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コンビニのキツネヤマさん

コヤマは、掟の事を忘れたわけではなかった。

なかったわけだが、弾む心が抑えられない。

フンフンと鼻歌交じりに店の掃除をしていた。

「やけにご機嫌ねぇ。いい事でもあったの?」

ひげ店長が話しかけてきた。

「まぁ、心踊り病です。」

セバスが言っていたうかれ熱踊り病という言い方はまんざら外れというわけでないなと思った。

「ふぅん。」

ひげ店長は、そう言って含み笑いをする。


一台の車が、駐車場に止まった。

車から降りた男は、礼服を着用していた。

「いらっしゃいませーって、あら、カズシじゃないの。」

ひげ店長が男に声をかけた。

「オヒサー」

カズシはひげ店長に手をあげて答えた。

「どうしたのよ?そんな格好して、誰かの結婚式?」

「当り。舞の結婚式に薫と一緒によばれてるんだ。」

薫と聞いて、コヤマの肩がピクリとする。

「あぁそうか、あなた達、同級生だったわね。舞ちゃんにおめでとうと伝えておいて。」

「あぁ、分った。じゃ、楽しんでくるよ。」

カズシはニシシと笑うと、コーヒーの缶を買って出て行った。

「・・・・」

胸騒ぎがした。

とても不安定な気持ちだ。

ひげ店長の言葉がコヤマに決定打を与えた。

「次は、カズシと薫先生じゃないかって言われてるのよ。ブーケトスは薫先生が受取ったりしてね。」

「カズシは〇△商事の本社勤務だから、なかなか会えない遠距離みたいだけど。お似合いだわねぇ。」

ひげ店長は、二人の結婚式の場面でも想像しているのだろうか、笑みがこぼれている。

でも。コヤマの心は、ズンズン沈んで行った。


一介のアルバイトと商社マン。

太刀打ち出来ない何かを感じた。

それ以前に、薫先生が、オレの事、どう思っているのだろうか?

いやいや、気にも留めてないかもしれない。

思考はドンドン下降する。

そもそもオレはキツネで・・・

・・・・・・。


・・・・・・・・。


ふっと笑えて来た。

何がしたかったんだろうな・・・。

どうしたかったんだろうな・・・。


その日、コヤマは失恋した。

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