始まりは自販機にて
ここから彼らの運命が本格的に動き出します。
この日が彼らにとって、これから起こる全ての「始まり」でした。
この日は本格的に暑さが厳しくなり始めた初夏であった。
「みんな、席つけー。聞いて驚け、転校生だぞ。」
我が2年2組担任の通称無気力メガネと呼ばれる田中春馬先生が、教室に入るなりそう言った。
この時期に珍しく転校生が来たのである。
私たち3人は特に気にする様子もなく話をするのを止め、それぞれの席に着くことにした。
私たちのクラスは全員で39人であり、蒼葉は廊下側1番端の列で前から4番目、飛鳥は廊下側2列目の1番後ろの席で私は窓側2列目の1番後ろの席であった。
私は転校生に興味ないが、クラスの人たちからこれからくる質問の嵐などで大変そうだなと哀れみを湧かせていたところ、田中は話を進めようとクラス全体に声を響かせる。
「静かにしろー、これからその転校生呼ぶからお前らがうるさいと入りずらいだろうが。」
その一言でクラスは静まり、田中は転校生を呼んだ。
「おーい、入ってこい。」
その合図で教室の扉が開かれる。
そして、入ってくるなりクラスの女子からは歓声が上がった。
「紹介しよう、千葉から来た橘だ。女子ども良かったな、イケメンだぞ。じゃあ、みんな仲良くやってくれ。」
そう、簡単な説明された橘と呼ばれた男は教室にいるみんなに向かって軽く会釈をする。
「紹介されました、橘海斗です。どうぞよろしく。言うほどイケメンでも何でもないつまらない奴なので変な期待はしないでください。」
彼は淡々と表情を変えずにそう言うと、席を田中から確認しており、丁度私の隣の席が空いていることに嫌な予感をしていると、
「うーん、そうだな。間宮の隣空いてるからそこ座れ。間宮、橘に色々教えてやれよ。」
そう、田中は私の隣の窓側1番端の1番後ろにある空席を指して言った。
嫌な予感が当たった…、私は朝から面倒事に巻き込まれたと落ち込まずにはいられなかったのである。
彼は確認するとさっさと自分の席に座り、隣の席になった私によろしく、と一言だけ言った。
私もよろしく、とだけ言うと、そのまま朝のHRを迎え、それが終わるとクラスのみんなが予想通り一斉に彼の周りに集まったのである。
私はそんな彼らから逃れるように蒼葉の席に向かい、飛鳥と蒼葉と共に廊下へ出た。
「朝から大変な事に巻き込まれたな、澪」
ふざけた様子で飛鳥は私に言ってきたので軽く肩を叩いて、
「これからが大変なのよ、早く席替えしないかしら」
と、明日から始まる嫌な毎日に思いを馳せ気分を沈ませていた。
「大丈夫、うるさいのは最初だけよ。数日経てば徐々に静かになるでしょ。野次馬たちは無視しておけばいいのよ。」
蒼葉は冷静にそう言ってくれたので気合いを入れ直し、3人で自販機に行こうと教室を出ようとした瞬間、私は彼に呼び止められた。
「あのさ、隣の席のアンタ、ちょっと頼みたいことあるんだけどいい?」
橘は周りの野次馬たちを振り払い、私にそう言ってきたのである。
「頼みたい事って何?これから自販機行こうと思ってたんだけど」
私は声色は変えずに、少しだけ冷たく彼に言った。
「自販機か、丁度良いな。一緒に行ってもいいか?」
そう言うと、飛鳥や蒼葉に視線を向け同意を求める。
2人は一瞬私を見たが、揃って首を縦に振った。
彼らの同意は彼の本音を知る為である事は言わなくてもわかったため、私は何も言わなかった。
結局、4人で自販機に向かうことになったのである。
「いやぁ、助かったよ。おかげで周りのうるさい奴らから離れる事が出来て。ありがとさん。」
そう自販機で炭酸飲料を購入した彼は私たちに感謝を述べた。
「やっぱりか。どうだいウチの学校は?」
「んー、まだ初日だし何とも。まあ、君たちに会えて助けてもらった事はラッキーだったよ」
「そうか、まあ続け様に色々聞かれるのは嫌だよな」
「本当に助かったよ。あの空気はさすがに堪えられねぇ」
「まあ、また何かあったら聞けよ。聞いてやるから」
「おう、ありがと。じゃあ俺はここで。」
そう飛鳥とのやりとりを終えると、彼は先に教室に戻るようであったため、私たちはそれを見送る。
「悪い奴じゃないみたいだな。まあ、まだ色々とわかんねぇ事ばっかだけど」
「飛鳥が言うんだから、大丈夫でしょ。また何かあったらよろしく。」
「右に同じ」
私たちは彼が去ると、各々感じた事を言い合った。
「お前ら冷たいな~、転校してきて最初から冷たかったらだったらさすがに心折れるわ」
「いいじゃん、何だかんだ言ってどうせ面倒見るつもりでしょ。」
「隣なんだからお前も手伝ってやれよ」
「もちろん、手伝うつもりだけどね。まぁ、何もないことを願うよ。それより、そろそろ授業始まるから戻りましょ。」
私はそう言うと話を中断させ、授業に遅れないよう青葉
と飛鳥と共に急いで教室へ戻ったのであった。
続く




