用語解説20.宗教 フラクシヌス教☆
ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
「すべて ひとしい ひとつの花」の本文で小出しにした設定のまとめ。
<概要>
旱魃の龍を封じた岩山を守護する秦皮の大樹を主神とする古い土着宗教。多神教。
ラキュス湖の成立神話があり、湖南地方で広く信仰される。
主神のフラクシヌスより、湖の女神パニセア・ユニ・フローラ信仰が篤い。
戒律は厳しくない。
湖の畔に暮らすこの世の生物全てを乾きから守り、人々は信仰でゆるやかに繋がる。
<主な神々>
◆主神 フラクシヌス
旱魃の龍と戦い、封じた秦皮の古木。
人間の魔法使いだったが、旱魃の龍を封じる為、大地に深く根を張る樹木に身を変じた。
陸の民のラクリマリス王家は、フラクシヌスの血に連なる者の末裔であると主張している。
その祭は「樫祭」。(※ 後述の<教団>参照)
紋章は秦皮の枝。威厳と思慮分別の象徴。
陸の民からの信仰が厚いが、少数ながら湖の民にも信者がいる。
◆湖の女神 パニセア・ユニ・フローラ
旱魃の龍と戦った魔法使い。
リンフ山脈以南の出身で、名は古代語で「すべて ひとしい ひとつの花」の意。
「パニセア」は「パス・イソス」の転訛、現代湖南語訳では「すべて ひとしい」で、「ユニ・フローラ」は「ひとつの花」。
焼身自殺し、自身の【魔道士の涙】に旱魃の龍の「乾き」の魔力を吸収し、水に変える術を施した。
女神の【涙】は現在も水を産み出し続け、「青琩」と呼ばれる。
湖の民の有力者ネーニア家の者たちは、湖の女神パニセア・ユニ・フローラの末裔を自称する。
その祭は「青琩祭」。
紋章は青いヒナギク。恵みと幸福、協力の象徴。
湖の民だけでなく、漁業者や水運業者などを中心に陸の民の信仰も集めている。
フラクシヌス教徒の中でも、湖の女神派の信者は、神殿に行くより女神の涙と伝えられるラキュス湖に直接、祈りを捧げることが多い。
神殿や神官の衣など、教団の所有物には簡略化した紋章を付ける。
▼湖の女神パニセア・ユニ・フローラの略紋
<湖の女神への主な祈りの詞>
「湖上に雲立ち雨注ぎ、大地を潤す。
木々は緑に麦実り、地を巡る河は湖へと還る。
すべて ひとしい ひとつの水よ。
身の内に水抱く者みな、日の輪の下にすべて ひとしい 水の同胞。
水の命、水の加護、水が結ぶ全ての縁。
我らすべて ひとしい ひとつの水の子。
水の縁巡り、守り給え、幸い給え」
◆岩山の守護神 スツラーシ
旱魃の龍と戦い、封じた地を囲む岩山。
人間の魔法使いだったが、旱魃の龍を囲い込む為、岩山となった。
子孫は残っていない。
その祭は「高き頂祭」。
紋章は岩山。安全と堅牢の象徴。
人種を問わず、鉱山事業者や建設業者など、特に安全を祈願する者たちからの信仰が篤い。
◆誓いの女神 クリャートウァ
他の神々の「旱魃の龍を倒す」と言う誓いの証人になり、共に戦ったからだと伝わっている。
クリャートウァを単体で祀る神殿はなく、岩山の神スツラーシの神殿で一緒に祀られることが多い。
子孫は残っていない。
人種を問わず、契約を重視する【渡る白鳥】学派の術者や、商売人などの信者が多い。
普段はクリャートウァの信者ではないが、結婚式で永遠の誓いをする俄か信者も多い。
<夏至祭の歌「女神の涙」>
印暦千五百年頃に作られた比較的新しい歌。
ネモラリス島北東部に位置するアサエート村に伝わる。
「ゆるやかな水の条
青琩の光 水脈を拓き 砂に新しい湖が生まれる
涙の湖に沈む乾きの龍 樫が巌に茂る
この祈り 珠に籠め
この命懸け 尽きぬ水に
涙湛え受け この湖に今でも
悲しい誓いと涸れ果てぬ涙
乾き潤し 満ちる
二度とは帰らない 悲しみの風 草を埋めた砂漠
安らかに眠るがいい 共に手を取り合って
同じ花を咲かせた友よ ここに
清らかな水の青
すべて ひとしい 花をひとつ 珠は三人の魂の緒を糾う
悲しい誓いと涸れ果てぬ涙
水を湛える棺
これから共に護る ひとつの花 道が開ける朝
乾きを封じ込む鎖となって
共に 咲かせよう ひとつのこの花を」
<神話>
天地開闢神話はなく、ラキュス湖の成立神話から始まる。
フラクシヌス教の神話では、チヌカルクル・ノチウ大陸西部の現在ラキュス湖に沈む一帯は、かつて砂漠だったと伝えている。
後に神格化される人間の魔法使いフラクシヌス、スツラーシ、パニセア・ユニ・フローラらが、クリャートウァに誓いを立て、旱魃の龍と戦った。
激しい戦いの末、神々が勝利を収めた。
フラクシヌスが化した大樹が旱魃の龍を封じ、スツラーシがその身を変じた岩山はその重石となった。
パニセア・ユニ・フローラの【魔道士の涙】が水を産み、砂に埋もれたこの地は水で満たされた。高台だった場所は現在、島々となっている。
現在も、ラクリマリス王国の王都には、旱魃の龍を封じた巨木と岩山、水を産み出し「青琩」と呼ばれる【魔道士の涙】が祀られている。
三柱の神々のいずれの一柱が欠けても旱魃の龍が甦り、ラキュス湖が干上がって、この地方は元の砂漠に戻ると伝えられている。
<教団>
フラクシヌス教の聖地を擁する信仰の中心地は王都ラクリマリス。
ラキュス地方各地のフラクシヌス教神殿の奥に設けられた祭壇は、【吸魔】の魔法陣で、【魔力の水晶】から吸収した魔力を対になる【充魔】の魔法陣へ送る。
【充魔】の魔法陣は王都ラクリマリスにある大神殿の奥にあり、ラキュス地方の全ての神殿から送られた魔力が、女神の涙……「青琩」と呼ばれるパニセア・ユニ・フローラの【魔道士の涙】に注がれ、今も絶え間なく水を産み出し続ける。
聖職者は、祭事を司り信仰を維持することと、信者の魔力を集めて青琩に送り、湖の水位を維持することが主な仕事。
修めた術の系統や魔力、人柄によって位階が決定する。
祭事や神殿業務全般の運営の為、一応、管理職は置くがあまり政治力は問われない。
最高位の祭司は、フラクシヌス派はラクリマリス国王、パニセア・ユニ・フローラ派はネーニア家当主。
他の宗派では、最も魔力の強い祭司が最高位。
各地の神殿には様々な系統の医術を修めた聖職者が大勢いる。【導く白蝶】学派の術は、葬祭を執り行う必須の技能として、下級の神官でも修めている。
世俗の病院や葬儀業者の代わりに、神殿や施療院で治療や葬祭を行う。
数千年前、三界の魔物がラキュス湖地方にも押し寄せた。
理由は伝えられていないが、その戦いの中でフラクシヌス教に信仰の危機が訪れた。主神フラクシヌスの化身である秦皮の大樹が枯れ、ラキュス湖の水位も下がってしまった。
乾きの恐怖を思い出した人々は信仰心を取り戻し、枯れた秦皮の代わりに樫を植えた。
ラキュス地方の人々は、元の秦皮だけでなく、樫もフラクシヌスの化身として大切に祀っている。
一般信者は、あまり細かいことは気にせず、常緑樹なら何でも大切にする傾向がある。
<神政>
フラクシヌスの子孫を称する陸の民のラクリマリス家と、パニセア・ユニ・フローラの子孫を称する湖の民のラキュス・ネーニア家は、湖の創造神話を利用して数千年もの長きに亘って共同統治を行ってきた。
ラキュス・ラクリマリス王国は、ラキュス湖南部に浮かぶ島々と、大陸本土の一部地域を領有する巨大国家だったが、三界の魔物の惨禍によっても亡びず、安定して存続した。
民主主義の概念が流入しなければ、今でもラキュス・ラクリマリス王国は健在だっただろう。いや、ラクリマリス家による神政を求める人々は、半世紀の内乱後、ラクリマリス王国を再興させた。
◆ネミュス解放軍
共和制を廃止し、神政復古を唱える武装集団。
湖の女神を信仰する湖の民が多い。
ウヌク・エルハイア・ラキュス・ネーニア将軍を指導者に据える。
アーテル共和国による宣戦布告後、ネモラリス共和国の首都クレーヴェルでクーデターを起こした。
▼ネミュス解放軍の紋章
2018/12/23 イラスト3件(ひとつの花の紋章、ひとつの花の略紋、ネミュス解放軍の紋章)と「ネミュス解放軍」の項目を追加。
ひとつの花の紋章のデザインは、「すべて ひとしい ひとつの花」の「684.ラキュスの核」参照。
ひとつの花と岩山内の泉。水底で燻る旱魃の龍の赤い光。白い葉はスツラーシの岩山からの魔力、緑の葉はフラクシヌスの大樹からの魔力。




