Story:14『超必殺技』
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──────それは、陽射しの強い日だった。
文化的な営みが失われてから数年…数十年経ったであろうと思わせるほど廃れた濫立建築物。パラパラと僅かに崩れるように風に乗って宙を舞うコンクリートの破片がひび割れた世界を吹き抜け、所々に大きな風穴の空いた壁からは反対側から指す光が抜けている。
ボンッ…と爆裂音が弾けた。それは無機物も有機物も全てを破壊し飲み込む真紅の花。そこには生者であろうと死者であろうと違いなく等しい焔が揺らめく…
ヒュンッ…といくつもの風切り音が鳴る。それは情愛の天使が心を射止めんと血気盛んに憎愛の込められた矢を放つ音…
………ねぇ、クライス。流石にこの数はヤバくない?」
「長ったらしい無駄口叩く暇があんなら自分で走れよルナ!!」
「AGIにほとんど振っていないから無理だニャンッ」
「投げ捨てるぞ…」
「ごめんごめん、それだけはやめでゃぁぁぁぁぁ!?矢がほっぺたかすったァァァァ!!」
「はぁ、ルナは少しメルドの盾役としての働きぶりを見習ったら?」
「えっ、いや、シグレちゃん。あれはさ……」
「適材適所、だな……」
「はぁはぁ…HPがもう4割しかない、なんてちょうど良い感じの攻撃力なんだっ!!」
時雨達7人はやっとの思いで終えた砂漠の横断から数十分、高々とそびえるビル群の隙間を縫うようにして逃げ、突如現れた敵プレイヤーからの激しい攻撃をなんとか走りながら避けている状況だった。
敵も数名からなるパーティーらしく、建築物の影に隠れながら途切れることの無い攻撃を時雨達に向けていた。今の所分かっている攻撃手段としては魔法士の火魔法と弓士の矢がある。
そんな攻撃を受けている中でクライスによって脇に抱えられているルナは随分と楽しそうに騒いでおり、わりと危険な状況ではあるのだがそれすらも面白いと感じているようだ。
そんなルナに呆れながらもクライス自身どこかワクワクとしている節が見られるのは、類は友を呼ぶという言葉が当てはまる。周りのニックやデリン達も同じようなのだからこのパーティーの足並みは綺麗に揃っているとある意味言えるが、若干1名は違った方向に楽しみを見出しているようにも思えてしまうのが恐ろしい。
「んじゃま───」
「ゲームスタート…だね?」
「いっくよぉ!ルナちゃんの必殺技、独式鞭術:"隔絶領域結界"!!」
「そんな技名のスキルねぇぞ!?おまっ…まさかそこに課金したのか!」
「あれは鞭術Ⅷで普通に覚えるスキルの〈打神鞭〉だと思うんだが、そこまでスキルレベル上げてたとは思わなかった」
「ルナは普段ふざけてるくせにこれでもトップ勢だからな…」
ニックが口の端をニッと釣り上げて笑い、それに同調して時雨も犬歯を覗かせる。そんなニックと時雨の掛け合いを皮切りにルナが気合十分と吠え、知り合いの生産職に素材と金銭を持ち込み注ぎ込み生産した現状で作ることの出来る最大能力を備えた鞭を振るった。
その鞭は正式サービス開始直後でも作れるかなり性能の高い武器であることは確かだが、今後上位互換がいくつも出ることは確実であり、作り替えていくのも明白だ。だが、そうだと分かっていても、理解していてもルナには止めることの出来ない欲があった。
「今使ってる武器が今可愛くなかったら意味無くない!?」という魂の叫びによりショップにて購入出来る武器の攻撃エフェクトや色、見た目の細部を1つにつき1度だけある程度自由にいじれる課金キットを購入していた。
そのおかげでショッキングピンクの鞭、柄にはフリルが施され、振るう度にハートや星のマークがキラキラ光るというかなりぶっ飛んだ鞭が生まれてしまった。どこか魔法少女を感じさせるその武器のルナ的使用方法はもちろん女児向けではないのだが……
そんなルナの可愛らしい鞭が叫びとともに勢いよく伸びた。ジルが自身のために様々な攻略サイトを巡回してPVP用に得ていたスキル知識の鞭術に当てはまらないルナのスキル名。それをすまし顔でじっと観察した直後、メルドがキリッとした顔でスキル名を当てたのはすでにホラーだという事をメンバーは慣れてしまい気がつかないでいた。
そもそも、なぜスキル名が違い、ジルのような文面的知識では見破れないスキルの正体を名前が違うというのに正確に読み取れたのか…スキル名を変更して自分なりの名前をつける課金アイテム、縛られたい願ぼ──どんな時でも対応出来るようにと動画も漁って得た知識、これが答えだった。
「おわっ!?ぐぁ…お、嬢様」
「あっ、いやっ、んん……ル、ルナ様…♡」
「ふふふふふ、従僕2人確保ォォォォ!!」
ハートを振りまきニョキニョキ、星を散りばめグングンと伸びたルナの鞭は、地上に蜘蛛の巣のような結界型のフィールドを作り出した。半径50mほどで広がり終わったその罠に槍士の男とそのサポート役と思われる付与術士が曲がり角を曲がった瞬間足を踏み込んでしまい、途端に2人は絡め取られ縛られ、中心部に位置するルナの目の前へと勢いよく引きずられて運ばれてきた。
しかし、そのような拘束系のスキルとして終わる訳がないのがルナクオリティ。驚愕の表情を浮かべながら連れてこられた2人を淡い桃色の光が包んだ。すると、2人は畏怖のような視線が混じる恍惚とした表情にビフォーアフターしてしまう。それは一種の隷属にも見えた。
「やってる事は私達のためなのに…なんでだろう、無性にあの2人を助けたい」
「あの侵食具合だと精神干渉系のスキルで、狙って〈魅了〉に特化させてるんだろうな。もはや一時的な洗脳の領域だぞあれ……悪さ的な意味であいつに並べるプレイヤーもそう多くはいないな…」
そうやって擬似的な手駒を増やしたルナの後ろで時雨とジルは頬を引き攣らせた。が、そんな風にふざけている時間もどうやらなさそうで、彼らの仲間も続々と迫ってきていた。
ルナの鞭による洗脳結界も使用制限に達したのか消滅し、危険が無くなったのを確認したプレイヤーが流れ込んでくる。敵は通常パーティー最大人数の6人、屋上を飛び渡り、建物の影から影へと高速で移動。正確にシグレ達の死角を突くようにして繰り出される怒涛の攻撃は雨のように降り注ぎ、雷撃が迸り、暴風が舞う。
「キタキタキタァァァ!俺のターン、"金剛不壊"
"カバーリング"、"覇城"!!」
待ってました!と言わんばかりにメルドが最前に躍り出た。短い時間だけだがあらゆるダメージを無効化する護り手としてのスキル《金剛不壊》、味方が受けるダメージを全て肩代わりする〈カバーリング〉、蓄積されたダメージの量に応じて自身のステータスを上昇させる代わりにDEF値を0にする《覇城》。
自身の分も味方が受ける分も、全てのダメージをその身に集中させて完全に無効化。ゴリゴリと削れるのはHPではなくDEF、そして跳ね上がる他のステータス……それは盾職として真っ当な仕事ぶりであり、歪な補正───敵はダメージを与えるどころか、より凶悪なモンスターを生み出してしまっていた。
「ただの壁役で終わるのは三流!今の時代は前線で殴れる肉壁が当たり前ぇ!!"オーラシールド"からの"鋼牙"!」
「大盾士が盾投げ捨ててるけど…」
「あいつは殴りヒーラーじゃなくて殴りシールダーだから…」
メルドはステータスの上昇補正が最大になったことを確認すると盾を投げ捨てて腰から短剣を抜いた。「装備上昇値のDEFも含めて0にされるなら持つだけ邪魔だし?」と普段から言っていて、盾職としてそれはどうなんだろうか…いや、強いから良いんだけど…とパーティーメンバーに大盾士の認識を曖昧にさせていた。
そんなメルドは本来のDEF値と同じだけの数値を持つ半透明の盾〈オーラシールド〉で攻撃を防ぎつつ、敵の懐へと入り込む。それに追随する影が続々と現れた。
「メルドにばっか良い顔はさせねぇ!"巨神の戦斧"!」
「俺の分も残しとけよな!?"雷神の鉄槌"!」
「よっしゃ、んじゃ俺も………あぁ、やってやるさ、存分に!────"ス〇ラァァァ"!!!」
「ジルもスキル名に課金してんじゃねぇか!しかもそれ運営に怒られないか!?」
デリンが持ち前のSTRを遺憾なく発揮して振り上げる超巨大な戦斧が、敵ごと地に叩きつけると同時に砂塵が舞う。クライスは空に右手を掲げ、高電圧の落雷を落として視界を白く塗り替える。それに習って天に弓を構えたジルから放たれた矢は、上空から爆炎を纏って着弾し、辺り一面を吹き飛ばした。ニックも剣を下段に構えて何かしらのスキルを使おうとしていたらしいが、興が削がれるたのか顔を手の平でおおって大きなため息をついていた。
盾役の短剣に切られ、巨大な斧に両断され、落雷で焼け焦げ、流星モドキに吹き飛ばされたプレイヤーは、パラパラと光になってルナにより洗脳された2人を残して全員消え去った。
「いやぁ…本当に強いよね、みんな」
「ま、伊達にトップ勢なんてやってないからな」
「シグレちゃん、どう?ルナに魅了されてもいいんだよ?」
「それだけはない」
「はうぅ!し、辛辣だけどなんか良いっ…!!」
つい先程まで追われる側だったはずだというのに、気がつけば圧倒的な力量差で完全に返り討ちにしていた。普段のふざけていたり軽い雰囲気の彼らからは想像しにくいその戦力を改めて確認した時雨は僅かに肌がぞわりとするのを感じる。
そんなことを知るはずのないルナの余計な一言を適当に時雨があしらえばどこか嬉しそうに見悶えているのがすでにいつも通りで、デフォルト。少し離れた所から血涙苦悶のガンギマリな視線でルナを羨ましそうに睨みつけている彼もデフォルトだ。
「じゃあ、残ったこいつら2人をどうするかだが…」
「はいはい!ルナがやる!ぐふふ、こんな時用にみんなにも隠してた私の超必殺技を見せてあげよう!"従魔召喚"、おいで、アーちゃん!」
ルナの呼ぶ声に応じ地面に小さな魔法陣が描かれてパァッと光り、今の今まで何も無かったその場所に1匹の緑色のスライムが現れた。そのスライムの頭?の上をよく見てみれば、アシッドスライムという名前の横に『ルナの従魔』と表記されている。
(もしかしてゴブリンキングが使ってた眷属召喚と同じようなスキルなのかな…?)
「そのアシッドスラ「アーちゃんだよ」……アーちゃんでどうするつもりなんだ?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!アーちゃん、この前練習した風にやってみようか!」
「ピュイ!」
「…?……っ!!おま、まさか!?」
ルナがアーちゃんにサムズアップをすると、スライムの液体とも個体ともつかない体からニュっと数本の触手が伸びた。その触手は何やらテラテラと光る粘液のようなネバネバが付着している。それを見て何かを察したらしいニックが驚愕の表情を見せた。
「あぁ…アシッドスライムとはなんて素晴らしい魔物なの!従魔にすると酸性の強度をプレイヤーが調整出来るから、敵の装備を溶かして耐久値を減らせる…そして、酸度の微妙な調整をすることで装備は溶かせるけどプレイヤーにはダメージが入らないギリギリを見極めることに成功!!女騎士系のプレイヤーだったらこの前従魔にしたオークにナメナメしてもらってくっ殺してもらうところだけどこの子は魔法使い、なら触手でヌルヌルぐふふふふ」
「い、いやっ、やめ…て」
「「「「「「さ、最低だ…」」」」」」
「あっ、そっちの男プレイヤーは溶かしちゃっていいよ」
「ピュイ!」
「あばばばばばばば」
「「「「「「げ、外道だ…」」」」」」
ジワジワと溶かされていくローブ、羞恥に赤く染まる魔法士のプレイヤーを嬉々として見つめるルナ。シグレはHPを0にしないであろうギリギリを予想してルナに拳骨、その他のニックやジル達には「こっち見ないで、振り返ったら……ね?」と笑顔で優しく丁寧に説得をした。
時雨は魔法士の女プレイヤーには申し訳ないことをしてしまったが、一応は敵であるためこれ以上辛い思いをして欲しくないという敵らしからぬ理由ではあったがリタイアを勧めた。それを二つ返事で「ありがとうございますっ、あなたは私の救世主です!」と涙目ながらに了承してくれた。
「まったく…ルナ、少しは自重しようよ。特に女の子相手にはさ」
「うぅ…でも、運営が設定上できるようにしてるんだから問題ないでしょ!」
「まぁな〜、こればっかりは出来るようになってんだからなんとも言え────」
ピコンッ
「ん?メールの着信音?」
「誰か届いてるか?」
「あ、ルナに来てるっぽい。ほら。なになに、えっと……」
ルナがメールのウィンドウを開き、拡大して全員の目の前に展開した。そこに書かれている内容は
『此の度、プレイヤーID:082**485/プレイヤーネーム:ルナ様のゲームの遊び方に関して、開発運営員数名によるモニタリングで問題行動が含まれると判断しました。が、設定上可能な行為であり、装備の耐久値を減らすという戦法は直接的な問題行動にはならないとし、今回のイベントであるバトルロイヤルでは失格とせず、注意喚起を行うこととしました。これは、耐久値の減少による装備のグラフィックの問題点を早期発見できたことも含めての裁量ですので、今後任意を得られていないプレイヤーに対する無茶な行為はしないようお願いします。開発運営員/伊藤』
「お前の超必殺技速攻で封印されてんぞ…」
「神は死んだよ………」
((((((自業自得だろ…………))))))
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残り時間[1時間30分]
残り人数[274人]
おかげさまで『"Your Own Story"不遇職がいつまでも弱いとは限らない』が10万pvを突破致しました!ありがとうございます(٭°̧̧̧ω°̧̧̧٭)これからもよろしくして貰えたら嬉しい限りです。




