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21.物理的な距離は心理的な距離と反比例する

※誤字報告ありがとうございます!

「すぐに帰ってくるって言ったのに···!」



フィルが出発して10日がたった。

その間フィルは一度も戻ってきておらず、連絡もない。


馬車で出発したのでメオルさんの国に着くのに何日かかるのかがわからず、無事にもう着いているのかまだ移動中なのかすらわからない。

転移の魔法は見られている魔法でもあるのだが、そもそもフィルがメオルさんの国に行ったことがないので座標を合わせて転移することが出来ず、仕方なく馬車で向かったのだ。




「スマホがあれば···」

そうすればフィルが今何してるかわかるのに。


そこまで考えてふと気付く。


「いやいや!束縛彼女みたいな思考じゃない!?これ!私はフィルと何でもないのに···!」


フィルと何でもない。

ただの事実を口にして何故か胸が痛んだ。



一緒に暮らしてるけど、別に何でもない。

大切···ではあると思う。


「友達···?」


こちらの世界に来てからずっと一緒にいた。

当たり前のようにおはようを言い、おやすみを言う。


クロのことも可愛がってくれて、クロも懐いてて。


色んな町に行って、色んな人と出会って。

残念ながらフィルのお嫁さんはまだ見つけられてないけど、あんなに顔がいいのに進展が誰ともないのはフィルが積極的じゃないからだ。


「お嫁さん欲しがってたくせに···」


もしフィルのお嫁さんが見つかったら、さすがに出なきゃいけないしその時はどこに行こう?


「私はクロさえ守れればいいから、住めればどこでもいいよね···」

クロを抱き上げて頭を撫でる。

しっかりとした重さを腕に感じ、猫特有の柔らかさに顔を寄せる。

幸せな一時のはずなのに、何故か胸はずっと重く苦しくて。



「クロさえ守れれば···」

いいはずなのに。


こんなに不安なのは、やはりフィルがいないから···?

お嫁さんが見つかったら、今までみたいに一緒に暮らせないのに、日本にいた時はクロと二人で暮らしていたはずなのに。



自分の“当たり前”が変化してしまった事をひしひしと実感した。



「····こんな気持ちになるのは、フィルが連絡くれないからだわ!顔でも洗ってこよっ!」


それに、心配なのも本当だ。

しかしこれ以上うだうだしていても仕方ない。

冷たい水で顔でも洗えばリフレッシュするだろう。


ぱしゃぱしゃと顔を洗い、鏡に映った顔とにらめっこする。

冷たい水で顔を洗った事で多少気は紛れたものの···


「この鏡に映るのがフィルの姿だったらいいのに···」

思わずそうポツリと呟いた。


それはただの呟きのつもりだったのだが。


「ーーーッ!?」


ぱぁ!と光った鏡は、もう自分の姿は映ってはおらず、目の前にはカッチリとした服を着たフィルがいた。

金髪碧眼も相まってどこからどう見ても王子様のようだった。



「あ、無事にメオルさんの国に着いたんだ、ていうか着替えもしちゃって···」

唖然としながらそんな言葉が溢れるものの。


「イヤイヤイヤ!鏡が、なんで!?あっ、さっきの!?さっきのが私のお願いになって魔法発動しちゃったの!?」


動揺しつつもこの出来事に、チートはフィルじゃなくて私だったかなんて考えつつ鏡を覗き込む。



「夜会···ってやつかしら?何かしらのパーティーね···」


着飾ったフィルの隣には同じくらいかそれ以上に着飾った40代くらいに見える男性と、その数歩後ろにはこの間より豪華な騎士服に身を包んだメオルさんがいる。


そして、代わる代わる挨拶しているのだろう色とりどりのドレスに身を包んだご令嬢達がいた。


ーーーそれはもう、溢れるくらいに。



「·····ほぉ?楽しそうね···?」


思わず洗面所の縁を掴む手に力が入る。

つまりこれはアレか。

世界王的力を持ったフィルを自国に留める為に、貴族令嬢と結婚させてしまおう的なやつか。


その結果、私への連絡なんてコロッと忘れて集団お見合いパーティーを楽しんでいた、と···?



「私は心配してたのに···!!!」


フィルが悪い訳ではないとわかりつつ何故か沸き上がる苛立ちに任せて食い入るように鏡を凝視し、ある事に気付く。



赤らめる令嬢達に囲まれてにこやかに微笑むフィルの笑顔が···

「貼り付いてる···?」


戸惑ってる、いや、嫌がってる?

そもそも、到着したのなら転移してここに帰ってくる事だって出来るのに帰ってこないのは、“帰れない”からではないのだろうか。


国に滞在するにしても、一瞬帰ってきてまた国に戻ればいいのにそれすらしない。

これは自意識過剰かもしれないが、フィルが私とクロを蔑ろにするはずはないとそう信じられる。


そして帰れない理由は···


「転移出来ないようにされてる、とか···?」


“もしそうなら軟禁じゃない···!”

そこまで考えて一気に頭に血がのぼった。



強制的に選ばされる足枷の結婚なんて、フィルの結婚アドバイザーとして···ううん、“私”として、認める訳なんていかない···!!!

だって私は···


「わたし、は···?」



着飾った令嬢に嫉妬して、フィルに会えなくて不安になって。

そもそも“願いの魔法”を持った私が探しているのに一向にフィルのお嫁さんが見つからないのは、フィルが積極的じゃないからではなくて、“私が本当は望んでないから”?

無意識に魔法を発動させてしまっていたー···?



その理由は、つまり·····

つまり、私はフィルの事······




「時間、かかっちゃったな···」


やっと気付いた自分の気持ちを抱き締めるように両手で胸を押さえる。

フィルがもし今困っているなら。


ーーーフィルを助けたい、フィルの所に行きたい···!



そう思った時、また目の前の鏡が光りだした。

そして私は本能のまま、光る鏡に飛び込んだ。






「ーーーーえ、リナ?」

「フィル···っ」


半ば確信を持って飛び込んだとはいえ、10日ぶりに聞くその声に安堵する。


良かった、無事に鏡を通ってこれたんだ、と安心したのも束の間。


「だ、誰だっ!?」


突然現れた私に会場は騒然となり、あっという間に騎士達に取り囲まれる。

向けられた剣に、ピリついた空気。

それでも、怯んでばかりはいられない。


だって私は、フィルを助けに来たのだから。



剣を向けられたままの私に駆け寄ろうとするフィルを止めるメオルさんが視界の端に映る。

騎士の後ろには突然現れた女に驚く顔が沢山あった。

そうやって取り囲んでいる全員に向けて叫ぶように宣言する。



「ーーーー彼に魔法の力がなくても、そのままの彼を好きになってくれる方じゃないと、結婚は認めませんから!!」

「り、リナっ!?」

「彼の相手は、彼のそのままを見て受け入れて、森で取ったものや自分で作ったものをたまに町で売りながらの自給自足を楽しめて!」


穏やかに笑って、そんな時間を共有して。

沢山の時間をゆっくり育めるーー···


「全てを捨てて森に来れますか!?誰よりもフィルを望んで、誰よりもフィルが望む···そんな方はいますか!?」



断言しぐるっと見回す。

森というワードが聞いたのか、私の勢いに押されたのかはわからないが、ドレスを着た令嬢達はそっと視線を外すばかりで誰とも目は合わない。


その様子を確認し、思わずため息を吐く。

そのため息は、“安堵”のため息だった。



ため息を吐いた私の後ろから、そっとフィルが声をかける。


「···もし立候補する女性がいたら、リナは認めた?」



少し不安そうな揺れる声の方を振り向く。

そして私はとびきりの笑顔をフィルに向けた。



「まさかっ!その時は私の方がフィルを好きって戦うわ!」



私の言葉を聞いて一瞬ポカンとしたフィルはすぐに頬を赤らめて破顔する。


「今度は私が拐う番よ、もちろん拐われてくれるわよね?」


フィルに手を差し伸べると、すぐにフィルが手を取ってくれて。



「ーーーえっ?」



そのまま強く手を引かれた。

そしてフィルの全身で庇うように私に被さる。



“私という異質”に静まり返っていた会場は、今も静寂を保ったままで、被さってきたフィルがドサリと倒れこんだ音が酷く耳にこびりついた。



訳がわからず、呆然と倒れたフィルの体を軽く揺する。

そんな私の肩を力強く掴んだのはメオルさんだった。


「動かさないように!すぐにあの男を捕らえろ!それから宮医を早く!!」


一拍遅れて耳の奥に叫び声が聞こえた気がしたが、まるで水の中にいるようにぼやけてよく聞こえなかった。




その時の私にわかったのは、フィルが私を庇って誰かに刺されたという事だけだった。

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