王女の護衛をやめるには
ふんわり話です〜よろしくお願いします!(´∀`*)
誤字報告ありがとうございます!
10/5日刊一位になってました〜〜!!Σ(´∀`)
スゴイ〜!!ありがとうございます!!感謝ですー!!(=´∀`)人(´∀`=)
「またなの?」
カトレアはため息をついた。
婚約者から夜会のエスコートキャンセルの知らせがあったからだ。
カトレアの婚約者は近衛騎士。王女の護衛をしている。
婚約者——レイモンドは、美男だ。
絶世のと言ってもいい。なんちゃらの騎士様だとかその美貌を讃える二つ名はない。レイモンドが美しいものの修辞となっている。
「このお花はレイモンド様ですわ〜」
「今日のあなたってばレイモンド様ね!」
という具合。
同世代の同名者は改名を希望し、上の世代の同名者はえっそれってワシかなワシかな〜wwと、おっさんジョークのネタにした。
そんなレイモンドは、王女の護衛だ。
数人いる護衛の中でもお気に入りで、夜会などでもカトレアを差し置いて王女のエスコートをしている。
職務だからと言われればそれまでだが、護衛となってからこっち、茶会や夜会、デートなど、二人で過ごす予定は悉くキャンセルされ、埋め合わせをする約束も反故にされている
どういうつもりかしら。
出向いた夜会で、カトレアは考えている。
エスコートは従兄弟に頼んだ。欠席はできなかった。件の知らせには、エスコートできない旨と共に、必ずくるようにと記されていたからである。
見せつけるためとしか思えない。
王女とレイモンドはぴったりと張り付き、レイモンドはこちらを無視。王女は時折壁の花のカトレアを——従兄弟はとっとと友人と話しに行った——見ては、嫌な笑いをしている。
クソビッチめ……。
カトレアはうんざりする。
王女はレイモンド以外にも美男を護衛としてはべらせており、彼らは寵を競うように王女につき従っている。
全員クソでは?
元々幼馴染で仲の良かった二人。愛し愛される夫婦になるのだと思っていた。レイモンドの美貌から難癖をつけられることも多かったが、「レイモンドが私がいいって言ってるんですけど?は?は?」と歯牙にもかけなかった。
しかし今や周囲のプークスに抗じるにもそれは我が家門に対する侮辱ですの?がせいぜいだ。ぐぎぎ。
もしも彼が本当に王女に心をうつしたなら、この状況が続くようなら———……考えねば、ならない——……
「美しいあなたを放っておくなんて、彼も罪なことをするね」
突然金髪の美男が話しかけてきた。
王子である。王女の兄だ。気安い。
「これは……。殿下、お声がけ頂き光栄です。
彼も職務のためですから、仕方がありませんわ」
すっ…と、半歩はなれる。この王子近い。
「妹がすまないね。君を悲しませるなんて……」
すっ…と、王子が半歩よってくる。そう思うなら妹しつけろや。あと近い!!
「職務ですから」
「交代もいるのに、妹のそばを片時も離れないのは彼なんだよ?
不実な婚約者を一途に思う——なんて健気なんだ。
どうかその涙をふかせてくれないか」
指先がカトレアの頬にのびる。
「まあ!勿体無いお言葉……。赤くなってしまいます」
頬を押さえるフリですかさずガード。
「お名残惜しいですがエスコート役の従兄弟が今日は不調とのことで「では君は私と残って」早く帰るよう父母にもいいつけられておりますの!ごめんあそばせ!!」
カトレアは逃げた。従兄弟をとっつかまえて馬車に飛び乗る。
「不敬になるから言えないけどくっそきもかったわ!!」
「言ってんじゃんよ!ごめんて〜!!」
「あの方、冷遇されてる女を見つけては慰めるふりして食い散らかしてるって噂本当なんだわ」
「ヒエー!!しかしいいのかよレイモンド。王子殿下に冷遇認定されるくらいなんだろ?おれも毎度引っ張り出されるのごめんだぜ」
「それはそうだけど……」
ふ、とカトレアは気づいた。
王子はくそきもかったが、王子ゆえにはっきりと断ることができなかった。権力。
では、レイモンドは?
職務中のレイモンドは、基本無表情だ。
カトレアも、王女べったりのレイモンドを見るのが辛く、注視してこなかった。
カトレアは悩んだ。
これはもしや——……
「お久しぶりですわ」
「仕事続きですまない」
「レイをお借りしちゃってごめんなさいね」
ここはなんと王宮である。
婚約に関して話があるから必ず来いと、親の名も出し知らせを送ったところ、王女から呼び出されたのだ。
茶会のていをとってはいるが、王女とレイモンドは2人で長椅子に座りべったり張り付いている。対面にぽつんとカトレア。
「婚約に関してお話があるんですって?
ようやくレイモンドを解放する気になりましたの?愛のない結婚なんて虚しいだけですもの。ねえ?レイ?」
「はい……」
「レイは私に夢中なの。ねえ、レイ?」
「殿下は…素晴らしい方ですから……」
「はあ」
これは……どうなんだ?
二人は見つめ合いいちゃいちゃしている。
上司のセクハラを拒否できないのではなく、本当に心をうつしたのか?
カトレアは手持ち無沙汰なふうに、匙を左に二回右に一度まわした。
「!!!」
レイモンドがはっとし、顎へ二度手をやった。
これは2人の間の暗号である。
幼馴染の二人は、子供の頃から共に過ごした。
親同士の話の間、黙っていなければいけない時がある。そんな退屈な時間、あるいは大勢での茶会などで、人目を引かずに2人きりの会話をするため、ちょっとした目立たない仕草に意味を決めた。
密かな会話を楽しんでいたのだ。二人は真実仲が良かったのである。
長じてからは使わなかった。子供でもなければささいな仕草とはいえ無作法にあたるし、二人きりの時間はいくらでもある。遠目にわかるものではないので、夜会などでは使えなかった。
しかしここなら。王女はめろめろで細かな仕草など気にしちゃいない。
先の仕草は、『それほんと?』『ちがう』を意味していた!
「殿下はお美しく、この世に二人とない方です」
『マジ無理限界死ぬ。こいつ殺す。無理』
「まあレイったら…♡」
「左様ですわね」
『逃げる無理?』
「片時も離れがたく…おそばにいることをお許しください」
『監視いる。国王親馬鹿。クソ馬鹿。逆らった仲間家族悲惨。恋人悲惨』
「ふふ、罪な女でごめんなさいね♡」
「殿下はお美しいですものね」
『殺す待て。病気どう』
「寛大なお心に感謝します」
『典医いる嘘抗命危険。限界。助けて』
「いいのよ♡」
「真実の愛ですのね」
『まかせろ』
そしてレイモンドは禿げた。
頭髪が一本も無くなった。つるつるである。
王女はレイモンドの美しい髪が殊の外好きだ。しゃらしゃらとレイモンドの髪にうっとりと指をからませる姿に、カトレアは確信した。
王女は美しいレイモンドに執心している。ならば、そうでなくなればいいのだ。
カトレアは密かに脱毛剤をレイモンドへ届けることに成功した。
そしてレイモンドは毛を失い、即座に護衛を首になった。
「カトレアーーーーーーー!!!!!」
帰ってきたレイモンドはカトレアに縋りつきわんわん泣いた。
王女にまとわりつかれ、どうしたらいいのかわからないまま消耗し、徐々に物をよく考えられなくなって、外面をとりつくろうだけで精一杯だったという。
「辛かったわねえ、かわいそうに……。すぐに気づいてあげられなくてごめんなさいね」
「ううん、ありがとう。俺こそ情けなくてごめんよ……」
「いやいやほんとにひどかったもの」
王女の束縛はすごかった。というか、王女の機嫌を損ねぬようレイモンドは縛られていた。
帰宅も許されず常に監視の目がある。かろうじて両親からの荷物は受け取れたが、検査され、カトレアからの手紙は王女の手に渡っていた。
カトレアは両親からの荷物に、外観を偽装した脱毛剤をまぎれこませたのである。
そしてレイモンドは唯一1人になれる手洗いでそれを使った。
禿げたレイモンドを見た王女は倒れた。周囲はその看護に忙しく、唐突な抜け毛は薬剤によるものと見抜かれることはなかった。
典医はもしやストレスでは?と思ったが、それを言うと、王女のそばにいるのがストレスだとでも?と怒られそうなのでやめた。
そしてレイモンドは謎の奇病を患ったとして放逐されたのだった。
「無事に帰って来れてよかったわ。
それにしても王女もどうかしてるわね。髪がなくたってレイモンドはレイモンドなのに」
「あれの名前をださないで!」
「はいはいごめんなさい。あなた頭の形もよかったのねえ」
「カトレア〜〜〜〜!!!」
びーびー泣くレイモンドであった。
二人はようやく、一緒になれた。
さてそれから、城では奇病が蔓延することとなった。
王女の護衛全員禿げたのだ。
カトレアはあ〜……となった。皆監視を恐れて口には出さなかったが、内心は同じだったのだ。だから、レイモンドが何をしたかすぐにわかった。
彼らは全員護衛の任をとかれた。
王女は感染症では!?とおののいた。
実際のところ、この時点で王女以外には脱毛剤だなとバレている。しかし髪の毛は職務に必要ではなく、抗命とするには足りなかった。
そして近衛から新たな護衛が選ばれ、これもまたしばらく後に全員禿げた。その次も禿げた。
なぜはげるの禁止とならなかったのか?
宰相が薄毛を気にして、ならばいっそとスキンヘッドにしていたからだ。
王女は私の美しさのあまりにこんな奇病が!?とよくわからないおそれを抱いた。
そしてついに侍女達が禿げた。
これは最早明確に無言の抗議である。
国王は今や!と思った。
王女ちゃんを傷つけるなんて!と腹を立てながらも宰相を気にして護衛たちに裏からでも手を出せなかった国王だが、これはもう叛意ありとみてよかろうと——
ここで王弟へと王位が譲られた。
王弟もまた薄毛であった。あたら若い毛を散らすものたちに我慢がならなくなったのだ。近衛を敵に回した国王に身を守るすべはなかった。
そんなわけで不品行から王子と王女は離宮へ閉じ込められ、新たな王がたったのである。いまのとこまともだ。
「また少し伸びたわねえ」
「禿げたまんまでもよかったんだけどなあ」
カトレアは、レイモンドの頭を撫で、しょりしょりとした感触を楽しんだ。
レイモンドは騎士団に戻り、カトレアは妻として支えている。国王が代わったことにより安全だとわかったので、レイモンドはまた髪を伸ばすことにしたのだ。
レイモンドとしては、手入れがいらず楽なので、毛がなくてもよかったらしい。
「まあまあ、そう言わず」
カトレアはしょりしょりを楽しむ。
結婚式でレイモンドの親族が集まった時思ったのだ。
どのみち彼の髪の毛とは長い付き合いにはなりそうもない——……
だからその時までは、せっかくだからきれいな髪の毛を楽しもう、と、にこにこ笑うカトレアなのだった。
♡おしまい♡
お読みいただきありがとうございました!(´∀`*)