早起きは三文の徳
全部の部屋を掛け周り、残ってるやつがいないか探して回る。
半数近くの部屋はベッドを使った形跡があるが、残り半数は眠ってすらいないようだ。
つまり、全員を部屋に返した後ですぐにとって返し宝玉を選んだやつらがいる。そして大きな音が聞こえてきたりはしていないと言う事は、言い争いを含めて争い事は起きていない?
それなら、その六人は組んでいる可能性もある?
そうか。冷静になる時間を取るなんて言っておきながら、俺が眠りこけていた7時間は交渉・同盟フェイズ。炎熱と氷雪みたいに互いの弱点になりそうな宝玉なら最初から同盟を組んでしまえば当面の安全が得られる。飛び道具と白兵なんてのもそうかもしれない。
「協力できる余地がある」なんてていう俺が馬鹿馬鹿しいとしか思わなかった言葉は、「当面の同盟」の提案だったのかもしれない。そしてそこに何の興味もださずに部屋に入った俺は交渉の相手として認識されなかった。
部屋で眠った人達も、早めに起きて事態に気付き急いで残った中で有利に見える物を選んでいったのだろう。少しでもゲームをやった事があればわかる。『神聖』なんていう属性があるのに『死人』はヤバい。
俺はなんてバカなんだろう。
今からでもなんとか失点を取り返せるか?
とりあえずこの宝玉を使ってダンジョンを作るのが先か?
そう考えて『死人』の宝玉に目を向けると、視界に黄色く輝く文字が現れた。
【死人の宝玉の所有者となりますか】
なんだこれ。昨日は浮かばなかった……イヤ違う。横についていたポップにばかり目を向けて、宝玉本体をじっくりみてはいなかった。
他に選択肢は無い、はず。死人の宝玉を手に取ると、目に力を込めて所有者となる為に宣言する。
「はい、なります!」
【そんなに力を込めて言わなくても大丈夫ですよ。他の宝玉は全て所有済みですからあなたは自動的にコレになりますし】
なんだこの対話式。
【死人の宝玉の能力を説明します。宝玉所有者は全て広さ50アントン×50アントン、深さ10アントンの空間を所有し、その中を自由に掘削できます。指で触れて念じる事で歩く程度の早さで岩盤を移動。消滅させる事ができます。また、1アントンとはは君たちの単位で191cm。これはこの世界の標準的な人間の身長を基準とした単位です】
「でかいな。重力が弱い惑星とかそういう事なのですか?」
それならよくある低重力惑星で超人並の力を持つっていう無双ができる。
【重力については1Gです。ですがこの世界の生き物は総じて地球よりもやや強い傾向があります。地球の人間では武器を持っていても素手の一般人と互角かやや分が悪い程度でしょう】
無双はできないらしい。宝玉の力を使ってなんとかするしかない。自分が戦うとかいうのは考えからはずそう。
【一般人以下の皆様は宝玉の力を使って以下の能力を行使する事が出来ます】
・眷属作成 200魂力
>ゾンビ(要:死体素材)
・罠作成 100魂力
>トラばさみ(要:金属素材)
>クロスボウ(要:木材素材)
>ローリングロック(要:岩石素材)
・財宝箱作成 500魂力
>ブロンズランクの宝箱
【初期所有魂力は1000です。これは異世界人一人分の数値であり、全て使いきると宝玉所有者は死亡し二度と復活できません】
肺の奥でヒュッと音が鳴った。自分の魂を永久消費するのか。寿命とか減りそう、いや絶対減るだろ。それになんだ「要:死体素材」って。死体が無いと防衛戦力作れないとかおかしいだろ。
【また、他の宝玉を手に入れる事でそれぞれの能力を拡張する事が出来ます。魂力を三倍消費する事で宝玉未入手でも拡張後の作成を行う事ができます】
【魂力の入手方法は知性を持った生命の迷宮内での殺害。この世界の人間で100。異世界人で1000の魂力に変換できます】
言いたい事はいろいろある。ポイントの縛りキツ過ぎるだろうとか、クソゲーとか。でも自分の命をベットさせられているという事からの逃避願望か、つい下らない突っ込みをしてしまう。
「ゾンビってブードゥー教じゃないの? この世界にもあんの? お前等の神って大地の神とかなのかよ」
【失礼。表記を活ける屍に変更します】
ピッ
・眷属作成 200魂力
>活ける屍(要:死体素材)
対応してくれた。速やかなご対応ありがとうございます……そういう事じゃない。
「じゃあ、死体ってどこからが死体よ。脳死は? 社会的な死は?」
【共に死んでいる状態と認め素材に適用しましょう。Fランク大学生で留年寸前貯金ゼロも含める事でご自身を素材にする事もできますよ?】
「俺は死んでねぇよ!」
【そう主張する限りは死んでいません。主張せずに受け入れるようでしたら死亡判定といたします】
なんなんだ。凄いニヤニヤ笑ってるようなイメージが伝わってくる。何がおかしいんだ畜生。
死体が無いからゾンビだろうが動く死体だろうが、俺の迷宮には戦力が配置できない。宝箱を出して自分で開けて、運よく罠の材料に出来る物がでてきたらそれで罠を作って一人殺せれば……無理ゲーだろ。
外に出て木材を採取する事が出来ればいいが、斧や鋸も無しに拾えるのは枯れ枝くらいの物だろう。試すしかないだろうが、一般人に見つかったら体格から素性が割れて敵対されるだろう。どうすりゃいいんだ。
「そもそも生きてるってなんだよ。脳死も社会的な死とか俺とかも認めるなら、死んだように生きてるヤツは死亡扱いなんだろ。奴隷とか、ブラック企業の社員とかもそうだよな」
ただイチャモン付けてるだけかもしれない。でも他の11人が俺よりは有利な状況で動いてるし、徒党を組んでいる奴もいるだろう。相談できる相手のいない俺は、このシステムメッセージ……おそらくあの司会者だろうが、情報が手に入れるアテがコイツしかいない。構ってくれる限りは絡んで何か情報を引き出さないと。
そう考えて絡み続けていたら、思いもよらない情報が転がり込んで来た。
【『生』とは『次世代に自らの蓄積データを引きつぐ本能』だと私は考えます。よって『死』とは『自己保存もしくは子孫へ引き継ぐ意思の喪失』と定義します】
「なんだよ、ゴーレムとか精霊みたいな物にそれがあるってのかよ」
【ゴーレムは命令により自己保存と主命厳守の意志を刻まれています。精霊にはあるがままになすべきをなす意志があるため生ける屍には該当しません】
「その意志を刻まれたゴーレムって、宝玉に会った『人形』の事か。あと炎熱とか氷雪も精霊に関わるのか」
【他の宝玉所有者の能力に関わる事はお話しできません】
やった。他の宝玉の事って確定じゃねぇか。語るに落ちるというか、わりと脇が甘いぞ。
【ところで】
「ん、なんだ」
【楽しい時間は過ぎるのも早いようですが、よろしいのですか。】
時間。ヒヤリとする。また俺は失敗している。俺よりも7時間前に動き始めている奴らがいるのだ。俺なら、ここを襲撃する。いや、宝玉所有者を殺害しなきゃ意味が無いのだから、出待ち。半殺しにして自分の迷宮に持ちかえれば楽に稼げる。
「50×50アントンの空間に、この場所を指定する事はできるか?」
【許可しましょう。そして戦いが始まる様ですので私との会話はこれでおしまいです。最後の一人になってから再び会いましょう】
大きな門が音も無く開いて行く。
俺は扉が開ききる前に、全力でついさっきまで自分が寝ていた部屋に駆け戻った。