第19話 ど根性サボテン
百円ショップで売っていたというサボテンの小さな小さな鉢植え。サボテン本体より鉢の方が小さい。
トイレの窓にちょうどいいからと買ってきたようです。
最初こそ自発的に世話に取り組み、次いでこちらが催促してやらせ、やがて家族全員がその存在を忘れた。
かわいそうに、干からびておりましたよ。
北側の窓とはいえ、夏はずいぶんと高温になっていたであろうそこを動けずに、水を与えられずにカラカラに乾いてしまった。冬の乾燥はさらに地獄であったかもしれません。目の前で繰り返される、トイレを流す水音に歯噛みしながら干からびた。
以降わたしは幾度となく始末を指示しました。命の後始末をさせようとしたのです。
でも帰ってくるのは生返事だけ。いうとケンカになるのでやがて触れづらくなってしまった。
結局おれごんが片づけるしかありませんでした。
「軽いなぁ。お前……こんなに軽かったのか」
それは陸奥出海の台詞、いっしょになって忘れていたおれごんが口にしていいはずはない。
実際持つと異常に軽い。それもそのはず、言うなればミイラなのだから。土なんか当然砂になっていて、体積は半分以下に。でも。
サボテンそのものは青々としていました。しかも成長していたんです。なんと廃棄を指示してから以降だけで、高さが2倍にも伸びていた。
「まだ生きてる!」
水を与えてもらえなくなってから1年以上経つにもかかわらず。おそらくは空気中の水分を頼りに、北の窓から入る限りなく弱い反射光で成長していた。
湿気の国、日本!
いいえ、それ以上にど根性サボテン。だって冬の乾燥すら乗り越えてみせた。
彼はいま、豆みたいな鉢植えから解き放たれ、彼の身にしたら広大な庭で穏やかな余生を送っています。
今年の夏は好きなだけ日光を直接その身に浴びました。雨は多すぎるほど、でも水はけは良いので困らなかったはず。
周りの草がすぐに彼の背丈を超えるので、定期的に刈り取りました。君にはそれだけの手間をかけてもらえる権利がある。
また大きく育っておれごんを驚かせておくれ。そしたら今度こそ命の授業をやるから。
そしていつか、もしおれごん一家を許す気になったなら、花でも咲かせて知らせてね。




