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#1 師匠、襲来

アシュガ歴紀元前

世界は邪神の瘴気により、魔獣が大量発生し、その脅威が人々の生活を苦しめていた。

そのような現状を打破すべく、のちに『5英傑(サンクヘルト)』と呼ばれる英雄たちが立ち上がった。

その後、長きにわたる戦いの末、『5英傑(サンクヘルト)』とその従者たちにより邪神は封印され、人々の平和が訪れた。

アシュガ歴紀190年    

そこは王都から遠く離れた場所にあった。木々が生い茂り、陽の光が届かず昼でも暗く常に霧に覆われている『暗影(あんえい)の森』。

言い伝えでは、森には当時魔獣に惨殺された冒険者や傭兵が幽霊となって化けて出ると言われており、たびたび奇妙なうめき声や女の悲鳴のような声が聞こえてくると地元の人間に恐れられている。

そんな陰鬱とした森に1人の女性が訪れた。年齢は20代半ばだろうか、陽の光が全く届かない森の中でも輝いて見える程の綺麗な金色の長い髪。そして頭には帽子をかぶり、黒いドレスを身にまとっている。

歩くたびに女性のハイヒールによる足音だけが静寂に響く。しばらくすると、どこからか何か聞こえる。それは男性のような女性の声のような、不気味な声で何か言っている。

『カエレ・・・カエレ・・・・・・』

不気味な声が聞こえる中、女性は何食わぬ顔で進み続ける。

歩き続けていた女性はピタリと立ち止まり、近くにあった切り株に手を添えて何か唱える。すると、徐々に霧が晴れて少し離れた先に光が見える。女性は光の方へ歩き始めた。そこには1軒の小屋が立っていた。周辺には畑や井戸があり、人の暮らしている痕跡が見て取れる。

女性はコンコン、と数回ドアをノックするが反応がない。女性は躊躇(ちゅうちょ)なくドアを開ける。

そこには1人の青年が寝ていた。女性はため息をついた後、深く息を吸って怒気を含んだ大きな声で青年を起こす。

「起きなさーーーい!!!ガウスーーー!!このバカ弟子ーーーーーー!!!!!」

その声に驚いた青年はベッドから転げ落ちてしまった。

青年ことガウスは飛び起きて何度も目を擦り、女性を見る。

「な、なんでミリナ師匠がここにいるんですか!?」

ガウスの目の前にはムスッとした顔で腕組みをしている師匠のミリナが立っている。

「それはあなたがぐうたらと自堕落な生活をしているって聞いたからに決まっているでしょ!!」

大きな声でミリナが答える。

「最初聞いた時は信じられなかったけど、この森の結界魔術で確信したわ・・・」

ミリナは頭を抱えてため息をつきながら言った。

ミリナは5英傑(サンクヘルト)の1人で別名『乖離(かいり)の魔女』と呼ばれ、魔術の知識、実力は世界随一とされている大魔術師である。

そんな彼女の1番弟子である従者筆頭席官がガウスである。ガウスは邪神封印時にも同行した実力者で、その後ミリナの許可を得て1人でも多くの人を助けるために旅に出た・・・()()()()()

「違うんです師匠!俺は自堕落な生活なんてしていません!!」

ガウスはまっすぐな瞳でミリナを見つめ、力強く弁明する。

「・・・それじゃあ、どのような生活をしていたの?」

ミリナはガウスの力強い声に少しドキッとしながら尋ねた。

「俺は好きな時に起きて、食事をして、魔術の本を読んで、寝るという自然的で本能的な人間味のある生活を送っていただけで、決して自堕落な生活は送っていませんっっっ!!!」

ガウスは凛とした表情で言い放った。そんなガウスの弁明を聞き、ミリナは身体をわなわなと振るわせている。

「それが自堕落な生活だって言ってるのよ!!」

再びミリナの怒声が小屋に響く。

「あなたは5英傑サンクヘルトである私の従者筆頭席官なのだから人々を魔術で救うという責務を全うしなさい!!!」

それを聞いたガウスは少し驚いたようで、

「・・・あれ?俺が旅に出てずっと音信不通でしたよね?俺はてっきり解任されて、従者筆頭席官は別のやつに任命してると思ってたんですが・・・・・」

それを聞いたミリナは慌てた様子で

「そ、そんなことはしません!!あなたはずっと()()一番弟子で従者筆頭席官なので解任なんて絶対にしません!」

鼻息を荒げてあたふたしながら言った後、我に返りコホンと咳払いをして、落ち着いた声でガウスを(さと)す。

「ガウス、あなたの実力は私と遜色ないのですから、なおさら自堕落な生活をしているのが許せないのです。その力で人々に貢献しなさい」

「師匠、俺を評価して頂けるのはうれしいですが、俺が師匠と遜色ないは言い過ぎですよ。俺はそんな優秀じゃありません」

「それに俺は今の生活が性に合っているんですよ。なので俺は従者筆頭席官は引退してこのまま森でまったり暮らしますよ」

それを聞いたミリナの中でブチン、と何かが切れた。

「そうですか。わかりました。それではガウス、こちらを読みなさい」

ミリナがテーブルに一枚の羊皮紙を置いた。

ガウスは羊皮紙を手に取り、書かれた内容を読んでへぁ?と間の抜けた声を出す。

書面の内容はガウスを王立フィリード魔術学院の教師に任命すると記されており、文章の最後には王印がある。つまり、王命に他ならない。

「あ、あのー、お師匠様ぁ~・・・?これは何かの間違いですよね・・・・?」

青ざめた顔をしたガウスがガクガクと震えながらミリナに問いかける。

「間違いではありません。これは国王様から直々の勅命です。もし拒否するようなことがあれば国家反逆罪で処刑ですね」

冷ややかな笑顔のまま抑揚のない声で淡々とミリナが告げる。

「そ、そんな・・・まじかよ・・・・」

ガウスは膝から崩れ落ち、四つん這いになってうなだれてしまう。

「・・・・ところでこの王立フィリード魔術学院ってなんです?昔はなかったですよね?」

顔をあげたガウスがミリナに尋ねる。

「王立フィリード魔術学院は80年ほど前に魔術の発展と後進の育成のために設立されたのよ。昔に比べて平和になったから、これ以上魔術師が人材不足にならないようにね」

魔獣の脅威が減るのと比例して、魔術師も当時に比べて減少している。魔術は戦闘だけでなく生活基盤として重要な役割も担っているため、人材不足は重要な課題である。

「そうなんですか・・・まあ魔術学院ってことなんで魔術関連の書籍や論文はありそうだし、なんとかなるかなー・・・。ところで、赴任時期とか何も書いてないですけど、いつからなんでしょうね」

よいしょ、とガウスが立ち上がりながら言った。

「ああ、赴任は3日後からね。荷物をまとめて今から私と王都に行くわよ」

それを聞いてガウス思考が止まる。

(え・・・・?今から・・・・・・?)

「ほら、必要最低限の荷物準備しなさい!あと15分で出発するわよ!」

それを聞いたガウスはドタバタと急いで荷造りを始める。2つのトランクの中に必要最低限の衣類や食料、そして魔術書や研究論文などを積み込んで荷造りは完了した。

ガウスは念のために、と王都に向かう前に小屋の周辺に結界魔術をより強力なものに再構築し、飛行魔術でミリナの屋敷へと向かった。

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