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"Your Own Story"  作者: 音夢
第1章『激突』
10/43

Story:9『死が巡る』

皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!


*今回のお話は人によって苦手な表現があるかもしれません。ご注意ください。

また、あるキャラの過去に関係する話でダメージエフェクトがリアルなものになっています。

「ふぁぁ…さっぱりしたぁ〜」

「ほら、ちゃんと髪の毛拭かないとだめよ」

「うん!」


時雨はお風呂から上がると熱がこもって上気しているうっすらと濡れた肌を扇ぐ。髪の毛は乾かしておらず、毛先からは雫がぽたぽたと滴っているためスズカにタオルを渡された。


「久しぶりにスズカと一緒に入って楽しかった」

「私もよ。じゃあ、私はご飯の準備をしてくるから」

「分かった」


その長い髪の毛を乾かしたスズカは一足先にその場を離れ、夕食の準備を始めるらしい。時雨もタオルで髪の毛をわしゃわしゃと拭き、ドライヤーで乾かした。


リビングに行ってみるとスズカの作る料理は準和食となっており、味噌汁に焼き魚、白米に漬物と簡単なものだったがどれも格別に美味しいものとなっていた。


夕食が和食であったこともそうだがスズカは着物を着ており、洋館の雰囲気と比べるとかなり目立っているが恐ろしい程に似合っている。時雨は浴衣であまり派手さにはかける服装(装備)だ。


夕食を食べ終わった後は時雨とスズカで片付けを済ませ、共に寝室へと向かう。スズカの着物が暑苦しくないのかと時雨は聞いたがどうやら全く暑くなく、着物自体に魔法の効果が付与されていて快適なくらいなんだそうだ。


「電気消すわよ?」

「うん」

「暗いの怖くないかしら?」

「もう!そんなに子供じゃないよ!」

「あら、ごめんなさい」


寝室もまた煌びやかな造りで大きなサイズのベットが1つ。時雨とスズカは横に並んで布団をかけ、スズカの意地悪な言葉に頬を膨らませる。


抱き合ってお互いの温もりを感じ、ふわふわとした多幸感に身を包んだ時雨はあっという間に意識を夢の中へと移らせていく。そんな本当の家族のようなやり取りをして2人は床に就いた。


「…ごめんなさい」


■■


燃え盛る大地、鼻につく焦げた匂いを上げる森、そこら中に漂う()の焼けた死の香り。子供は泣き叫び、母親は力強く我が子を抱きしめて守り、父親は果敢に立ち向かい死んでいく。


パチパチと火の粉を上げて燃える家屋から火達磨になった人が飛び出し助けを求めて転げ回り、逃げ惑う人々は燃えるか切られるか潰されるか喰われるか…


それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。人の命が狂ったほどに軽い世界。他者が他者から奪い、喰らい、命を蹂躙する地獄のような世界。


「なに…これ…」


突然のことに立ち竦む時雨は目を丸くしてその惨劇を眺めていた。目の前で無惨にも命を散らす人々の生々しい死の瞬間を瞼の裏に否応なく焼きつけられる。


血飛沫が飛び、時雨の頬を鉄臭い温かな水が流れる。目の前にビチャビチャと転がるのは元人間だった男の臓物と肉の塊。ねっとりとした血の泉が時雨の周りをゆっくりと侵蝕していき囲んでいった。


「いや……いやぁぁぁぁぁ!!!」


時雨は頭を抱えて蹲る。目の前の恐ろしい光景から目を逸らして心を保とうとする無意識の意思が働いたのだ。


体の震えが止まらない。指先から段々と恐怖に飲まれて失われていく体の感覚。溢れ出る涙と鼻水は歪んだ時雨の顔を伝っていく。それでも何も終わらない。


目を背けても泣き叫ぶ人々の声が耳に届く。そんな彼らを嗤いながら殺戮する声が耳に届く。耳を塞いでも微かに聞こえてしまう絶望の音。目を瞑り、力強く耳を塞いでも鼻腔に突き刺さる血の香り。


ドッ─────


「え?あっ…あぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


突如何かが落ちた振動が地を伝って時雨の体に届く。何事かと少し視線を下から上に変えればゴロゴロと転がってきたモノと目が合った。


血涙を流し表情を苦悶に歪めたそれは人の頭部。時雨は恥も外聞もなく泣き喚く。もう自分の涙も鼻水も、口から垂れ流れている涎すらも気にかける余裕はない。


「あっ────」


時雨は自分の首に冷たいものが当たったのに気づいて声を漏らした。次の瞬間、急速に薄れゆく意識の中で目の前にあったのは首から上を無くした時雨自身の体だった。


「…ごめんなさい」


■■


「いやぁぁっ!!」


飛び起きた時雨はすぐに自分の首に手を這わせて確認する。どうやら無事に首は繋がっているらしく目立った外傷は無さそうだ。


「ここは…山…?」


次にいた場所はベットの上もなく、ましてや地獄でもなかった。そこは辺りを見下ろすことが出来るほど高い位置にある山の頂上。


柳の木のようなものがポツリポツリと生えており、風に揺られて靡いている。先程の恐ろしい光景を見た後に薄暗い山でそれを見ると言い知れぬ恐怖が身に巣食う。


「さっきの夢?はなんだったんだろう…それにスズカは…って、スズカって誰?」


ふと自然に頭の中に浮かんだ誰かの名前。姿形ははっきりと思い出せないのに一瞬で浮かんだその人が誰なのか時雨には分からなかった。


記憶が混濁する。何があったのか何が起きたのか自分が何でどうしてここにいるのか。全てがあやふやとなり明確に思い出すことが出来ない。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「だ、誰か助けてくれぇぇ!」


「この声はっ…!!」


考えを巡らせる時雨の眼下から女性の甲高い叫び声と助けを求める男性の悲痛な叫びが聞こえてきた。声のする方に走りよって見下ろすと、小さな村が何かに襲われているようだった。


「た、助けなきゃ!」


曖昧になりつつある先程の夢の内容と同じようにならないためにと時雨は走り出した。心は幾らか落ち着いてきたし、体だって動いている。夢の中では急なことで呆然として立ち尽くしてしまったが今なら戦える。


インベントリを開いて鬼獄:一式と夜叉を装備して時雨は目的地へと駆け出した。急な斜面を持ち前の身体能力で駆け抜け、直に悲鳴だけでなく鼻が曲がるような匂いと共に雄叫びが聞こえてくる。


「人は脆いなぁ?少し力を込めただけで肉塊に変わり果ててしまう!」


猛火の中で嬉々として村人を鏖殺しているのは時雨の数倍…ゴブリンキングですら矮小に見えてしまうほどの巨体の持ち主だった。


木の幹と見紛うほど太く逞しく、所々に血管が浮き出た腕。ギラリと光る鋭い爪の先からはぽたぽたと鮮血が滴っている。時雨の頭から生えるものよりも凶悪なツノと、裂けた口元から伸びるおどろおどろしいキバ。


あれは──────────鬼、悪鬼だ。


「どこだ、どこにいる?隠れていても無駄だ。必ず見つけ出して殺してやるからな、スズカァァァ!!」

「っ!?」


悪鬼は時雨の記憶の奥底で霞みがかってうまく思い出すことが出来ない誰か(スズカ)の名前を叫ぶ。憎悪を滾らせたその言葉には言うまでもなく殺意が込められており、それを一瞬感じただけでも時雨の足を止めるに至った。


強者との戦いを求める時雨はゴブリンキングとの命のやりとりで限界を超えたつもりでいた。だが、名状し難い圧倒的な死の雰囲気を纏うその悪鬼を前にして震えた。濃密な本物の殺意を時雨は初めて受けたのだ。


そして、僅か数十m程の距離に接近して初めて見えた悪鬼についての情報は、一部で魔王と称されるほどである時雨をも戦慄させた。


【鬼神魔王大嶽丸 Lv250】


「Lv250…!?」


時雨の知覚範囲に入った事により自動的に表示された簡易情報。悪鬼の頭上には鬼神魔王(きしんまおう)大嶽丸(おおたけまる)という名とLv250という数字が示されていた。


Lv31の時雨では遠く及ばない力量差。スキルでのステータス強化を加味しても抗うことが出来ないだろう地力の差。それは……絶対的な壁だった。


「そんなの…倒せるわけが───」

「むっ…女の鬼の香りがするなぁ?スズカなのかぁぁ???」

「ひっ…」


山の麓と村の間に自生している木の影から状況を覗いていた時雨の方を大嶽丸は肩越しに振り返って鋭い眼光で睨む。


ニタッと笑顔で体から血を滴らせる悪鬼に思わず時雨は恐怖で小さな声を漏らした。両手で口を塞ぎただただ周りの空気に溶け込むようにして隠れ続ける。


今すぐにでも逃げるべきであると時雨の本能が警鐘を鳴らすが、足はガクガクと震えるだけで前に進む力が全く湧いてこない。湧いてくるのは純粋な恐怖のみ。


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


「どこだぁ?早く出てこないとどんどん(ゴミ)の山が増えるだけだぞぉ?」

「いやぁぁぁぁぁ!」

「だずげで……ま゛だ じ に゛だ ぐ────」


ぐちゃぐちゃと何かが潰れる音とベキベキと何かが折られる音と共に、死の片道切符を受け取った人々が次々と事切れていく。


時雨は震えた。いかに自分に武の才があろうとも、例えこの世界が現実でなくとも、どれだけ強力無比な装備を持っていようとも、人の心は仮初の体であっても死の恐怖に抗えないことを知ってしまった。


自分が弱いことを、恐怖に震えるだけの弱者であることを知ってしまった時雨は絶望する。自分が強くなった気でいただけの無力なゴミ()であることに気づいてしまった。


「見ぃつけた」

「あっ…」


横から分厚い唇に舌を這わせた大嶽丸が時雨の顔を覗く。目が合っただけで相手を射殺すことが出来そうなほど鋭い視線を受けて時雨の顔から血の気が引いていくのが分かった。


「なんだ?スズカとは別の者か。だが……美味そうだなぁ」

「いや…お願い…助けて…」


一瞬目的の人物と違ったことにキョトンとしたが、それは別にどうでもいいらしく時雨の白い柔肌や豊かな胸を睨め回す。好物を見つけたように舌舐めずりをする大嶽丸にへたり込んだ時雨はただ懇願するしかなかった。


すると


「待ちなさい」

「………やっと出てきたか」


どこからか若い女の声が聞こえ、一瞬動きを止めた大嶽丸は振り返る。時雨も同じように振り返るとそこには1人の美しく、どこか見覚えのある女が立っていた。


「その子は関係ないわ。私が無理やり連れてきてしまっただけ」

「そんなことはどうでもいい。私はこの娘を喰いた───」


2人の間に立ち、時雨を大嶽丸から隠すようにしたスズカは話し始める。「無理やり連れてきてしまった」という言葉に何のことだろうかと思案する。


そして、大嶽丸はスズカの脇から時雨へと手を伸ばす。が、その手が時雨に届く前にスズカが吠える。直後、雷鳴か轟き、焔が爆ぜた。


「剣よっ!!!!」

「ぐぅっ……」


スズカの周囲に浮かぶ轟雷と火焔を纏う2振りの刀。その刀がスズカの掛け声とともに大嶽丸へと飛来すると、同じような見た目の刀を虚空から取り出した大嶽丸は刃で受けた。


「あなたはここで必ず倒す!夫と娘のためにも!!」

「私より奪った2振りで倒せると?いやぁ…あの時の憎き男とそのガキは良い顔で死んだなぁ」

「っ……殺して……殺してやる!!」


そのまま刀を1本握ったスズカは大嶽丸に肉薄し、大嶽丸は受け流しながらたいそう嬉しそうな顔で過去を思い出す。


スズカの夫と娘という言葉…そして大嶽丸の男とガキという言葉。全てが意味する所はスズカの家族を大嶽丸が───という事なのだろう。激昂し、両手に刀を構え直してスズカは斬りかかった。


「元はと言えば全て私の神剣なのだ。スズカ、貴様が私に勝てるはずがないだろう?」

「それでも…刺し違えてでも仇をうつ!」


ニタニタと嗤う大嶽丸、スズカの持つ2振りと大嶽丸の1振りの刀は元々大嶽丸の所持していたものらしい。勝てる可能性が相当低いとしても、それでもスズカは決死の覚悟で仇討ちを続けた。


「"五月雨"!!」

「"風壁"」


スズカは再び刀を宙へ浮かせ、一瞬で空高くへ飛ばす。暗い夜空にに小さくなって消えた刀は、数十数百と分身体を展開し月光に照らされた雨露の如く光り輝く大軍と成って大嶽丸に襲来した。


が、大嶽丸は刀を片手で握ったまま空に向かって振り抜くと、辺りに暴風が吹き荒れて壁となり刀のことごとくをいとも容易く地に落とした。


「すごい…」


時雨は格の違う戦いを繰り広げるスズカと大嶽丸を少し離れた位置から傍観していた。いくつもの神剣が空から降り、それを容易く暴風が防ぐ。


自らの技術と力を持って身一つで戦う時雨とは対象的な、異能()による応酬。人智を超えたその攻防は周りの木々を薙ぎ倒して行われている。


「こんなの、私には、戦えないよ…無理…無理だよ…」


時雨は苦笑して大粒の雫を流す。村人を助けるために来たというのに、すでに心を折られてしまっていた。人は簡単に死ぬ、決して立ち向かうことの出来ない悪が存在する。


「そうだよ、スズカ(お母さん)も私は関係ないって言ってたんだし、私は、悪くないよ」


時雨は必死に自分に言い聞かせるようにして震える体を抱きしめる。


「私は…私はっ…!」


時雨は初めて心が負けて崩壊寸前となった。すでに恐怖よりも不甲斐なさが心に重く重くのしかっており、心から強者に屈服してしまったことを恥じていた。


私は悪くない、仕方がなかったんだ…と言い聞かせながら。


「もう戦えないの?」

「……え?」

「もう、戦えないの?」

「あなたは…」


ふと、時雨は問いかけられた。


気づけばいつの間にか目の前にはナニカ《シグレ》が立っていた。表情はどこか無機質で、淡々とした声音。


「私は…戦えないよ…」

「戦いたくないだけじゃないの?」

「仕方ないんだよ!」

「どうして?」

「あんなの勝てるわけない!」

「なんで?」

「私は…もう負けたの!戦う前に負けちゃったんだよ!」

「諦めたの?」

「違う!私にも、私にも力があれば!」

「力がほしいの?」

「ほしい…!」

「それは自分のためにほしいの?」

「私は…もう負けたくない!誰かを、大切な人を自分が弱いからなんて理由で守れないようなのは嫌だから!!」

「自分のためで、人のためなんだね」

「……でも、結局は自分の自己満足なんだと思う」

「それでもいいと思うよ」

「え?」

「誰かのために強くなるのは、悪いことじゃないと思う」

「………」

お母さん(スズカ)のこと、助けたい?」

「私は…スズカ(お母さん)の力になりたい」

「そっか」

「うん」

「じゃあ、止まってられないね」

「うん!!」

「私の力、少しだけど貸してあげる」


ナニカ(シグレ)が時雨に問う。そして、時雨は思い出した。幼い頃の自分が力を求めたのは馬鹿で無謀で、だけど画面の向こうで多くの人を助ける強き者(ヒーロー)に憧れたからだと。


いつしか強者との対戦だけが目的になってしまってい、そんな純粋な気持ちは心の隅に追いやられていた。だが、自問自答に近いやり取りでやっと原点を思い出せた。


「私はみんなを守るんだ。そのための、力がほしい」


極特殊(エクストラ)ダンジョン:魔を降すは三明の剣にてプレイヤーの意思を確認。それに伴い対象の称号【羅刹】に〈虚影〉を統合、派生固有スキル《百鬼夜行》を構築。また、統合後に称号【羅刹】を廃棄、新たに【毘沙門天】を登録しました』


そして、時雨の決意を聞き届けるかのようにしてシステム音声は告げた。時雨の新しい1歩だ。もう負けたくない、負けられないという願いに答えて新たな派生固有スキルと称号を構築し、登録する。


「さぁ、私達の時間だよ」

「うん!」

「「"百鬼夜行"」」

伝承が好きな人はある程度内容が分かるでしょうか…?私なりに改変して物語としていますが、あくまでゲームの話だと割り切って読んでもらえると嬉しいです。


次回でこの話が終わり、初イベントに入ります。

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大変ありがたい事にStory:9を投稿した現在でブックマー600↑、pv54000↑を頂きました!

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俺は姉と妹が大好きなのに、姉と妹は俺が大嫌いらしい
ぜひ読んでいただけたら嬉しいです!
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