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極道エルフ ~墨田抗争録~  作者: 英 慈尊


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劣勢

 ――矢車流舞闘術(スティング)


 その名から分かる通り、かつて天海坊の求めに応じてこの世界へ召喚されたエルフ戦士の一人――リュウカの父が生み出した一子相伝の格闘術である。

 骨子となっているのは、彼が生まれた異世界における格闘技。

 とりわけ、調和(ハーモニー)と名付けられたこの闘法は、地球の格闘術と似ても似つかぬ奇妙な代物であった。


 何しろ、明らかに姿勢が――低い。

 蹲踞(そんきょ)のごときこの構えは、ゴブリンなど異世界に実在する低身長の怪物へ、素手で対抗するための格闘術が基となっているからだ。

 そこから繰り出されるのは、狩猟性の獣じみた低い位置からの連撃。

 これを、演舞のごとき流麗さで叩き込んでいくのが、調和(ハーモニー)の真骨頂なのである。


「――しゃあああっ!」


 昼間の鉄砲玉たちを返り討ちにした時と同様、解き放たれたベイゴマのごとき円弧を描きながら、リュウカが中国男へと襲いかかった。

 威嚇する蛇の吐息じみた叫びと共に放たれるは、超低空の蹴り。

 横なぎの回転蹴りは、さながら草を刈り取る鎌のような鋭さである。


「――ハッ!」


 これを中国男は、バックステップによって回避。

 並の使い手であるならば視認することすらかなわないところであったが、表情の余裕さを見れば、的確にリュウカの動きを見切っていることは明らかだ。

 だが、調和(ハーモニー)の売りは、止まることなき連撃にある。


「りゃあああああっ!」


 裏拳、後ろ回し蹴り、手刀。

 やはりコマのごとく回転しながら続く一連の攻めが――届かない。


「シッ! シッ!」


 五指を握り込むことなく中央へ固めた奇妙な構えの両手によって、いずれもが受け流されるのであった。

 いや、それだけではない。


「――甘いヨ!」


 手刀に続いて再び放たれた右の後ろ回し蹴りが、同じく横なぎ気味で放たれたローキックにより、弾き返されたのだ。


「――ぬうっ!?」


 ローキックの勢いは殺さず、むしろ利用する形で円弧を描き、リュウカが一度距離を取る。

 一度攻勢に出たリュウカが退がることなど、通常ならば考えられない。

 つまり、この中国男はそれほどまでの実力者ということであった。


「ハハハッ!」


 攻守逆転ということだろう。

 中国男が、後退するリュウカに向かって襲いかかる。

 特徴的なのは、やはり両手の構え。

 五本の指を中央一点に固めた形で、わずかに持ち上げる。

 そこから放たれるのは、猛烈な――突き。

 しかも、直線ではなく、わずかに抉るような挙動となっているのだ。

 その様は、獲物を仕留めんとするカマキリが想起されるものであった。


「シッ! シッ! シッ!」


「ぬうううううっ!?」


 人間の手で放たれているとは思えぬ鋭さの突きが、リュウカの整った顔へ次から次へと襲いかかる。

 それをリュウカは、大股開きの低い姿勢のまま、両手で捌き続けていたが……。

 中国男の狙いは、別にあった。


「――ハアッ!」


 リュウカの意識が十分に突きの連撃へ向けられたところで、腹に向けて前蹴りを放ったのだ。


「――おごっ!?」


 俗に言うヤクザキックじみた一撃は、リュウカの腹へヒット。

 極道エルフの軽い体を、一気に二メートル近くも蹴り飛ばす。

 それで倒れることなく、戦闘姿勢のまま着地したのは、リュウカの意地がなせる業か?

 そうではない。

 リュウカは蹴りが触れる直前、自ら後方へ跳躍することにより、威力を最小限まで殺したのだ。

 そして、足を止めての重い蹴りを放った中国男は、更なる連撃を中断せざるを得なくなったのである。


 リュウカの機転により、この攻防は一旦、仕切り直しの局面を迎えたと言ってよい。

 とはいえ……。


「ハハハ!

 噂のゴクドーエルフも、大したことないネ!

 先祖の恨み、晴らさせてもらうヨ!」


 奇妙な形の両手を構えた中国男が、勝ち誇った笑みとなった。

 彼が言う通り、戦局は明らかにリュウカが不利と見てよい。


「ぐっ……」


 その証拠として、調和(ハーモニー)の構えは維持しつつも、苦悶の表情となっているのだ。

 威力を殺したと言っても、蹴りが命中したことに変わりはない。

 腹に打ち込まれた一撃は、リュウカの内臓へしっかりとダメージを与えているのであった。


「さっきも言ってたけど、一体、リュウカちゃんになんの恨みがあるの!?」


 ヒカリが叫んだのは、そんな彼女を支援できればと思ってのこと。

 中国男が自分の質問に答える間、少しでも息を整えてほしいと願ってのことである。

 すぐ近くの浦井が自分を拘束するでもなく、ただ黙って見ているだけなのは、それだけ中国男の実力を信頼しているからであろう。


「ふふン。

 いいヨ。教えてあげるヨ。

 何も知らないままで倒しても、先祖が満足しないだろうしネ」


 中国男本人もこれに乗ってきたのは、勝利の確信を得ているからこそ。

 ゆえに、自らが何者であるかを、名乗ってみせたのだ。


「ボクの名前は、リー・シンユー。

 かつて、お前たちエルフが滅ぼした島原魔界衆の子孫ヨ」

 お読み頂きありがとうございます。

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