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解放

作者: 大蔵 富造

ホラーではないけど現実でもない話。ジャンルが分からずその他にしました。

これを作ったのは夏でした。

 俺は犯罪を犯した。逮捕されて刑務所に入った。

 その罪を償うために手足を拘束され、暗く寒い閉鎖された場所に閉じ込められた。

 身をよじることも、肩も動かすこともできず、うずくまる様に拘束されている。座っているのか横になっているのかもわからず、重力も感じない。


 そして暗闇。眼をつぶっているから暗いのか、それとも眼を開いているのに暗いのか、わからない。音もしない。耳も潰れたと思うほど何も聞こえない。心音も聞こえない。

 トイレに行けない、行く気も起きない。

 こんな状況だと考えることしかできず、もう後悔と許しを乞う償いだけだ。



 いったいどれくらいの時が経ったのだろう。きっと1年2年ではない。もっと長い。いや、もしかしたら時間は全く経っていないのかもしれない。

 しかし、今は後悔の念も消えさり、なにも考えることができない。

 考えられなくなるほどの時が経っているはずだ。きっと。



 とにかく助けてくれと懇願した。もう、許してくれと。

 すると天から響く声が聞こえた。いや、地獄の声だったかもしれない。とにかく久しぶりに声を聴いた。耳は無事だった。

 すると、手足の拘束が解かれ、ほんの少しずつ動かすことができるようになった。

 体を伸ばすことはできない。まだうずくまった状態だ。この体に密着する拘束具も外したい。希望が湧いた。

 声は言う、この暗闇から外の世界に出ることができたら、拘束具からも解放してやろうと。



 肘も膝も伸ばせない手足を必死に動かした。必死にもがいて、もがいて、外を目指した。上下左右どちらに向かっているのかわからない。だが、とにかく進める方向へ進んでいった。それが外に向かっているのかもわからないが進んだ。



 どれくらい進んだか、外はまだか、進む方向は間違っていないか。そもそも、外とは、何をもって外というのか。

 動けるという希望にこの暗闇は不安と恐怖だけ与え、すくんでしまってまったく動けない時もあった。だが、勇気を与えてくれたのは音だった。

 重く響き、この体に波状のように響く音、その音はこっちへ来いと呼んでいるような気がした。



 音。とにかく音の響くほうへ進むと、暗闇に亀裂が入り、強烈な光が眼を潰さんばかりに襲ってきた。

 外だ、これが外の世界。この忌々しい拘束具から解放される権利を得た。

 この感動は忘れない。

 再び天の声が聞こえた。天を目指せという。

 光に目が慣れた頃、近くにあった木に手をかけた。その時に気が付いた、肘も膝も伸びることに。

 この木が天に届くとは思えないが、上に行くにはこれしか方法が無いと思っていた。



 指を樹皮の隙間に差し込み、足をゆっくりとひっかけながら、死に物狂いで登り続けた時、気がついた。

 ものすごく明るい世界だが、これは夜だった。強烈な光を受けた気がしたが太陽の光ではなかった。ずっと暗闇にいたため、月光ですら目には刺激的だった。



 木を登り続けて急に手足の感覚がなくなると変化が起きた。拘束具の背中に亀裂が入り、生身の背中に外気の風が当たる。ものすごい快感が押し寄せた。

 その快感を貪欲に味わうべく、急いで背中を動かし、快感が広がっていく。

 頭を抜くと気絶しそうなほどの痺れた快感を味わった。快感のせいで動けなかった。風が当たるだけで気持ちがいい。

 最後に手を抜いて拘束具を掴み、足を抜いた。全身が快感に襲われる。やっと忌々しい拘束具から抜け出した。これほどの喜びはない。それも快感をなった。



 次第に夜が明けてきた。全身を包んだ快感の余韻に浸りながら思い出した。犯罪を犯した償いのために拘束されていたのだ。拘束具を脱ぐためにだけに外へ出たのではない。罪が許されたから外の世界に出てきたのだ。

 俺は天に感謝を伝えるべく、まずは声を出した。唸るように出した。

 「ミーンミンミンミン!」

 異常に気がついた。自分が出したい声ではない声だった。蝉の声だった。

 耳に入ってくるのは自分の声だけではない、気がつけば周りでも蝉が鳴いている。



 朝日ではっきりと分かった。自分がしがみついている拘束具は蝉の抜け殻。

 そしてあの暗闇は土の中。蝉の知識はある、俺は十年以上もサナギとして土の中にいたことになる。

 もう人間ではない、俺は許されたわけではないのか。十年以上も罪を償っていたというのに。いつ蝉になったんだ。そんな疑問も、もう今更どうなるわけでもない。



 俺は知っている。蝉の寿命が短いということを。これは解放ではない、死刑宣告だ。

 なぜ蝉が十年以上も土の中にいるのか、そして蝉の数が減らないのか。罪を償う犯罪者たちは今一度、天に許しを乞うために大声で鳴き、無念に嘆くのである。

 死が迫る俺のように。

どうして蝉はあんなにいるんだろう。どうしてあんなに長く土中にいるのかと考えた結論が転生でしたw


これはどのジャンルになるんだろう?

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