用語解説10.薬品
2021/08/06 神経毒用の毒消し、虫除け、カムフォラ結晶軟膏、熱中症の治療薬、麻酔薬、麻酔毒を追加。
魔法の術による治療は『元の状態に戻す』もの。従って、後天的な怪我や病気は、即死でない限り、完全に回復できるが、先天的な障碍等は治療の対象外。
魔法薬は、ただ、材料を組み合わせて煎じるだけではできない。
魔力を籠め、素材の霊的な性質を結び合わせなければならない。
魔法で作った薬は癒しの術程ではないが、すぐに変化が現れる。
◆傷薬
緑色の軟膏。傷口に塗って傷を塞ぐ。
魔法薬としての【傷薬】は、【思考する梟】の術で作る。
薬草と植物油が術で結合し、霊的な性質を組み換わる。薬草が持つ治癒の力を引き出し、油の親和、浸透、熱の性質を結びつける。
呪文の詠唱が進むにつれ、薬草と油は溶け、混じり合い、緑色の液体に変化する。
小さな素焼きの壺に注ぎ、結びの一句を唱えると、液体は粘度を得て、緑色の軟膏になる。
・素材
薬草と植物油。
傷薬の薬草は、常緑の多年草。どこにでも生えているありふれた草。
傷薬にする薬草の葉は濃い緑色。鋸のようにぎざぎざ細かい切れ込みがある。
茎には、白く柔らかな産毛が密生し、虫が冬を越した綿が付いたものもある。
春から夏にかけて葉の付け根に白く小さな花を咲かせ、秋には赤い実が生る。
・効果
外傷を塞ぐ。朝、傷口に塗れば、昼には痕も残さず治る。
※ 呪文を知らなくても、水分を抜いた薬草を乳脂で煎じて、膏薬を作ることならできる。この膏薬は魔法薬ではない為、効力は弱いが、傷の治りをよくする薬になる。
◆濃縮傷薬
濃い緑色の軟膏。傷口に塗って組織の再生を促す。
魔法薬は、【思考する梟】の術で作る。
薬草と脂を術で結合し、霊的な性質を組み換える。薬草が持つ治癒の力を引き出し、油の親和、浸透、熱の性質を結びつける。
薬草と獣脂、薬草と乳脂で別々に薬を作り、上澄みを取り除いて中心に集めたどろりとした芯を取り出す。
芯の部分同士を更に粘度が上がるまでしっかり混ぜ合わせ、容器に移して完成。
上澄みは別の薬の素材になる。
・素材
薬草と獣脂、薬草と乳脂。
使用する薬草は【傷薬】と同じ常緑の多年草。
・効果
外傷を塞ぐ。朝に使えば、昼には痕も残さず治る。
術で傷の奥まで流し込めば、内臓に達する深い傷も治せる。骨折などは治せない。
◆骨の接合薬
濃い赤色の飲み薬。折れた骨の再生を促す。
魔法薬は【思考する梟】の術で作る。
・素材
広葉樹林の林床に生える薬草ディカブラース。
この世の川辺に定着した魔獣ウトコーナスの死骸から生える異界の草ルイアセアエの実。
寒冷な山地に生える薬草マリーノヴィ・ツヴェートの新芽。古い葉は緑で新芽は鮮やかな赤。春の短い期間にしか採取できない。
・効果
折れた骨の再生を促す。
服用前に整復・固定が必要。怠るとそのままの形で癒合し、折ってやり直す羽目になる。ヒビなら服用後二日程度、大きな骨折も、年齢や体質、栄養状態などによるが、十日から二週間程度で完治する。
また、【飛翔する梟】の術を強化し、治りを早くする。
【骨繋ぐ糸】や【骨繕う糸】が使える呪医が居れば不要な薬。
◆咳止め
粉薬。服用時には、ぬるま湯で溶き、蜂蜜を加える。
魔法薬としての【咳止め】は、【思考する梟】の術で作る。
・素材
水と虫綿。服用時に蜂蜜を追加する。
虫綿は、傷薬の薬草に集る虫の分泌物。新しい虫綿は、虫が居るので使えない。
小さな虫が集まって、薬草の汁を吸う。秋が深まると、細い糸を出して綿のような巣を作り、その中で冬を越す。春になると綿から出て、草から草へ移る。
虫が不在になる春から夏にかけて収穫し、薬にする。
虫綿を水で煮溶かし、草の屑などの不純物を取除く。虫綿は白いが、煮汁は茶色い。
術で水と虫綿の成分を分離する。砂のように茶色い虫綿の粉が、咳止めの薬になる。
・効果
呼吸器の炎症を和らげ、咳を止める。
◆毒消し
対応する毒の種類毎に色が異なる水薬。服用して体内の毒を排出する。
魔法薬としての【毒消し】は、【思考する梟】の術で作る。
素材にする薬草の種類を変えれば、同じ呪文で何種類も出来る。
水と薬草を霊的に結合すると、霊的な性質を組み換わる。薬草が持つ浄化の力を引き出し、水の溶媒としての性質と結びつけ、毒素のみを体内から選択して排出する。
・素材
水と薬草。
毒の種類によって、対応する薬草の種類も異なる。
化膿止め……森の半日影の場所に群生する薬草。
虫刺され……日に透かすと金銀に見える白と黄色の花が咲く蔓草。
神経毒用……日に透かすと金銀に見える白と黄色の花が咲く蔓草と、袋状の濃い紫の花を咲かせる薬草の根。
・効果
化膿止め……水色の液体。傷口を化膿させる菌などに対応。
虫刺され……薄緑色の液体。蜂や百足など虫の毒に対応。
神経毒用……蛇などが持つ神経に作用する毒に対応。
神経毒用の魔法薬は、飲んだだけでは効果を発揮しない。発動の呪文【律動の鍵】を唱える。
別の言葉を使う【飛翔する梟】学派の同名の呪文なら、薬なしでも速やかに神経毒の影響を取り除ける。
解毒薬を飲ませる分、【飛翔する梟】学派の呪医より救命に時間が掛かる。
【律動の鍵】
「命成す 正しき歩み 律動す 今開く 偽の鍵以て 塞がれし 時刻む門」
◆虫除け
・素材
カムフォラの小枝、葉、木片を蒸留して採った結晶。アルコール、水。
・効果
香りが届く範囲に蚊などを寄せ付けなくなる。力なき民用。
香水のように振りかけて使う。独特の清涼感のある香り。
マチャジーナ市では観光客用にキレイな瓶に入れて販売する店もある。虫除け自体は安い。力ある民は、衣服に【耐衝撃】などの術があれば、刺されないので不要。
◆熱冷まし
粉薬。いずれも、水に溶いて服用する。
魔法薬の【熱冷まし】は、【思考する梟】の術で作る。素材毎に呪文が異なる。
素材をすり潰して粉末状にする。
粉末を水に混ぜ、【霊性の鳩】学派の【操水】の術で、溶けない不純物を取り除く。
最後に水溶液から【思考する梟】学派の【熱冷まし】の術で、薬効成分を分離する。
・素材
熱冷ましの薬効は、様々な物が持っている。
地虫……土中に棲む虫。固い殻に覆われた細長い紐状の身体に多数の足がある。落ち葉や動物の糞などを食べるので畑にもよくいる。
赤い実……日当たりのいい場所に群生する薬草の実。春から夏にかけて白い花が咲き、秋に結実し、冬に熟して赤くなる。
ヌシフェラの葉……沼地に生える植物の葉。子供の傘になるくらい大きい。
魔獣の肝……薬になるのは、この世に定着した蛇身を持ち皮膜で飛ぶ種類の魔獣。物理攻撃で肉体だけを破壊して採取する。魔法で倒すと灰になって死体が残らない。
薬草の根……春に紫色で袋状の花が咲く薬草。
・効果
素材によって効果の強さが異なる。処方には、よく症状を見極める見識が必要。
症状に合わない薬や不適切な分量では、体温の上昇や急激な低下を招いて危険。
地虫……一回分に必要な地虫は三十匹。感染症による発熱に対応する。最も効力がゆるやかで、分量で効果を調節しやすい。
赤い実……一回分に必要な実は二十個。打ち身など外傷に起因する部分的な炎症に対応する。
ヌシフェラの葉……一回分に必要な葉は半分。他の素材と合わせて熱中症の治療薬にもなる。
魔獣の肝……一回分に必要な肝は一個。慢性疾患による発熱を緩和する。
薬草の根……一回分に必要な根は三本。非常に苦いが、最も強力。急激に高熱を出した患者に使う。
◆カムフォラ結晶軟膏
・素材
カムフォラ結晶++胡麻油+牛脂
カムフォラ結晶は、常緑樹カムフォラの小枝、葉、木片を蒸留して採る。
結晶を採る工程は科学の工場でも可能だが、軟膏は魔法薬。
・効果
凍傷、打撲、靴ずれ、リウマチ性疼痛の治療薬。
◆心臓の薬
粉薬。いずれも、水に溶いて服用する。
魔法薬の【心臓の薬】は、【思考する梟】の術で作る。素材毎に呪文が異なる。
熱冷ましとほぼ同じ手順で作り、素材と呪文が異なる。作るのは簡単だが、服用量の加減が難しい。
・素材
心臓の薬の薬効は、様々な物が持つ。
ジュヴァーメン……夏に袋状の花弁に白い縁取りのある紫の花を咲かせる薬草の根。秋になると花と同じ紫色の実が生り、これも薬になる。
ベルナリス……残雪を押しのけ、小さな太陽のような黄色い花を咲かせ、春の訪れを告げる薬草。花が薬になる。
・効果
素材によって効果の強さが異なる。処方には、よく症状を見極める見識が必要。
ジュヴァーメンの根と実……ゆるやかな強心剤。利尿作用がある。
ベルナリスの花……強力な強心剤。血行も良くする。過剰に与えると、却って命を縮めてしまう。時には、毒としても使われる。
◆皸用の塗り薬
・素材
悪臭がする蔓草のパエデリア。秋に生る小さな丸い実が薬になる。
夏に咲く小さな白い花は、筒状で中央が赤い。草食動物の糞のような臭いがする。
一回分に必要な実は約五十個。実と同じ重量の無塩バターかラードを術で結合する。
・効果
皸などの予防薬。水仕事の前に手に塗っておく。【思考する梟】の術で作る。
◆止瀉薬/腎臓病の薬
・素材
悪臭がする蔓草のパエデリア。天日干しした根を煎じた液が薬になる。
夏に咲く小さな白い花は、筒状で中央が赤い。草食動物の糞のような臭いがする。
・効果
脚気や腎臓病の治療薬、止瀉薬。
※ 力なき民にも作れるが、効果が強く、飲み過ぎると便秘で大変なことになる為、処方は医師か薬剤師、薬師でなければならない。
◆香草茶
香草茶の中で、薬効があるのは揮発する香の成分。
このお茶は、怪我や病気を直接、癒す物ではない。
特別な術は必要なく、日常で用いる【霊性の鳩】学派の【操水】で水抜きするだけでできる。
※ 力なき民でも、乾燥させてから蒸し、焦がさないように空炒りして製造できる。
・香草茶
気を鎮めるお茶。生の草を揉んだ汁も新鮮な内は有効。
素材は、マトリカリアの草全体。温帯域に自生するありふれた香草。
・鎮花茶
気を鎮めてよく眠れるようにするお茶。
素材は、アンテミスの白い花。
・温香茶
飲むと体が温まり、風邪を引き難くなる。
夏の間に作って、寒くなってから飲む。独特の風味と辛さで、好みは分かれる。
素材は、ジンギベルの黄金色の根。
◆熱中症予防のお茶
大麦を深炒りして粉にした黒褐色のお茶。麦の香ばしさとほのかな苦みが、どことなく珈琲に似る。これに塩を足したものを飲むと熱中症予防になる。普通のお茶。
◆熱中症の治療薬
・素材
ヌシフェラの葉とアルコール、星型の花が咲く薬草の根
魔法薬への加工後はアルコール分がなくなる。
・効果
熱中症用の飲み薬。ある程度、細胞の変質が進んでからでも救命できる。
重症で患者に意識がない場合は【操水】などで流し込む。
重症度に応じて服用量を増やす。
◆胃薬
魔法薬としての【胃薬】は、【思考する梟】の術で作る。
・消化を良くする胃薬。
秋に紫の花が咲く薬草。森の半日陰に群落を作る。臭み消しの香草で、肉料理の調味料にもなる。
・胃酸過多を抑える胃薬。
浜辺に打ち上げられた外側が白く内側が赤い二枚貝。
◆痛み止め
魔法薬としての【痛み止め】は、【思考する梟】の術で作る。
・素材
畑の畝などに自生する小さな綿の塊のような花が咲く植物の熟した実。
・効果
しばらくの間、歯痛や神経痛などを鎮める。傷病を根本的に癒す薬ではないので、別途治療が必要。
◆滋養強壮の薬
・素材
千年茸。夏から秋に掛けて、常緑広葉樹の根元や切り株などに生えるキノコ。
菌体は硬質で全体に光沢がある。傘は最初鮮やかな黄色で、成長に従って橙色に変色する。柄は橙色。
幼菌は、握り拳を点へ突き上げたような形で黄色。何年も掛けてゆっくりと成長し、老成したキノコは、傘の縁を残して全体が橙色になる。
・効果
千年茸は食用にはならないが、滋養強壮の薬になる。
常命人種が特定の日にこの薬を混ぜた酒を一口飲むと、寿命が一カ月伸びると言われる。
魔法薬としての【滋養強壮の薬】は、【思考する梟】の術で作る。
加工にはたくさんの器材と魔法薬が必要で、薬を作る為の術も高度な為、実際に寿命を延ばす薬を作れる【思考する梟】学派の薬師は少ない。
大きな街の薬屋では高値で買取るが、加工できる薬師に伝手がない店では引き取ってもらえない。
◆肝硬変の薬
魔法薬としての【肝硬変の薬】は、【思考する梟】の術で作る。
・素材
火の雄牛の角、ジュヴァーメンの根、ジンギベルの黄金色の根、植物油、干し牡蠣。
火の雄牛の角は、赤色染料の素材にもなる。
強い魔力を蓄えられる為、大容量の【無尽袋】や、【結界】のテント、魔法の鎧などに使う。
・効果
肝硬変を治す。
◆リウマチの治療薬
リウマチの根治薬。【思考する梟】の術で作る。
・素材
シレームの古木に生えるザジガーニイ茸。
高山植物ドゥィムカの根と実。
ラーヅガ鉱石の粉末。
・効果
リウマチを完全に治す。毎日三回服用する。
服用期間は体質や重症度によるが、数カ月から数年程度。
十年以上掛かることはない。治れば再発しないが、素材が高価なので経済的には厳しい。国によっては補助金が出る。
◆麻酔薬
【思考する梟】学派の術で作る魔法薬。
・素材
房蛇根草と、異界由来でこの世に定着した毒草カーリナ、茶色地に白い斑点がある毒キノコのパントベリナの煮汁。
・効果
麻酔薬。注射などで身体に打ち込む。服用させても効かない。
効果の強さと持続時間は、体格と体重、体質による。
意識を失うだけでなく、呼吸も止まる為、手術などで使用する際には人工呼吸器などによる管理が必要。
◆麻酔毒
【空に舞う鱗】学派の術で作る魔法の毒薬。
調毒師の【空に舞う鱗】学派は、殺鼠剤など暮らしに役立つ毒も作り出すが、多くの人々から忌まれ、堂々と徽章を身に着ける術者は居ない。
・素材
房蛇根草と、毒草カーリナ、胎児の髄液。脊椎動物の胎児なら何でもいい。
・効果
注射などで身体に打ち込む。服用させても効かない。
魔獣やこの世の肉体を持たない魔物にも有効な麻酔効果のある毒。
効果の強さと持続時間は、魔獣などの種類と身体の大きさによる。
新しい項目が増えれば、随時更新。
既にUPしたページに項目やイラストを追加することもあります。
2017/02/20 咳止め、毒消し、熱冷まし、心臓の薬、香草茶(鎮花茶、温香茶)を追加。
2017/06/09 皸用の塗り薬、止瀉薬/腎臓病の薬を追加。
2017/09/02 香草茶、熱中症予防のお茶、胃薬、痛み止め、滋養強壮の薬、肝硬変の薬を追加。
2018/01/31 濃縮傷薬を追加。
2020/02/09 骨の接合薬、リウマチの治療薬を追加。
2021/08/06 神経毒用の毒消し、虫除け、カムフォラ結晶軟膏、熱中症の治療薬、麻酔薬、麻酔毒を追加。




