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コンビニのキツネヤマさん

コヤマは清晴に手紙を頼んでいた。

「わかった。このメッセージカードを薫先生に渡せばいいんだね。」

「うん。清晴、よろしくな。」

清晴はすごく嬉しそうだった。頼られてる!と思っているようだ。

実際、頼りになった。

「じゃぁ、行って来るよ!」

清晴は、眩しい笑顔で走っていった。

コヤマは、その後姿を見送った。


ーーこの前、テツを連れて病院へ行った狐山です。

あなたにお話したいことがあります。

この前お会いした公園で、1時に待ってますーー


薫先生は、来てくれるだろうか。

上手く、伝わるだろうか。

コヤマは、公園のベンチに座って目を閉じた。

さっきから、血が逆流したように落ち着かない。

手先も自分の物でないようだ。

いやいやいやいや。もう決めたんだ。

もしかしたら、これで最後かも知れないんだ。

悔いなんて残さない。


だが、薫先生は来なかった。

「・・・・」

涙なんて出なかった。

所詮そんなものだと思った。

でも、最後に・・・。

「シン」

コヤマの後ろで声がした。

コヤマは目を開けた。振り向かずに言った。

「若様ですか。」

「あぁ、そろそろ時間だ。」

「・・・。若様、最後に行きたい所があります。いいでしょうか?」

若主は姿を現すと、コヤマの前に回りこんで目を合わせた。

「あぁ、構わないよ。」


花野病院の塀の上に立っていた。

今は、若主の術で姿が見えない。

電柱に止まっていたカラス達の会話が聞こえた。

“なんでも、車にはねられちゃったみたいよ”

“あぁ、なんて怖い”

“猫のミミーは、そそっかしいから。助かるかしらねぇ”

“今、先生が手術中だから、きっと大丈夫よ。”

そうか。患者がいたんだ。

だから薫先生は来れなかった。

それでいいと思った。先生らしいです。

コヤマは、息を大きく吸い込むと、花野病院へ向かって思いっきり大きな声で叫んだ。

「かおるせんせーい!!大好きです!!」

後ろにいた若主とカラス達がぎょっとしている。

人間に恋しているとばれたら、明主は怒るだろう。

でもこの気持ちを、日陰のような物で扱われたくない。

正々堂々と前を向いて胸を張って言いたいのだ。

「あなたに、助けられて、あなたに憧れた。大好き・・・です。」

この声は、この心は届いただろうか?

さようなら。

言えない一言を心の中で呟く。

さようなら。


コヤマは、若主に連れられて町を出た。



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