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極道エルフ ~墨田抗争録~  作者: 英 慈尊


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宣誓

 錦糸堀公園といえば、JR錦糸町駅から歩くことおよそ10分ほどで辿り着く空き地じみた公園であり、本所七不思議の一つ『置いてけ堀』の舞台とされるいわくの地である。

 また、近年においては、スクウェア・エニックス発売の大ヒットゲーム『パラノマサイトFILE23本所七不思議』に登場する舞台の一つとして、時折写真撮影に訪れるファンの姿も見られる聖地巡礼スポットであった。


 そんな歴史深い地を、正面から睥睨できる場所に建てられているのが、龍門ビルディング。

 その名から分かる通り、墨田区最大規模を誇る一次団体『龍門会』の本拠地たる七階建てのビルである。


 その、最上階……。

 組長と親子盃を交わした者しか立ち入ることを許されないフロアにおいて、極道エルフこと矢車リュウカは威勢よく膝をつき、本日の報告を行なっていた。


「四時間目、体育の授業で行なったドッジボールにおいて、お嬢は外野からパスを回す好アシストを二度行い、チームの勝利に貢献なさいました。

 さらに、給食の時間においては、クリームシチューに入っていた苦手なブロッコリーも素知らぬ顔で完食され……」


 漆黒に染め上げられた床は鏡面のごとく磨き上げられており、黄金色に輝く調度品類もあって、築40年以上を誇るビルの一室に荘厳かつ厳粛な空気を生み出している。

 そんな空間で行うにはあまりにしょうもない……よく言っても、日常的に過ぎる姫君の学校生活報告に、しかし、一秒たりとも遅刻することなく参列している幹部たちは漢泣きを見せていた。


「ヒカリちゃん……あれだけ苦手なブロッコリーを、涼しい顔で食べたか……そうか……」


「なんという心意気……!

 任侠というものは、弱みを見せたら負けだと本能で知っておられるのだ!

 まさに、その身へ流れる龍門の血がなせる業よ!」


「うらやましい……。

 できることなら、わしも護衛として同じ学校に通いたかった!」


「馬鹿を言え!

 とっくに義務教育を終え、しかも性別が違うわしらが私立のお嬢様学校に通えるわけなかろうが!

 こればかりは、リュウカの姉御に任せる他なかろう!」


 床に膝をついたリュウカの周囲で、立ちながら報告を聞いていた組の重鎮たちが口々に言い合う。

 普段ならば、口数を重ね凄味が減るような真似はしない男たちであるが、組のお姫様に関する成長報告ともなれば、話は別である。


「……静かに」


 そんな彼らがピタリと雑談を止めたのは、この場でただ一人、虎の皮の張られた椅子へ腰かける侠客が片手を上げたから。

 それにしても、この老人……絵に描いたようなヤクザがいるとすれば、まさしく彼のこととなるだろう。


 着用しているのは、派手な装飾こそないものの、見るからに高級な布地を使っていると分かる和服。

 やや白髪交じりの髪はオールバックで整えられており、深いしわが刻まれた顔で眼光が鋭く輝く様は、老いた肉食獣そのものであった。


 大極道――龍門カズキ。


 この『龍門会』とそれに連なる下部団体を束ねる組長であり、くぐった修羅場は数知れぬ男である。

 そんな彼が、唯一存在する椅子に腰かけるその姿は、まさしくこの墨田区における王の位を見せつけていた。


「……息子夫婦が、素性の知れねえ組織に放たれた鉄砲玉に殺られて、早六年か。

 おれにとって唯一の肉親である孫娘――ヒカリが健やかに育ってくれたのは、リュウカ姐が護衛として同じ学級に通ってくれたからだ」


「何をおっしゃいます。

 わしからすれば、敬愛する初代組長への恩義をお返ししているだけじゃ。

 それに、何しろ江戸時代生まれじゃから、教育というものを一切受けてなかったからのう……。

 今は、竜馬や利通が作った新しい時代というものを、今更ながらに感じとります」


 膝をついたまま、にかりと笑って答えるリュウカだ。

 余談だが、ここで名が出た竜馬や利通とは、坂本竜馬であり、大久保利通である。

 ごく普通にレジェンドの名が出てくる辺りは、さすが江戸時代生まれの名物エルフであった。


「そう言ってくれると、心強い。

 ……今日襲撃してきたのは雑魚で出自もすぐにサツからタレこまれてきたが、息子夫婦を殺した野郎は護衛を皆殺しにしたばかりか、自分もその場で自決しやがった。

 おまけに、死体をサツが調べても、身元は一切不明ときている。

 こんな凄腕を送り込んできた組織が、それっきりで終わるとは、とても考えられねえ。

 ――リュウカ姐。

 どうか、これからも傍で、ヒカリを守ってやってくれ」


「――応!」


 組長の命令を、リュウカがしかと受け取る。

 これは、今までに何度となく繰り返されてきたやり取り。

 そして、その度にさらなる神聖さをもって誓い直されてきた血の宣誓であった。



 お読み頂きありがとうございます。

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