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備えあれば憂いなし

 早すぎるだろ、攻めてくるの。

 いや、相手が弱いうちに確実に取るのは手堅いと言えば手堅い。

 そんな相手の評価をしている場合じゃない、何とかしないと。


 自分の寝ていた部屋に逃げ帰ったのは、なんとなく。少しでも知っている場所の方が安心できるからなのか、思わずここに逃げ込んだ。他の部屋でも同じだったのだろうけど。

 部屋の天井を見て、ここも石造りなのを確認する。よし。

 眷属と三種の罠のうち、一つだけ素材が無くても作れる物がある。なくてもというか、この場で手に入る素材、岩石。これで何とかするしかない。


「でもまぁ、通用する気がしないよな」


 おそらくだが、宝玉の能力のうち、罠と宝箱は他の宝玉所有者と共通だろう。宝玉の特徴が反映されていないからだ。違いは『眷属』。このタイミングで攻めてくるというのは、弱い状態の所有者を確実に狩りたいという事なのだろうけど、その為には攻める為の戦力が必要だ。死人の宝玉で生ける屍が眷属だったのだ。他の宝玉なら炎の精霊とか岩の人形とか、そんなのではないだろうか。

 つまり……


1.手の内は割れている

2.相手には強そうな戦力がある

3.こっちには戦力が無い


 詰んでる。どう考えても詰んでる。それでも考えろ、考えてなんとか抜け道を。


 部屋を見回して武器になりそうなものを探す。ベッドに毛布がある。小さなテーブルと椅子がある。食べたパンの袋と飴の包み紙。何もできない。あとは自分の服……か?



 廊下からコツコツと歩く音がする。一緒にガシャンパリンと意味不明の騒がしい音もする。なんなんだ。

 歩く音は、何故かは知らないが他の部屋にはよらずに一直線に俺の部屋に向かってくるようだ。ドアが一気に開かれた。



「おい渡辺。とりあえずお前を殺してポイント貰うぞ」


 ドアを開けた男は椅子を青眼の構えに構えた俺に、いきなりそんな事を言った。ナンデ名前知ってるんだ……いや、コイツ見た事ある。同じ大学の……なんだっけ、佐々木……井上……


「起きたら宝玉二個しか残って無いとか焦ったけど、最後に残ってたのが名前を知ってるお前で助かったわ。ボーナスステージだもんな【呪殺】対象は渡辺志麻」


 天井に設置した岩石落としの罠、ローリングロックを起動するとタイマーが現れてゆっくりとカウントダウンを開始する。即時発動じゃないのか、テストする時間が無かったとはいえこの罠使えない。

 その隙に、侵入者の指先から紫色のモヤが湧きだして、有無を言わせず俺を包囲する。


「ちょっとまて、俺をここで殺したらポイントにならないぞ、自分の迷宮まで生きて連れてかないと」

「馬鹿。そんな事もまだ知らないのか、自分のじゃ無い方がポイントは高くなるんだよ」


 知識量に差がある。それになんだその呪殺って。眷属とかだけじゃなくて本人が使える魔法とかもあるの? 俺にはないのに?


「【呪殺】渡辺志麻」


 さらに指先から現れたモヤが濃くなり俺を包み込んで消えて行く。ダメだ、避けるとか無理、死んだ。

 こいつの宝玉は呪言っていうやつだったのかな。デバフ系かと思ったら即死魔法だったとは。


「【呪殺】渡辺志麻。おいなんで効かねぇんだよ!」


 え、効いてないのか。確かに何ともない。でも理由を俺に聞かれても困る。いや、もしかすると死人の宝玉の効果で即死無効とかの効果があるのか? それならば俺にとって最高の相性ということに。


「魂の名前が違いますとかなんだよ、手前ぇ学校に偽名で通ってたのか!」


 ギャンギャン喚き立てているが……それどころじゃない。

 魂の名前。それはもしかして真名って事か。覚えがあるぞ、その言葉。

『我が真の名前は死真』うわぁぁぁやめろ、悪霊退散、黒歴史退散!

 理由はどうでもいい、相手の切り札が効かなかった。それだけでいいとしよう。


「馬鹿め、死人の力を持つ俺を死の力で害する事などできるものか…っ!」


 そうは思いつつも、黒歴史を上塗りしてしまう。ハッタリかまそうとするとこんなセリフしか出てこない。ゆっくりと椅子を上段に構え、半歩下がる。


「ふざっけんな、ああぁぁぁっ? ポルターガイスト、あいつの動きを止めろ!」


 ハッタリは通じなかったが挑発にはなったらしい。ウェストポーチからマイナスドライバーを引き抜くと、飛びかかってきた。


 そしてそのまま足元の薄い石の板を踏み抜き、落とし穴に落ちる。半透明の薄い布のような物が向かってくるが、椅子で払いのけると煙のように散って消えた。


 ダンジョンの掘削能力を使って岩を消して足元に穴を作り、岩を薄く移動させて塞ぐ事でシステム外の落とし穴を作っておいたのだが、上手く薄い板が割れてくれて助かった。


「ポルターガイスト! 俺を一瞬でいいからもちあげろ!」


 しかし、呪言の宝玉所有者は眷属を使って飛びあがってくる。だが残念。落とし穴を見抜いて飛び越えた時に備えて、落とし穴のすぐ傍にトラバサミが仕掛けてある。

 自分の眷属を踏み台に飛び上がり、穴の淵に手を着いた佐々木だか井上だかは、その手を挟まれて悲鳴を上げる。


 服のチャックやボタン。財布の中の小銭などの金属部分をかき集めてなんとか一個分に届いたトラばさみが最高の仕事をしてくれた。設置した時には上にシーツをかぶせて隠そうと思ったが、罠の特性なのか設置したら透明になった。俺自身にも見えないのが少し怖かったが、こっちは使える罠じゃないか。

 金属の歯に手のひらの半ばまでを骨まで噛み砕かれながら、涎をまきちらしながら喚く姿の傍に、椅子を構えてたつ。

 下半身はまだ穴の中で、トラバサミに全体重を支えられている状態だ。さぞ痛かろう。


「今楽にしてやる!」


 振りあげた椅子を頭にたたきつける。手を踏みつけ、命乞いをする声には耳を傾けず何度も何度も椅子を叩きつける。

 そんな中、ようやく天井から岩が落ちてきた。地面に掘った穴と同じサイズの岩がすっぽりと綺麗に入り込み、少しだけ浮いていた。


【高橋信介を倒しました。魂力(ポイント)1020を加算。宝玉所有者打倒ボーナスとして好きな能力を拡張して下さい】


・眷属作成+1

・罠作成+1

・財宝箱作成+1


 荒い息を吐きながら、罠に使った岩を消す。落とし穴の底には踊るような姿で真っ赤に染まる死体が一つ。


「眷属作成の拡張を。あと、ポイントの三倍消費でもう一段階上昇させた眷属を作る。死体素材はあるんだから問題ないよな」


 なんとか、生き延びた。


ようやく死人が出てきますよ。あらすじでネタばれしてるのに遅すぎますね

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