幸運な男
君は幸運な男だ。
家柄も、受験も、就職も、結婚も。
君はいつどんなときだって笑っている。
君は挫折を知らない。
どんなことだってあっさり成功してみせる。
そして君は言うんだ。
「運が良かっただけさ」って。
中学三年生のとき、覚えているかい?
君は成績があまりよくなかった。いつも平均点を切って嘆いていたね。当然さ。僕がどれだけ真剣になって教えてやったって、真面目に話を聞いていたことなんて一度もなかっただろう?僕が必死に勉強をする隣でゲームばかりして、迷惑したよ。
それなのに君は、僕と同じ高校に受験するなんて言い出した。君の両親も、先生も、友達も、もちろん僕もそれを止めた。君には無謀すぎる挑戦だった。僕は合格できるかもしれないけど、君にはきっと不可能だろうと考えた。僕の取り柄はこつこつと勉強を続けていただけだったから。
当然、模試でも全く良い判定は出なかった。いつもF、よくてもEくらい。志望校を考え直してみてはいかがでしょうか、と何度も何度も言われていたよね。でも君は受験した。
そして、合格した。
周りはみんな驚いた。当然、僕も。どうして合格できたの。そう聞くと君はこう言ったんだ。
「運が良かっただけさ」って。
高校三年生のとき、覚えているかい?
君は高校受験のときのように、成績に不釣り合いな大学を志望した。それは僕の目指す大学よりもレベルの高い大学だった。僕でさえもD判定くらいしか出ない大学だった。君には負けるのが悔しくて、僕も無理してそこを受験した。
僕は落ちた。
でも君は、合格した。
そしてまた君はこう言ったんだ。
「運が良かっただけさ」って。
友人関係も、就活も、結婚も。
君は全てを上手くこなした。
もううんざりなんだ。
幸運な君が。
でもそれも今日で終わりだ。
不幸な僕の、幸運な君への報復だ。
*
僕は建物の陰で、震える手で包丁の柄をしっかりと握りなおした。
すぐに視線の先にあった建物から、君が一人で出てきた。
今だ。
僕は勢いよく陰から飛び出した。
キィーッ!
ライトが辺りを照らした。
*
「ねえ知ってる?昨日この辺りで通り魔が引かれて死んだらしいよ」
「ああ知ってる。深夜二時くらいのやつだろ?」
「どうして知ってるの?ニュースにもなってないのに」
「実は、ちょうどその現場を見たんだよ」
「ええっ、物騒な話だなぁ。死体とか見たの?」
「見るには見たんだけど、もうぐちゃぐちゃで。包丁だけ転がってたんだ」
「もしかして、狙われてたのかもしれないよ?」
「怖いこと言うなよ。でもそうだったとしたらーー」
「運が良かったな」