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【わたしの母は誰なの?】婚約破棄された孤児のアテネは、魔道具屋の息子と結婚しなくなったので魔法学院に進学することにした。  作者: 山田 バルス


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第10話 アテネ、湖でバーベキューを楽しむ


―― 湖畔の休日、揺れる心――


 表彰式から、二週間が経った頃のこと。


 その日、女子寮のラウンジでは、アテネとカテリー二が紅茶を飲みながら、魔道具雑誌を広げて談笑していた。そこへ、ふらりとパトラが入ってくる。


「ねえ、今度の週末の予定、決まってる?」


 パトラがそう言うと、カテリー二がふと思い出したように顔を上げた。


「そういえば、ロドスお兄様に、また会うって言ってたわよね?」


「うん。ギルベルトも一緒に。ちょっと郊外の湖まで行く予定なの。馬車で三十分くらい」


「へえ……湖、素敵ね。……ねえ、私たちも一緒に行ってもいい?」


 パトラは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んでうなずいた。


「もちろん。ギルベルトに伝えておくね。アテネも行こうよ」


「えっ、わ、わたしも?」


「当然じゃない。せっかくのお休みだもの。羽を伸ばさなくちゃ!」


 カテリー二がうれしそうに笑い、アテネは少し戸惑いながらも、うなずいた。


「じゃあ……お弁当、私が作ってもいいですか?」


「おっ、いいねそれ!」とパトラが笑顔で親指を立てた。


 * * *


 週末。天気は快晴。


 五人を乗せた馬車は、緑に囲まれた湖へと向かって進んでいた。


 目的地の湖は「セレス湖」と呼ばれ、澄んだ水と白い砂浜が美しい避暑地だ。岸辺には簡易テントが設営され、すぐそばにバーベキュー用の焚き火台やベンチが並んでいる。


「うわあ……ほんとに綺麗!」と、アテネは目を輝かせた。


 銀髪が風にふわりと舞い、カテリー二の金髪やパトラの青い髪も、太陽の光に照らされて輝いていた。


 男子ふたりはボートの準備をしながら、ギルベルトが気さくに声をかける。


「パトラ! あとで一緒に漕がない? アテネちゃんたちは日よけの下で休んでていいからさ」


「いいわよ。……でも私、あんまりうまくないけど」


「大丈夫、ボクがフォローするから!」


 二人はそのまま、湖のほうへとボートを運んでいった。


 残った三人――アテネ、カテリー二、そしてロドスは、テントの下でクッションに腰掛けながら、冷たい飲み物を片手に談笑していた。


「……あのふたり、仲が良いわね」とカテリー二がぽつりと呟く。


「ええ、なんだか見ていて、こっちもほっとします」


 アテネがにこりと微笑むと、隣でロドスが目を細めてうなずいた。


「ギルベルトは口は軽いけれど、信頼できる男だ。パトラにも合っていると思う」


 その言葉を聞きながら、カテリー二はちらりとロドスを見上げた。


「……私にも、そう言ってくれるのかしら?」


「え?」


 アテネが驚いてカテリー二を見る。けれど、彼女はごく自然に笑っていた。


「ロドスお兄様、どう? わたしの水色のワンピース、ちゃんと似合ってると思う?」


「もちろん。とても……綺麗だよ」


 優しい声が返ってくる。だが、そのまなざしは――どこか、アテネの方へ向いている気がした。


 (……あれ?)


 アテネは少し視線をそらし、手にしたレモネードを口に運んだ。


 その後、全員でバーベキューを楽しみながら、笑い声がテントの外にまで響いた。


「アテネの焼いたコーン、美味しすぎる……!」


「肉ばっかり取らないで、ギルベルト!」


「ロドスお兄様、それ焦げてる!」


 湖の風に髪が揺れ、火のはぜる音と、仲間たちの笑い声が混ざって、どこまでも幸せな午後の時間が流れていく。


 * * *


 その夜。


 女子寮に戻ったアテネは、着替えを終えると、机に向かい、ペンを手に取った。


親愛なるおじいさまへ


 今日は、湖に行ってきました。パトラさんとカテリー二さんと一緒に、ロドスさまやギルベルトさんと、ボートやバーベキューをして遊びました。


 風が気持ちよくて、湖の水もとても綺麗で……まるで、夢みたいな時間でした。


 パトラさんとギルベルトさんは、なんだかとってもお似合いで、ふたりの笑い声を聞いているだけで、わたしも幸せな気持ちになれました。


 ロドスさまやカテリー二さんとも、いろんなお話をしました。


 ……わたし、まだよく分からないけれど、人の気持ちって、魔道具よりももっと複雑で、でもきっと、とても大切なものなのかもしれません。


 少しずつ、わたしも大人になっていけるでしょうか?


 まだ見ぬおじいさまに、お会いしてお礼を伝えたいです。


 どうかお身体を大切に――また、お手紙書きます。


アテネ=グレイより


 手紙を書き終えると、アテネはそっと窓を開けた。


 夜の王都には、たくさんの灯りがまたたいている。


 そこにはまだ、知らないことがいっぱいある。


 でも――今なら、胸を張って、少しだけ前を向ける気がした。


 それは、魔道具では測れない“心の光”だった。

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