20.いってらっしゃいの次はお帰りなさいが言いたいから
「さすがに世界王の子孫だったり生まれ変わりだなんてことはないと思うんだけど、あの様子じゃ納得してくれないと思うんだよねぇ」
「じゃあせめて私も行くわよ、現在友好的だからって最後まで友好的とは限らないし···!」
メオルさんの国に行く事にしたのは百歩譲っていいとして、頑なに一人で行くときかないフィル。
「フィルの方が魔法は凄いかもしれないけど、メオルさんみたいな魔法が使える人が何人いるかわからないのよ?フィルに何かあったらどうするのよ!?」
「心配してくれるんだ?嬉しい~」
「はぐらかさないで!」
このやり取りは何度目だろうか。
お互い折れずにずっと平行線だったが、初めてフィルから違う言葉が出た。
「リナが行くのは危険だよ、世界王の魔法···聞いたでしょ」
「願いを叶える魔法って言ってたわね···」
願いを叶える魔法。
召喚された私と“同じ”魔法。
つまり世界王は···
「過去に召喚された一人なんだと思う」
聖女を召喚したつもりが男性だったので捨てられ···そして世界王にまでなったのか、何かの事故で偶然召喚された結果世界王になったのかはわからないが、使ったとされる魔法の種類からしておそらくはそうなのだろう。
そして、そんな場所にもし私が行き、まかり間違って魔法を使ったとしたら···
「行かないと言っても何度でも来るだろうし、一度来てしまった以上、より強い幻影魔法をかけても辿れてしまうから···ここはサクッと行ってしれっと帰るのが一番手っ取り早いと思うんだ」
「だからってフィル一人で行かせる訳には···!」
そんな影武者みたいな真似させて危険に晒すなんてやっぱり納得できない。
しかしそんな私を諭すように、そして絶対折れないという強い意思を持ったフィルはゆっくり首を左右に振る。
「僕は魔法を見られている。その魔法は紛れもない僕の力だから、堂々と見せてやればいいし大丈夫。世界王の関係者と認定されてもされなくても、それ以上の事にはならないよ」
「フィル···」
「でも、リナは違う。世界王と“同じ力が使える”となると、それこそ新しい世界王として認定される可能性もあるし、その力で何をさせられるかはわからない。花を出す“しか”出来ない僕と違ってね?」
にこりと笑ったフィルにキョトンとする。
「花を出す魔法は出来るけどそれだけ?」
「そう、僕は世界王じゃないからさ」
確かにフィルは色んな理論を組み立てて万能な魔法を使ってはいるが、すべての理屈を無視した“願いの魔法”が使える訳じゃない。
世界王じゃないと伝えられれば、相手は興味を失うだろう。
しかも花を出したところで誰かが死ぬ事はない。
つまり、“戦争などにも使えない”のだ。
「····転移ですぐ帰ってくる?」
「すぐ帰ってくるよ」
「万一、逃げなくちゃいけない事になってもここに寄ってくれる?」
「逃げなくちゃいけない事になったら、ちゃんとリナを拐って逃げるよ」
「····約束、だからね···」
行く行かないの平行線は、結局私のお留守番で決着がつく事になった。
心配だし不安だけど、フィルは約束を破るような人じゃないと私はもう知ってるから···
だから、この家で信じて待つ事にしたのだ。
「絶対無事に帰ってきてね···」
そう呟いた声は、迎えに来たメオルさんの感涙の泣き声に掻き消されたが、気持ちは伝わっただろうフィルが大きく頷いてくれる。
メオルさんが用意した馬車に乗り込むフィルを見送って、初めてフィルの居ない私達の家に、一人で入ったのだった。




