付き合って、リエル」
『仕方がありせんね...優奈』
「ありがと。横田 優奈、あとひと踏ん張りがんばります!」
画面越しの彼女に敬礼をし冷却シートを貼り替える。
「さ、ラストスパート!」
キャラ紹介してから早速横田さんの下の名前を出してすみません...毎回の章ごとに最後でキャラ紹介を挟むのでそこで更新します。
初登場の「リエル」はニックネームのようなものですが、感のいい方なら直ぐに元の名前が分かるでしょうか...