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極道エルフ ~墨田抗争録~  作者: 英 慈尊


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2/16

白昼の瞬殺劇

 真の侠客が鉄砲玉に狙われた時、待っている結末は二つに一つである。

 すなわち、討たれるか、返り討つか。

 逃げるという選択肢だけは、あり得ない。

 侠客とは心意気と暴力によって成り立つ生き様であり、その両方を欠いていると余人に見せつけたとあっては、これはもう任侠の世界で生きることあたわぬのだ。


「てめえら返り討ちにしたらあああああっ!」


 ゆえに、極道エルフとして知られる矢車リュウカは、即座に戦闘態勢となった。


「矢車流舞闘術(スティング)――調和(ハーモニー)


 深く腰を落とし……いや、これは、蹲踞(そんきょ)のごとき大股開きでしゃがみ込み、両手を左右に広げたのである。

 無論、スカートの下にはブルマを装着しているため、鉄壁の守りを誇ることは言うまでもない。


「さあ、かかってこいやあああああっ!」


 それにしても、見るからに奇怪な構えのなんと隙がないことだろうか。

 リュウカがまとう空気は、ピインと音がしそうなほどに張り詰めており、掌底の形で固められた両手の平は、流れる空気を切り裂いているように見えるのだ。


「う、うう……」


「くっ……」


「ぐ……」


 ギンギラなジャージを着用した男たちは、鉄砲玉であるからには極道の末席であるに違いない。

 だが、極道とひと言に言っても、ピンからキリまで存在する。

 こいつらは、間違いなく――キリ。

 必殺を期して放たれた殺し屋ではなく、敵対組織への日常的な嫌がらせ行為として向かわされた使い捨ての駒だ。


 ゆえに――動けない。

 生で見る極道エルフの凄まじい迫力と殺気に怯え、一歩も踏み出せずにいるのであった。

 もはやこやつら、手にしたドスが竹光のように頼りなく感じられていることだろう。


 だが、襲撃された側であるリュウカが、そのような事情を(おもんばか)る必要など、一切なし。


「こないなら、こっちからいくぞおらあああああっ!」


 むしろ、痺れを切らして自らが突撃したのである。

 そう、突撃だ。

 深く深く腰を落とし、両股と両膝を最大限に曲げての突撃である。

 これが生み出す爆発力は、尋常なものではない。


 ――ダアンッ!


 ……と、舗装が砕け散りそうなほどの勢いで、リュウカの身を射出したのであった。

 その様は、さながら猛禽。

 しかも、この恐るべき肉食鳥類は、空を舞うのではなく地を這うのだ。


「おおらあああああっ!」


 瞬間移動じみた動きで、リュウカが先頭の一人へ迫る。

 そこから放たれるのは――回転蹴り。

 それも、ただの回転蹴りではない。

 横ではなく、縦に回転しての蹴り下ろしなのである。

 曲芸じみた軽やかさで側転を行い、運動量がそのまま乗せられた蹴りを見舞っているのであった。


「――ぐうおっ!?」


 極道と呼ぶのもおこがましい雑魚ごときがこれに耐えられるはずもなく、顔面をしたたかに地面へ打ち据えられ、バウンドして気絶する。

 なんと鮮やかな技のキレ!

 体重も身長も明らかに勝っている鉄砲玉が、ただの一撃で戦闘不能に追い込まれたのだ。

 しかも、リュウカの攻勢はこの一撃で終わらず、流れる水のごとき流麗さでまだ続いている。


「ふうううううっ!」


 今度はベイゴマのごとき回転と共に地を滑り、残る鉄砲玉二人の間へと入り込んだのであった。


「――りゃあああああっ!」


 そして、そこから猛烈な勢いで垂直に跳ぶ。

 無論、ただ跳躍しただけではない。

 地を滑った際の回転力そのままに、スピンジャンプをしたのだ。

 しかも、ジャンプ中、的確に手足が突き出され、両側の男たちへ打ち込まれたのである。

 掌打と蹴りの一発一発が、鉄砲玉たちの急所を射抜く。

 こんなものを喰らっては、たまらない。


「――ぎゃあっ!?」


「――うぐあっ!?」


 もはや哀れと形容すべき鉄砲玉たちは、たちまちの内に意識を失い、その場へ倒れ伏したのだ。


「――しゃあっ!」


 最初の深く構えた姿勢に戻ったリュウカが、力強く叫ぶ。

 まさに、白昼の瞬殺劇と呼ぶに相応しい一幕であった。


 お読み頂きありがとうございます。

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