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22.お目覚めの魔法はお望みですか?

「傷自体は大したことはありません、かすり傷です」

「ぶすりと刺されたはずだが!?」


動揺して声を荒げたのはメオルさんだった。

そんなメオルさんの横にいるのは、鏡で見た時にフィルの隣に立っていた男性で···


「世界王であれば、身体強化くらい難なく使えるだろう。恐らく身体を鎧のようにして刃物をふさいだんだ」

「陛下···」


やはりというかなんというか、この国の国王陛下その人だったらしい。


会場で私に向けられていた剣は、フィルが刺されたゴタゴタの後すぐにメオルさんによっておろして貰えた。

不審者····なのは間違いないが、少なくともフィルの関係者だと認めて貰えたおかげで今横になっているフィルの隣に居させて貰えている。



「だが、かすり傷なのにどうして目覚めないんだ?」


横になっているフィルは、本当にただ眠っているだけのように見えるのだが一向に目が覚める様子はない。


「ーーー恐らく神経系の毒が塗られていたのかと思います。世界王がこの国に味方する事を恐れた他国の刺客が確実に屠る為に毒を刃先に塗っていたのかと」

「世界王を狙ったにしては、狙われたのは彼女のように見えましたが···」

「ふむ···」



陛下と宮医が話している内容が耳に入ってくる。

確かにフィルは私を庇って刺された。


それはつまり、私の魔法が世界王と同じ魔法だとバレていたのだろう。

今回だって突然出てきたし、魔法を皆の前で暴発させた事だってある。

そもそも召喚された事自体が漏れていたのなら、“男のフィル”ではなく“女の私”を狙っていたっておかしくない。


そしてどの理由であっても、全て“私のせい”であることは間違いない。



「目覚める···ん、ですよね?」

「それは···」


私の質問に、重い空気がその場を包む。


「解毒剤を作るにも何の毒かを正確に調べないと難しいです。現状この国にある全ての解毒剤を使用しましたが効果はみられませんでした」

「つまり、どうなるのですか」

「今刺客を追わせており、もしその者が解毒剤を持っていれば···もしくは、毒薬が正確にわかれば···」

「わからなければ?」


この雰囲気からなんとなく答えを察し、それでもその答えを認めたくなくて続きを促してしまう。

もしかしたら想像した答えではないかもしれないと思って····

でも、返ってきた答えは想像した通りの答えだった。



「このまま目覚める事はないかと思われますー···」




来るなと言われていたのに。

私がいなければ刺される事もなかったのに。


もうあの穏やかな日々を過ごす事は出来ないなんて···



「奇跡を祈るしかありません···」



宮医のその言葉を聞き、合わなかった焦点が合い出した。


「き、せき···?」


きせき、キセキ、奇跡···

私なら奇跡を起こせる。

この願いの魔法で。



自分の心臓の音がうるさいくらいに響く。

震える足をなんとか立たせ、フィルの枕元に寄った。


「リナ嬢···?」



お姫様は王子様のキスで目覚める···

「私は、王子様じゃないけど···」


想いの力を願いに込めて、そっとフィルの唇に口付けを落とした。



“フィル、お願い、起きてーーー···”




淡い光が瞬き、思わず目を瞑る。

そしてゆっくり目を開けたそこには···



「リナ?」

「フィル!!」



上半身を起こしたフィルに、周りの目なんか忘れて抱きついた。



「良かった、良かったよぉ···っ!」


思わず泣き出す私に、少し驚いた様子だったフィルはそのまま優しくあやすように背中をポンポンと叩いてくれた。


「ごめんね、リナ。ありがとう」



そのまましばらく抱き締められる温かさに身を任せていたのだがーーー



ゴホン。



後ろから聞こえた小さな咳払いにハッとし、慌ててフィルから離れる。


“み、皆の前だった···!”



「その、リナ嬢の使われたのは魔法···ですな?」

少し控えめに陛下が直接聞いてくる。

さすがに国王に聞かれたら答えるしかないかと口を開いたのだが···


「愛の魔法ですね!」

「愛ぃっ!?」

「リナはとりあえず口を閉じてくれると嬉しいかな」


とんでもない事を言い出したフィルに思わずつっこむと、しれっと注意される。

これはちょっと納得いかないが、大体やらかしているのは自分なので言われるがまま口を閉じた。


「いつでも愛の魔法は偉大ではありませんか?」


にこにこと言い切るフィルにどんどん羞恥を煽られる。

そんな私にお構い無しに話を続けるフィル、ひたすら愛の魔法というワードを連呼していて···



“もしかして、願いの魔法を無理やり誤魔化すつもりなの···?”


いや、それちょっと無茶なのでは!?と思わなくもないが、不思議にも折れたのは相手側だった。



「そうですか、さすが世界王陛下が選ばれたお方という事ですね」


諦めが滲んでいるように見えるものの、こちらの主張を組んでくれるようだった。



「私達は変わらずのんびりと暮らしたいと思っております。どこかの国に居を構えるつもりはありません。今回は事なきを得ましたが、もし僕が留まるとなれば不要な混乱がより顕著にでるでしょう」

「···そうお決めになられたのならば、お引き留めは出来ないですな」

「ご理解頂けたこと、嬉しく思います」


そう微笑んだフィルは、指をパチリと鳴らす。

その音と共にパッと現れたのは···


「剣の···鞘?」


その鞘をおもむろにメオルさんに渡したフィルは「これは僕が刺された剣の鞘です。こっそり盗っておきました」と爆弾を落とした。


「えっ!?」

「こ、この鞘があればどこの間者だったのかも、それより交渉だって···っ」


一気に騒がしくなる部屋に着いていけず、おずおずとフィルを見上げる。


「不可侵条約は成立、でよろしいですね?」


いつもの穏やかな微笑みよりも少し意地悪そうな···いたずらっ子のような笑顔をしていた。



“これをやるから好きに料理しろ、関わるな、後は勝手にやれ···ってとこかしら”



「だって僕は、世界王じゃなくて魔王だからさ」

「!」


こそっと私だけに聞こえるようにそう耳打ちしたフィルに、そうだったと私も笑いを返す。



配下なんていないけど、自称魔王に偽聖女で魔女の烙印を押された私は誰かに義理立てなんてする必要もないはずだから。



「このまま帰っちゃおっか?」

「リナに賛成っ!」



わたわたと鞘に注目がいっている隙に、そっとフィルの転移で私達の家に帰ることにする。



クロの待つ、私とフィルの、家族の家にーーー····

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