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【わたしの母は誰なの?】婚約破棄された孤児のアテネは、魔道具屋の息子と結婚しなくなったので魔法学院に進学することにした。  作者: 山田 バルス


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第26話 アテネ、後見人のおじいさまに会う。

――祝典の朝・続き――

 王城へ向かうはずの馬車は、なぜか王都の大通りを抜け、商業地区の一角で止まった。

 アテネは小さく首をかしげる。


「えっと……ここは……?」


 御者は恭しく帽子をとり、深く一礼した。

「この先にて、お主人さまがお待ちでございます」


 おじいさまが、城ではなくこんな場所で?

 疑問が頭をよぎったが、御者の穏やかな口調に押され、アテネは黙って従った。


 賑わう通りを抜け、煉瓦造りの重厚な建物へ。

 中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返る。

 赤い絨毯の廊下を、コツ、コツと靴音だけが響いた。


 やがて御者は、廊下の奥の一枚の扉の前で立ち止まった。

「この先に、お主人さまがおられます」


 アテネの心臓は、ドクン、と大きく跳ねる。

 ――ついに、会えるんだ。ずっと手紙だけで支えてくれた人に。


 深呼吸をひとつして、扉の取っ手を握る。


 ギィ……と扉を開けた瞬間――


「……えっ?」


 そこにいたのは、金色の髪を光らせる、あの人――


「レオナルドさん……?」


 思わず声が震えた。

 王都の魔道具研究所の所長であり、カテリー二の叔父。

 そして――先日、自分に「結婚してくれ」とプロポーズしてくれた愛しい人。


 どうして? おじいさまは?

 混乱するアテネに、レオナルドは柔らかく笑った。


「アテネ、久しぶりだね」


「……はい。でも……おじいさまは? わたし、ここで後見人と待ち合わせを……」


 すると、レオナルドは一歩こちらへ歩み寄り、真剣な表情になった。


「……すまなかった」


「え?」


「君があんなに悩んでいたことに、気づかなかった。ごめん」


 低く落ち着いた声に、アテネの胸がざわめく。

 レオナルドはしばし黙り、そして深く息を吸い込んだ。


「……アテネ。実は君が――おじいさまっていっている人は、僕のことなんだよ」


「……えっ……!?」


 頭が真っ白になった。

 わたしを学院に通わせてくれた後見人……ずっと会いたかった人……それが――


「本当に……レオナルドさん、なの?」


「ああ。まさか、支援している君に姪にあるという口実で会いに行き、そして、君をこんなにも愛してしまうことになるとは、思いもしなかったがね」


 アテネの頬が一気に熱くなる。

 そうだ、あの手紙……あの中に、わたしは――


「……あの、わたしが書いた……レオナルドさんへの気持ち……読まれましたか?」


 レオナルドは、ほんの少し目を伏せてうなずいた。

「読んだ。だからこそ、どう謝ればいいか迷っていたんだ」


「……」


「君が孤児で平民であることを、そんなに気にしていたなら……もっと早く会うべきだった。素性を知った上で、それでも僕は――君を妻にしたいと言うつもりべきだった」


 真っ直ぐな眼差しに、アテネの胸が熱くなる。

 レオナルドは一歩、また一歩と距離を詰め――


「アテネ、改めて言わせてほしい」


 その瞳は、誠実さと愛情で揺るぎなかった。


「君を愛している。僕と結婚してほしい」


 アテネの視界が、じわりと涙で滲む。

 胸に溜まっていた不安も、孤児という出自への劣等感も――彼の言葉で溶けていくようだった。


「……はい」


 声は涙で震えていたが、迷いはなかった。


 次の瞬間、レオナルドは穏やかな微笑みを浮かべ、アテネの手をそっと包み込む。

 温かく、大きな手――その温もりに、アテネは確信する。

 ――もう、一人じゃない。


 外の喧騒も、この瞬間だけは遠く感じられた。


 二人を包む静かな空気の中、新しい未来が、静かに動き出していた。

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