コンビニのキツネヤマさん
コヤマは、森の中へ入って行く。
歩いていた足は、だんだん速くなり終いには全速力で走り出した。
“おぉっ、走るのか!”
セバスが嬉しそうに後から付いてくる。
この疾走感がたまらない。
もっと風を感じたい。
コヤマは、スピードを上げたまま、倒れた木をジャンプで飛び越えると元の狐の姿に戻り、さらに走り続けた。
“!!!・・・オマエ・・・”
セバスにも初めて見せる姿だった。
コヤマとセバスは一緒に森の中を駆け抜けた。
“はっはっはっはっはっはっはっ”
セバスは息を切らせている。
見晴らしのいい場所に座ると、眼下に広がる小さな町を眺めた。
家や建物が並んでいるのは、国道沿いだけで、あとは田んぼや畑が広がっている。
ここが、好きだ。この町が好きだ。
この町に住む友や人が好きだ。
薫先生が大好きだ。
この想い、伝えてみよう。
何もしないなんて、何の為にここに来たんだ。
「セバス、この胸の中の気持ち、うまく薫先生に伝わるかな。」
“はぁぁん??”
「気にかけて、振り向いてほしい。話をしたい。そんな下心もある。でも、今は、この素直な気持ちを聞いて欲しいんだ。」
“・・・”
セバスは、なんと言えばいいのか解らない顔をしている。
だが、一生懸命考えて、考えて、考えてようやく一言つぶやいた。
“やるだけ、やってみりゃいいさ。”
「あぁ。」
コヤマはいつも勇気をくれる親友の顔を見てニッコリと笑った。
その時、シジュウカラが空から舞い降りてきた。
“シン、明主から緊急招集だ。”
“今度は、長くなるかもしれんとの事だ”
「!!」
思っていたより早い召集伝令に戸惑いを隠せない。
“オマエは、パスが切れるから、いつ戻れるかどうか解らない。発つ準備はそれも踏まえてしておけとも言ってたぞ。報酬は明主からもらっている。じゃ、オレは次の場所へ行くからな”
シジュウカラはそれだけ言うと飛び立ってしまった。他にも伝言先があるらしい。
“・・・・オマエ、行っちまうのか・・・”
コヤマはセバスを見つめた。
セバス、オレがいなくなったら、どうするんだ?
また、セバスを1人にしちまうのかな。
コヤマはセバスの背中に手をあてると、ゆっくりと撫でた。
「誰かいないか、探してみるよ。心配するな。きっと大丈夫だから。」
“そんな事じゃない。オレはオマエの事を言ってるんだ!!”
薫先生の事を言っているんだと思った。
どこまでも、気のイイヤツだよな。
別れるのがツライくらいに・・・。




