島原魔界衆
――島原魔界衆!
その名は、歴史の教科書にも記載されている我が国の常識である!
一体、何者であるかといえば……。
「島原の乱で、天草四郎が生み出した狂人たち……」
「はい、よくできました。
歴史の勉強も熱心にやってくれて、先生嬉しいわ」
つぶやくように漏らしたヒカリへ、浦井がからかうように告げる。
「……魔人天草四郎が、呪術と薬学の限りを尽くして強化した腹心たちの名じゃ。
その実力は、まさに一騎当千だったと聞いておる」
補足したのは、調和の構えを維持しながらリーに鋭い視線を向けるリュウカだ。
この場でただ一人、彼女だけは島原の乱における当事者――両親たちと直接面識があった。
「そうヨ。
天草四郎様の妖力とご先祖様たちの活躍もあって、天草軍は徳川なんて目じゃないほどの勢いだっタ。
天海坊がエルフなんてものを召喚しなければ、日本の未来は開けていたヨ」
「抜かせ。
天草四郎が信徒共に与えておったのは、阿片をベースにした麻薬。
そんな連中が日本を支配しとったら、今頃この国は麻薬漬けで溢れかえっとる。
わしの父上や母上たちは、それを未然に防いだんじゃ。
もっとも……」
正体を明かしたのがよほど痛快だったか、舞台役者じみた大仰さで背をそらすリーに、リュウカがじろりとした視線を向ける。
それも、当然のことだろう。
「滅ぼしたはずの連中に、こうして生き残りがおったようじゃがのう」
直接の娘と、何代も隔てた子孫という違いはあった。
しかし、今ここに立っているのは、徳川えるふ軍と島原魔界衆……決して相容れぬ両陣営の後継者たちであるのだ。
「ハハハ、そう簡単に天草の意思は潰えさせないヨ。
ボクの祖先は大陸に渡り、いつか恨みを晴らすその時を待っていたというワケ」
「長いことかけて、牙を磨いておったというわけか。
その殊勝さは、買ってやらんでもない。
実際、お前の積み上げてきたクンフーは確かなもんじゃ」
リーの技前に対し、リュウカが素直な賞賛を贈る。
これは、侠客というよりは武闘家としての本能的な行動であろう。
しかし、続けて浮かべたのは極めて凶暴かつ攻撃的な笑みであった。
「しかし、それも無駄に終わるのだと思えば、むなしいもんじゃのう。
お前は、今日ここでわしに倒され終いを迎えるんじゃ」
「散々追い込まれといてよく言うヨ。
それとも、日本のゴクドーは負け惜しみを言うのが美学なのカ?」
再び両手を構えたリーが、両足の踵を上げる。
バレリーナじみたこの姿勢は、腰を落とした状態のまま相手へ詰め寄るための前動作に違いない。
その姿からは、今度こそ仕留め切るという強い意志が感じられた。
そして、このまま戦いを再開した場合、それが実現するであろうことは明らかなのだ。
「今度は逃がさなイ。
――仕留めル」
「おーおー、吠えよるのう。
こりゃあ、わしも久しぶりに使わねばなるまいよ」
「……ナニ?」
リュウカの言葉に、リーだけでなく浦井も眉をしかめたのが感じられる。
一体、何を使うというのか?
通常ならば、ここで思い浮かぶのは拳銃やドスなど、なんらかの得物であろう。
「……極道エルフがステゴロ専門だっていうのは、有名な話だけど?」
だが、浦井が言った通り、リュウカが俗に言う道具を持ち歩いたことなど、ただの一度もない。
では、何を使うというのか?
その問いに答えるかのように、これまで蹲踞じみた構えだったリュウカが、立ち上がった。
ただし、普通に立ち上がったわけではない。
左の片足立ちとなったのだ。
空いた右足は膝を折り曲げるようにして持ち上げられ、両腕はボクシングスタイルの構えを取っている。
一見すればムエタイのそれに似た構えであるが、ジャンパースカートの裾をまくり上げ、中のブルマが丸見えになるほど右膝を高く上げているのが、明確な相違点であった。
これは……。
この構えは……!
「矢車流舞闘術――獄蝗」
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