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吹奏楽部に入部しました

作者: 上村華月

僕はタケシ。地元の中学に通い始めたばかり。本当に頑張った中学受験も失敗し、何かもういろいろとやる気が出ない。というかもうどうでも良くなってきている。

さらに中学生になって何か気分が変わるかといえば、特にそういった刺激もない。1学年3クラスしかなく、同級生全員小学生の時から知っているからだ。楽しみにしていることといえば、部活動くらいだ。



入学3日目、今日から午後の授業も始まり、部活が始まる。


サッカー部にした。

というか入部申請書にサッカー部と書いた。というのもサッカーは塾に通い始める小学5年の頃までユースのチームに入ってたのでわりかし得意だ。

親に頼んでこの度スパイクも新調してもらった。親も受験失敗以降元気の出ない自分のために、気を使ってくれているのだろう。というわけでちょっといいやつを買ってもらった。本皮のやつだ。



「タケシ君、ちょっと来てくれるかな?」僕は昼休み担任の先生に廊下に呼ばれた。

「ちょっと申し訳ないんだけど、サッカー部は入部希望者が多くてさ、調整の結果タケシ君はごめんなさいになったよ。だから第2希望の吹奏楽部になったから。」

僕は頭が真っ白になった。

「校庭狭いだろ、この学校、だから今年から定員を設けたんだ。安全のためにな、分かってくれるだろ。」


また不合格か・・・。受験失敗といういやな経験が頭の中でぐるぐると回る。とてつもない絶望感と、スパイクを新調してくれた親への申し訳なさで一杯だ。

「他のサッカー部志望の生徒は第2希望がないんだよ。というかタケシ君みたいに第3希望まで書いてないんだ。」

「先生、僕は入部申請書の説明書きに第3希望まで書いてくださいって書いてあったから、書いただけで別に志望したわけじゃないんですが・・」

「先生も苦労したんだ、君は本当は第3希望の帰宅部になるところだったんだぞ。こんなやる気のない生徒なんてな、吹奏楽部の顧問にも最初は断られちゃってさ。先生頭下げてやっと理解してもらったんだからな。頼んだぞ。」


「・・・。」

僕は何も言えなかった。誰も助けてくれない。世の中から見放された感じがした。


放課後、僕は音楽室に向かった。部活に顔を出さずそのまま家に帰るほど勇気がないんだと思う。教室に入ると部員は女子の方が多く、特有のシャンプーなのかその女性的ないいにおいを感じた。

和気藹々とした感じだ。ただ新入生達が早速先輩達の話に入ろうとしている様子が、妙に気に食わなかった。こんな感じだったので、僕は担当楽器を選ぶ順番も最後となり、余りもののトランペットを吹く係になった。

「タケシ君かな?君は?」顧問らしき女性に話しかけられた。

「彼女がトランペット担当の先輩のアスカさん。あなたは初心者だと思うけどアスカさんに教えてもらってね。」

アスカさんはすらっとした長い黒髪のちょっと大人の雰囲気を持つ女性だ。自分の胸が高鳴っていくのが分かる。こんなキレイな先輩と一緒に部活が出来るなんて・・・。


アスカさんは言った。

「タケシ君、私も初心者だから何も教えて上げられないけど、ほらっトランペットってボタンが3つしかないでしょ、簡単だから基本自分で練習してくれるかな。」

「はい、分かりました。」

そのちょっと冷たく感じる対応も彼女には合っていて、気付いたらこの人と付き合ったらみたいなことまで考えていた。


よしっ、やってやるか。僕は受験失敗以降始めて自分の中にみなぎるやる気を感じた。



トランペットはなかなか難しい。ボタンの配置というよりかはいかにしてキレイな音を出すかがポイントなのでは、と自分ながらに分かり始めてきた。


「おい、新人。うるせーから、音出すなら外でやれよ」

「すみません。」

不快な音でアスカさんに迷惑をかけてしまったようだ。僕は廊下で練習を始めた。

しばらくしてこんな我流の吹き方が正しいのか不安になり、アスカ先輩に聞いてみようと思い立ち、教室のドアを開けた。


「でさ、お笑いの○○超ウケんだけど・・ボリボリ」

「昨日アキラからまたメール来てさ、超しつこいし、マジ死ねなんだけど・・・バリバリ」

顧問の先生が教室から出て行ったからかアスカさんはお菓子を食べながらお友達と雑談をしていた。


そして定時であるはずの夕方の6時前、5時には教室から誰も居なくなった。

「おい新人、しっかり掃除してから帰れよな」


・・・アスカさんを始め吹奏楽部は不良集団だったのだ。教室にはタバコの吸殻と独特の悪臭が立ち込めている。僕はトランペットを吹いた頬の辺りが傷むのがやけに悔しかった。何よりこんな部にも簡単には入れなかった自分について考えたり考えるのをやめたりした。


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