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用語解説22.地方 リストヴァー自治区

【リストヴァー自治区】

 半世紀の内乱後もネモラリス共和国に残留したキルクルス教徒の為の自治区。

 出入りには厳しい検問がある。自治区民が許可証を携帯せず、地区外へ出ると処罰される。

 工場とバラック街が東三分の一を占める。中央部は団地地区、西の丘陵地は農業地帯。


 魔術の使用を禁じる科学特区。

 自治区を囲む塀と自治区内の主要な道路には、【跳躍】禁止の結界が敷かれ、魔法を無効化する呪具が設置されている。

 結界と呪具の存在は、一部の住民しか知らない。


 シーニー緑地以東の低地は、塩害とクブルム山脈の鉱毒で井戸水が汚染され、長年の摂取で銅中毒を起こして亡くなる住民が多い。

 塩湖の淡水化施設はあるが、浄化済みの飲料水は高価で、バラック街の住人には手が出ない。


 挿絵(By みてみん)


◆バラック街

 ▼成立過程

 国内全土から、力なき民のキルクルス教徒が、信仰の堅持と復興特需の雇用目当てにリストヴァー自治区へ移住した。

 他地域の復興には、多様な学派の魔法使いたちが活躍したが、自治区では、機械と人力のみで行う為、時間が掛かり、未だに復興事業が完了していない。


 瓦礫の撤去などは、多額の予算を投じて雇用を創出し、急ピッチで進んだ。

 専門知識を有する知識人や技術者を欠き、魔法使いの支援がないことで、その後の復興は遅々として進んでいない。

 急激に人が流入した為、住宅供給が追い付かず、瓦礫が撤去された空き地は、瞬く間に不法占拠のバラック小屋で埋め尽くされた。


 ▼現状

 現住の人家がある為、整地も測量もできず、新しい住宅を建てられない。移動させようにも、新築した公営住宅でさえ、家賃を払えない貧困世帯が多い。


 トタンやコンクリートブロック、木箱などで作ったバラックは、雨漏りしやすい。嵐が来れば大破する。

 魔物や魔獣に住人が捕食され、無人になったバラックはすぐに解体され、他のバラックの補修に使われる。

 毎日どこかでバラックの解体と構築が行われる為、昨日通れた道がなくなったり、昨日までなかった道が新しくできたりする。地図の作成ができず、住人の把握も困難。


 道路は、商店街付近以外にアスファルトで舗装されておらず、バラックの隙間の道は雨が降る度にぬかるむ。

 公衆トイレは、肥料の原料採取用に設置されている。商店街付近にしかない為、その辺で用を足す住人が大半を占め、非常に不潔。


 工場とバラック街の間には、工員向けの商店街がある。

 ガソリンスタンド、飲食店、食料品や日用品などを扱う商店の他、薬局や小さな病院もあるが、医薬品は不足がち。

 商店街の店舗は、木造モルタル。従業員向けのアパートもある。


◆シーニー緑地

 緩やかに傾斜した緑地。ここ以西の丘陵地には真水の井戸がある。

 住宅の建設は禁止され、バラックを建ててもただちに取り壊される。

 食べられる野草や虫など、バラック街住人の食糧源になっている。

 商店街の定食屋などで野菜の種子をもらって畑を作る者も居るが、すぐに盗られてしまう。


◆団地地区

 リストヴァー自治区の中心地。自治区内でも比較的富裕な人々が住む。

 鉄筋コンクリートの団地の間に一戸建ての個人商店が点在する。

 区役所、警察署、消防署、病院、金融機関、報道機関などはここに集約されている。


◆農業地帯

 面積はリストヴァー自治区の半分近くを占めるが、ほぼ農地で、人口は少ない。

 農家は全て富裕層で、自治区内の食糧生産を一手に担う。

 銃などを所持し、自警団を結成して畑を守る。野菜泥棒などを射殺しても、警察は黙認している。


 ここでの生産量だけでは自治区の全人口を養うことは不可能なので、食糧の大半は自治区外から購入している。


◆産業

 東部には、自治区外に本社がある大工場と、自治区内に本社を置く中小の町工場がある。

 自治区外に本社がある大工場は、護岸の湖に面した部分など人目につかない場所に【魔除け】などを秘かに設置している。


 大工場は、自治区在住のキルクルス教徒を低賃金で雇い、低価格で部品や資材などを国内の他地域に提供するものが大半。自治区民向けの製品は、中小の町工場が担う。


 自治区民有志が資金を募り、「基金を設立して工場を建て、出資者を優先的に雇用し、賃金で出資金を返還する」と言う事業があちこちで発足した。

 当然のように出資金詐欺が横行した。また、出資が集まらず、工場の建設が頓挫し、出資金を返還できない事例も多い。

 建設途上で放棄された工場の廃墟には、雑妖や犯罪者集団が住み着き、人々の暮らしを脅かしている。


 自治区民の間には、キルクルス教への信仰とネモラリス政府への怨恨で結ばれた連帯感と、仲間を食いものにする同胞への不信感が渦巻く。


 瓦礫撤去の仕事がなくなれば、専門的な知識や技術を有さない人々は、次々と職を失った。

 塩害で耕作可能な土地は少なく、湖で漁業や水運をしようにも、魔法の力を借りずに魔物から身を守ることはできない。


◆経済

 魔法文明圏には元々、貨幣経済の制度がなく、自給自足による物々交換が主。

 湖の東岸に位置するアミトスチグマ王国との交易も、ネモラリス共和国成立後は、主に物々交換で行っている。

 魔法使いたちは貨幣に価値を見出さず、株式や先物、外国為替といった相場にも無頓着だ。

 国内でも勿論、売買などに通貨を用いている。それは、フラクシヌス教徒の力なき民の為である。


 リストヴァー自治区では、力なき民のキルクルス教徒が暮らす為、物々交換ではなく貨幣経済が主。

 バラック街の住人は、日雇いで手渡しの日払いが多く、銀行口座を持たない者が多い。


 ネモラリス共和国は、魔法と科学を折衷する両輪の国の中でも、魔道の指向が強く、科学文明国の指標で測る「経済」の規模は小さい。

 和平成立後に分配された旧ラキュス・ラクリマリス共和国時代の予算を使い切ってしまえば、後は毎年の義務的歳費に費やされ、余分に分配できるカネはなかった。

 公務員の給与すら、本人が特にカネでの支払いを希望しない限り、物で支給される。

 税も「物納」か「税金」を選択でき、物納の希望者が多い。

 自治区とその他の地域では、検問所の壁以上に高い障壁があった。


◆教育

 ネモラリス政府は、長期的な視野に立ち、技術者の育成には多額の予算を注ぎこんだ。一方、雇用創出の為の民間支援には、公費を投入しなかった。


 リストヴァー自治区の学生は、キルクルス教の教義に従って学費は全額免除される。だが、日々の糧を得る為、日銭を稼ぐ仕事に出て授業に出られず、大半が卒業できないまま除籍された。

 バラック街では、小中学校もまともに通えない者が多く、女子の大半は中学卒業後、家族への仕送り目当てで工場などで定職に就く男性に嫁がされるか、夜の仕事に従事させられる。

 富裕層が暮らす団地地区や農業地区では、多くの子女が自治区内の大学に進学する。バラック街でも、工場などで定職に就いて安定した収入のある家庭では、高等学校に進学できる。


 バラック街と団地地区に小中学校と職業訓練校があり、高校と大学は団地地区にのみある。農業地区の子は団地地区の学校に通う。


◆医療

 工場地帯とバラック街の協会にある商店街には、小さな総合病院と個人医院と薬局がある。


 自治区外に本社がある大工場などの要請で、ラクエウス議員が隣接するゼルノー市と交渉。医療費の支払いが可能な場合に限り、ゼルノー市立中央市民病院での重傷の労災事故を受け容れる協定を結んだ。

 ゼルノー市立中央市民病院では、呪医による治療も行うが、信仰には目をつぶることになった。だが、治療を受けた患者やその家族が星の標に殺害されることがある。


 団地地区と農業地区では、団地地区の区立病院とキルクルス教団が設立した聖星道病院がある。どちらも入院の設備を持つ総合病院で、科学の医療のみ実施する。


◆宗教

 キルクルス教徒のみが住む。

 教会は、バラック街の東部教会と、団地地区の中部教会の二カ所。

 東部教会は団地地区から聖職者が通勤する。


◆政治

 リストヴァー自治区から選出できる国会議員は、一議席のみ。

 自治区の設置以来、三十年間、団地地区在住のラクエウス議員が国政に出ている。


 政府が自治区の政策で重視した「キルクルス教徒への配慮」は、完全に裏目に出ていたが、三十年間、問題は店晒しにされていた。

 自治区選出の議員は、国会で更なる支援を訴えた。しかし、低予算で実現可能な魔法使いによる直接的な支援策が持ちあがると、それには強硬に反対した。

 曰く、折角、清浄地を手に入れたのに、魔法使いに穢されては、自治区設立の意味を成さない、と。

 経済的な支援を要請したが、政府は、当初の復興予算が国庫を圧迫し、今はそれどころではない、と取り合わなかった。


 自治区内では、区長選挙がある。

 任期は五年。申し合せた訳ではないが、団地地区と農業地区から交互に選出される。


◆報道機関

 ★新聞

 リストヴァー自治区内で発行される新聞は、湖南経済新聞と星光新聞の二紙のみ。

 湖南経済新聞は、アミトスチグマに本社を置くラキュス湖南地方全域の経済紙。ネモラリス支社の紙面を配送。

 星光新聞は、ほぼキルクルス教の機関紙。湖南語話者向けで、ラキュス湖南地方の生活情報も手厚く掲載。自治区内にも支社があり、ネモラリス共和国ではリストヴァー自治区でのみ発行されている。


 ★ラジオ

 全国放送は、国営放送と各民放局のゼルノー支局の電波が届く。工場などでは、職員向けに国営放送を流すことが多い。

 リストヴァー自治区独自のFM局もあるが、ラジオを持っている自治区民は少ない。


 ★インターネット

 密輸したタブレット端末があれば、ネーニア島の東端、クブルム山脈の近くでラクリマリス王国の電波でギリギリ接続できる。

 一般の自治区民は、タブレット端末を持っておらず、存在自体を知らない。


◆テロ組織

 信仰に基づき、力ある民や魔法使いへの暴力を是とする集団が複数ある。

 キルクルス教社会でも問題視されており、国際テロ組織に指定されている組織もあるが、根絶は難しい。


 ★星の(しるべ)

  キルクルス教原理主義組織。本拠地はラキュス湖南地方のラニスタ共和国にある。

  世界中に団員が存在し、構成員には裕福な信者が多い。

  サイトでテロの戦果を誇る。テロ資金の寄付と団員は随時募集。

  多くの国から国際テロ組織に指定されている。

  ラニスタ共和国と、隣国のアーテル共和国ではテロ組織に指定されていない。


  リストヴァー自治区内では、比較的富裕な人々が所属する。

  自爆テロも厭わない。異端者を殲滅する為、リストヴァー自治区に放火した。


 ★星の道義勇軍

  リストヴァー自治区の教団組織。

  元は自治区内での信仰の維持と信者の生活向上の為の自助組織だった。

  魔法を無効化する呪符や呪具だけは使う。

  信仰については割とぬるく、星の標には異端者と目されている。

  貧しい信者が多く、自治区の生活が困窮するにつれて先鋭化。

  数年前に星の標と通じる者の手引きで武装し、テロ組織化した。


 ゼルノー市の隣。

【凡例】 橙色の線は区境。青い線は主要河川。

 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)

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