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用語解説02.魔物☆

 2021/08/06 矢武蚊、土魚、縮蛙、濡首獣、多刺蟹を追加。

三界の魔物(さんかいのまもの)

 存在の核を物質界と幽界、冥界の三つの世界に置く魔物の総称。

 数千年前、アルトン・ガザ大陸の大国で生み出された魔法生物の一種。

 魔道士に対抗する為に作られた生物兵器。


 瘴気(しょうき)を撒き散らし、人々の暗い情念と瘴気で増殖し、魔力を持つ者を喰らい、成長し続ける。

 存在の位相をずらして姿を隠し、攻撃を(かわ)す。核を破壊しない限り、周辺の魔力を糧に膨張しつつ再生する。


 通常の武器では、物質界の肉体を破壊するに留まる。

 魔法や魔法の武器ならば、幽界までは届くが、冥界には届かない。

 三つの世界に同時に届く武器。「一人の全存在」を変換した【退魔の魂】と呼ばれる武器だけが、これに対抗し得る。


 【三界の魔物】は、戦場で爆発的にその数を増し、やがて軍の制御を離れ、人の手を離れ、作成時に与えられた本能に従い、破壊と増殖を繰り返した。


 人間同士は停戦し、【三界の魔物】に対抗すべく各国が協力し合った。

 先に三界の魔物に蹂躙(じゅうりん)されたアルトン・ガザ大陸からは魔力が枯渇し、皮肉にも【三界の魔物】の弱体化をもたらしていた。


 退魔の魂が開発され、多くの人間が自ら武器となり、【三界の魔物】への反撃が始まった。

 1000年以上の長きにわたる戦いの末、最初に作りだされた最も大きく強力な【三界の魔物】をチヌカルクル・ノチウ大陸西部、ラキュス湖の北方に封じた。


 ムルティフローラ王国は、その封印の維持の為に建国された。

 最強最大の「最初の一体」は、存在の核があまりにも巨大で、そのままでは倒せない。やむを得ず封印し、肉体と幽体の再生を止めた。2000年以上経た現在も、少しずつ核を削って消滅させている。

 休眠状態でも、瘴気(しょうき)を撒き散らす。厄介な存在だ。


 【三界の魔物】が発する瘴気が(こご)ると、新たな【三界の魔物】が生じる。

 結界では、瘴気を封じることができない為、現在でもムルティフローラ国内のあちこちで発生する。

 発生直後の【三界の魔物】は虚弱だが、並の人間の眼では捉えられない。

 この世界の穢れや生物、魔力を持つ者を喰らい、力を付けると、通常の霊視力でも視えるようになる。

 それを放置し、より力を付けさせると、肉眼でも見えるようになるが、並の戦士では太刀打ちできなくなる。


 人間が、生きながらにして【三界の魔物】と化す場合もある。

 憎しみ、恨み、妬み、嫉み、過度の欲望、強過ぎる執着……負の感情と瘴気が凝ると、新たな三界の魔物が生まれる。

 過度の欲望に呑まれて、歪んだ心。

 歪んだ心が(けが)れを生んで、その膿んだ魂が、【三界の魔物】の瘴気に触れた……成れの果。


 ムルティフローラ城の地下深くから、(にじ)み出す瘴気(しょうき)

 三界の眼でなければ視えない。【三界の魔物】の出す魂の毒。

 毎年、大晦日にムルティフローラでは、国を挙げて穢れを祓う。

 瘴気のかけらから、新たな三界の魔物を生まないように……


雑妖(ざつよう)

 ぐにょぐにょと捉えどころがなく、形も定かでない。

 虫や動植物に似た部分もあるが、この世の何にも似ていない部分の方が多い。

 何匹いるのか、個体の境さえはっきりしない。

 それどころか、これに個々の意思や知性があるのかすら不明だ。

 穢れなどを喰らって育つと、個体としてはっきり認識できるようになるが、肉眼では見えない。

 ただ、そこにいるだけなのか、それとも、何かをしているのか。

 雑妖はどこにでも発生するありふれた存在だが、その目的や行動原理は、謎に包まれていた。


 わかっていることは、この世の穢れや陰の気などから生じ、穢れを食って育つこと。

 穢れを生じさせる性質の人間と親和性があり、雑妖が雑妖を呼び増殖すること。

 個々の力は弱く、ちょっとした不運を呼び寄せるに過ぎないこと。

 定まった形を持たず、能力などの個体差が大きいこと。

 日の光を浴びただけでも消える儚い存在だと言うこと。


◆魔物と魔獣

 魔物は、何かの弾みで幽界から物質界に迷い込んだ異界の生物。

 出現当初は存在が希薄で、霊視力がなければ視えない。

 物質的な身体を持たない魔物は、霊視力のない者には視えない。

 日のある内は暗がりに潜み、(けが)れと魔力を喰らって際限なく育つ。

 物質界の生物を捕食することで、この世での存在を確かなものにし、肉体を手に入れ実体化する。


 完全に実体化し、肉体が完成した魔物を魔獣と呼ぶ。

 本格的にこの世に居着いて繁殖する。

 肉体を備え、この世に定着した魔獣には、日中に活動する種もある。

 魔力を持つ生き物を喰らえば、その肉体はより大きく強くなり、際限なく育つ。


 魔力を持つものを食べると、その分、肉体が大きくなり、この世での寿命が延びる。

 魔獣は身体が大きい程、強く、長く生きる。

 魔物も魔獣も、体が大きいモノは、強い。

 身体の大きさと寿命には、普通の動物のような種としての上限はない。


 魔物は、魔法か魔力を帯びた武器でなければ、倒せない。無傷で異界へ送還する術もあるが、傷付いて「この世での存在」を維持できなくなると、この物質界には何も残さず、存在の核が幽界へ還る。

 魔獣は、その強さ故、魔法がなければ太刀打ちできない。肉体を物理的に破壊すれば、死体を残して幽体と存在の核が幽界へ戻る。魔法などで幽体を傷付ければ、魔物同様、この世には何も残さず、幽界へ還る。

 どちらも、存在の核を傷付ければ、この世の生物と同じく、幽界の向こうにある冥界へ赴き、「死ぬ」と言われている。


 幽界へ還ったモノは、何かのはずみですぐにこの世へ迷い出ることもあるが、死んだモノは、幽体の再生に時間が掛かり、この世はその間、安全が保たれる。


 普通の魔物も【三界の魔物】も「体」の層が厚い程、物質界への影響力が大きく、力も強い。

 この世に定着した魔獣から生まれた魔獣は生来、肉体を(そな)えているが、異界から来て魔物から()った魔獣より小さく、弱い。



 同じ魔物や魔獣でも、地域によって呼び名に差がある。この世に定着していないモノは、名称未定の場合が多く、便宜的にその場で付けた仮称で呼ばれる。


 この世の肉体を得た魔獣は、焼いて消し炭にすると炭の内部に細かい【魔導士の涙】が生成される。炭部分は粉末にして特殊な溶剤で溶かすとインクになる。

 腕のいい狩人は、素材を採取する為、敢えて死体が残るように倒す。


 【愛国の茨(あいこくのいばら)

 ムルティフローラ王国の近衛騎士の憎悪と歪んだ愛国心が、三界の魔物の瘴気に触れて実体化した魔物。

 捕縛された近衛騎士の体から噴出した黒い茨の蔓。鋭い棘が密生するだけで、花も葉もない。建国王など、純粋な王族が相手なら萎縮する。

 挿絵(By みてみん)


 【腥風樹(せいふうじゅ)

 異界からこの世に迷い込んだ落葉樹。

 樹液などに強い毒があり、この世の鳥や動物、虫などは、近付くだけで死ぬ。数百度程度の低い温度で焼くと、毒の成分が煙に混じって拡散し、大惨事に。

 春になると花を咲かせる。香も有毒。


 本体は、ある程度太い根が残ればそこから再生する。

 種子は赤くてドングリくらいの大きさ。硬く厚い殻に覆われ、火に(くべ)ても数日間は持ち堪える。毒がないので、リスなどが埋めて拡散させた。


 腥風樹が来た土地は降雨の後、毒の成分が土に染み込み、周辺の植物が全て枯死する。ミミズなども死滅し、土が痩せてしまう。

 春から秋にかけての日中、条件のいい土地を求めて土中から根を抜いて移動する。移動は土の地面に限られる。

 ラキュス湖南部のランテルナ島で繁殖。ラキュス・ラクリマリス王国が共和制に移行する少し前に、全て駆除された。


 【水知樹(みずちじゅ)

 異界からこの世に迷い込んだ常緑樹。雌雄同株。

 毎月、満月の夜に根を抜いて、同族で集まって輪になって踊り、歌を歌う。歌っている間だけ花が咲いて受粉する。

 夜明け前に大地に根を降ろすが、元の場所に戻るとは限らない為、道に迷う原因になる。移動した水知樹(みずちじゅ)が山道を塞ぐことがあり、切り倒すと恐ろしい悲鳴を上げる。聞いた者は激しい罪悪感に駆られ、人によっては数カ月間、抑鬱状態になる。


 基本的に無害なので野放しにされ、世界中の魔力が残る温帯地域の標高一千メートル以下の低山に自生する。

 実は硬くて食用にならないが、樹液が溶媒になる。呪符用のインクを溶く基本的な素材として、流通量が多い。

 ツンとした刺激臭のある樹液に触れると、激しくかぶれて爛れるので取扱注意。燃やすと樹液が揮発して危険。

 この世の生物は、水知樹(みずちじゅ)の葉や実を食べないが、絶光蝶(ぜっこうちょう)の幼虫は好んで葉を食べる。


 【紫連樹(しれんじゅ)

 チヌカルクル・ノチウ大陸西部ラキュス湖西地方のフィオリェートヴィ山脈の麓に定着した異界の樹木。

 根塊から伸びる幹と根は板状で、連なって横に育って通行の妨げになる。

 根塊は染料、紫色の葉は毒薬の原料になる。


 【平敷(ひらしき)

 地面に擬態する平たい魔獣。肉食。

 身体の厚さは数ミリ程度で、一センチを越えることはない。

 僅かな魔力で受肉する為、この世に迷い出た個体は土地の魔力を吸収してほぼ、出現と同時に実体化する。

 世界中どこにでも出現するが、寒さに弱く、零度以下で死滅する。また、火にも弱く、普通に焼くだけで倒せる。

 存在に気付きさえすれば、危険性は低い。

 動物が乗るとネズミ捕りの粘着シートのように丸まって獲物を包む。

 内側になった体表から消化液を分泌し、骨まで溶かして後には何も残さない。

 魔力を持つものを捕食すればする程、面積が広くなる。厚みは増えない。


 【矢武蚊(やぶか)

 異界の蚊との交雑種。ガガンボ並の大きさで、雌は吸血性。

 口吻(こうふん)は注射針並の大きさと硬さで、普通の服では防げない。

 普通の虫除けや【魔除け】が有効。

 退治には、殺虫剤だけでなく、物理攻撃や【鳥撃ち】【魔除け】などの魔法も有効。


 この世の蚊と異界の蚊に交雑が生じ、交雑種がネモラリス島のマチャジーナ市付近に定着した。

 三界の魔物と戦った時代は、この世の生物と異界の生物の交配が、積極的に研究された。

 三界の魔物に対抗する為、魔法生物としての合成ではなく、交配と品種改良なら、危険性が小さいと判断した。

 純粋な魔獣より扱いやすく、元の種類とは異なる特性を持つ素材が採れる為、家畜化して効率よく素材を採る目的もあった。

 矢武蚊(やぶか)口吻(こうふん)で作った(やじり)は、実体のない魔物にも有効。


 【飢鬼蜂(うえきばち)

 森林内の土中に巣を作る肉食の蜂。雀とほぼ同じ大きさ。

 この世に迷い出た女王蜂が単為生殖で増え、定着した。巣の群は数千匹規模。主にアルトン・ガザ大陸やチヌカルクル・ノチウ大陸西部に棲息する。

 数匹ずつ偵察を出し、獲物が見つかれば巣に戻って仲間を呼ぶ。羽音は大きく、遠くからでもよくわかる。

 飢鬼蜂の毒針は貫通力が高く、魔法の鎧でも防ぎきれない。毒性が強く、数匹に刺されれば、熊でも死亡する。

 草を焼いた煙を嫌う性質があり、飢鬼蜂が出る森に行く際は、香炉を持って行くと安全。


 【絶光蝶(ぜっこうちょう)

 異界からこの世に迷い込んだ蝶。

 世界中の魔力が残る温帯地域の標高一千メートル以下の低山や、常緑樹の森林に棲息する。

 幼虫は水知樹(みずちじゅ)など常緑樹の葉を食べる。

 成虫は闇に紛れて飛翔し、魔力のある生物の生き血を啜る。


 トンボのように細長い翅は、生きている間に限って周囲の光を絶やし、飛翔する姿は黒い塊が飛んでいるように見える。

 死ぬと翅が光を放出し、淡く輝く。

 水知樹(みずちじゅ)を餌に育った個体は光が強く、魔力のない常緑樹を食べた個体は翅も小さく光も弱く、個体差が大きい。

 蝶コレクターに人気。また、鱗粉が呪符の素材になる為、専門のハンターや養殖業者も存在する。


 【地蟲(ちこ)

 土中深くで地脈の力を食って暮らすとされる巨大な芋虫。

 時折、地上に出て動物の肉を喰らう。誰も成虫を見た者がなく、生態の多くは謎に包まれている。

 家々の屋根より高く、大通りの幅いっぱいに広がる土色の壁だ。巨大な洞窟のような口を開け、全てを呑みこみながら迫り来る。

 目玉は魔法生物の素材になる。


 【銀鱗の虫魚(ぎんりんのちゅうぎょ)

 蛇と魚と虫を足して三で割ったような魔獣。肉食。

 ぬめりのある銀鱗が刃物のように輝く。血は青い。

 魚というより蛇を太く短くしたような胴の先端は、鋭く短い歯を二重に生やした口が大部分を占め、小さな目が赤く光る。

 胴の側面から、太い虫の足が八本、突き出す。外見から想像もつかない速さで動く。虫の足で跳ねるが、跳躍力はあまり高くない。

 異界の浅い層に棲息する。異界では食物連鎖の下位に属し、この世に来ても弱い為、興味本位の召喚魔法の対象にされやすい。

 実体化してすぐ……体長が人間の足以上に育つ前なら、普通の庖丁でも倒せる。


 【土魚(どぎょ)

 土竜(モグラ)と魚を足して二で割ったような魔獣。肉食。共食いする。

 分厚い胸鰭には土竜のような爪が生え、土を掻いて水を往くように土を泳ぐ。

 土の中しか移動できず、日中は光を避けて土中に潜る。大抵の魔法は、深く潜られると届かない。

 土中を泳いでアスファルトの下を移動し、土が露出した場所へ移動する。石やコンクリートで移動を防げる。

 歯が鋭く、防弾・防刃加工が施された防具でも、魔法に寄る防護がなければ、大して役に立たない。

 異界の浅い層に棲息し、異界では食物連鎖の下位に属する。

 比較的小型で脆弱。【魔除け】があると近付かない。

 体長が人間の腕以上に育つ前なら、通常の刃物や銃火器でも駆除できるが、土中を自在に泳ぎ、危険を感じると深く潜る為、全滅させるのは難しい。

 【簡易結界】や【道守り】などで移動を封じれば、【空の()(うた)】で一掃できる。

 他の魔物や、この世の肉食獣などに捕食され、定着し難い。

 チヌカルクル・ノチウ大陸の比較的乾燥した土地に出現しやすい。


 【鱗蜘蛛(うろこぐも)

 蜘蛛に似た魔獣。肉食。

 巣を作る赤い蜘蛛と、巣を作らず跳躍力が高い灰色の蜘蛛が居る。

 大きく膨らんだ腹部は、金属光沢のある鱗に覆われる。脚先に鋭い鉤爪がある。

 至近距離から戦車砲で撃たれても無傷であることから、物理的な防護だけでなく、魔力による防禦も強固であることが推測される。


 この世には定着しないが、時々異界(かくりよ)から迷い込む。

 この世の冬期に幽界(かくりよ)の鱗蜘蛛の棲む層が繋がりやすく、被害が起きやすい。出現初期は本体が牛馬程度、脚を含めると乗用車程度の大きさで、この世の生き物を喰らえば喰らう程、際限なく大きくなる。

 胸部が赤いモノは、樹間や建物の隙間などに筒状の巣を掛けて巣を中心に縄張りを形成する。

 灰色のモノは跳躍力が高く、跳ねて移動して行動範囲が広い。

 毒を持つ個体と持たないモノが確認され、毒の成分や強さが個体毎に異なることから、食物から毒を獲得している可能性がある。

 鉄の鱗と糸が魔法生物や魔法の鎧などの道具、呪符などの素材になる。

 素材を回収する場合は、頭部を潰すのが一般的だが、頭部も硬く、口腔内を【光の槍】など貫通性の高い術で攻撃することが推奨される。


 【毛谷蛇(もうやだ)

 蛇に似た魔獣。肉食。

 土色の毛に覆われた蛇のように長い胴は毛深く、腹側には、昆虫を思わせる脚が無数に蠢く。

 知能は低く、自分より小さい動くものは、全て餌と看做して丸呑みしようとする。

 日中は谷に詰まることが多いが、樹木が多く日射が少ない深山では活発に動く。

 チヌカルクル・ノチウ大陸の西部では、この世に定着し、山岳地帯に棲息。

 アルトン・ガザ大陸南部の山岳地帯でも、異界から迷い出ることがある。


 【鮮紅の飛蛇(せんこうのひだ)

 蛇に似た魔獣。肉食。毒がある。鱗も羽も目が覚めるような鮮烈な赤。

 蝙蝠に似た羽でひらひら舞う。草地では蛇に似た身体をくねらせ、滑るように素早く移動する。

 丸呑みせず、自分より大きい動物を毒牙で仕留めた後、肉を齧って食べる。

 薄暗い森や洞窟、廃屋などに群単位で住む。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸の西部とアルトン・ガザ大陸全土に棲息する。


 【濃紺の大蛇(のうこんのおろち)

 夜闇に溶け込む紺色の大蛇に似た魔獣。長い。肉食。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸西部とアルトン・ガザ大陸北部の森林に棲息。

 蛇の頭を更に引き伸ばした頭部。大きな口には、鋭い牙が二列、びっしり生える。頭部だけで、大人の身長並の長さ。

 木の幹に巻き付いたまま、(ほど)いた上体を鞭のようにしならせ、凄まじい速さでこの世の生物を襲う。

 身の長大さ故に動きが鈍い。頭部に近い部分だけは素早く動くが、樹木に巻き付く胴は攻撃の手段を持たず、隙だらけ。毒もない為、比較的倒しやすい。

 牙は薬の素材になる。


 【補色蜥蜴(ほしょくとかげ)

 トカゲに似た魔獣。雑食。毒がある。知能は低い。

 身体の大きさはイタチくらい。指が肥大化し、頭部と同じ大きさの鉤爪が生える。

 黄色地に紫の(まだら)が入り、いかにも毒がありそうな「毒々しい」体色。

 森林の外縁部や草原の茂みなどに住む。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸全土とアルトン・ガザ大陸北東部に棲息する。


 【四眼狼(しがんろう)

 狼に似た灰色の魔獣。肉食。

 眼が四つある。常に十頭前後の群で行動する。森林や草原などに住む。生肉だけでなく、死肉も好む。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸の中・西部と、アルトン・ガザ大陸北部に棲息する。

 眉毛が薬の素材になる。

 挿絵(By みてみん)


 【双頭狼(そうとうろう)

 狼に似た灰色の魔獣。肉食。

 頭部はふたつ。六本の足それぞれに鉤爪がある。尾は金属光沢のある毒蛇。

 繁殖期以外は単独で暮らす。森林や草原などに住む。生肉を好む。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸全土と、アルトン・ガザ大陸南部に棲息する。


 【濡首獣(じゅしゅじゅう)

 沼地に生息する赤毛の狐に似た水棲魔獣。眠る時は陸地に上がる。

 肉食で、鋭い歯が三列並ぶ。餓えると共食いする。

 頭と胴体、尻尾は狐に似る。手足は(ひれ)で背鰭もある。

 毛皮は赤い。一口に赤毛と言っても色味は様々で、濃淡や彩度で分ける。

 太い尾は【火伏(ひぶせ)の護符】の素材。四本一組。血液から抽出したアルコールは医薬品、背鰭を取った毛皮は魔法の道具に加工される。


 血液にアルコールが含まれる。

 濡首獣に特有の臓器、酒臓(しゅぞう)からアルコールが分泌され、濃度が下がり過ぎると体調を崩して溺れる。

 アルコールで酔わず、この世の生き物なら中毒で死ぬ高濃度を保たなければ、生きてゆけない。工業用のメチルアルコールを飲ませると失明する。

 チヌカルクル・ノチウ大陸全土の沼沢地に棲息。


 養殖の濡首獣は週に一度、縮蛙(しゅくあ)を与える。

 魔力の定着を促し、血中アルコール濃度を高める為、食事の回数は少ない。

 魔力を持つ餌を食べた成長直後は、濃度が一時的に下がるが、時間の経過とともに上がる。

 魔力の定着を促し、血中アルコール濃度を回復させる為、一定期間の絶食が必要。

 力なき民が比較的多く、飲酒の食習慣がある両輪の国の一部では、出荷サイクルを早める為、アルコール度数の高い酒を飲ませる養殖場もある。

 大きく育て過ぎると、手に負えなくなる為、狐より一回り大きい中型犬程度の大きさでで出荷する。

 共食いを避ける為、沼ひとつに魔獣一匹。可愛がって育てると割と懐く。

 飲酒習慣と酒類の醸造技術がない魔法文明圏では、濡首獣の血液から医療用や工業用のアルコールを抽出する。


 【蛙姿紅犀(あしくさい)

 チヌカルクル・ノチウ大陸西部、ラキュス湖西地方内陸部の湿地帯にのみ定着した魔獣。肉食。乾燥に弱い。

 水陸両棲で四本の足は蛙に似て、その身は血で染めたように紅い。身体全体は犀を思わせる鎧状の厚い皮膚に覆われ、外見通りに硬い。

 角は、鼻の頭から生える犀と同じ形のものだけでなく、耳の後ろからも水牛のようなものが二本伸びる。

 肝臓と角は魔法薬や染料の素材、厚い皮は(なめ)して防具の素材にする。


 【縮蛙(しゅくあ)

 沼地に棲息する蛙型の水棲魔獣。肉食。口には鋭い歯が生え、毒牙を持つ。

 後ろ足が生える頃から毒腺が発達し、牙も生え始めるが、足が生える前のオタマジャクシは無毒。

 小型の昆虫からイタチ程度の哺乳類まで幅広く捕食する。普段はアマガエル程度の大きさだが、自分より大きい獲物を狩る際には二十~三十倍に膨らむ。

 噛まれさえしなければ、人間にとっては無害。食用には向かない。

 チヌカルクル・ノチウ大陸全土の沼沢地に棲息。


 【跳び縞(とびしま)

 二本の後足で立って跳ねる魔獣。草食。

 濃い緑と薄茶色の縦縞。よく発達した後足と長い尾で身体を支える。両腕は細い。頭に曲がりくねった角が生える。

 知能が低く、使い魔の術で一時的に支配できる。

 臆病だが、穀物の葉や茎、葉物野菜を食害するので農家の敵。

 一跳びで民家一軒飛び越す跳躍力を持ち、人間の足では追い付けない。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸全土と、アルトン・ガザ大陸南部の草原地帯に棲息する。


 【火の雄牛(ひのおうし)

 出現時点で牛二頭分くらいの巨体で筋骨隆々の魔獣。肉食。

 姿は雄牛に似るが緑色で、鋭い歯は肉食獣の牙。雄牛に似た頭部には太い二本の角がある。筋肉の盛り上がった肩。太い前脚。青黒い血。

 角の間に魔力を溜め、火球を放つ。準備動作は長いが威力が高く、【耐暑】では防げない。

 巨体に見合わぬ素早さで、力も強い。息遣いは常に荒く、涎を滴らせる。

 森林に出現しやすい。

 角は肝硬変を治す魔法薬や、染料の素材になる。


 【愚か者の灯(おろかもののひ)

 鯰に似た身体から細長い口が伸びる魔獣。肉食。

 古い時代からこの世に定着し、世界各地の沼地に棲息する。

 燐光を操り、光で獲物を誘き寄せて捕食する。

 沼地に沈めて身を隠し、細長い口で木の棒を咥えて泥を纏わせて樹木や動物のフリをする。

 この魔獣の背中では、学派を問わず、移動系の術が封じられる。

 沼に足を取られると、【飛翔】や【跳躍】では逃げられない。【操水】で水を集めて泥を緩めれば脱出できるが、焦ると思い付かず、【跳躍】を繰り返して捕食されがち。

 防禦は弱いので【風の矢】程度の威力でも、繰り返せば倒せる。


 【巨翼の顎(きょよくのあぎと)

 出現時点で翼長が扉三枚分くらいの巨大な猛禽類。肉食。死肉は食べない。

 古い時代にこの世に定着し、チヌカルクル・ノチウ大陸西部とアルトン・ガザ大陸北部の森林や山岳地帯に棲息。

 鷲に似るが、首から上には硬い鱗が生え、嘴は長く、鋭い歯が生えている。足は太くて頑丈。

 基本的に単独行動で、他の魔物や魔獣を捕食する。餌が足りなくなると群で行動し、家畜など、この世の動物を襲うことがある。


 【長口の魔獣(ちょうこうのまじゅう)

 赤黒い泥塊のような魔獣。肉食。

 顔のようなものも、手足のようなものもない。ただの赤黒い塊。身じろぎする度にぶよぶよ波打つ。

 目も鼻もない。長大な触腕が一本ある。触腕はホースを縦裂きにしたような口。先端がぱっくり裂け、大きさも形もバラバラの歯が、赤い肉から不規則に生える。


 【左右口の獣(そうこうのけもの)

 鰐を横倒しにしたような口を持つ魔獣。肉食。敏捷で身軽。

 目がみっつ。体を支える足は太く、緑色の毛皮の上からでも、逞しい筋肉がはっきりとわかる。尾は蛇のように長い。

 森林に出現しやすい。


 【背の毒(せのどく)

 雄牛に似た体形の魔獣。肉食で、口には鋭い牙が並ぶ。

 灰緑と黒の縦縞で木立に紛れ、肉眼では捉え難い。敏捷で身軽。

 捩れた角の先端は鋭い。背には、たてがみのように蛇が生えている。無数の蛇が、好き勝手な方向に毒気を吐く。咬むだけではなく、毒液を飛ばす。

 地の底から轟くような咆哮を上げ、弱い者が聞けば身が竦んで動けなくなる。

 世界各地の山岳部に出現しやすい。

 肝と角がそれぞれ別の薬の素材になる。


 【多刺蟹(たしかに)

 沼地に棲息する淡水性の蟹。餌を食べる時以外、沼の底、泥の中に居る。

 甲羅には鋭い棘が生え、肉は人間の食用になる。おいしい。

 この世の生き物だが、魔獣など、魔力を持つ肉を与えると甲羅に魔力を蓄積する。

 蓄えた魔力が多ければ多い程、甲羅が硬くなるので、捌くには特殊な技術が必要。

 甲羅を魔法で処理して糸にする。

 染料が染み込まず、白糸にしかならないが、魔力の循環効率がいい為、医療用や調理用の白衣、消防士用の耐熱服の刺繍に使われる。

 多刺蟹の糸では、同じ呪文と呪印を施しても、火の雄牛由来の染料で染めた糸を使った【鎧】並の防御力にはならないが、それらの職業の一般的な使用には充分耐える服ができる。

 野生の多刺蟹は、湖西地方の沼地に棲息する。

 ネーニア島の沼沢地にも棲息したが、半世紀の内乱で養殖沼が埋まって全滅した。

 現在は、ネモラリス島のマチャジーナ市だけで養殖される。

 養殖場では、矢武蚊(ヤブカ)のボウフラや縮蛙(シュクア)のオタマジャクシを乾燥させ、すり潰した配合飼料を与える。

 新しい項目が増えれば、随時更新。

 既にUPしたページに項目やイラストを追加することもあります。

 2016/02/07 「使い魔」の項目追加。

 2017/05/27 個別の魔物の説明と既出のイラストを追加。本文中では名称をほぼ記載していません。(自サイト掲載分だけに登場したモノも含みます)

 2017/08/09 毛谷蛇と鱗蜘蛛を追加。本文中では名称を記載していません。

 2018/10/14 湖の魔物を追加。鱗蜘蛛を詳述。

 2019/09/15 「使い魔」の項目を分離。用語解説24.魔物 使い魔(https://ncode.syosetu.com/n3234db/24/)

 2019/11/17 平敷を追加。

 2019/12/15 愚か者の灯を追加。

 2020/01/03 紫連樹、蛙姿紅犀を追加。

 2021/08/06 矢武蚊、土魚、縮蛙、濡首獣、多刺蟹を追加。

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 同じ世界の話。
 登場人物が被り、各話に少しずつ接点があります(世間が狭い)。
 独立した話なので、単独でも読めます。時系列は下記の通りです。
虚ろな器印暦2215年07月
汚屋敷の兄妹印暦2213年12月
野茨の血族印暦2213年03月~08月
碩学の無能力者印暦2213年04月~06月
飛翔する燕印暦2213年07月
猫のお勉強印暦2210年頃
黒い白百合印暦2202年 初夏
すべて ひとしい ひとつの花印暦2191年頃
彷徨う香炉印暦2115年頃
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