17.最大の仕返しは見返す心の持ち方である
「こんな可愛い服、似合うとは思えません···!それにこんなに素敵なドレスを貰う訳には···っ」
と、顔面蒼白になって震えるテオールさんを、「それは私が作ったやつで元手は全然かかってないやつだから!」だとか「テオールさんの為に作ったやつだから貰ってもらえないと捨てるしかないし!!」と、必死に説得すること数十分···。
受け取らないと破り捨てると半ば脅しのようにしてなんとか着てもらうところまできた。
まさかここでこんなに体力と気力を使うなんて、と思わず椅子にへたりこんだものの。
「···うん、よく似合う」
「そうだね、とっても可愛いよ、花が咲いたみたいだ」
ふんわりと裾が動くと揺れる軽い生地を重ねた淡いピンクの膝下丈のドレスは、まるで桜のような雰囲気があった。
そして並ぶフィルはシンプルなシャツに淡い緑のボタンをアクセントになっていて、二人とも春をイメージした爽やかテイスト。
我ながらいい仕事したのでは!?と大満足だったのだが。
「あの、リナさんは着替えないのですか?」
おずおずとテオールさんに聞かれ、苦笑する。
「私もその場で掩護射撃してあげたいのは山々なんだけど、さすがに私も一緒に行くのは恋人の演技に邪魔じゃないかなって思って」
「そんなこと···!」
焦ったように口を開くテオールさんの言葉をそっと手で遮るようにし、ゆっくり首を左右に振る。
「私もここで成功するように祈ってるし、二人はとっても、···お似合いだから。だから、大丈夫!思いっきりイケメンの新しい恋人を見せびらかして来てね!逃した魚は大きいのよって言ってきて」
「リナ···っ」
わざとらしいくらいの笑顔を向け、二人の背中を無理やり押してテオールさんの家から追い出す。
家主を客人の私が追い出すという行為はどうかと思うが、何故だか気付いたらそうしていた。
「出来映えに大満足、なのは間違いないんだけどな」
惚れ惚れする完成度、さすが聖女の魔法。
でも、なんだか並んでる二人を見たくないと思ってしまった。
「私が言い出した事なのに」
ーーーーなんでだろ。
偽装の恋人、あわよくばそのまま2人の仲が進展することをむしろ願ってるはずなのに。
私はフィルの専属結婚アドバイザーなのに。
二人が思ったよりもお似合いに見えてしまったから?
「ばかみたい」
はぁ、とため息を吐いた時だった。
「ほんとっ、そうですよ!」
「うんうん、リナってわかりやすいのに鈍感だよ~」
パチン!と泡が弾けるように目の前が瞬いたと思ったら私は家の外に立っていた。
「は、え?」
一瞬遅れてフィルの魔法で転移させられたのだと気付く。
それだけでなく。
「この、ドレス···」
「とっても似合いますよ!」
「うん、可愛いよ、リナ」
それは淡い青から裾に近付くにつれて濃い青のグラデーションになったどこかフィルの瞳の色を思わせるシンプルなドレスだった。
「リナは自分のドレス用意しないだろうなって思ったから、作っちゃった!」
へへ、と少し恥ずかしげに笑うフィルは相変わらず眩しくて。
「で、でも、私まで行くと人数バランスが···っ」
嬉しい気持ちが胸を擽るが、だからといってじゃあ行こうと言う訳にもいかずなんとか行かない理由を探したのだが。
「自己犠牲で作られる幸せは偽物って教えてくれたの、リナさんですよ」
昨日は私が握るばかりだった手を、今日はしっかりテオールさんに握られそう言われる。
「私には、姉様達がいなくてもこんなに素敵な友達が出来たんですよって自慢させてくださいね!」
にっこり笑って手を引っ張られ、気付けばフィルも片手を差しのべてくれていて。
「···私の事いくつだと思ってるのよ」
照れ隠しでそんなことを言いながら、テオールさんと繋いだ反対の手でフィルの手を取った。
小さな村、とテオールさんが言っていたが、牧場に準備された野外結婚式は思ったよりも人がいた。
「思ったよりも盛大なのね?」
「相手は隣の町の方なのでそっちからも人が来てるんだと思います」
これだけ人数がいるなら、完全な部外者二人が混じっても目立たないだろう。
作戦はシンプルだ。
幸せ絶頂の新婚二人に、それ以上の幸せ顔でおめでとうを言う、それだけ!
しょぼいかもしれないが、立案から実行まで1日もなかったんだから仕方ない。
それに、美形の見た目は十分暴力だ。
相手の男もテオールさんの姉も、平気で最低な事が出来るんだから美しい訳がない。
どんなに着飾っても内から出る美しさには勝てない···し、そもそもフィルは顔面凶器と言えるほど王子様顔だし、テオールさんもめちゃくちゃ可愛いし。
それに、奪ってやったと、捨ててやったと思っている相手が何もショックを受けてないどころか新しい恋人なんかを連れてきただけで思ったよりも効果があるというものだ。
心配なのは、恋人+α(私)が一緒にいるということだけど···背後で上手く空気になれるかしら。
思わず考え込む私の袖がクイッと引っ張られ、ぱっと意識が浮上する。
「リナ、二人が来たみたいだよ」
フィルに促され視線を送ると、そこには幸せそうに寄り添う男女がいた。
順番に挨拶をしているようで、いかにもガーデンパーティーという雰囲気だ。
「さぁ!存分にざまぁしに行くわよ!」
さすがに少し緊張した様子のテオールさんの手を引くようにして挨拶の列に近付く。
「わかってると思うけど、思いっきりラブラブな感じで自慢してね!フィルも、しっかりエスコートしてきて!」
二人に耳打ちし、そっと離れようとしたが。
「あの、リナさんも来てください」
そう言われ、握っていた手を逆に固く握り返され私まで新婚二人の前まで来てしまった。
“せめて空気に徹しなくては···!”
「姉様、ご結婚おめでとうございます」
「あら、テオールもお祝いに来てくれたの···え、テオール?」
声の方へ振り向いた新婦がテオールさんを見て固まる。
隣の新郎も、テオールさんのドレス姿を見て息を飲んで固まった。
「す、素敵なドレスね、そんなドレスどうやって···」
“私は空気、私は空気、私は空気···”
「この方が作ってくれて、プレゼントしてくれたんですよ!ね、リナさんっ」
“空気とは~っ!?”
思わず天を仰ぐが、そんな事をしている場合じゃない。
フィルの背に隠れて空気に徹するつもりだったのに何故か紹介されてしまったが、なんとか新恋人としてフィルを紹介という自慢まで軌道修正しなくては!
「はい、兄の大事な方のドレスなので気合いを入れて用意しましたわ!ね、お兄様!?」
完璧なアシストで新郎新婦の視線をフィルに向けさせる事に成功した。
とにかく見てさえ貰えればフィルはもう最高に顔がいいのだ、それだけでこの戦いは勝ったと言うもの···!
「えっと、その、テオール、この方は···」
にこりと微笑むフィルに一瞬でぽっと頬を赤らめた姉と、張り付けた笑顔がひきつっている元婚約者の表情を見て勝ちを確信する。
“あとはテオールさんが私の新しい恋人です、と紹介すれば···”
「私の、大切なお友達です!」
「なんでや!!!」
思わず空気の役を捨てて叫ぶようにツッコんでしまった。
「あ、え?あぁ、お友達···」
若干私のツッコミに引きつつ、テオールさんの元婚約者が視線をテオールさんに戻す。
ちなみにお姉さんはフィルに目を奪われたままだ。
「君には申し訳ない事をしたね、でも真実の愛を見つけてしまった僕を許してこうしてわざわざお祝いに来てくれるなんて嬉しいよ」
友達、と聞いて顔色が戻った元婚約者はにこりと笑いかけるが。
「はい、真実の愛なら仕方ありません」
少しうつむいたテオールさんに気付き、反射的に言い返そうとしたのだが、ぎゅっと手を握る力を強めたテオールさんに気付いて口をつぐむ。
そんな私達の様子には気付かない元婚約者。
ついでにいまだにフィルに熱い視線を送っている花嫁の様子にも気付いてない。
「君にもいつかはそういう相手が俺以外に···」
「そうですね」
相手の言葉を遮るようにキッパリ言い、ゆっくり顔をあげたテオールさんの表情は凄く晴れ晴れとしたもので。
「私もいつか出会うなら、貴方達二人みたいな薄っぺらい真実の愛なんかじゃなくて」
チラッとこちらに視線を投げ、そして元婚約者を真っ直ぐ射貫くように視線を戻す。
「リナさん達みたいにお互いを思いやれる“真実の愛”を見つけます」
「····ッ!?」
テオールさんのはっきりしたその言葉はうっかり私にも被弾したものの、しっかり相手にも届いたようで。
「さ、せっかくのんで美味しいご飯タダ食べしに行きましょ!」
テオールさんはぱくぱくしたままの元婚約者と、ぽやっとフィルを見ている姉を無視して私達の手を引き二人から離れた。
その背筋がピンと伸びていたのを見て、仕返しばかり勧めた自分を少し恥ずかしく思う。
“相手より優位に立つ事が見返すって事じゃないわよね···”
「···今日は新しいスタートだもんね!いっぱい食べましょ!!」




