Story:13『宗派:魔王教』
皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!
「あぁ〜〜…シグレちゃんどこに居んだろうなぁ」
「え?」
「「「「「「え?」」」」」」
目の前で肩口までのフードを被り後頭部に両手を当てた弓使いの男がボソッと呟く。すぐ横にいても聴き逃してしまうかもしれないほど小さな声で発せられたその独り言は、首元に迫っていた時雨にギリギリ届いた。いや、届いてしまった。
突然聞こえてきたのは自分のネーム。もしかしたら自分と同じネームの別人という可能性もあるが、どこかで聞いたことのある声に時雨は思わず夜叉で首を刈り取るのを止める。血ではなく、淡い光の粒がキラキラと彼の首から零れていた。どうやら僅かに触れてしまったらしいが、即死させる前に何とか間に合ったようだ。
「………ジル?」
振り返った彼らの中にいる弓矢を担いだフードの男の顔が太陽の光に照らされて顕になった。その顔は数日前に中級ダンジョンの鬼の王で少しの間行動を共にしたジルその人だった。若葉のような薄い緑色の髪は一面同色の砂漠では良く映える。
「魔王が降臨なされた」
「はい?」
目を見開き、口を大きく開けたまま数秒固まっていたジルが不意に発した言葉に時雨はポカンとする。
時雨は右をチラッ………問題は無いようだ
時雨は左をチラッ………問題は無いようだ
まさか背後!?………問題は無いようだ
死角になりやすい上空から!?………問題は無いようだ
まさか機転を利かせて下から………問題は無いようだ
(えっと…魔王って冒険モノの漫画とかアニメで出てくる魔族?の王様とかだよね…でもそれっぽいのはこの辺にいないみたいだけど……)
「魔王様万歳!」
「!?」
なんだ、どういう事だ…と、状況の理解に神経を注いでいた時雨は目の前のジルの奇行で思考の世界から戻る。ぐわっと音が聞こえそうな程の勢いで両手を頭上に掲げ、目元をキラキラと輝かせて泣きながら土下座の姿勢へと移行するジル。
そんな彼の後ろに控える5人の顔は少し離れているためフードの影に隠れて顔は伺えないが、体の起伏や体格を見るにどうやら女性も混じっているらしい。こんな人に仲間がいるのだから、それを諌める役割の人が居るはずだと時雨は考え───
「ちょ、ジルやめてよ!後ろの人達も見てないでジルを───」
時雨は焼け焦げるように熱された砂の上にジルと同じように膝をつき、起き上がるように促す。無理やりにともいかないのでここは仲間の人達の力を借りよう、決して面倒くさいからではないのだと内心で思いながら顔を向ける。
が……
「「「「「魔王様万歳!!」」」」」
「!?」
重症患者は1人ではなかったらしい。地面に…いや、ここは砂漠なのだから砂に。キスをするかのように顔を擦り付けて頭を下げる彼らはその勢いでフードがめくれていた。ジルを合わせて男が5人、女が1人。武器もそれぞれ違い、長所短所を互いが補い合うような組み合わせとなっている。
(遠目じゃ分かりづらかったけど、この人達結構強い…百鬼夜行を出し惜しみする余裕は本当になかったかも)
今目の前にいる少々残念な彼ら、そんな状態でもひしひしと伝わってくる"強さ"。それが武力に富んだものなのか、はたまた知識や発想力に富んだものなのかは分からないが、どんな趣味や知識、特技でも一発逆転に繋がる可能性は否定出来ない。なら、当然油断もできないわけである。
そうやって困り顔をしながらも怪しまれない程度に力量を探っていた時雨。ジルの仲間だからといって急に襲われないとも限らないため緊張感を切らさないように意識を張っていたのだが…
ジルが顔を上げた。
「清楚優雅!」
「…?」
隣の男性が顔を上げる。
「翠の黒髪!」
「え?」
隣の男性が───
「羞花閉月!」
「いや、なんて?」
隣の男性が───
「白磁美肌!」
「ちょ、なんで皆さん私のことを見ながら……っ!!ま、まさか私のこと!?」
隣の男性が───
「黒白端麗!」
「あの!よく分かんないけどやめてくださ──」
そして女性も顔を上げて…
「えっと…その、きょ、巨乳!!!」
「この女の人だけ語彙力が無い!?」
「私の胸の仇ィィィィィ!」
「なんで!?」
周りの男性陣の語彙力の高さに彼女自身も動揺したのか、かなり吃りながらひねり出した言葉は品をあまり感じられない表現。最終的にはなんの恨みがあるのか泣きながら時雨に襲いかかろうと両手をわきわきとしながらル〇ンダイブで迫ってきた。
そんな彼女は周りの仲間から脇の下に腕を通されて動きを封じられ、ズリズリと引きずられながら砂に跡を残し、時雨の視界からゆっくりと消えていった。「もいでやるうぅ〜〜……」「永遠の0は黙ってろ!」「酷い!?」なんて聞こえるが、深入りするとドツボにハマりそうなので聞こえていないふりをし、どうやら正常に戻ったらしいジルの元へと時雨は歩いていった。
「あぁ〜…シグレ、悪かった。ちょっと取り乱しちまった」
「今のがちょっとなんだ…」
「いや、まぁ、うん。俺も前にそう思ったことがあるぞ」
「?」
「なんでもない、気にするな」
なんだか気になるような言い方をされたが気にしないように言われてしまったら無理に聞き出すのも良くないかと時雨は引き下がった。その後はあの一件からお互いどんなことがあったかなどを軽く話し、今回のイベントで巡り会えた奇跡と生き残っていたことを讃え合う。
「ジル、そろそろ俺達の紹介をだな…」
「あ、悪い悪い。シグレ、こいつらは今回のイベントでパーティー組んでるんだが」
「剣使いのニックだ、よろしくな!」
「あ、はい!シグレです、よろしくお願いします!」
しばらくジルと時雨が話に花を咲かせていると、横から大きな剣を背中に担いだ男が声をかけてきた。大柄な身体に大きな声、だが威圧感のない雰囲気。この人からもジルと同じように悪い感じはしないなと思った時雨はニックと笑顔で握手を交わした。
「ちなみに俺が君を初めて洞窟で見かけたんだ」
「そうだったんだ…ですか!」
「俺に対してもジルと同じで楽な喋り方でいいからな」
「あ、うん。わかり……わかったよ」
初めて時雨とジルがダンジョンの前で会った時に言っていた人物はどうやらニックのことだったらしく、僅かに打ち解け始めた中で出た内容──割と記憶に新しいうえに自分自身の話題であったせいか時雨は若干気が緩んで口調が素に戻ってしまった。すぐに直そうとしたがニックもジルと同じで堅苦しいのはあまり好きじゃないらしく、口調を崩すとニカッと嬉しそうに笑う。
そんなニックを筆頭に斧使いのデリン、大盾使いのメルド、魔法使いのクライスとの自己紹介を終えた。時雨の3人に対する初見のイメージは「やばい人達」だったが、まともな時に話せば至って気の良い普通の人だと分かった。
途中「リアじゅ──ゴホン、カップ──ゴホン、俺達は怨敵を見つけたら絶対に倒すつもりだ。是非もない」と、時雨は彼らの行動方針を教えられたが、意味をいまいち理解していない時雨は特に気に止めることは無かった。
「…………ふひ」
「………?」
「…………ぐへ」
「あの……えっと、シグレです。よろしくお願いします?」
「…………私はルナ。も、揉んでいい?」
「嫌だよ!」
「じゃあ、縛っていい?」
「……ジル、この人殺っていい?」
「頑張れルナ!諦めるなルナ!お前の友達は愛と変態だ!」
「イエス、ルナパンマンは美少女×亀甲縛りのチャンスを逃さない!!」
「「「「「がんばれ!ルナパンマ〜ン!!」」」」」
「私をその変なノリに巻き込まないでっ!!」
数分後、ハラスメント報告をしようと指を動かした時雨の前には6人のプレイヤーが炎天下の砂漠の上で土下座をして並んでいた。時雨の鼻にはどこからか匂う焦げ臭い香りがまとわりついていた。
「で、ジル達はこれからどうするの?」
「んっとだな、俺達はこのまま砂漠を突っ切って廃都市に向かおうと思ってる。ま、どうせシグレも同じだろ?」
「うん、その方が早いし確実かなって」
「プレイヤーと会って負けるとは思わないのか?」
「ん〜、まぁ、負けたら負けたでしょうがないし、一応切り札?もあるしね」
どうやらジル達6人も時雨と同じで砂漠を横断し、直線的に廃都市へ向かうとのことだった。開始から2時間以上経つ中で生き残った彼らならそれなりの自信があっての行動だったのだろう。
そんな彼らからしたらソロで生き残っていた時雨の方が驚異的であり、的になりやすい砂漠を移動していたことの方が驚きだったようだ。だが、ジルはそんな素振りは見せずに時雨に聞けば、そんな状況でも勝つ手段があるらしいと分かった。
「切り札…か」
その呟きが時雨に届くことは無かった。
「なぁ、シグレ。ジルだけじゃなく俺達とも知り合いになったんだしよ、どうせなら協力して砂漠を超えないか?」
「ん〜、出会ったプレイヤーは全員倒す気でいたからなぁ。ニック達もそう考えれば標的なわけだし、私が裏切らないとも限らないよ?」
「だとしたらジルの首を掻っ切る寸前で攻撃をやめるなんてことしなくても良かっただろ?でもシグレは止めた。なら、それだけでいいって俺は思える」
「ま、俺は花が加わっただけでもうれしぃねぇ」
「0から1へ……これは大きな進歩だ」
デリンが顎に手を当てて嬉しそうに微笑み、クライスは感慨深そうに目を瞑って頷いた。だが、デリン達の発言に引っかかる点があったのだろう。ルナが2人に鞭を振るい始めた。横でメルドがどこか恍惚とした表情でその3人を見つめているのに気づいた時雨がどこか悪寒を覚えたのは先見の明なのかもしれない。
そうして6人は砂漠を移動し始めた。最初に比べれば雰囲気は和み、時雨の彼らに対する警戒心はほぼ完全に消えていた。まぁ、変態という危険性に対しては常に警戒していたが。
道中はそれほど他プレイヤーと遭遇することはなく、出会ったのは3人パーティーが1つと、ソロのプレイヤーが2人だけだった。その3回の戦闘はどれもジル達が担当し、時雨は後ろで守られるような状況で見守っているだけだった。
ジルとクライスが中遠距離から先制をかけ、ニックとデリンが近距離で打ち合い、その2人を庇うようにしてメルドが間に入る。そして最後はルナが……今頃彼らは特設会場モニター前で悶えているだろう。軽くトラウマになっているかもしれない彼らに時雨は同情の念をフィールドから送った。
「おっ、ご新規さんみたいだぜ」
「ねぇ、ジル。そろそろ私も戦いたいんだけど…」
「じゃあ頼んだ。俺らは一旦休憩するか」
「巨乳大魔王の力量を拝見させてもらうよ」
「ルナのこと1回殴ってもいいよね?たぶん1発で倒せるよ?」
砂漠を渡り始めて約30分、ようやく廃都市の高層ビルが遠巻きに見え始めた所。5人のプレイヤーが砂煙を立てながら走っているのが見えた。3戦全部を静観していたシグレは闘争本能と言うべきか、戦いたいという気持ちからウズウズとしていた。そんな時雨のあだ名を勝手に決めたルナを消し飛ばしたい気持ちを何とか踏みとどまり、その矛先を眼前を高速で移動する敵へと向けた。
鬼が笑う。
黒角が生える。
優しそうだった目が釣り上がり、瞳孔が大きく開く。
ボッ
「うぉっ!?」
「きゃっ」
時雨のすぐ後ろに立っていたデリンとルナが波状に巻き上がった砂を正面から受けてたたらを踏んだ。何かが爆発したのかと思うほどの時雨の脚力が生んだ推進力は、数秒で100m以上離れる敵に迫った。
チリン…
「っ!索敵範囲に敵影1!」
「え、もうバレたの!?」
残り30mちょっとまで近づくと鈴の音のような音が軽く鳴り、藍色のローブを身につけた魔法使いらしき男が仲間に危険を知らせる。恐らく一定距離まで近づいてきた敵を察知するようなスキルがあるのだろう。
本来一般的な人なら気がつくことも出来ないはずの速さと消音性を兼ね備えた時雨の動きは数十分前にジル達で立証されている。それでもバレたならやはりこの世界にはまだまだ確立されていない知識や技術、スキルが存在し、それを敵がたまたま持っていたわけだ。
「"ファイアーアロー"!」
「"アイシングランス"!」
どんなスキルか完全に把握しきれていない時雨に索敵をしていた魔法使いと、その後ろに控えていたもう1人から火の矢と氷の槍が飛んでくる。咄嗟に時雨は右に左に高速で体を揺らし、火矢は避け氷槍は殴って蹴って粉々に粉砕した。
それでも止まることのない銃弾のように襲いかかってくる全てを時雨は無傷で対処し、徐々に距離を詰めていく。その中で余裕も大きくなり詳しく敵を見れば、剣3魔2といった編成だった。
「まずは1人」
「はやっ───」
魔力の消費が激しかったのだろう。あれだけの数を撃ち込めば魔力の減る量も減るスピードも尋常ではない。尽くうち伏せられる自分達の魔法では埒が明かないうえに無駄遣いになってしまうと判断したのか、2人の魔法使いの攻撃の手が一瞬緩む。
それは建設的な判断で、致命的なミス。その一瞬を見逃すほど時雨は甘くないし、手を抜くこともない。まず藍色のローブの男が時雨の轟撃で光の粒となって吹き飛んだ。
剣を高く振り上げるプレイヤーが時雨に正面から迫り、背後からは細剣を刺突武器として構えるプレイヤー、左横からは小太刀を両手で胸の前に構え、右横からは氷槍が飛んでくる。
時雨は回し蹴りで氷槍を砕き、その回転力を維持したまま全力で砂地を殴る。巻き上がった砂で正面の剣使いが視界が塞がれ、流れに沿って後方の細剣使いに足払いをして体勢を崩せば……
「あばっ!?」
「悪い!!
あっ──────」
低く、低く屈んだ時雨の上で1振りの剣が細剣使いの頭を大きく開頭した。そして、その時の動揺も致命的だった。時雨は剣使いの腹部を全力で殴る。
「がっは……」
「あれ、まさか倒しきれないとは思わなかった」
(単純にSTRが足りなかったかな…?いや、もしかしたらこれが雪が前に言ってたダメージ軽減スキルとか持ってる人なのかも)
剣使いは水切りならぬ砂切りでもされているかのように砂の上を何バウンドもして遠くで横たわってはいるが、ダメージエフェクトとして赤い光を零していてもまだ消滅はしていなかった。
「くそっ!"鋼牙"!!」
小太刀を構えたプレイヤーが勢いよく時雨に刃を向けて走り出した。それを夜叉の爪の部分で受け、いなす。ギリギリと鉄が擦れ合うような音が響き小さな火花を散らした。そして、圧倒的な高さを誇るSTRから生まれた膂力は相手を大きく上回り、組み伏せ
「ふっ」
また1人時雨の戦績に名が刻まれた。
「"追憶"、"轟脚"」
「ぐぁ!?」
時雨の背後で片膝をつきながら起き上がっていた剣使いの腹部からミシミシと嫌な音が鳴り、くぐもった声を漏らした彼はついぞ立ち上がることなく霧散した。彼が吹き飛ばされていた場所は、時雨が彼を狙って吹き飛ばした場所は死合が始まる前に走り込んできた方向。追憶で目の前に現れた時雨は容赦なく轟脚で腹を蹴り飛ばしたのだ。
「あ、いや……ま、待ってくれ!話がある!」
「……なに?」
「あれだ、残ってる俺のポーションをやる。それで見逃してくれ!」
「………」
時雨が振り向けば、最後の1人となってしまった魔法使いの男が右の掌を前に出して静止を呼びかける。どうやら持ち込みの個数制限があるポーションを渡す代わりに、見逃してほしいとのこと。時雨はただ静かに近づく。そして、男は安堵したような表情となり、時雨が目の前まで迫ってきた瞬間に態度を一転させた。
「馬鹿が!"アイシングラ───"」
「いやぁ……まさに鬼のようだったな」
「シグレちゃんの容赦ない一撃…はぁはぁ」
「さすが私が認めた巨乳大魔お…ひひゃいほひふへひゃん!うぅ…口が裂けちゃうよ!!」
(ルナは黙ってればかわいいのになぁ……)
スキルの反動からくる僅かな虚脱感の不思議な心地良さに身を委ねながら、時雨はどこまで続いているのかも分からない青い空を見上げた。
「まだ、戦ってるはず」
■■
「この子、なかなかやりますね」
「いやいや、なかなかどころじゃねぇだろ」
「見た感じ1v1でも化け物レベルなのに5人相手でこれですか…リーダーの情報以上に強いです」
「相当STRとAGIが高いんだと思うわ。それに謎の瞬間移動は厄介ね」
「全員で相手しても場合によっては俺らじゃ勝てなくないか?」
「大丈夫、勝つ方法なら……あるよ」
大変ありがたい事にStory:13を投稿した現在でpv95000↑を頂きました!
もう少しで10万pv…((( ´ºωº `)))ガタガタ




