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"Your Own Story"  作者: 音夢
第1章『激突』
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Story:1『旅立ち』

皆様の意見を見て今後の参考にしたいと思いますので、気になったらぜひ気軽に感想や評価をお願いします!

「ねぇねぇ、時雨ちゃん!一緒に"Your Own Story"やろ!」

「Your Own Story…何それ?」


目をぱちくりとさせて(やなぎ) 時雨(しぐれ)は自分に詰め寄る相手に聞き返す。そんな時雨に今巷で大注目のVRMMOゲームを勧めているのは数年来の友人である笹森(ささもり) ゆきだ。


「ファンタジーもののVRMMOなんだけど、せっかくやるなら時雨ちゃんと一緒にやりたいなぁって思ったの!」

「ごめん、私そもそもVRMMOが何なのかわかんないんだけど…」


VRMMOとは、V()irtual R()eality M()assively M()ultiplayer O()nlineの頭文字を取った仮想現実大規模多人数オンラインの略称である。現在着々と進歩する仮想現実空間の技術を用いたゲームのジャンルだ。

ゲーム機を通して仮想現実空間へ入り、五感全てに作用する特殊な技術で現実と遜色ない操作性に多くの熱狂的なファンがいる。まさに、自分自身が広い世界を冒険をしているかのように感じられる。


「って感じのゲームなの!」

「へぇ…そんなゲームがあるんだ。結構面白そう!」

「でしょ!ちなみに金曜日…今日の18:00からオンラインサーバーの正式サービスが開始だからね♪」

「そ、それは急だね…私ゲーム機なんて持ってないよ?」

「ちょっと高いけど、時雨ちゃんなら買えると思う!」


雪の話を聞けばゲームソフトの値段が約1万円、そのゲームをプレイするために必要なゲーム機が約6万円と少々お高めだが、確かに時雨にとって決して無理な値段ではない。


時雨の家族は格闘技一家で、その家の長女である時雨もまた英才教育を受けた超一流の格闘家なのだ。様々な格闘技の大会で得たファイトマネーが貯金したまま使い道もなく相当な額貯まっている。そのまま放置するくらいならゲームに使ってもいいか…と時雨は考えた。


二つ返事で頷いた時雨に、雪が放課後おすすめのゲームショップを案内してゲーム機とソフトの両方ともを即日購入する事となった。また、購入時に必要な情報として身長や体格の測定もされた。ゲーム内のキャラを作成するにあたって必要らしい。


購入したYour Own Storyのパッケージには大きな文字で[あなた(Your)だけの(Own)物語(Story)を!]と書かれている。


パッケージ裏にはコンセプトとなる[あなただけの物語を!]という言葉が指す圧倒的な自由度の高さを示す説明文が記載されている。内容としては広大なオープンワールド、多種多様な武器やスキル、数え切れないほど豊富なアイテム、他プレイヤーとの交流など、人によって違ったゲームの楽しみ方ができるらしい。


「えっと、雪のメモには…『オンラインサーバーの正式サービス開始前にキャラメイクをすること!作り終わったらID教えてね』か。今は……17:43!?早くしないと!」


時雨は自室のパソコンとゲーム機を専用コードで接続し、ディスクドライブにゲームソフトを挿入する。なんでも、パソコンに接続しているおかげでゲーム中にインターネットで検索をしたりメールを送ったり出来るらしく非常に便利である。


ゲーム機の説明書に『楽な姿勢でゲームをしてください』とあるので、時雨はベットの上で横になってゲーム機を頭に装着し、起動した。急速に薄れゆく現実意識とは裏腹に、時雨は真っ白な空間で仮想意識を覚醒させる。


『ようこそ、Your Own Storyの世界へ!ここではゲームキャラの設定をします。見た目はゲーム機の購入時に店頭で測定した数値を元に作られますが、任意で変更することが出来るので自由に設定してください。また、専用武器とステータスの設定もしますので目の前に表示されるウィンドウから選択してください』


どこからか無機質な女性の声が響き、この場でやる事を淡々と簡単に説明をする。すると、ブンッと時雨の目の前にいくつかのウィンドウが表示された。


「えっと、ユーザネームは…"シグレ"でいいや。見た目はよく分かんないしこのままで。専用武器は…あっ、レザーグローブなら私にも使えるかな?ステータスはやっぱり攻撃力と速さがほしいよね。よし、できた!」


【シグレ:拳闘士 Lv1】‬

|ステータス|0pt

HP:40

MP:10

STR:50(+5)

DEF:0(+15)

AGI:50

DEX:0

INT:0

|スキル|

無し

|称号|

無し

|装備|

レザーアーマー・レザーグローブ・レザーパンツ・レザーブーツ


ステータスはHP(体力)MP(魔力)が40と10で最初から決まっており、配布されている100ptをSTR(攻撃)DEF(防御)AGI(敏捷)DEX(確率)INT(知力)に割り振る仕様となっていた。Lvという表示があるので恐らく1上がる事に一定のptが貰えるのだろう。


時雨は100ptの半分ずつである50ptをSTRとAGIに振る。相手を圧倒する力と速さがあれば勝てる、という脳筋気味な持論から来る選択だった。また、このゲームは現実世界の知識や身体能力もある程度反映できるらしく、身体能力の高い時雨にかなり合っているゲームと言える。


こういうゲームでは剣だったり杖、弓などを使うのが一般的なのかもしれないが、ゲームに対する事前知識が乏しい時雨からしたら使った事のある武器を使う方が得策である。他にも大盾や鞭、ハンマー、ブーメランなど沢山の武器が存在した。


『これでキャラの設定を終了します。現在時刻は17:58です。残り2分でオンラインサーバーの正式サービスが開始となりますので少々お持ちください』


時雨は[決定]ボタンを押してキャラ設定を終了する。すると、また淡々とした声が真っ白な空間に響いて設定が完了したことを告げた。なんとか時間前に設定が終わりホッと胸をなでおろす。


「残り2分…今のうちに雪にIDをメールで送っておこうかな。確かフレンド設定の所に…あっ、これだ。で、メールのウィンドウを出してIDを雪に[送信]っと」


どうやらウィンドウはプレイヤーの思考に合わせて自動で表示されるらしい。かなり便利なシステムのようだ。時雨はポチポチとウィンドウをいじって雪にIDを添付したメールを送る。


雪は時雨からのメールを今か今かと待っていたようで、メールを送ってから数十秒で『フレンド申請しておいたから後で承認しておいて!』と返ってきた。フレンドになればパーティーを組んだりゲーム内チャットをする事が出来るらしく、また、簡単にだが相手の位置情報も分かるので合流しやすいという利点があるらしい。


『オンラインサーバーの正式サービス開始時間となりました。これから初期地点に自動で転送されます。また、現実世界の時間と仮想世界の時間は異なりますので注意してください。転送される先の広大な世界で自由に遊び、見て、聞いて、楽しんでください。では、あなただけの物語を──』


金曜日の夜18:00になった瞬間、時雨の目の前が白銀に覆われる。再びその視界に色を移した時に時雨は多くのプレイヤーやNPCで賑わう街の中心に立っていた。


「これが…VRMMOの世界…!」


転送されたのは時雨と同じ初期装備のプレイヤーでごった返しになっている広場。中にはキャラメイクで付け足したであろう猫耳やら天使っぽい翼やらを生やした人達がいる。


見た感じのプレイヤー男女比は6:4といったところだろうか?すでに数名でパーティーを組んでいる人達もいるようで「早くモンスターを倒しに行こうぜ!」と目を輝かせている。


プレイヤーこどに細身の剣だったり大剣だったり、弓と矢筒を背負った人などそれぞれ武器が異なっている。杖を持っている人は魔法士なのだろう。今は全員が初期装備で同じ武器を選んだ人は見た目が完全に同じだが、これからゲームをプレイしていく上で新たな装備が手に入り、1人1人の個性が光ってくるだろう。


「あ、そうだ。雪からのフレンド申請…これかな?[承認]!」


『プレイヤー:snowをフレンド登録しました』


「ふふ、雪だからsnowか。ちょっとかっこいいかも。私も英語の名前にすれば良かったかな?時雨は英語だと……shower…あんまりかっこよくないや…」


プレイヤーの通知欄に『プレイヤー:snowからフレンド申請が来ています。[承認]or[拒否]』と表示されていた。時雨はそれが雪からで間違いないだろうと判断し[承認]ボタンをタッチする。


"雪"という名前を"snow"というプレイヤーネームにして雪はゲームをプレイするらしい。時雨は漢字をカタカナに変えただけなので少し羨ましかったが、検索してみると時雨の英語訳は"shower"。正直そんなにかっこいいものではなかった。


『プレイヤー:snowより着信が来ています。[応答]or[拒否]』


「雪からだ。えっと……もしもし、聞こえてる?」

『あっ、シグレちゃん!聞こえてるよ〜。この広場は人がいっぱい居て大変だからさ、今いる所から動かないで。私が向かうから』

「うん、わかった」


プルルルル…と着信音がなり、雪から電話がかかっている事がウィンドウに表示された。[応答]ボタンをタッチして話しかけてみると、直接頭の中に声が響くようにして雪の声が聞こえてきた。snowというキャラは雪で間違いなかったらしい。


サーバーにログインしたばかりの時に比べれば若干広場に残っているプレイヤーの人数も減ったが、それでも数百人は居るのではないかという混雑っぷりである。お互いに歩き回っていてはうまく合流できない可能性があるので、ここはゲームの先輩である雪が位置情報を見ながら迎えに来てくれるらしい。


「いたいた!シグレちゃ〜ん!」

「あっ、ゆきんむぐっ!?」

「ちょっと!ここではsnowって呼んで!」


髪色が雪のように白い白髪に変わっているが、顔や体格はいつもの雪であるキャラが笑顔で手を振りながら人混みを掻き分けて近づいてくる。時雨は雪の名前を呼んで応えようとすると、雪に思いっきり口を手で塞がれて怒られてしまった。


「え?でも私の事は時雨って…」

「それは時雨ちゃんが自分の名前をカタカナにしただけのシグレってキャラネームにしたからでしょ!普通はゲームで本名は使わないの!」

「えっ、そうなの!?」


時雨はオンラインゲームの暗黙の了解である"本名を使わない"というものを知らないため、漢字からカタカナに変えただけのキャラネームである。雪に注意をされて初めて知ったのだ。


「まぁ、本名だって言わなければ基本的に問題は無いから、誰にも言っちゃダメだからね?」

「わ、わかった。気をつけるね」


雪に「あくまでキャラネームって事で通すんだよ?」と念押しをされた。時雨としても好き好んで個人情報を開示するつもりは無いので忠告を素直に受け入れる。


「それじゃあ、とりあえずシグレちゃんがゲームに慣れるために【始まりの草原】に行こうか!」

「【始まりの草原】って?」

「えっとね、ゴブリンやスライム、ホーンラビットとかの弱い魔物だけで構成されてるフィールドだよ。始めたばかりの人はここである程度までLv上げをしたり、操作に慣れたりするの」

「なるほど…うん、わかった。行こうか」

「レッツゴー!!」


時雨は雪に手を引っ張られて走り出し、人の波を抜けて街の外へと向かって走った。通り道に見える建物や街灯などはヨーロッパ風となっており、これぞファンタジーという仕上がりになっている。


街の端に着くと立派な石造の城壁と木造の城門が存在感を放っていて、そこを守護している衛兵NPCが「開門!!」と叫ぶとゴゴゴッと仰々しい音をあげて門が開く。


「うわぁ…すっごい!」


暖かな陽光が、吹き抜ける風が、風に運ばれる大地の香りが、自然と時雨を仮想現実空間の虜にする。ここにまた1人、VRMMOの仮想世界に心を奪われた住人が増えることになった。


「さ、シグレちゃん。さっそくモンスターを狩ってみようか!」

「どうすればいいの?」

「まずは武器の装備からだね。基本的には常に装備しておくものだけど、今みたいにインベントリに入れておくことも出来るんだよ。装備ウィンドウを出して専用武器として選んだ武器を装備してみて!」


時雨は雪に言われた通りに装備ウィンドウを表示、武器の項目が空欄になっているのを確認して横にあるインベントリからレザーグローブを選んで装備する。途端、素手だった両の手にレザーグローブが装備された。


「ふっふふ〜ん、シグレちゃんの装備はなにかな〜?剣?それとも杖?ちなみに私は………えぇぇぇぇぇ!?」

「ど、どうしたの?」

「シグレちゃん…その武器は…」

「レザーグローブだよ?」

「あ、あはは…そっか、武器の説明するの忘れてた…」


時雨がウィンドウをタッチして操作し終わった直後、雪は時雨の後ろからひょいっと顔を覗かせる。やはりファンタジーもののゲームの定番といえば剣や杖であり、時雨もそのへんを選ぶだろうと思っていたのだ。現に、周りを歩くプレイヤーの大半の装備を剣・杖・弓などが占めている。


が、雪が目にした時雨の武器は手を覆うようにして装備されたレザーグローブ。時雨にこのゲームの特性や武器ごとの性能について説明するのをすっかり忘れていた雪は「あちゃ〜…」と頭を抱えて座り込んだ。


「えっとね、シグレちゃん。グローブ系の武器を装備して戦う拳闘士はす〜っごい不遇職なの!それはもう"えっ……そんなゴミ職使う人いるの?w"って言われちゃうぐらい不遇なの!」

「ナ、ナンダッテェー!?」

「テンプレ展開ありがとう!でも顔が劇画調みたいで可愛くないよ!」


雪が言うに剣を扱う剣士や杖で魔法を唱える魔法士などに比べ、自らの拳で敵と戦う拳闘士の戦闘方法は圧倒的に不遇なスタイルらしい。最後の時雨と雪のやりとりに背景効果を付けるとしたら雷が落ちているシーンだろうか?


「例えばどんな所が不遇なの?」

「そうだなぁ…1.攻撃方法が基本的に近距離しかない。2.モンスターに近づかないと攻撃出来ないからダメージを多く受ける。3.自衛能力や自己回復能力が他に比べて低い。4.人をサポートするのに向かないソロ性能のせいでパーティーからは敬遠される。って感じかな?」

「ソロだと限界があって、パーティーだと嫌がられるってこと?」

「簡単に言うとそうだね」


雪がスラスラと説明する度に時雨がむむむっと表情を暗くする。悲しいことに、VRMMOの醍醐味の1つとして大人数でのプレイがあるが拳闘士はそれには向かず、だからといって1人でプレイしてもいつか行き詰まるということらしい。


装備が剣であれば鍔迫り合いをすることも片手に盾を持つことも出来るし、杖であれば魔法で味方をサポートしたり中距離や遠距離からも攻撃ができる。が、グローブでは鍔迫り合いも出来なければ両手に装備するタイプの武器のせいで盾も持てず、魔法で攻撃したり味方のサポートをすることもほぼできないうえに、自分が受けたダメージを自己回復する手段もアイテムに頼る以外に無いらしい。


つまり、圧倒的不遇。これらはYour Own Storyのβテスト時に判明して掲示板や攻略サイトでは有名な話らしく、今まですれ違った人達にも確かにレザーグローブを装備している人は見られなかった。もちろん装備者はいるだろうが極小数となっているのは間違いがない。


「どうする?キャラ作り直す?」

「ん〜…でも、私は剣とか杖とか使い方わかんないし」

「慣れるまで練習すれば?」

「ううん、いいや。慣れるまで使うくらいだったらレザーグローブを使った方が戦えると思う。それに、不遇だって言われてるなら私がそうじゃないって証明するっていうのも面白そうだしね!」


βテストで弱いと言われていたからといって正式サービスされた今も弱いとは限らない。厳しい道程になるとしても時雨が元々持っている格闘技術を用いればさほど苦労はしないだろうし、そんな困難は幼少からの修行で幾度となく経験してきている。


不遇と評価されている今なら競合するプレイヤーも少なく、そんな現状で拳闘士として成果を上げていけば周囲の考えにも変化が出るはず。いつだって先駆者は1人なのだ…なら、自分がそうなろう。と、時雨は決意した。


「私はこのゲームで最強の拳闘士になるよ!!」


不遇職……拳闘士シグレがYour Own Storyの仮想世界で高らかに宣言した。

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