『短編』私はこの身体で『女優』を演じるの ~悪役にされたって、私は私を演じたい~
初の短編です。
楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m
この身体の持ち主、ロザリー・カタリシアは、自分の見た目を苦に自殺未遂をした。
……いいえ、彼女は〝死んだ〟と言ったほうがいいわね。
不幸中の幸いか否か。
前の人生で死亡した私がこの身体に入り込んでしまった。
理由はわからない。
西洋文明なんて私の知識には殆どないし、記憶喪失として片付けられた。
さて、冒頭に戻るけれど。
『自分の見た目を苦に自殺未遂をした』とある通り、ロザリーの身体は、この異世界では珍しく太ましい……いいえ、ふくよかな身体をしていた。
それを悪く言う者たちが絶えずいたのだ。
幼い頃から好きで太っていたわけではないロザリーは、散々痩せるための努力をしたわ。
――けれど、痩せられなかった。
どれだけ運動しようと、どれだけ食事制限をしようと、痩せることはなかった。
彼女の記憶を見る限り、どれも栄養士の元で行ったもので、可笑しなことはなかった。
甘いものを食べ散らかすわけでもなく、好きなデザートだって一ヶ月に一度、小さなケーキを食べるだけ。
そんな涙ぐましい努力をしても、誹謗中傷は止まらなかった。
痩せないことで、親の決めた婚約者は婚約破棄してきた。
それがトドメだったのだ。
(全てが嫌になっての自殺未遂……そりゃ嫌にもなるわね)
姿鏡に映る自分の太ましい身体。
でも、〝たかがそれがどうしたの〟という考えのほうが私は強い。
この身体……使えるわ。
前世の私も、太ましい身体をしていた。
そのことを悔やんだことも、苦しんだこともあったけれど、そんなもの、化粧と衣装、そして心に『女優』を飼うことでなんとでもなった。
――本来の私を愛して欲しい?
そんな、あまっちょろい感覚で生きていけるほど、この身体は甘くないのよ。
「テリーザ」
「はい、お嬢様」
「ドレスを見たいわ。見せてくれる?」
「は、はい」
そう言って連れて行かれたドレスルームには、地味な服だらけ。
こんなのどこかに寄付してしまえばいい。
「新しいドレスを作るわ」
「あ、新しいドレス……ですか?」
「ええ、デザインも何もかも自分でね」
私はあらゆる『太ましい』女性の雑誌を買って吸収していた。
それらをまとめれば、なんとかなりそうな気がする。
とはいっても、太ましい女性の服装なんて、そうそうデザインが多いわけではないけど。
でも、産後身体が戻らない女性や、老いて身体がふくよかになった女性に向けたファッションの最先端は行けるはずよ。
ふくよかだから。
太ましいから。
そんな理由で恋愛や結婚を断る男なんて、こっちからノーサンキュー。
このボディとこの顔があれば、ドレスと化粧一つで、そこらの令嬢なんてただの石ころ。
――私は輝く宝石よ。
さぁ、心に『思い描く女優』を作るの。
そして、私はその女優を演じるのよ。
演じる女性はヒロインのようなか弱い女性は似合わない。
強烈な……悪役でなければ。
でも、悪役だけではいずれ終わりが来る。
悪役でありながら、助言をする……大物女優がいいわね。
そう、貫禄のある女優になるの。
そう、前世で言う金髪のあの方とか、特徴的な髪型のあの方とかね。
スゥ……と目を開けてスイッチを入れる。
そう、私はあの方々の女優魂を引き受けし者。
何人たりとも私を傷つけることは最早できないわ。
◇◇◇◇
「ロザリー……もう身体はいいのかい?」
「ええ、この通り万事良好ですわ。一部記憶がないのを除けばですけれど」
「そうか……。我が家にはお前しかいないのに自殺未遂なんて……」
「それよりお父様。ドレスを作りたいの。今までの地味なものよりも、もっと華やかな物を。また、そのドレスを作るにあたり、デザイン料を頂きたいので、わたくしに商売をさせて頂けませんか?」
「商売?ドレス案なんて……」
ええ、普通なら渋るわよね?
でも、その考えは一人娘に弱いお父様だからこそ、やりやすいのよ。
「あら、わたくしが折角やる気になっているというのに……自殺未遂から一転し、生きるために何か手につけようと思っておりますのに、それを拒否なさるの?」
「ううむ……。あまりお金をかけずにやるんだよ?」
「ええ、取るのはデザイン料金ですわ。そのお話をお父様から是非ともしてくださいませ。ではいつものマダム・ファリンを呼んでくださる?ああ、既存の服で構わないから華やかなドレスを持ってきてくれるようにともね」
扇をパンッと勢いよく閉じて告げると、お父様は慌てふためいて私のドレスを作っていたマダム・ファリンを呼ぶことになった。
その間に少しでも綺麗で華やかな衣装を探したけれど、中でも辛うじてマトモな色合いのドレスに身を包み、化粧は自分でやった。
化粧道具は前世とあまり変わりがなくてよかったわ。
といっても、化粧道具に関してはプロ用を使っていたから、なんとかなった話よね。
「お嬢様……いつもとお顔が……」
「違う?そうね……でも、今のわたくしの……いいえ。〝今後のわたくしの顔はコレが標準装備〟よ」
「は、はぁ……」
ぱっと華やぐ、いわば前世のふくよか女性筆頭の彼女の化粧を真似して、ツリ目に気の強い瞳、それにふっくらとした赤い唇、かの女性を意識して作った顔は正に女優。
妖艶かつ、悪役っぽさがあり、尚且つ悪評を笑い飛ばして睨みを聞かせることも可能になるわ。
それに――私は悪評を口にした人をそのままにはしない。
トドメは笑顔で刺していくわ。無論諭す人もいるだろうけど。
そう思いつつ自分の化粧に満足していると――。
「マダム・ファリン様がお越しになりました」
「意外と早かったのね」
いつもなら多少時間が掛かって来るはずなのに、暇だったのかしら。
そんな事を思いつつマダム・ファリンの待つ場所へと向かうと、現れた私を見てメガネがずり落ちるほど驚いているわ。
「一部記憶がなくてごめんなさいね?お久しぶりね、マダム」
「あ、お、お久しぶりです……。随分と……イメージが変わりました……ね」
「ええ、これでも頭がと――ってもスッキリしているの。それで、お父様からわたくしの商売の話も聞いたかしら?」
「え、ええ……。ですがデザインなど作れるのでしょうか?」
「そうね、まずは一週間。一週間待ってもらいたいわ。それで、わたくしのサイズに合う、華やかなドレスは持ってきてくださったかしら?」
「以前お勧めして嫌だと言われたものばかりですが……」
「構わないわ。見せてちょうだい」
椅子に腰掛け、太い足を組んで様子を見ると、どれもこれもとても華やかなドレスばかり!!
なに、ロザリーってこんな華やかな衣装を嫌がっていたの!?
信じられないわ!!
「素晴らしいドレスじゃないの!」
「お、お褒めにあずかり……光栄です。ですが、本当に良かったのですか? 以前はとても嫌がられていたドレスばかりですが」
「構わないわ。全て頂くわ」
「あ、ありがとうございます!」
「それと、デザイン画を書くノートとかはあるかしら?」
「は、はい」
そこに、私が前世で得た知識……〝三つの体型〟というのを書いた。
マダムは不思議そうにしていたけれど――。
「上半身が大きい、太ましいタイプを〝Vタイプ〟としましょう。そして下に行くにつれて大きい、つまりお腹から下が大きい人を〝Aタイプ〟ね。わたくしのように全身が大きい人は〝Oタイプ〟として、ドレスアップを考えているのだけれど」
「VタイプとAタイプとOタイプ……どれもご令嬢が悩む体型ですね」
「ここから先は、わたくしの脳内にしかない情報。それを貴方と共に商売にしていきたいの。お話はお父様からの連絡で聞いているでしょう?」
「か、簡単には……」
そう答えるマダムに、私は扇を広げてくすりと笑う。
マダムの店が傾いていることをロザリーの知識で知っているからだ。
「お、お嬢様が我がドレス店を……お買い上げになるということですか?」
「まぁ、話が早い。それならとってもとっても手っ取り早いわ」
「ですが」
「無論、貴方は店の主戦力、無論働いている方もそのままで結構よ。神殿契約はしてもらいますけどね?他所に知識が流れたら大変だもの」
「わ、わかりました」
「ふふ、わたくしの先程の三つの体型の分け方で、どんなドレスを作るか……楽しみじゃなくって?」
ドレスを作っているのですもの。
知りたくてウズウズするわよね?
マダムは目を輝かせ「とても気になります!」と口にした。
◇◇◇◇
それからは、マダムの店を私が買い取り、マダムには社長代理兼チーフとして働いてもらうことになり、三つの体型に合わせたドレスを世に出した。
途端、体型に悩む女性たちは殺到した。
そりゃそうよね。
私が宣伝塔で、今やあちらこちらで〝Oタイプ〟の画期的なドレスで社交界に復帰したのだから。
それに、化粧も髪型も違うだけで、棘となって飛んでくる言葉は減ったわ。
棘となる言葉を告げられても、扇で顔を隠して〝憐れんで笑ってやる〟と、相手は大声で叫びちらし、それだけで自分の品位を落とす。
自分で自分の首を閉めているのよ。
馬鹿げてるわね。
さて、確実に利益を出して、着実に売上を伸ばし、今では〝ファッション・ロザリー〟と名を変えた名前はうなぎ登り。
富も名誉も手に入れた独身女を放っておくほど、この世界は甘くない。
「ロザリー嬢。よろしければ俺と」
「いえ、ロザリー嬢、よろしければ僕と」
そんな、『コイツの金が欲しい』というのが透けて見える男たちが群がってくる。
私の嗅覚と勘を舐めないでいただきたいわね。
――あなた達が欲しいのは、財産と店だけでしょう?
本当に愛を囁く時、人というのは目の色が違うのよ。
真摯に愛を紡ぐ時、男性の瞳、声色、全てに『真心』というのが籠もるわ。
「上辺だけのおべっかはいらないわ」
「そ、そんな」
「上辺だけなんて」
「あなた方、以前のわたくしを指さして笑っていたのは覚えていてよ」
「ッチ!」
「記憶喪失と聞いていたのに……」
「分かったらどうぞお引き取りを」
「そう言わずさぁ……」
「そうそう、過去のことは水に流して」
馬鹿かしら?
馬鹿だからそんなことが言えるのね。
気持ち悪い。気色悪い。
「あら、ではあなた方、自分を卑下して笑った女性と結婚できるの?」
「は?」
「え?」
「できないでしょう?わたくしも一緒。笑ったような男とは結婚しないわ。言っておくけど、わたくしを笑い飛ばした男たちは皆、顔を覚えていますからね」
「くそっ!」
「お高くとまりやがって!」
「あら? それのどこが悪いの? わたくしは結果を残したわ。あなた方は、何か、結果を残したのかしら?」
「もういい!」
そう言って去っていった。
こういうことが最近増えたわね……。
いい加減、婿養子も欲しいし……何処かにいい人いないかしらね?
◇◇◇◇
そう思っていた時、隣国の第三王子が国に訪れパーティが開かれることになった。
隣国の第三王子にはまだ結婚相手も婚約者もいないらしく、女性たちは色めき立っている。
(王子と結婚なんて、よく夢見れるわね)
私だったら、ノーサンキューだけど。
でも、ふくよかな身体を了承してくれるのなら、ある程度の金額は稼いでいるのだし、多少の我儘は聞けるかな?
そんなことを考えつつワインを飲んでいると「レディ?」と声をかけられた。
振り向くと、褐色の肌に黒髪、エメラルドの瞳の美しい隣国の第三王子が立っていて――。
「ああ……そのふくよかな身体。正に〝豊穣の女神!〟我が国では、ふくよかな女性を娶ることは〝豊穣の女神〟と婚姻すると言う誉れなのです!」
「え? あ、はぁ……」
「どうか、どうか私とぜひ婚姻を……。豊穣の女神と出会い恋に落ちたとあれば、我が父も喜ぶでしょう」
「なるほど」
「豊穣の女神との婚姻は我が国では止められない〝真実の愛〟とされています。どうか、私と結婚をぜひ!!」
周囲の女性が悲鳴を上げる中、こんな場所で求婚されてはどうしようもなく。
陛下がお越しになり――。
「ぜひ、ロザリー・カタリシアとの婚姻を進めたいのだが」
「つ、つしんで……お受けいたします」
陛下相手に嫌だとは言えない。
こうして、私は隣国の第三王子との結婚が決まり――。
「ああ、我が豊穣の女神よ……。君はなんて美しいんだ……」
そう毎日愛を囁く夫を手に入れたのは、良かったの悪かったのか。
とは言え、悪い気はしない。
「可愛い人。あまり褒め称えていると、天に戻ってしまうかも知れないわ?」
「ああ、それだけは許しておくれ。君がどうすればこの地上に残れるか考えるから」
「ふふふ」
こんな可愛い夫を持てたのは、ある意味――幸せかもね。
ロザリー?
あなた、きっと人生で今、最も輝いてるわ。
あなたの悩んだこの身体のおかげでね。
――完――
4月10日の夜19時20分から6話編成で連載スタートです!
こちらになります。
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