Story:11『宴の始まり』
皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!
今回はイベント前の時雨の家での日常(?)を含む回で、ちょくちょく新キャラの示唆であったり、伏線が張られていたりするので気づいた方は今後を楽しみにして頂けると嬉しいです!
戦闘要素は次回に盛り込みます!
「すみません、一部屋貸してください」
「いらっしゃい、2階の207を使ってぇな」
時雨は【始まりの街】に戻ると宿屋に入って受付をする。NPCから部屋の鍵を受け取ると階段をぐったりとした足取りで上がり、廊下の先のドアを開けて中へと入った。
鬼獄:一式と夜叉を装備から外し、デフォルトで設定されているラフな格好に着替えてベットに倒れ込む。張り詰めていた緊張の糸が切れてどっと疲れが押し寄せてきた。
「あぁ〜〜……疲れたぁ……今日は、色々ありすぎて、ちょっともう、無理……」
精神的疲労からくる擬似睡魔に、時雨は窓の外の赤く染まった空を半目で眺めながら静かにログアウトボタンをタッチして意識を落とした。薄れゆく仮想意識、今日はYour Own Storyをプレイして色々なことがあったなぁ…と思いながら現実世界で意識を覚醒させる。
「んっ……外は暗くて、あっ、もう9時だ。ご飯遅れちゃったなぁ…って、『我が愛しの時雨へ──ご飯はラップをして冷蔵庫に入れてあるから温めて食べてね。ゲームの邪魔をしないようにと思って起こさなかったけど、あんまりやり過ぎないようにするんだよ。時雨の超大好きなお兄ちゃんより』……はぁ、ありがたいんだけど素直に喜べないこの感じはさすがお兄ちゃんって感じだなぁ」
ベットの脇にある小さな机の上には、時雨の兄からの手紙が置かれていた。ゲームをしていて夕食の時間を過ぎてしまった時雨に向けて書かれたもので、どうやら料理は冷蔵庫に保存されているらしい。そんな兄としての優しさの中に垣間見える残念さに目を瞑れば本当に尊敬できる人なのに…と時雨は苦笑した。
時雨は軽い足音を鳴らしながら廊下を通って階段を降り、豆電球が僅かに光るリビングに入る。父親と母親は道場での稽古があるためまだ戻ってきていないようだ。冷蔵庫を開けてみれば兄の手紙にあったようにラップに包まれた料理がある。
どうやら今日の夕食はハンバーグだったらしく、既に火が通されていた。ソースは別の小皿に分けられ、ハンバーグと同じお皿には茹でたブロッコリーとマッシュポテトが添えられている。一緒に冷蔵庫に入っている圧力鍋にはミネストローネも入っていた。
「むぅ…女子力という点でお兄ちゃんに負けている気が…」
時雨も料理が出来ないことはない。もちろんハンバーグは作れるし、揚げ物や煮物もある程度出来る。が、どう料理をしてもどうしてか兄が作った方が味は良く、見た目も綺麗なのだ。目で楽しめて匂いで食欲を刺激され、舌の上に乗ればまさに至福。
そんな兄の料理に対抗して3分で出来上がる魔法の麺食ならどうやっても味で負ける気がしないと以前に訳の分からない謎の勝負を挑んだことがあるが、なぜか物凄いアレンジ料理に変化させて兄が時雨の前に出した時は流石に頬を引き攣らせたものである。
その時のアレンジ料理のあまりの美味しさに時雨が破顔したのは言うまでもない。
「やっぱり私の作るハンバーグより美味しいんだよなぁ…こう、しっかりとしたお肉の味っていうか旨みっていうか…でも玉ねぎの甘みもしっかりあってソースの味もしっかりと合ってて。私の作る料理と何が違うんだろ」
時雨は追加の簡単な加熱を終えたハンバーグとミネストローネの味に舌鼓を打ちつつ味の秘密を考察していく。自分だけで分かることといえばひたすらに美味であるという一点くらいで、この美味しさの秘密を兄に聞こうものなら屈託のない笑みで「時雨への僕の愛が───」と語りだしそうなのでいまいち聞く気になれないのだ。
そんな兄としての優しさが嬉しいか嬉しくないかで言えばもちろん嬉しいが、年頃の女子高生としてはなんだか落ち着かないのだから難儀なものである。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終わった時雨は食器をシンクで水に浸け、リビングの電気を消してお風呂へと向かった。最初に長い黒髪を丁寧にお湯で流した後、手で泡立てたシャンプーを馴染ませて洗う。シャンプーを流したらトリートメントで髪の補修をしてコンディショナーで髪の表面をコーティングする。
体を洗うには左腕から始まり右腕、首や胸周りからお腹へ、腰、太ももから足先へ移り、最後に背中を洗ってボディーソープをシャワーで流す。最後にしっかりと洗顔をして終わりだ。
「あ〜〜〜気持ちぃ………」
両膝を抱えて体育座りをするような形で湯船に浸かる時雨。かなり大きめの湯船なのでスペース的には余裕があるのだが、1番落ち着く姿勢がなんとなくこれかなと思っている時雨は半分以上のスペースを残して体を温める。
入る時にそばに置いておいた冷凍庫から取り出したばかりのお茶に手を伸ばせば、程よく溶けて濃いめの味のする冷えたお茶が若干の喉の乾きを潤す。体の中に染み渡るその冷たさを肌を包むようにして温めるお湯、時雨はこの組み合わせが意外と好きだったりする。
20分ほどでお湯から上がった時雨はハリのある柔肌を伝う水滴を丁寧に拭いていき一旦バスタオルを体に巻いた。その後は髪の毛をアップにして留めて化粧水、美容液、乳液を順に肌に浸透させる。時雨だって乙女の端くれなので肌や髪の毛にはそれなりに気を使っている。
着替えも済ませ、髪の毛はタオルで水気を拭った後に1度根元からクシを通し、洗い流さないトリートメントを馴染ませ、髪の毛の流れに沿ってドライヤーで乾かしていく。時雨の髪の毛はかなり長いため根元から乾かし、毛先を後にしなければすぐにパサパサになってしまうのでなかなか大変だ。
夕食もお風呂も終え、時雨は再び階段をパタパタと音を鳴らして上がる。廊下を少し進んだ先にある兄の部屋のドアから漏れでる光とカタカタという音、兄は大学生で情報系の学部に入っているため色々とパソコン作業が多いらしく、1度集中すれば声をかけてもなかなか気づかない。そういった1つのことに対する集中力という点では時雨ととても似ているかもしれない。
そのまま通り過ぎて自分の部屋に入り、壁に掛けた時計に目をやれば夜の11時となっていた。今からYour Own Storyにログインすれば時間も忘れてプレイし、寝不足になることは明らかだ。それに今日は疲れがいつもより溜まっている。そのまま時雨は明日の学校の準備をして12時になる少し前にベットに潜り込んだ。
(今日は本当に濃い時間だったなぁ…最近毎日ログインしてるし、たまには道場に行って鍛えないと…明日は…あぁ…勉強も…しないと……………)
チッチッチッチッ…という時計の針の音と、すぅすぅという寝息だけが静かな時雨の部屋に響いた。
■■
勢いの強い風が木々だけでなく紫苑を根元から力強く揺らし、紫の花吹雪がザァッと辺りを舞う。夕陽に照らされて少し赤みを帯びた花弁は時雨の哀愁と流れる雫を撫で去っていった。
「これで…全部終わったんだね」
『[極特殊ダンジョン:魔を降すは三明の剣]で大嶽丸討伐完了』
『戦闘終了、蓄積された経験値の換算をします……………今回のクエストにて経験値は発生していません、Lvの上昇は起こりませんでした』
『素体の魔力消失を確認、神性スキル/神速通をスキル欄から消去しました』
『固有装備/追憶の首飾、神代の刀剣×3(破損状態)を獲得しました』
『精神攻撃耐性(中)を獲得しました』
『プライベートエリアを獲得しました』
『あなただけの物語[廻る、巡る───輪廻と忘却の花。咲き乱れるは血か涙か]が解放されました。現在のバージョンでは物語を進行させることが出来ません』
鬼の王をクリアした時と同じようにシステム音声が時雨の頭にブワッと鳴り響く。が、今回の場合は経験値が発生せずLvが上がらなかったらしい。今まで経験値の発生がないなんていう事は起きなかったため時雨は不思議に思ったが、極特殊という今までと違う名称が関係してるのだろうと取り敢えずはこれ以上の考えを保留にした。
「すごい情報量だなぁ…まずは、この新しい固有装備は…追憶の首飾と神代の刀剣かな」
インベントリに自動収納された装備を時雨は選択して情報の確認を進める。追憶の首飾は薄紫色の六角柱の結晶の中に紫苑の花弁が数枚、神代の刀剣はところどころに刃こぼれ等の破損が見られ、数回でも使えば完全に壊れて消えてしまいそうな状態だった。
|追憶の首飾│所有者:シグレ/譲渡&強奪不可
装備時HP+50 MP+50
装備スキル/〈追憶〉《不明》
|神代の刀剣(破損状態)│所有者:シグレ/譲渡&強奪不可/装備必要Lv80以上
装備時???+???
装備スキル/《不明》
「何この《不明》と"???"って…今はまだどんなスキルと性能かも分かんないってことかな?」
装備の情報を詳しく見てみれば鬼獄や夜叉と同じようにスキルが付いている。が、今までと違う点で《不明》や???という表記がされていた。項目をタッチして調べてみようとしてもブブーッとエラー音がなるだけで詳細は分からなかった。
また、神代の刀剣に至ってはLv80以上でないと装備すらできなかった。そんな状況でも追憶の首飾は装備できるらしいので時雨はインベントリからアクセサリーの枠に追憶の首飾を装備する。時雨の首元では薄紫色の結晶が夕陽を浴びて色濃く輝き、どういった原理なのかはよく分からないが中で花弁がふわふわと漂っていた。
【シグレ:拳闘士 Lv31】
|ステータス|0pt
HP:40(+50)
MP:10(+50)
STR:200(+50)
DEF:0(-100%)
AGI:200(+50)
DEX:0
INT:0
|スキル|
〈毒耐性(小)〉〈麻痺耐性(小)〉《仙才鬼才》〈孤軍奮闘〉〈鬼人演舞〉〈鬼人の吸魂〉〈重体術Ⅲ〉《百鬼夜行》〈精神攻撃耐性(中)〉〈追憶〉
|称号|
【毘沙門天】
|装備|
鬼獄:一式・夜叉・追憶の首飾
「おぉ…まったく上げてこなかったHPとMPが一気に50も上がったよ!追憶だけじゃなくて精神攻撃耐性(中)も手に入ったんだ…うん、なんか心当たりがあり過ぎる。それに神速通はやっぱり消えてるみたいだね」
ステータスを開けば今までptを割り振ってこなかったHPとMPが50上昇していた。そして、追憶の首飾装備時に得るスキルの追憶と今回の大嶽丸討伐を経て獲得した精神攻撃耐性(中)をタッチして確認する。
〈追憶〉消費MP10(変動あり)/複数人同時転移可能
座標指定と座標固定をし、一定のMPを消費することで指定場所に転移可能。過去に1度でも訪れたことがある場所なら細かい場所を指定して転移することが出来るが、屋内は不可能。(例外として自身の所有するプライベートエリア、個人に許可を得たプライベートエリアであれば屋内にも一部転移可能)他者や地的条件による発動阻害を受けた場合は一定以上のMPを消費して一時的に発動可能。(消費MPは状況により変動)
〈精神攻撃耐性(中)〉
混乱、催眠、魅了、恐慌状態を含むいくつかの精神攻撃を4割軽減する。
獲得条件/中程度以上の精神以上をを受けて生存する。
「これ…追憶ってもしかしてかなりすごいスキルなんじゃない!?精神攻撃耐性(中)もすごいけど、ファストテレポートは街の入口に転移するだけで場所の指定なんて出来ないし、複数人で同時に転移って便利スキルでしょ!しかも、発動阻害されても転移できるってことは…もしかしてこの場所からも【始まりの街】に一瞬で戻れる…?と、取り敢えず残りのやつも確認してからかな」
これまで全然ゲームをやってこなかった時雨でも僅かながらに感じ取れる追憶のスキル性能のすごさ。ごく最近ファストテレポートの地的条件による不便さを感じたばかりだったので余計に内容が目立って見える。
もしかしたらファストテレポートでは帰れなかったが追憶なら【始まりの街】にすぐに戻れるかもしれないと希望がわいた。が、その前に調べられることは調べてしまおうと通知欄に残されているシステムの情報の中からプライベートエリアという部分とゲームのタイトルにもなっている部分の項目をタッチしてみる。
〔所有プライベートエリア:鏡面世界の庭園〕
〔所有物語:[廻る、巡る───輪廻と忘却の花。咲き乱れるは血か涙か]〕
「えっと、鏡面世界の庭園っていうのはここのことだよね。もしかしてスズカの家もこれからは私のモノなの…?で、こっちの物語はさっき今は進められないって言ってたやつだよね…ん〜…色々ありすぎて頭が追いつかない」
一通り目を通してみたが今までに見たことのないものばかりで時雨には詳しく分からなかった。ウィンドウを開いてそれぞれを検索してみても情報は全く出てこない。
が、それも仕方のないことで今時雨が手に入れたプライベートエリアや、発生したあなただけの物語はβ版には存在しなかった正式サービス開始からのコンテンツであり、最初の発見者が時雨だったのだ。そんなことを知る由もない時雨は結局今すぐの情報は諦め、今後明らかになることに期待をしてウィンドウを閉じた。
「じゃあ、早速使ってみるしかないよね。転移する場所のイメージは【始まりの街】の宿の前でいいかな?よし……"追憶"!」
時雨はスキル名を唱えた。直後、リンッと鈴の音のような音が響くと首飾が淡く輝き、紫苑の花がザァッと時雨の全身と視界を覆った。ゲームを始めてからの中で初めて感じるMPを消費する感覚、何かが抜けていくような搾り取られるような不思議な感覚に意識を向ける。そして、渦をまくようにして吹いていた眼前の花吹雪が消えると
「本当に宿の前に転移できたよ…」
すぐにチェックインを済ませ、そのまま横になって寝る体勢でログアウトし、現実世界でもベットで横になって寝た時雨はカーテンの隙間から入りこむ朝日とチュンチュンと鳴く小鳥のさえずりで目を覚ますことになる。
■■
「ふわぁ…もう朝かぁ。寝る時間は結構とったけどやっぱりどこか疲れてる気がするなぁ。どっちかって言うと精神的疲労だと思うけど」
1週間のうちの水曜日の朝を迎えた時雨は上半身を起こしてぐっと体を伸ばし小刻みに震えた後、せっせと着替えて制服である紺色のスカートと純白のブラウスに身を包む。その上からベージュのカーディガンを羽織り、首に赤のリボンを着け、黒タイツをシワにならないように履けば終わりだ。
昨夜のうちに準備した学校の簡単な荷物が入ったリュックサックを右肩に雑に掛けて1階へと降りる。歯磨きをし、顔を洗い、簡単に髪の毛を整える。一番大事なのは前髪だ。ちなみにノーメイクの女子高生であり、化粧水等しか使っていないが時雨の肌は色白ですべすべぷにぷにである。
そんな風に朝の時間を過ごし、気づいてみれば時間をかけすぎたようで時計の針は家を出る時間の少し前に止まっている。母親に断りを入れてトーストだけを急いで食べ、父親が用意してくれていたコーヒーをゴクッと飲み干した。
「行ってきまーす!」
踵を踏まないようにしてローファーを履き、つま先を軽く数回トントンとして履き心地を合わせる。リュックサックはしっかりと両肩に通して背負い、玄関を勢いよく出た。
「時雨ちゃん…もしかしてまた寝不足?」
「いや、寝た時間は問題ないんだけどちょっと心自体が疲れちゃったっていうか」
「なにそれ、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。でも、学校に着くまで少し寝ててもいい?」
「おっけ〜」
バス停で雪と合流してスクールバスに乗る時雨。手で隠しはしたが欠伸をしたのを雪に見られ、やれやれといった感じで睡眠不足を問われた。本当のところは睡眠不足というよりなかなかにショッキングな映像を見たせいであるが、わざわざそんなキツめの体験を説明する必要もないかと雪の肩を借りて時雨は一応仮眠を取ることにした。
(そういえば今までとダメージエフェクトは赤い光だったのに、どうして今回はちゃんと血の演出だったり匂いとかがあったんだろ…?)
「うふっ、時雨ちゃんの髪の毛からフロォォラァァルッ!!な香り───」
「………吐き気が…」
「えっ、大丈夫?車酔いしちゃった?」
「……大丈夫」
「なら良かった!」
(なんで体調が少し悪い私より雪の方がヤバそうなな雰囲気醸し出してるんだろ…気にしたら負け、かな)
15分ほどスクールバスに揺られて仮眠をした時雨は何とか体調を持ち直し、いつも通り学校の授業を受けた。担任であり現代文の授業監督である美月が現れれば雪の姿勢が恐ろしく速い動きで正されるのもいつも通りになりつつある。
「はい、今日の連絡はこれで終わり。部活のある人はダラダラしてないですぐに向かって、委員会等がある人は遅刻しないように。何も無い人達はなるべく寄り道をしないで気をつけて帰ってね」
今日も多くの生徒が食後の睡魔に抗いながらなんとか6時間目の授業まで生き抜き、無念の寝落ちをした者達は例外なく注意をされていた。時雨はむしろ午後になるにつれて調子が戻ってきたので問題はなかった。美月の帰りのホームルームが終わったことで各生徒がそれぞれの用事のために席を立つ。
このクラスで部活にも委員会にも無所属の人はほとんどおらず、クラスに残ったのは時雨と雪、担任の美月と2~3人の他生徒を残した数人だけだった。机の中から筆箱やら教科書、ノートを整理した時雨と雪も教室を出ようと席を立つ。
ブブブッ
ブブブッ
ブブブッ
「っ、時雨ちゃん!イベント情報来たよ!!」
「本当だ!えっと…開催日は予定通り金曜日で現実時間の夜8時からゲーム内で5時間、現実では約30~40分開催してその後に表彰式。あ、ルールの説明もあるね」
スマホからバイブレーションの音が鳴り、すぐさま雪が手に取って通知の内容を確認した。その内容はYour Own Storyと連携したメールアカウントに送られる運営からのイベント内容の詳細だった。そこには開催日時だけでなく、いくつかのルールなどが記されており、時雨も一緒に確認を始める。
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【バトルロイヤル基本ルール(当日までに追加・修正の可能性がありますのでご了承ください)】
1.装備は各自規定装備範囲内なら自由でステータスは現状。
2.回復アイテムは各自下級のHP&MPポーション各5個まで。
3.下級ポーション以外の回復、補助アイテム、その他アイテムの持ち込みと使用は禁止(イベント開始直前に特殊インベントリを各プレイヤーに配布しますのでそこに収納してください。イベント終了後に返却致します)
4.スキルの禁止制限なし。
5.チームを組む行為は禁止しないが1チーム最大6人まで。
6.違法行為の一切の禁止。
※また、運営は逐一状況を観察しています。違法行為、暴言、迷惑行為が目立つ場合は運営からの警告、事の大きさによっては凍結も考えられますのでご注意ください。
【Your Own Story運営より】
『プレイヤーの皆様、本作を楽しくプレイしていただき誠にありがとうございます。今回の内容は様々な環境を複合した広大なフィールドで行うYour Own Story初イベント、バトルロイヤルについてです。一辺が10kmのフィールド内にはいくつかの隠しアイテムが存在し、装備やステータス、スキルが心許なくとも使い方によって逆転の可能性があります。時間経過で行動できる範囲が徐々に狭くなるため1度もプレイヤーと遭遇しないということはほぼないです。また、上位入賞10名には特典が配布されますのでぜひ入賞を目指して頑張ってください。各プレイヤーの善戦を祈っております──Your Own Story運営』
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「へぇ…装備とステータスはそのままなんだ」
「個人的には魔法職だからMPポーションの数に制限があるのは少しキツいかも…でも途中までなるべく戦わないで温存しておけばいいし、ここに書いてある隠しアイテムが手に入れば話は別だね」
「ていうか一辺10kmって相当広いよね?」
「うん。こんな広いフィールドでバトルロイヤルなんて他のゲームだと聞いたこともないよ」
運営からの詳細を記したメールを読み進める時雨と雪。ルールを1つ1つ確認し、自分にとって有利な点、不利な点を見つけていく。そして、それをどう補うかも重要なところだ。
さらに、フィールドが一辺10kmというのはかなりの広さだろう。そんな広さで決着が着くのだろうか一瞬危惧したがどうやら戦闘エリアは時間経過で狭まるらしい。それなら確実に決着が着くだろうと2人は安心した。
「じゃあ、時雨ちゃん。私今日は用事ないからプレイ出来るけど、時雨ちゃんはやる?」
「朝も言った通りちょっと精神的に疲れてるんだよね。だから今日はログインしないかな。明日はまだ何とも言えないけど」
「そっか。その…このままやめたりはしないよね?」
「それは大丈夫。私もすっかりハマっちゃったからね。プレイしてない間も道場でイベントに向けて体作りをするつもりな訳だし」
そうやってお互いが今日と明日プレイするのかという情報を共有して帰路につく。スクールバスでもイベントのことについて2人は大いに盛り上りを見せ、バス停のある駅でそのまま解散した後時雨は家の道場へ、雪は家の自室へ向かった。
結局時雨は水曜日と木曜日を道場での感覚を研ぎ澄ませるための訓練に使い、金曜日のイベントで最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしていた。その分雪はゲームに長時間ログインし、魔法のリキャストタイムや理想の試合運びの流れを詰め、優秀な装備やスキルが得られないかをギリギリまで試行錯誤する。
そうやって午前中から夕方までは学校等で過ごし、空いた時間の夜でそれぞれの必要とする状況や物を揃えていった。
そして、ついに決戦の日を迎える。
『Ladies and Gentlemen!プレイヤーの皆、Your Own Story初イベントてあるバトルロイヤル開始まで残り10分だ。時間になったら自動で転移するから必要なことを全て済ませておいてくれ。では、私は観客として行く末を見守らせてもらうよ』
御子柴がそうやって宣言をすればゲーム内特設会場に集められたプレイヤーの咆哮が鳴り響き、熱気が一気に上がる。
「じゃあシグレちゃん。私達は今から敵同士だから、遭遇しても手加減なしってことでOK?」
「もちろん。全力で戦うよ」
2人は最終的にチームプレイはせず、ソロでイベントを戦うことにした。それはつまり今この瞬間から全てが終わるまで敵であるということ。気が知れた仲であるからこそ手加減は侮辱になる。なら、全力で戦う以外に道はない。
そして、それぞれがアイテムを特殊インベントリに収納したり装備やスキルの最終確認をし、全てのプレイヤーがフィールド内にランダム転移をした。
『それでは、只今をもってYour Own Story初イベント、バトルロイヤルのSTARTだ!』
赤黒い装備に身を包み、薄紫の結晶を首から下げて不敵な笑みを浮かべる少女。5時間戦い続けるのは厳しい?なるべく温存?そんなこと、ありえない。死の一線を乗り越えたその瞳はギラギラと輝き、生まれ変わったと言っても過言ではない精神はそうやって自らに問い、自分なりの答えを導く。
そう、時雨にとってやることはただ一つ。
「最初から最後まで全力で戦うよ!!」
ついに戦いの火蓋は切られ、時雨はいくつかのスキルを発動した。装備と同色の赤黒いスパークがバチバチと迸り、禍々しいツノが妖しく光る。
さてさて、ついにYour Own Story初イベントのバトルロワイヤルが始まりますが時雨の結果はどうなるのでしょうか?
さらに、彼らのチームはちょうど6人……
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