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3.過剰な力は怖いので何事もほどほどが丁度いい

「本当にいいの?」


思わずそう何度も確認してしまうのは小心者だから仕方ない。


「もちろんいいよ!もっと広いスペースが欲しかったら別荘も作ってもいいし」

「いえ!ここだけで大丈夫だからっ!」

「そう?じゃあ2階スペースは全部リナの部屋ね!もちろんリナがいいって言ってくれるなら僕の寝室もリナと同じでいいんだけど···」

「別でお願いします」

「はぁい」


大して残念そうになく、むしろ楽しそうに答えるフィル。

この家には認識阻害の魔法がかけられていて、しかも悪意を持って近付いた場合は全然違うところに転送されるという魔法付き!

なんともセキュリティ万全仕様かつ部屋も余っているとの事で、クロと共にここに住ませて貰えることになった。


しかも···

「裏には畑があるから、好きなだけ食べても大丈夫だよ!」

との食事のおまけ付き。

川もあるので魚も釣れ、クロのご飯も問題はなさそうだ。


猫は肉食寄りの雑食なので、魚と野菜、それにここは森なので鳥も狩れるかもしれないし、クロに少しでも長生きして欲しくて手作りキャットフードの研究もしてきたので作り方も問題ない。


しかも2階スペースは全て私とクロの自由にして良く、1階のリビングやキッチンも好きに使っていいとまできた。


「あ、僕の寝室にもいつでも来てくれていいんだよ?」

というフィルの言葉は聞かなかったことにしたが。


「お金とか、どうしたらいい?」

家賃とか諸々は気になるところ。と、思ったのだが。


自給自足だから僕も誰かに払ってる訳じゃないし、気にしなくていいよと言ってくれた。


フィル専属の結婚アドバイザーになるとは言ったが、まだ何かしらの成果がある訳でもないのでその申し出は正直ありがたいのだが···


「でも、さすがにそれは申し訳ないというか···」

「だったら、朝昼晩のご飯は一緒に食べたい」


と言う条件が付け加えられた。

料理も一緒にしてみたいな!と楽しそうに言われるとついこちらも微笑んでしまう。


正直そんなことでいいの?とは思ったが、「ずっと一人で食べてきたから」なんて伏し目がちに言われてしまうと「喜んで!」としか言えない訳で。


私に都合良すぎる気がするが、そこはもう出世払いを心に決めた。



····ま、まさかとんでもない落とし穴付きの契約じゃないわよね?

と、少し不安が過ったのは内緒である。




「あ、そういえば魔法って私も使えるのよね?」

こちとら魔女認定されたとはいえ一応は聖女だし、猫じゃらしを光らせた事もある。

チートレベルを望みはしないが、使えるなら使ってみたいというのが本音な訳で···!


「もちろん使えるよ!聖女の魔法についての詳しい発表はされてないから僕の推測なんだけど、願いを具現化するってのが一番近いと思うんだよね」


光ってと願った猫じゃらしは光り、音を出してと願ったから破裂音もした。

確かに願いのままではあるが。


「でも、それってフィルも使えるわよね?さっき猫じゃらしを自動で動かしたりしてたじゃない」


指をパチンと鳴らしただけで動き出した猫じゃらしと、突然現れた猫用ベッドを思い出す。


「あれは風魔法で空気を巡回させて猫じゃらしを動かしてたんだよ、動けって願っても僕には出来ないんだ」

「じゃあ、ベッドが現れたのは?」

「あれも、近くに置いてあったブランケットの形を変形させてベッドにしたんだ」


説明してくれたものの、正直あまりピンと来ずに曖昧に頷くしか出来ない。

そんな私に気付いたフィルは少し考える素振りをしたあと質問する。


「リナは今何か欲しいものとかある?」


欲しいものか、と考え、そういえば着替えが1着もない事に気付いた。

せめて洗い替え、欲を言えばパジャマなんぞも欲しい。


「着替え、かなぁ···この1着で一生過ごす訳にはいかないし···」


その私の答えを聞いて、おもむろに何枚かの布をフィルが持ってくる。



「じゃあ、まずは僕がやってみるね!」

そう言ったフィルはじっと布を見て···


パンッ!


と、何かが弾けたかと思ったらそこにはノースリーブのワンピースのようなものがあったのだが。


「·····?これ、どうやって着るの···?」


それは細長い布を半分に折り、腕の通る部分以外を縫い付けたようなシンプルな作りになっていた。

腰の部分は絞ってあるのか見た目はシンプルだが上品なAラインのワンピース···なのだが。


「首の通るところがない、わね?」


元の布を半分に折っているので、首元をハサミでカットする必要があるがそこに首の通る穴がなく、まさしく“布を折った”形だったのだ。


「そうだね、今使ったのは引っ付ける魔法だから、必要なところを引っ付けてワンピースの形にしたんだよね。あ、一応言っとくけど、いくつかの魔法を組み合わせたらこんな不完全なものじゃなくてちゃんとしたワンピースが作れるよ?」

「あ、なるほど」


完成形かと思って驚いたが、分かりやすくしてくれたということなのだろう。


「こんな風に、普通魔法っていうのは何かしらの行程を踏まなきゃならない」

「無から有は作れないってことね」


そう確認すると、フィルは頷いてくれた。


「水を出したい時は、大気の水を集めれば作れるし、氷が欲しいならまず水を集めてからその温度を下げる事になるね」


だから“行程”が大事なのか、とまだ引っ付けられただけのワンピース擬きを眺めていると、そのワンピース擬きをフィルが手渡してきた。


「じゃあ、次はリナがやってみて」

「へっ!?」


思わずあんぐりと間抜け面をしてしまった私を見て小さく吹き出したフィルは、それを誤魔化すようにコホンと咳払いをして説明を続ける。


····吹き出されたことはとりあえず今は心に閉まっておくだけにした。


「ワンピースじゃなくてもいいよ、リナが欲しい服をこの布に願ってみて?」


そう言われるがまま、手にしたワンピース擬きに目を閉じ精一杯願ってみる。

どうせならふかふかの、さわり心地のいいパジャマが欲しい···!!



それは一瞬の事だった。

じわ、と温かくなったと思い、慌てて目を開けるとさっきまでのシンプルな布ではなく、まるで毛糸のようなふかふかの、それも上下分かれたパジャマがそこにあった。


「え、え?」


さっき説明された“行程”とは何だったのかと思うようなそれを見て戸惑う。


「びっくりした?」

そう言って楽しそうに顔を覗き込まれる。


「もちろん何もないところからはさすがの聖女でも出来ないと思うけど、こうやって布の質感を作り直して裁断して縫って···っていう全てが思い通りに出来る」


「えっ、チート過ぎない···!?」


説明を聞き思わずそう返してしまったが、チートという単語がフィルには伝わらなかったのかキョトンとされてしまった。


「えーっと、その、万能?過ぎないかなって」

「あぁ!なるほど、うん、確かにそうかも?とは言っても行程を踏めば僕にも出来るし、何もかもが願えば叶うって訳でもないからなぁ」


そこまで便利なものでもないよ、と言われるが、そもそも魔法なんてものがない世界から来た私としてはこれはもう青天の霹靂と言っても過言ではない訳で。



まぁ、細かい話は都度説明するね!と相変わらず王子様スマイルなフィルの顔に見惚れる余裕はなく、ただ作り上げてしまったこの温かそうなふわふわパジャマを見てなんだか寒気がするのだった。

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