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19.ノックをしたからといって家に入れるとは言ってない

「次はどこに行けばいいのかしら」


今晩は魚でも食べようかな、と近くの泉で釣りをしながらそう呟く。

日本では釣りなんて全く出来なかったのに、人間やればなんとでもなるし回数重ねれば上手くもなるものだ。


前回は“高い場所”だったから、次は“低い場所”?


「いやいや、低い場所ってどこよ、地底湖とか?そんなファンタジーな···」

異世界召喚というだけで十分ファンタジーだがそこは見なかった事にして、次の行き先を考え頭を悩ます。


気付いてはいたものの、フィル自体があまり積極的にお嫁さんを探してくれず、もちろん行き先の提案なんてもっての他だった。



「どこがいいかなぁ···」

「でしたら、私共の国はいかがでしょうか」

「えー、そうですね、どんな国···」


物凄く自然に話しかけられたので違和感なく返事をした。

その“違和感”に一拍遅れて気付く。


「ーーーッ、だ、誰!?」


慌てて数歩声がしたところから距離を取り声の主の方を向くと、そこにはどこかのドラマで見たような騎士服に身を包んだ赤茶の髪に髪より少し濃い色の瞳をした若い男性がにこやかに立っていた。


私の警戒に気付いたのか、すぐに軽く腰を折って挨拶をしてくれる。


「突然で驚かせてしまってすみませんでした。私はユグル王国の騎士の一人、メオルと申します」

「····どうしてここに?」


丁寧な挨拶をされたからといって警戒を解くわけにはいかない。

何故ならこの場所は“フィルが魔法で隠した場所”なのだ。


ここに偶然迷い混むことなんてあり得ない。

何かしらの目的があって入ってきた、その目的は私の魔女の疑いか、はたまたフィルという魔王の討伐か···

どちらにせよ、友好的な状況であるはずがない。



そう、思ったのだが。



「リナ、怪我してない!?」


異変を察知したのか転移で私の前に現れたフィルを見た騎士が、間髪いれずに膝をついた。


「え···っ?」

「世界王陛下にご挨拶申し上げます···っ!」

「せか···え、え?えぇぇぇえ!?」




敵意どころか、感動のあまり涙を流し出したメオルさんに毒気を抜かれ、一先ず私達の家に案内することにしたものの···


「フィル、世界王···なの?」

「そんなはずないでしょ···めちゃくちゃ庶民の子どころか忌み嫌われた魔王(自称)だよ···」

「じゃあなんであの人あんなに泣きながらキラキラとフィルの事を見てるのよ···」

「それは····僕も知りたい···なんでだろ···」


お茶を出しがてらキッチンでフィルに確認するが、この状況はフィルにも想定外のようだった。



「とりあえず、なんでそんな勘違いしたのかはわからないけど···違うってことを言ってみるよ!」


いつになく緊張した面持ちでお茶をフィルが運んだのだが。


「あぁあ!陛下自ら私ごときの為に···!!!」

「どうしよう、リナ···凄くやりづらい···」

「そうね····」


お茶を持ったフィルの姿を見て泣きながら床に這いつくばったメオルさんに思わずドン引く。


ぶっちゃけフィルが何かする度に拝む勢いで有り難がるせいで話どころじゃなかったので、仕方なく私が状況確認をすることになった。


泉でフィルが登場するまでは一応は普通に会話出来ていたのだ、なんとかなるはず···!



「えーっと、あの、メオルさん?」

「何でしょうか」


さっきまでの醜態は何だったのかと思うほどキリッと返事をしてくれたメオルさんの寒暖差に風邪を引きそうになりつつ確認したい事を1つずつ聞いていく。


「どうやってこちらに来られたのでしょう?」

「世界王陛下のお力で空間が歪められておりましたので、逆にその歪みを辿り来させていただきました。ノック出来れば良かったのですが、無礼をお詫び申し上げます」

「ノックしたら許される問題じゃないと思うんですけどね···」


そもそも歪んだ空間のノックってどんな状態だ。

でも、空間の歪みから辿ったということは、騎士服を着ているが魔法使いみたいなものなの···?


服に向けられた視線に気付いたメオルさんの目が合い慌てて逸らす。


「えーっと、騎士と仰ってましたが魔法使い···なんですか?」

「魔法騎士でございます。実践では剣に魔法を纏わせて戦ったり、遠距離魔法を打つ事もありますよ」


にこやかに返事をしてくれるが、それってかなり凄いのでは?

そもそもフィルの魔法を辿れるくらいだから魔法だけでもかなりのレベルなのに、騎士として剣の実力もあるってことで···

もしかしてメオルさんって···


「かなりの、権力者···?」

「権力者かはわかりませんが、一応騎士団長の地位をいただいております。世界王陛下をお迎えにあがるのに下の者を出す訳にはいきませんので」


はぁ、と思わず納得しかけて慌てて首を振る。


「えっと、フィ···彼が世界王陛下と思われているようですが···」

「はい、間違いありません!」


キラキラした瞳で思い切り断言され、思わずキッチンの影でしゃがんでいるフィルに視線を送ると、すごい勢いで首を振りながら手で大きくバツを作っていた。


「えっと、誤解だと思うんですが···」

「そんなはずはありません」

「そもそも、世界王って確か何百年も前の話だと思うのですが」


この世界の歴史には疎いものの、通貨統一の話をフィルに聞いたとき、確かにフィルはそう言っていたしフィルは現在19歳だと言っていた。

世界王であるはずがない。

···多分。


「では、ご子息様ですね!」

「いやっ、彼の両親は至って普通の人だったと聞いてますが···っ」


あっさり世界王発言を撤回したかと思えばサクッと血縁者と納得したメオルさんを慌てて否定する。

そんな私の前にすっと一輪の花が渡された。


「この花は···」

「先日ある村で、空から大量に降った花です」


テオールそんの時のだ···!?

まさかあの場にいて、フィルの魔法を見たからこんなに思い込んじゃってるの···!?


確信の理由に気付き、どう説明しようかと思わず黙りこむ。


「花は植物です」

「え?あ、はい、そうですね···」

「植物は生きています」


ぽつりぽつりと話し出したメオルさんの言葉に耳を傾ける。


「生物を何もないところから創造出来るのは、世界王ただ一人なのです」

「えっと、でも···」

「伝説の世界王ではなかったとしても、必ずその血は高貴なものでございます。もしくは世界王陛下の生まれ変わりかもしれません。そして我が国はそのお力により救われた国···友好的な関係を築きたいのです」


真っ直ぐな瞳を向けられ思わず息を飲む。

確かにフィルの魔法がチートレベルなのは確かだし、本当に世界王の子孫や生まれ変わりじゃないとしても、少なくとも“その力に準じた力を持っているフィルと仲良くしたい”ということなのだろう。


つまり“フィルと敵対したくない”という事で···

そういう理由であれば、頑なに断るのもおかしいかと思い、再度フィルの方を振り返ろうとした時だった。



「世界王陛下は、“望んだ願いを叶える魔法”で世界統一をされました」



“願いを叶える···魔法···?それって···”



「そんな魔法が使えるのは世界王陛下のみでございますし、ご自覚があるかは別として一度是非我が国に···」

「行きます」


メオルさんの言葉を聞いて固まった私を庇うように、キッチンから出てきたフィルは笑顔で国に行くことを承諾していた。


「フィ···」

「行くのは僕だけで構いませんね?」

「もちろんです!必要なものは全てこちらで用意させていただきますのでご安心ください!」



私が動揺している間にメオルさんとサクサク日程などをフィルが確認する。


ハッとした時にはもうそこにメオルさんはいなくなっていた。

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