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コンビニのキツネヤマさん

「信じられないです!」

清晴ははぁぁぁぁと大きなため息をついた。

「こんな不便な田舎なのに、車どころか運転免許証すら持ってないなんて!!」

「仕方ないだろ、取りに行ってないんだから。」

「コヤマさん、本当に大人ですか?大人の皮を被った子供とかじゃないですよね?もしくは年齢詐称とか。」

「あぁ、もう!!いいからこげよ!!」

二人はそれぞれ自転車に乗って、山の中腹まで来ていた。

川の中流で流れの緩やかな場所をめざした。

「コヤマさん、結構上達しましたよね。」

コヤマは釣りをしたことがなかったのだが、清晴に連れられて何度も行くうちにコツを掴んできたのだ。

“おぉー。釣れてるのはオイカワ・・・タナゴに・・・おっドジョウまでいるのか”

セバスがバケツを覗く。

「テツさんもよく走りましたね。さすが犬ですね!」

清晴がセバスの頭を撫でる。

“微妙な褒め方だな”

セバスの顔は複雑だ。

「ふぅ。急な坂じゃないけど、けっこうな距離があったからな。」

コヤマは深呼吸をした。木々の中で吸う空気はやっぱりいい。

ここがお前の居場所だと言われているような感覚になる。

元の姿に戻って山野を駆け抜けたい衝動にかられた。

恋も中途半端に終ったしな。

薫先生の事は今でも頭の中でぐるぐるまわっている。

へこんでウジウジとしてしまう自分が嫌で下を向いてしまう。

「コヤマさん、元気がないのは、何か悩みがあるからですか?」

「・・・」

「恋バナ、話してくれなかったですよね。あの時、どうでもいいみたいな言い方だったし。」

なんだ、ちゃんと聞いていたんじゃないか。

「かなわないなって思ったんだ。」

ぽつりとこぼす。

「大人になったら、学生の時とは違って・・・仕事や、地位や・・・上司とか部下とかだけどあったり、収入による差もあったりして。お前らみたいに皆同じパン食ってるわけじゃないんだ。だから・・・」

「だから?」

清晴はじっとコヤマを見ている。

「・・・・オレなんかじゃ不釣合いなんだよ。」

清晴は川の水面に目を移した。

「コヤマさん。それは屁理屈だと思います。」

コヤマは眉間に皺がよる。

「大人の社会は、いつだって下克上だと思います。頑張れば望む所にも行くチャンスがあるんじゃないですか?それに、僕らだって皆一緒じゃない。勉強できるやつとか運動ができるやつ。みんなを笑わせるのがうまいやつがいるんです。僕は何も特殊なものはなけど、でも僕は僕に自信があります!」

清晴の目はいつもまっすぐで曇りが無い。

「何故かって顔してますね。ふふ。想いです!誰よりも大好きだーっていう想い。」

コヤマはぐっと詰まる。心が揺さぶられるほどの熱い想いならここにある。

「コヤマさん、勇気出して行動しましょう。ちょっとの勇気で世界が変わるかもしれないんですよ。」

清晴の行動力を考えたらオレは何もしてなかったに等しい。

唯の独りよがりだったのかな。

一歩を踏み出す前に諦めていたのかもしれない。


オレはキツネだから・・・

掟に反するから・・・

オレよりもっといい男が近くにいるから・・・


そんな理由で逃げていたのかも。

傷付くことから。

もう少し、好きな気持ちを抱いていたいという気持ちから。


コヤマは竿を置く。

「清晴、ちょっとこの辺り見てきていいかな?」

「えぇ、いいですよ。」

セバスは、コヤマの変化に気が付いた。

“オレも行って来る”

「はーい。いってらっしゃい。」

清晴はにっこり笑った。



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