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【わたしの母は誰なの?】婚約破棄された孤児のアテネは、魔道具屋の息子と結婚しなくなったので魔法学院に進学することにした。  作者: 山田 バルス


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閑話4 トミー編 トミー、大ピンチ


―― 王宮の影にて ――


 王都に戻ってから数日が経った。


 トミー=クルールは、王宮内に残された古文書や記録を地道に読みあさっていた。情報のほとんどは断片的で、直接的な証拠にはならないものばかりだったが、その中でもひとつだけ、どうしても無視できない名前が何度も登場していた。


 ――アルベルト=フォン=クロイツベルグ。


 王宮の宰相を長く務めていた人物であり、今はすでに亡くなっている。その名が記された記録には、かつての王宮人事や、内部の機密指令、そして一部の私的な書簡の記録も含まれていた。


 そして、トミーはその中に、見過ごせない一文を発見した。


《S案件。対象:A・G。処理者:A・F・K。記録は機密保持のため抹消済。》


 この短い文章が、彼の中でつながっていった。


 A・G――アテネ=グレイ。


 A・F・K――アルベルト=フォン=クロイツベルグ。


 そう、アテネ=グレイと関係を持った人物は、当時の宰相にして、現在のレオナルド=ハイル……本名、レオナルド=フォン=クロイツベルグの実の父だったのだ。


「……やっぱり、そういうことか」


 トミーは小声でつぶやいた。宰相が王宮の侍女と関係を持つこと自体、決してありえない話ではない。しかし、それが公にならず、記録まで消されているということは――そこに深い事情があったということだ。


 もしかすると、アテネは子を身ごもったのかもしれない。それが知られてはまずい何かだったのか。


 その真実を知っていたからこそ、彼女は消された。


 しかし、それならばなぜ、グレイ伯爵家に戻ってからも痕跡が徹底的に消されていたのか。何かを隠すためなのか、あるいは――。


 考えても答えは出なかった。だが、確かに糸は繋がってきている。レオナルドにはショックが大きいだろうが、学院にいるあの少女は、実はレオナルドの妹の可能性が高い。99%の確率で妹だろうな。


* * *


 その日の午後、トミーは再びレオナルドの研究所を訪れた。


 入口の扉をノックすると、前と同じ助手が顔を出す。


「あっ、トミーさん。先生はまだミコノス島です。お戻りは……早くてもあと数日かかるかと」


「そうか。なら、これを渡しておいてくれ」


 そう言って、トミーはひとつの封筒を差し出した。封はロウで固められ、特定の手順で開かないと中身は読めない仕組みになっている。さらに、手紙の中身は暗号で書かれていた。内容が漏れたとしても、読み解けるのはレオナルド本人だけだ。


 「宰相とアテネ=グレイ」「削除された記録」「A・F・Kの関与」――これらを簡潔に書き、調査を続ける旨を伝えていた。


「本人以外には開けられないようにしてある。必ず、レオナルドに手渡してくれ」


「わ、わかりました」


 助手は少し緊張した様子でうなずき、封筒を大事そうに持った。


* * *


 その日の夜、トミーはさらに調査を進めるため、ある人物と連絡を取っていた。


 二十年前の王宮時代を知る、元侍従長のマルセロ=ダインという男だった。


 現在は引退し、王都の外れで隠居生活をしていると聞いたが、王宮内の複雑な人間関係や事件の裏をよく知る人物でもあった。何より、アテネ=グレイが在籍していた頃の王宮にいた数少ない生き証人のひとりだ。


 トミーは、マルセロからの返事を受け取り、ある小さな裏通りの礼拝堂で待ち合わせをすることになった。


 時間は夜の八時。人気の少ない場所だったが、マルセロの希望でもあった。


 その理由は――「誰かに見られたくない話がある」ということだった。


* * *


 待ち合わせ場所に着いたトミーは、礼拝堂の石段に腰を下ろしていた。


 街の灯りは届かず、周囲は静まり返っている。遠くでフクロウの鳴き声が聞こえる以外は、風の音と自分の足音しかなかった。


 やがて、足音が聞こえてきた。


 しかし――その瞬間。


 トミーの背後で「カンッ」という金属音が響いたかと思うと、突然、頭に強い衝撃が走った。


「……っ!」


 意識が一瞬で暗転する。地面が遠のいていく感覚と、どこかで誰かが笑ったような気配が混ざり合う。


 倒れ込む瞬間、トミーは口の中に血の味を感じた。


「ま……ずい……」


 視界がゆがみ、世界がぐらぐらと揺れはじめる。


「こ……殺される……」


 彼は確信していた。誰かが、この真実を探ることを恐れている。


 そして、その“誰か”は――本当にアテネ=グレイを消した黒幕かもしれない。


 重くなるまぶたの中で、最後に見えたのは、夜空に浮かぶかすかな星の光だった。


 そうして、トミーは完全に意識を失った。


 その場に、彼の名前を呼ぶ者は、誰一人としていなかった。

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