表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【わたしの母は誰なの?】婚約破棄された孤児のアテネは、魔道具屋の息子と結婚しなくなったので魔法学院に進学することにした。  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/43

第6話 アテネ、魔術学院の生活

『銀のアテネと魔道具の街』


―寮生活と学びの日々―



ベル=グラン魔術学院に入学してから、アテネ=グレイは目まぐるしい毎日を過ごしていた。


授業に寮生活、新しい人間関係――全てが初めてで、けれど全てが胸を躍らせた。丘の上にそびえる学院の尖塔、白い大理石の外壁、そしてそこに集う貴族の子女たち。その中に、自分がいるという不思議さは、まだ完全には実感できていない。



それでも、アテネは毎朝、目を覚ますたびに思う。


(夢じゃないんだ)



朝、寮の大きな鐘が鳴ると、共用スペースにカテリー二とパトラが揃うのが日課だった。



「おはよう、アテネ」


「ん……朝からいい天気ね。今日は魔道具基礎の実習かしら」



「おはようございます!」



アテネは慌てて制服の襟を正し、二人の隣に座る。まだどこか緊張が残っていた。名門の令嬢たちと同室という現実に、慣れたようで慣れきれていない。


だが、彼女たちが決して高慢なだけの少女ではないと、この数日で理解できていた。



たとえばカテリー二。公爵家の令嬢でありながら、アテネが机の角に足をぶつけたときは、真っ先に薬草クリームを取りに行ってくれた。



「痛っ……」


「まったく、もう。足元見なさいな。はい、これ塗っておきなさい。傷跡になると台無しよ?」


 

それにパトラも、授業でアテネが質問につまずいたとき、さりげなくノートの端に図を書いて見せてくれた。



「ここ。魔法陣の繋ぎ目に意識を集中させると、術式が安定するわ」


「えっ……あっ、本当だ。ありがとうございます!」



「別に……気にしないで。わたしだって最初は苦労したから」



パトラの声には、どこか冷静さと温かさが混じっていた。



寮での生活は、学院のもう一つの教室だった。


三人はそれぞれ、勉強スタイルも生活リズムも違うが、不思議とうまくやっていた。共用スペースでは、カテリー二が紅茶を淹れ、パトラが書物を読む傍らで、アテネがこっそり魔道具の組み立てをしている。



「その金具、逆向きじゃない?」


「えっ、うそ、また?」


「ふふ……アテネ、いくつ同じ部品壊すつもり?」


「ちょっとした失敗は大発明の種なんですー!」



笑いが絶えないというほどではないが、温かい空気がそこには流れていた。


 

授業は想像以上に難しかった。


特に、魔法理論と古代文献の解読は、アテネにとって鬼門だった。貴族の子女たちは、幼い頃から家庭教師の指導で基礎を叩き込まれている。一方アテネは、耳慣れない言葉や式の意味を、寝る前に一つひとつノートに書き出して覚える日々。



「このラテン文字って……呪文の語源なんだ……」



夜遅く、ベッドのカーテンを閉めた小さな空間で、アテネはこっそり魔法書を読んでいた。


寮内はすでに消灯時間。パトラの寝息が聞こえる静けさのなか、アテネはランタンの光を頼りに勉強を続ける。



(がんばらなきゃ……わたし、ここで落ちこぼれるわけにはいかない)



それは焦りではなく、意志のようなものだった。


アテネはまだ、自分の出自を二人に話していない。


孤児であること、貴族の血を引いていないこと、学院に入れたのはある特別な支援によるものだということ――


話せば二人はどう思うだろうか。


けれど、今はその必要がないと、アテネは思っていた。


(だって、今は“同じクラスメイト”だもの)


ある日、魔道具基礎の実習授業で、クラスは小さな演習を行っていた。


“動力石を使った光球の生成”


簡単そうに見える課題だったが、魔力の均衡と集中が試されるため、初学者にとっては難しい。


「んんん……光らない……」


アテネが苦戦していると、斜め後ろからカテリー二が顔を覗かせた。


「アテネ。力の入れ方が雑よ。もっと“流す”感覚で」


「……あ、うん! やってみる」


目を閉じて、呼吸を整え、魔力を石にゆっくりと注ぐ。


次の瞬間、小さな白い光球が手のひらの上にぽっと浮かび上がった。


「……できた……!」


「ふふ、おめでとう。最初の光は忘れられないものよ」


「ありがと、カテリー二さん!」


その夜の夕食後、アテネは共用スペースのソファでぼんやりと光球の感触を思い出していた。


パトラが、読んでいた本から目を上げる。


「何を考えてるの?」


「んー……あの光、ふしぎだったなって。あったかくて、きれいで……なんだか、魔法ってすごいって、改めて思ったの」


「魔法は生き物みたいなものよ。操ろうとすると拒むけど、寄り添うと答えてくれる」


「うわ、詩人みたいですね。

 

「……別に。経験則よ」


そう言ってそっぽを向くパトラの横で、カテリー二がくすりと笑った。


「いいこと。魔法も、友情も、焦らず育てるものよ」


「友情も、ですか?」


「ええ。すぐには気づけないもの。でも、あなたがここにいて、私たちと同じように学んでいる。それだけで、十分よ」


アテネは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


(いつか……本当のことを話せる日が来るのかな)


そう思いながら、彼女はそっと頷いた。


「ありがとう。ふたりとも……わたし、ここでがんばるね」


「ふふ、当然でしょ? わたしたちのルームメイトなんだから」


「甘えすぎないようにね」


紅茶の香りがほんのりと漂う、夜の共用スペース。


そこは、三人だけの静かな学び舎だった。


まだ始まったばかりの寮生活。


けれどその中で、アテネは少しずつ、大切な何かを育てていた。


魔法と、夢と、そして――


新しい「居場所」を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ