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コンビニのキツネヤマさん

明主は、地主と契約を取り交わしていた。

「無事にここまで取り付けられてよかったですよ。」

地主が、ほっと安堵したように、ソファに深く背を預けた。

「一時は交渉決裂かと思いましたがね。」

明主は、手を膝の前で組んでうなずいている。

「しかし、あんなインフラも整備されてない山のどこがいいんです?」

地主は、不思議そうな顔をして聞いた。

「だからこそ、いいんです。自然のまま、ありのままの山が欲しかったんです。」

明主は、窓の外を見た。そこには自分達の山があった。


明主は地主の家を出ると、やはり本日も同行した一の瀬に言った。

「ようやく、我々、狐族の山が持てたな。」

「よかったですね。」

「あぁ、ありがとう。君達、いや第4管のすべての狐たちが協力してくれたお陰だ。」

感慨深げに息をつく。

「我々の同胞は、今まで住処を奪われてばかりだった。」

一の瀬は、じっと明主を見つめている。

「また、時には飢えで、ある時は罠や狩りで、命の危険にさらされた。」

長い時の中で、どれだけその光景に悔しい思いをしただろう。明主は目を伏せた。

「私は、みなが安心して暮らせる場所が欲しかったのだ。」

明主は、少し間をあけ、また話し出す。

「我々が持つ自然界の掟は、もう人間には通じない。ならば、人間界のやり方で我々の場所を確保する。」

「それが、今回の計画ですね。」

「あぁ。だが、今はまだ試験段階に過ぎない。この山にどの位のキャパがあるのか未知数だ。それを把握するためにも、4管各地の狐達の協力が必要だ。」

「だから、今回、全員に召集をかけたのですか?」

「そうだよ。・・・まぁ・・・仲間達にこの山を見て欲しかった、というのもあるがね。これで足りないなら、また山を拡大しなければならないからな。人間界に溶け込んでいる仲間達には負担を強いてしまうが・・・。」

明主は顔を曇らせる。

「彼らの中には、自然界へ戻れなくなっている者が多いのですが、その様な者はいかがなさいますか?」

一の瀬は、眼鏡をくいっと上げながら聞いた。

「痛いところを突くね、一の瀬。」

なにも昨日今日と人間界へ狐が進出したのではない。

それは、はるか昔から人々の中に溶け込んで、半分人として生きてきた者達がいるのだ。

もちろん、彼らには人間の戸籍があり、職場があり、家がある。

人が気づいてないだけで。

彼らは永住パスと言って、人から狐へと変身が解けるのを強力にガードする力をかけられる。だから滅多にばれることは無い。(もちろん、永住パスには他にもいろいろあるけれど。)

「私もそこは悩みどころなのだよ。だが、彼らの気持ち次第かも知れないと思ってはいる。」

明主は、一の瀬を見つめて言った。

「もし彼らが帰りたいと願うなら、この山がそれを叶える場所でありたいとも思っているのだ。それが、長として、みなの幸せを守る者としての責任であるとも思っている。」

「ー・・・明主様のお気持ち、わかりました。私はどこまでも明主様にお供致しましょう。」

一の瀬が言った。

明主は、その言葉を聞くと

「ありがとう」

と一言いい、少し笑みを隠すように前を向いて歩き出した。


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